DIALOG 日本の未来を語ろう :朝日新聞デジタル
2020/01/28

がんになっても仕事と両立できる社会へ
大阪府でシンポジウム

Written & Photos taken by 安田吏架子(立命館大学)with 朝日新聞DIALOG編集部

日本では、2人に1人ががんに罹患すると言われ、患者の3割は現役世代だと言われています。もしがんになったら、治療と仕事は両立できるのか。もうすぐ社会人になる自分にとっても他人事ではないという思いから、12月11日に大阪府立労働センター「エル・おおさか」(大阪市中央区)で開かれた、「がんと就業シンポジウム2019〜必要な支援、体制とは〜」を取材しました。医療者、雇用主、働く人がそれぞれの立場で、がん治療と仕事の両立支援について話し合う様子に、企業関係者ら60人が熱心に耳を傾けました。

第1部 「がん患者さんの働き方改革〜最新のがん治療と就労・両立支援〜」

第1部では、大阪国際がんセンターの東山聖彦副院長が、がん治療の現状や、就労との両立支援に関する実態を話しました。 「治療技術の大幅な改善で、がん治療は入院から外来通院へと形を変えています。自宅療養期間が増え、仕事との両立も可能になります」と東山さんは指摘しました。一方で、2007年ごろから高額な薬が多く登場しており、治療費を賄うためにも仕事との両立はますます重要になっています。

東山さんが勤める大阪国際がんセンターでは両立支援策として、診療時間を延長したり、就労している患者さんの優先治療枠を設けたりしているそうです。例えば、放射線治療のために通院する患者には、企業の始業時間より早めの午前9時から午前10時までに12枠、終業後の午後5時半から午後7時10分に8枠、計20枠の「就業支援枠」を設けており、仕事をしている人に非常に好評だということです。

また、就業支援施設との連携強化も図っているとのこと。一つ目は「病気で退職し、生活のために再就職したいが、体調に不安がある」という人のために、病院へハローワーク職員が出張相談に来るサービスです。二つ目は、治療と仕事の両立支援事業です。「できれば復職したいが、体力に自信がない」と悩む人に、がん拠点病院相談員と両立支援促進員による協働相談サービスがあります。これにより、再就職や復職に成功する人もいるということでした。

昨年の流行語大賞に選ばれた“ONE TEAM”。東山さんは「両立支援にはこの言葉がキーワードになる」と話します。「患者さんの容体について家族や職場、がん拠点病院と関連支援施設が理解し、それぞれの立場で支えていくことが両立支援につながります。患者さん中心の“ONE TEAM”の取り組みが求められています」

第2部 大阪府からのお知らせ「がん検診」

働き手を失うことは、企業にとっても大きな損失です。第2部では大阪府健康づくり課の塩田尚子さんが、企業が従業員に対してできることとして、「がんについて正しい知識を提供すること」「がん検診を実施すること」の二つをあげました。それによって、がんの早期発見・早期治療が可能になります。

2016年に府が実施した「がん・がん検診に対する府民の意識と行動に関する調査」で、がん検診を受けていない理由として最も多かったのが「特に理由はない・わからない」でした。受診率を上げるためには職場で「今年はもう検診受けた?」といった声かけ促進が必要だと塩田さんは指摘しました。

第3部 パネルディスカッション「病気(がん)になっても働き続けられる社会とは」

第3部は雇う側、働く側、支援する側の各代表者が「病気(がん)になっても働き続けられる社会とは」をテーマにパネルディスカッションを行いました。

パネリストは、製缶・板金加工を手がける「山田製作所」(大阪府大東市)の山田茂・代表取締役会長と、肝臓疾患の患者会「大阪肝臓友の会」の浅尾元明副会長、大阪労災病院がん相談支援センターの奥田ゆり子師長、シンポジウムの司会を務めた「グッドニュース情報発信塾」の大谷邦郎塾長と東山さんです。

山田:8年前、うちの鉄工所でベテランの職人(当時62歳)が血液がんになりました。たった19人の町工場なので業務が停滞しました。かなり焦りましたね。

大谷:他の人を代わりに入れようと思いましたか?

山田:いいえ。とにかく元気になって戻って来てほしいと、新卒社員などの力を結集して仕事の穴を埋める努力をしましたが、半年近くの入院を経て自宅養生後、残念ながら亡くなりました。

大谷:社内で新しいルールや体制をつくりましたか?

山田:勉強会を始めました。手術後も復職できない状態が長引くと、周囲は「なぜ?」と白い目を向ける。その雰囲気は、時間がたてばたつほど強まる。そうならないよう、がんという病気との向き合い方を社内で話し合いました。

浅尾:私は51歳の時に肝臓がんが見つかりました。出張中、冷や汗が出るほどおなかが痛くなり、その場で突然ステージ3と宣告され、頭が真っ白になりました。その後、2度再発しましたが、薬や放射線治療が功を奏し、無事に過ごせています。

大谷:お仕事は何をされていたんですか?

浅尾:大手電機メーカーでした。テレビ開発にかかわっていたんですが、ちょうどデジタル化する時期でかなり忙しかったことを覚えています。

大谷:会社側には病気のことはいつ、どう伝えましたか?

浅尾:すぐに手術する必要があると伝えました。上司も治療に専念しなさい、と。この時は、会社にどんな支援制度があるのか知りませんでした。メンタルヘルスの研修は受けていましたが、がんのような病気との向き合い方は一切、勉強したことがありませんでした。

大谷:どれくらいで復帰されたんですか?

浅尾:退院後1〜2週間で復帰しました。術後約1カ月間の入院中、私がいなくてもある程度業務が回る体制になっていたので、戻った後は戸惑いました。バリバリかどうかは分かりませんが、フルタイムで働きました。通院治療にはフレックスタイム制や半日有給休暇制を利用しました。時間が柔軟に使える制度は非常に助かりますね。病院に行くタイミングは病気の状況によって変わってきますから。

大谷:奥田さんのがん相談窓口には、悩みがたくさん寄せられるでしょう?

奥田:はい。告知された時に病名を会社に言いたくない患者さんは多いです。職場の風土によると思いますが、「迷惑をかけるくらいなら(仕事を)辞めます」という方が多い。

大谷:浅尾さんはどうでしたか?

浅尾:もちろん辞めるという選択肢もあります。ただ、生活基盤を失うことになる。辞めて治療に専念しようとしても、それは絶対に無理ですしね。

大谷:どういうことですか。

浅尾:働くこと自体が非常にエネルギーになるんです。働くということは「人の役に立っている」ということ。それがなくなると、治療する気がなくなりますし、生活基盤も崩れる。だから、就業と治療の両立は非常に大切です。

大谷:奥田さんは「辞めたい」という人にどう声をかけますか?

奥田:早急に決めないこと、辞めることはいつでもできるので、とりあえず両立できる方法を考えてみませんか、と言います。

大谷:患者さんの反応は?

奥田:「両立生活が想像できない」という方には、両立されている方のお話を紹介します。ほかにも、放射線治療を夕方に受ければ、日中はお仕事ができることなど、具体策を提案し、両立のイメージを持っていただくようにしています。

大谷:会社に病気のことは隠さず伝えたほうがいいのでしょうか。

奥田:隠す方もいらっしゃいますが、かなりつらそうです。治療のために負担の軽い仕事をしていると、事情を知る上司の理解は得られても、知らない同僚からは「なぜあの人だけ」と誤解される。やがて肩身が狭くなり、職場にいづらくなる方もいます。

大谷:山田会長がもし、社員から「がんに罹患しましたが、周りには伏せてほしい」と言われたら、どう対応されますか?

山田:私は(周囲に)言ってしまいます。みんなが知ることで、問題に向き合う姿勢が取れる。10人分の仕事を9人でこなしているのが中小企業です。1人が抜けた時にどうピンチを切り抜けるかを議論することが必要です。8年前の経験も会社の成長の一歩になったと思います。

東山:医療関係者は言いません。患者さんの意思が最優先ですから。山田さんの会社のように家族的な雰囲気があれば、全社が一丸となるきっかけになるかもしれませんが、そんな雰囲気がない会社も多々あります。仕事と治療をどう両立させるのかという相談に対して、会社と病院との間に立ってコーディネートしてくれる相談員がいます。コネクション作りは必要になってくると思います。

大谷:浅尾さんは職場の方にはどう伝えましたか。

浅尾:素直に。比較的、家族的な関係だったので言いやすかったです。言うと楽になりますしね。周りに言えるような風土があること、そして企業と患者が、病気でも最高のパフォーマンスを発揮できる職場がどこかを一緒に考えていくことが必要だと思います。

大谷:同僚など周りにがんを告知することでやっかまれたという相談はありましたか?

奥田:逆に気をつかわれすぎてつらいという患者さんが多いです。「迷惑をかけたくない」という気持ちが強い患者さんは、周りに助けを求めるのが下手な人が多い。少し力を抜いて人に頼ることも必要だとアドバイスしています。

大谷:最後に皆さんから一言ずつお願いします。

山田:行政からの手助けは、これから先、かなり必要だと思います。復職すること自体は会社の就業規則の変更でなんとでもなりますし、職場の風土づくりもできる。しかし、傷病手当金に関するフォローなど、闘病中のサポートに行政はもっと力を入れてほしいです。

浅尾:大阪肝臓友の会は「諦めない」をモットーに、相談に乗っています。そのためにはまず「正しく知ること」が必要で、医療関係者や相談センターなどによる正しい情報に触れることが重要です。そして、治療も両立もたくさんの選択肢があることを知って、自身で探すことが大切です。企業側も会社としての考え方や支援制度の選択肢を、患者である社員に提示することが求められます。

奥田:がん相談支援センターは大阪府に65病院あります。かかりつけの患者さんだけでなく、ご家族や勤務先の方の相談にも乗りますので、ぜひ活用していただきたいです。

東山:山田さんのような経営者がいらっしゃることはとてもうれしく思います。職場で誰かががんになっても対応できるよう、がんも含めた病気のことを「普段の話」としてもっと話し合ってほしい。大手企業でも、そうした風土がない会社は多い。乳がんと宣告されただけで、治る見込みがあるのにクビを宣告される方もいます。そして、患者さんは一人ひとり違います。症状の進行の仕方、使用する薬も違うので、個別対応が必要です。どんな対応が必要になるのか分からない時は、相談支援センターをぜひ活用してください。

がんになって、「どうしよう、治療と仕事は両立できるのか」と頭を抱える時代はもう終わりなのではないか。この取材を通して、そんなふうに感じました。しかし、そのためには病院や企業など、働く人をとりまく様々な機関の連携が必要だと思いました。

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