「明日へのLesson」特別編テクノロジーが開く、一人ひとりが幸福な未来 大澤正彦(人工知能研究者)✕ 佐久間洋司(バーチャル認知科学者):朝日新聞DIALOG
2020/01/28

「明日へのLesson」特別編テクノロジーが開く、一人ひとりが幸福な未来
大澤正彦(人工知能研究者)✕ 佐久間洋司(バーチャル認知科学者)

Written by 魚住あかり with 朝日新聞DIALOG編集部
Photo by 越田省吾

テクノロジーが指数関数的に進化し、2045年には人工知能(AI)が人間の知性を超えるシンギュラリティー(技術的特異点)を迎えると予測されています。テクノロジーは社会をどのように変容させ、私たちの暮らしにどのような影響をあたえるのでしょうか。未来の人類は幸せになるのでしょうか。ドラえもんをつくるためにAIや神経科学、認知科学の研究に取り組む慶応義塾大学大学院の大澤正彦さん(27)と、バーチャルリアリティー(VR)やAIを使いこなして人間の意識に働きかける研究をしている大阪大学の佐久間洋司さん(23)という、次世代を担う東西の若手研究者が語り合いました。

ドラえもんをみんなでつくる

大澤: 僕は物心がついたころから「ドラえもんをつくる」ことを目指してきました。その過程で、ドラえもんの機能とは感情なのか記憶なのか、それともコミュニケーションなのか、ドラえもんをつくることは人みたいな人工知能をつくることと何が違うのか、と悩みました。ドラえもんはすごくポジティブなイメージと結びついていて、誰しも、「ドラえもんがいたらいいのに……」と思ったことがあるはずです。そうした先行イメージと寄り添いながらつくられるドラえもんは、社会とつながりながら育っていくテクノロジーであり、ドラえもんをつくることは、人とかかわり合いながらできあがるストーリーでもあります。

ドラえもんをつくるうえでは、すごい技術を開発することももちろん大事です。ただ、1人の天才が全てをつくってしまうよりも、みんなでつくったほうが社会の理解は得られやすくなる。みんなでつくることが、理想のドラえもんにたどり着ける最強のアプローチになると思っています。みんなの我が子のようなドラえもんができあがっていくというイメージを、30年くらいのスケールで考えています。

佐久間: 大澤さんは「私はドラえもんをつくる」とビジョンを宣言し、社会とかかわるなかで多くの仲間と資金を集めることに成功しています。ドラえもんのストーリーを自分の研究だけでなく、社会の中にも融合させている。そうした手法を実践していることを尊敬しています。

大澤正彦さん

大澤: ビジョンを見せる、ということはたしかに大切ですね。研究の道へ進んだとき、先生から最初に言われたのは、「昼のトークと夜のトークを分けろ」ということでした。「昼のトーク」は学会で話すことを指し、自分が自信を持って事実と言えることだけを述べる。研究目的はある種、建前でもいいから、多くの人にとって納得されやすいものを掲げる。学会ではそれが誠実なことなんです。でも、「こんなこともできるかもしれない」という未来を掲げないと、面白いことはできない。そういうことは「夜のトーク」として飲み会の席で話す。そこから共同研究の話とかが始まったりもします。研究者も起業家のように、二つのトークをうまく使い分けてやるべきなのかなと思っています。

佐久間: 大澤さんにとって、ドラえもんをつくるというビジョンはどちらのトークですか?

大澤: 昼でも夜でもない状態が一番長かったですね。このビジョンを話せるようになったのはここ5年くらいです。まずは「夜のトーク」にして、一刻も早く「昼のトーク」に移行したい。そのためには、「ドラえもんをつくるという目標を掲げないとできない研究はこれだ」ということを明確にしていく必要があった。実際、それにずっと取り組んできて、日本認知科学会の大会(2019年9月)ではついに、僕がオーガナイザーになってドラえもんのセッションを開きました。ドラえもんを昼のトークに落とし込む一歩を踏み出せたことが成果だったと思っています。

VRで自他の「共感する力」を試す

佐久間: 僕が究極的に目指しているのは、争いのない世界をつくることです。誰しも、人はまだ優しくなりきれていないと思ったことがあるでしょう。僕は、人の共感する力を引き出して、優しくしたい。そのための手法として研究している方向性は、主に二つあります。一つは「バーチャルな身体転移」の研究です。VRを利用して特定の個人と身体が入れ替わった状況を体験することで、転移した相手に共感しやすくなるかどうかを確かめる、というものです。映画『君の名は。』を思い浮かべてもらえば分かりやすいかもしれません。

もう一つは「モーション学習」です。僕の発話や動きを学習させたAIにアバターを着せて自分そっくりなものをつくったとき、それに対して自分自身が共感できるかどうかを確かめようと思っています。自分から誰かに共感することと、他者としての自分に自分自身が共感することをセットで試せば、「共感」を自己と他者の双方向から研究できると考えています。

佐久間洋司さん

大澤: VR の楽しさをうまく使った研究ですね。VRは、ある場所で見えている世界を遠く離れた場所でも見られる、という形で導入された段階では、さほどはやらなかったけど、現実には不可能な超越的な体験ができるようになって、瞬く間に普及しました。佐久間さんの研究は、そうした現実を超越する魅力を対人関係でうまく使っている。つまり、「自分を自分で見る」という本来はできないことを体験できる。工学的に人の感情を扱う際には、人の気持ちは全く見えない、ということが大前提です。でも、VR の視点からその前提にメスを入れると、なんだか新しい体験ができるかもしれないし、新たな経験値が積めるかもしれない。

争いのない世界へ向かうルートは

2人の目標は「人を幸せにすること」で共通していますが、その発想の起点は大きく異なっているようです。

佐久間: 道徳教育などは、争いをなくすことへの寄与を期待された概念ですが、完全に成功したとは言いがたいと思います。私たちが成長し、人類が進化するなかで、「科学が人の意識に影響を与える」というイデオロギーが、新たな概念としてそこに加わってもよいのではないでしょうか。

大澤: 僕は、人にはもともと道徳観があるんじゃないかなって思っているんです。例えば赤ちゃんは、あるキャラクターが別のキャラクターをいじめているときよりも、助けているときのほうを好んで「選好注視」します。佐久間さんは、人は生まれながらに善ではないから、科学でそこをなんとかしようと考えています。僕は逆に、人は生まれながら善なのに、そうでなくなるような社会があるから、その構造をハックしたいと思っている。

佐久間: 人が生まれながらにして善かどうかについては、僕は分からないのですが、人類を幸せにしたいと誰もが思っている、という仮定に立ったときに、僕が重視しているのは、心であれ体であれ、人を傷つけてはいけないということです。憲法などでは「人権を尊重しよう」という形で規定されていますが、誹謗中傷やけんかがなくなったわけでなく、個人間から国家間のレベルまで人を傷つけてしまうような社会的関係がある。僕は、そういうことのない世界を科学や技術の力でもサポートできないかと考えているんです。

大澤: 僕はまず目の前にいる人を幸せにしたいので、「人類を幸せにする」と言われても、あまりピンときません。一人ひとりを幸せにした結果として、人類が幸せになればいいなと思っています。ただ、一人ひとりに向き合うには個別対応が必要で、一般化できないからコストがかかる。介護福祉士とか保育士の方々が苦労されているのは、一人ひとりに向き合う仕事だからという面もあるのかなと思います。そうした状況を改善したいと考えると、ドラえもんにつながるんです。

ドラえもんは、のび太という個人を幸せにしたテクノロジーです。テクノロジーだということは、それを一般化して他にも適用することができる。一個人が向き合える人の数には限界があることが、争いのある社会を生み出していると思います。だからこそ、人に向き合うリソース、つまりドラえもんが十分にいる世界をつくりたい。そうなれば、人間関係の質が一変して、世界はもっと優しくなるんじゃないでしょうか。

佐久間: 一人ひとりについて一対一で機能するドラえもんが多数あることによって、多対多となるわけですね。

大澤: そうです。僕は、一人ひとりを幸せにした総和として、ボトムアップ的に世界を良くしていきたい。一方で、佐久間さんは、どちらかというとトップダウン的な手法かなと思います。争いのない社会をつくりたいというスタートがあって、そこからVRという装置を扱っている。こうしたアプローチの対比は面白いですよね(笑)。

佐久間: 僕も、「人類」というものがいきなり変わるのではなく、技術がボトムアップに研究され、一人ひとりに作用することで社会が変わっていくと考えています。同時に、それが広く社会に受け入れられるためには、トップダウンに語られるビジョンが必要だということも言えると思います。世界から争いをなくしたいといった目標から現在の研究に至っているので、目指している世界観が高いところにあるという意味では、確かにご指摘の通りかもしれません。

付け加えると、新しいイデオロギーを社会に根づかせる役割を持つ人を「イデオローグ」と呼ぶそうですが、僕は社会構造を捉えて新しいイデオロギーを導く人間をデザインしたいと考えています。「科学は人の意識に良い影響を与えられる」というイデオロギーを勝ち取る役割を果たしたい。そのためにも、僕は、「イデオローグとしての佐久間洋司」というキャラクターを現実世界につくり、その世界観や研究、社会思想とともに一つの物語としてプロデュースしようとしています。

テクノロジーへの不安と期待

テクノロジーの進化の速さに戸惑い、その先行きに漠然とした不安を感じている人は少なくありません。テクノロジーは私たちをどこに連れて行こうとしているのでしょうか。また、デジタルネイティブと呼ばれる若者世代と、それより上の世代の感覚の違いを埋めることはできるのでしょうか。

佐久間: 僕はそれにお答えできる立場にないと思います。学生ですので、できればノーコメントでお願いします(苦笑)。

大澤: 佐久間さんの気持ちはよく分かります。今は、専門家以外の人が語っちゃいけないというような風潮がある。でも、僕はそこを壊したい。とんちんかんでもいいから、みんながいろいろ発言し、愛のあるたたかれ方をして、自分の意見をブラッシュアップしていく。そうなれば、きっと相互の理解が進んで、ポジティブな未来を考えられると思います。僕たちは考える権利にまで圧力をかけられているのではないか、と感じています。その結果、科学技術に対してなんとなく不安だ、というところで思考が止まってしまうんです。

自分で考えることを諦めて、「有識者に聞いてみました」的なアプローチをとってしまうスタイル自体を、僕は変えたい。例えば、「シンギュラリティーが起こる」って言われていますが、「起こる」って何ですか。「起こす」んじゃないでしょうか。大きすぎる概念とか、よく分からないものに直面すると、僕たちは受動的な言葉を使って未来を考えてしまう。そこが違うと思う。「どんな未来に我々は行くのか」という能動的な考え方ができるといい。科学技術を使えばどこへでも行けます。人類を破滅させることだってできる。それを、人を幸せにする方向に持っていけるかどうかが、僕らの勝負だと思います。そういうふうに見てもらいたいし、できれば力を貸してほしい。

佐久間: 世代間の違いについて言うと、僕は研究のなかでVTuberも扱っていますが、30代以上の方々にはその概念が伝わりにくいこともよくあります。VTuberのおもしろいところは、アニメのキャラクターと違って、それを動かしている演者や技術者を含めた「核」のようなものがあって、その核とアバターとのかかわり方が極めて多様になっている点です。キャストのようにキャラクターを演じることもあれば、タレントとしてキャラクターが自分自身になる人もいる。VTuberを動かしている人のことを「魂」、アバターを「器」と呼ぶなど、思い入れの強い人たちがつくった独特の言葉と概念が存在し、キャラクターがYouTuberをやっているということ以上の世界観がある。そうしたものに興味をもって研究できるのは、デジタルネイティブと呼ばれる僕らの世代ならではかもしれません。

大澤: 子どものときにデジタルテクノロジーに触れてこなかった世代が、VRの影響を受けて変わるのか。それとも、VRの世界がどんどん広がった結果、世代が断絶するのか。どっちだと思いますか?

佐久間: インターネットで構成された文化は、32、33歳を境に断絶しているような気もしますよね。物心がつく前にネットやSNSに触れていた世代と、ある程度大人になってから使い始めた世代の差でしょうか。ネット上での振る舞いがその一例になるように思います。僕らの世代は中高生のころにニコニコ動画などを見ていたので、「感情的な批判はスルーする」といった常識が身についています。感情的になると構ってもらえなくなるので、そうした発言は自然と減っていく。

また、僕たちは「好きの反対は無関心」だということも分かっています。相手が自分のファンになり得るかどうかという軸で考えると、「嫌い」は無関心よりもましで、相手を構ってあげると自尊心が担保されてファンになり得るからだと言われています。こうして言語化すれば、どの世代でも理解できるとは思いますが、僕らの世代はそうしたことを肌感覚として知っている。新しい技術が生まれる前後では、断絶があるのかもしれないですね。

大澤: そうした断絶は解消すべきだと思いますか?

佐久間: 文化の違いですから、解消するという問題ではないような気がします。ただ、僕は誰かを傷つけるようなことはよくないと思っているので、その断絶によって人が傷つくのであれば、解消すべきだと思います。

インターネットは人類のバグ

大澤: そういう意味では、ネットの炎上って分かりやすい例ですね。

佐久間: 人を傷つけやすいですよね。僕は「インターネットは人類のバグ」だと思っているんです。昔は、検索したら必要な情報が入ってきたけど、今はスマホが普及していたり、SNSを常に見ていたりするので、多様な情報があらゆる人に届くようになりました。発信コストが極めて低いのに、多くの人に届きすぎているから炎上のリスクも高くなり、「何もつぶやけない」と話すインフルエンサーの友人もいます。コンテクストを共有していない人に、意図せず見られてしまうことによって問題が起きる。

大澤: 「人類のバグ」っていう表現はすごくしっくりきます。知能の勉強をしているからこそ余計に(苦笑)。

佐久間: 一説によると、人は150人しか記憶して認知できないそうですが、数百人とつながって、何億人にも届くインフラストラクチャーが整備された現実に、人類は追いついていない。かつてはパソコンを買うような一部の人しか見ない空間だったから、スクリーニングとして担保されていたことが、全人類にスマホで届いた時点でバグになった。実際、TwitterではなくSlackでコミュニケーションを取っているクリエーターも多いですよね。Slackのような、アクセスを許可された人だけのクローズドなコミュニティーがはやっているのを見ると、古典的なSNSは限界を迎えている気がします。

大澤: Slackという空間に逃げるというのは、ある種、断絶をポジティブに捉えた考え方でもあるよね。断絶させることによって、居心地の良い空間をつくっているとも解釈できる。ただ、僕は、「ドラえもんをつくりたいんです」と言ったときに、「あー、私は鉄腕アトム世代なんですよ」と残念そうに返されるのが寂しいんです。世代間に断絶が起こっているのかなあと感じてしまうので。僕がドラえもんをつくることを頑張れば、アトムをつくることにも貢献できるはずなのに、チームになれないと思われているように感じることはあります。でも、僕は断絶しないでほしいと思っている。僕がつくっている世界観は、誰でもアクセスしていいものです。ドラえもんから断絶された人が一人でもいたら嫌なんですよ。

最近は、互いが搾取する構造がなく、人の気持ちを考えながら、それぞれの価値が尊重されるような村をつくり、それが資本主義のなかで経済合理性も実現できたらサステイナブルに広がり、争いのない世界ができるんじゃないかとも考えています。そうしたところからドラえもんができたら面白いと思いませんか。ドラえもんをかけ算できないパートナーはいない、というのが僕の確信です。よく、「ひみつ道具はどうするの?」と聞かれて答えに窮していたのですが、先日、がん細胞を光らせる研究をしている友人から、「大澤さんがつくったドラえもんの四次元ポケットから、僕がつくったがんを光らせるスプレーが出てくる未来が来たら、良くないですか?」と言われて、「それ! それがいい!!」と盛り上がりました(笑)。ひみつ道具を実現してくれる仲間たちもいるからこそ、僕はドラえもんをつくることに集中できているわけです。

佐久間: そこまで来たら、もう神ですね。

大澤: ドラえもんをつくろうとしている自分だからこそイメージできる、人と人との新しいかかわり方や、未来社会のイメージがある。そうしたイメージは、77億人の争いを消すことに貢献できると思っています。これまではテクノロジーによって断絶しやすくなったり、炎上しやすくなったりしてきましたが、これからは、テクノロジーによって皆が気持ちよく過ごせる未来へ行きたい。そうすることが、技術者としての自分の役割の一つだと考えています。

【プロフィル】
大澤正彦(おおさわ・まさひこ)
人工知能研究者。1993年生まれ。慶応義塾大学大学院理工学研究科後期博士課程在学中。慶応義塾大学理工学部の学生だった2014年に設立した「全脳アーキテクチャ若手の会」が2500人規模に成長し、日本最大級の人工知能コミュニティーに。「認知科学若手の会」も設立し、代表を務めている。IEEE CIS Japan Chapter Young Researcher Award(最年少記録)をはじめ受賞歴多数。孫正義育英財団会員第1期生(正財団生)。人工知能学会学生編集委員。日本学術振興会特別研究員(DC1)。

佐久間洋司(さくま・ひろし)
バーチャル認知科学者。1996年、東京都生まれ。大阪大学基礎工学部在学中。人工知能やバーチャルリアリティーを活用して人の意識に働きかける研究をしている。カナダ・トロント大学への留学、Panasonic Silicon Valley Labでのインターンなどを経て、世界経済フォーラムのGlobal Shapersに。人工知能研究会/AIR代表、人工知能学会学生編集委員長、大阪府市設置の万博に関する有識者談話会委員なども務める。孫正義育英財団第2期生(正財団生)。NewsPicks Magazine「未来をつくる7人のUNDER30」にも選ばれた。

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