DIALOG 日本の未来を語ろう :朝日新聞デジタル
2020/03/11

地域に活気をもたらす取り組み
陸前高田の復興 後編朝日新聞DIALOG セッション

[PR]UR都市機構

経験したことのない強い揺れ、すべてをさらった黒い津波。未曽有の被害に見舞われた岩手県陸前高田市は、東日本大震災から9年の時を経て、ハードとソフト両面の土台が整いつつあります。朝日新聞DIALOGは、東北の復興支援事業に取り組むUR都市機構の協力を得て、東京で暮らす若者たちが被災地の復興の現状を学ぶスタディーツアーを実施しました。参加した大学生3人は、前日のツアーを踏まえ、様々な立場から復興を支えてきた方々との「陸前高田の復興とこれから」を考えるセッションに臨みました。

参加した学生は、一橋大学3年の魚住あかりさん(22)、慶應義塾大学4年の古井康介さん(24)、東京学芸大学大学院修士2年の古野香織さん(24)。学生を迎えたのは、陸前高田市役所の永山悟さんと熊谷剛さん、特定非営利活動法人SETの廣瀬太陽さん、民泊事業に協力する蒲生由美子さん、UR都市機構の井上大輔さんと早田悟さんです。ファシリテーターはSETでマネジメント業務にあたる小林敬志さんが務めました。

セッションは東日本大震災津波伝承館のセミナールームで開かれた(2019年12月14日)

まちづくりを強力に推進した「調整力」

前日のスタディーツアーで、復興から成長へと向かうまちのダイナミックな変貌を目の当たりにした学生たち。3人の目には、中心市街地にある「まちなか広場」の地面に施されたクッション舗装、メインストリートの無電柱化といった先端のアイデアや技術が魅力的に映ったようです。古野香織さんは「東京で暮らしていますが、私の地元にあのような広場はありません。新しいものを取り入れていて、1歩も2歩も進んだ整備をしていると感じました。陸前高田のまちづくりは、単なる復興という言葉ではくくれないと思います」と印象を述べます。

古野香織さん
東京学芸大学大学院修士2年

取り入れられた先進技術や工夫の一つひとつが生きているのは、インフラを整えた先の「まちの姿」がきちんと考えられているからこそ、と古井康介さん。「グランドデザインは誰が主導したのでしょうか」と質問を投げかけます。「ベースは市とURの協働です」と答えたのは、陸前高田市役所の永山悟さんでした。「商業地には商工会や住民、外部アドバイザーも加わり『オール高田』で取り組んできました」と明かします。

古井康介さん
慶應義塾大学4年
永山悟さん
陸前高田市役所 建設部都市計画課 発災後、陸前高田市に移住

まちの土台となる区画整理を進めるうえで、市とURは地権者との折衝などで話し合いの機会を多数設けたといいます。多くの意見が寄せられるメリットはあるものの、関係者が増えることで集約が難しくなるという側面も。古野さんが、意見をまとめて事業を前に進める方法を尋ねると、「どの場においても説明→対話→プラン再考が基本です。その繰り返しでブラッシュアップしていきます」とURの早田悟さん。限られた工期のなかで、これをいかに丁寧に進められるかがポイントだと語りました。

URは、住民や関係者との対話の前面に立って分かりやすくプランを提示することに加え、陰ながらのサポートも心がけてきたそうです。早田さんは一例として、震災によって住まいを失った人のために建設した災害公営住宅でのコミュニティづくりを挙げ、そのセオリーは「自分たちの住環境を自分たちの手によってよりよくしたい」という思いを持つ住まい手が動き出す「きっかけの場」をつくることだと解説しました。

住民主体で進める傍ら、「自分たちURのスタッフも、まちに接しながら生活者の視点を持って取り組んでいます」と話すのは、中心市街地の高田地区を担当するURの井上大輔さんです。「飲食店や産直の野菜販売店などを利用して、考えたり感じたりすることも必要なこと。よりよいまちづくりは、簡単に正解を導き出せない。だからこそ、日々の実感を生かしたいんです」と語ります。

井上大輔さん(左)
UR都市機構 岩手震災復興支援本部 陸前高田復興支援事務所 基盤工事第1課 高田地区を担当

早田悟さん(右)
UR都市機構 岩手震災復興支援本部 陸前高田復興支援事務所 市街地整備第1課
同じく高田地区を担当。阪神・淡路大震災の復興事業で芦屋の再建に携わった経験がある

陸前高田市役所の熊谷剛さんは、URと協働するうえで、こうした向き合い方に助けられてきたと振り返ります。「単なる区画整理だけでなく、月に10万人が来場する津波伝承館から市内を巡ってもらう方策など、都市計画の部分でも共にアイデアを出し合いました」

熊谷剛さん
陸前高田市役所 地域振興部観光交流課 震災を機に他県から帰郷
まちなか広場は市民の憩いの場
2014年に完成した災害公営住宅・下和野団地

地域に溶け込んだ「よそ者たち」がまちと人を元気に

URの担当者は地域の定例勉強会に参加するなど、地道なコミュニケーションを重ねて住民と信頼関係を構築してきたといいます。その姿勢は、陸前高田市の広田町を中心に活動するSETにも共通するもの。震災直後から都会の学生たちをボランティアとして陸前高田へ派遣し、現在は市や住民と協力して全国の中学・高校の民泊修学旅行事業を展開するなど、地域と密接に関わり合って活動しています。

「たくさんの学生ボランティアに、地元の方々が違和感を抱くようなことはなかったのでしょうか」。魚住あかりさんからの問いには、陸前高田市民で、現在はSETと連携して民泊事業を営む蒲生由美子さんが、最初は距離があったと打ち明けました。少しずつ縮まっていった理由は、地元住民が地域に可能性を見いだせたことが大きいようです。「何もないところにやって来る学生たちが、星空や農業、食など私たちの当たり前の日常に価値があると教えてくれました」

魚住あかりさん
一橋大学3年

若者たち側も、こうした環境に飛び込むことで心境に変化がありました。SETの廣瀬太陽さんは「学生時代に暮らした東京では、近所付き合いなんてありませんでした。移住してから戸惑うシーンも少なからずありましたが、コミュニティの面白さや強さを感じますね」と経験を語ります。

稲刈りや漁業を手伝う人、地域の消防団に入る人。SETのメンバーは、地元の一員としてそれぞれに活動しています。元のコミュニティを壊さずに一体感のある取り組みを進める好事例をいくつも生み出してきました。こうした県外出身者である「よそ者」の試みを通じて、地元住民同士の付き合いにも新たな展開が。蒲生さんは、民泊事業に取り組む女性たちと定期的に会合の場を持ち、意見交換をしています。

民泊事業に協力する蒲生由美子さん(左)とSETの廣瀬太陽さん

SETでコミュニケーションデザインを手掛けるファシリテーターの小林さんは、これまでになかった横のつながりが創出されたことは大きな意味を持つと感じています。そして、今後のコミュニティづくりの軸は二つあるとし、地域に関心を持ってかかわる「交流人口」を増やすこと、外との交流を通じて地域の人たちが自分たちの本来の魅力を発見することを挙げました。

ファシリテーターを務めたSETの小林敬志さん

中心市街地に若者の活動拠点をつくろう

利用できる土地が多いという中心市街地の高田地区。古井さんは、この地で育つ子どもたちが「まちから出たくない」「将来は帰ってきたい」と思えることが大事だと述べ、小さな楽しみとささやかな娯楽から取り入れてみては、と提案します。「プリクラが撮れるような場所があるだけでも、子どもたちはうれしいはず。年齢が上がって中学・高校生ぐらいになると、ほどよい距離感もほしくなりますよね。みんなが集まれる空間があること自体は、すごくいいことなのですが」

この意見に古野さんが若者の拠点として「ユースセンター」をつくっては、とアイデアを披露。「以前に見学したスウェーデンのストックホルムは、中心市街地の一番よい場所にユースセンターがありました。楽器やコンピュータやスポーツ用品などがたくさん置いてあり、若者たちが自由に使えるだけでなく、その分野に詳しい年上のお兄さんやお姉さんが無料でレクチャーしてくれるんです。世代間交流も広がると思います」と、居場所にとどまらない効果にも言及します。

中心市街地の出店状況に詳しい井上さんは、若い経営者がチャレンジできる環境も重要だと考えています。「昨日紹介した『まちなか広場』のレンタルスペースでは、期間限定のネイルサロンや雑貨店が開かれています。若い人の積極性は、まちの活気に影響します」

まちなか広場のレンタルスペース

中心部と周辺部、まちの魅力はどこにある?

陸前高田をより多くの人が集うまちにしていくため、大切にすべき魅力はどんなところでしょうか。なかなか自分たちでは気がつきにくい、と蒲生さん。古野さんは、8月7日に開かれるお祭り「けんか七夕」がコミュニティづくりの核に位置づけられていることに興味を持ったといいます。その意見に「震災で壊れてしまったコミュニティをもう一度生み出すためにも、残していきたい風物詩」と熊谷さんがコメント。伝統を守ることは地域の暮らしと観光の振興に欠かせない要素のようです。

廣瀬さんは観光するなら周辺部を勧めたい、と言います。「海のまちならではのワカメやカキといった海産物が豊富です」。食の充実で言えば中心部も、と永山さんが笑顔を見せます。「飲食店が増えたので、食べ歩きや飲み歩きも楽しめるようになってきました」

また、市では文化や教育の面でも特色を出したいと考えているそうです。子育て中だという永山さんは、「目指すべき方向は、地方でも活気があって文化水準が高いまちだと思っています」と高い関心を寄せています。「最近ではSETがデンマークの学校と提携して陸前高田での4カ月間に及ぶ移住留学を実施するなど、面白い民間プログラムが増えてきました」。こうした取り組みも、住み続けたいまちへの一歩になることでしょう。

観光や娯楽では中心部と周辺部に異なる楽しみがあり、ビジネスの場としてもたくさんの人が訪ねてくるまち。魚住さんは、かつてない発展が見込めるのではと期待を語ります。「陸前高田に可能性を見出した企業や個人が新しいことに取り組もうと集まってくれば、飛躍的に活気づくはずですね。なんだかワクワクします!」

陸前高田での学びを「自分ごと化」

最後のテーマは、スタディーツアーとセッションで得た「気づき」の生かし方です。魚住さんは大学で所属するまちづくりサークルでの活動に直結するヒントがたくさんあったと充実の表情。「卒業後、実家のある三重県にUターンするかどうかを決めなくてはなりません。地方での取り組みを学んだことで、これまでよりも掘り下げて考えられる気がします」

東京都出身の古野さんは、自身の研究テーマである主権者教育の活動拠点として陸前高田に興味があると言います。「課題先進地域なので、『未来を変えたい』と本気で考える若者が多いはず。ここで教育に携わりながら地域と来訪者がwin-winの関係をつくるためのアイデアを生み出すという暮らし方は、やりがいがありそう」と意欲を見せます。

古井さんも、働く場としての魅力を感じたようです。「世界とつながることができて、ここにしかない体験もちゃんとある。陸前高田で何か新しいことができそうだなと感じました。リモートワークの時代が来るなかで、文化水準を高めようとしているのも大きなポイントです。また、地元の皆さんが県外から来た僕らに対して非常にオープンで、『どう思う?』と意見を求めてくださったこともうれしかったです。若者の声に耳を傾けてくれるのは、この地で育つ子どもたちにもすごく心強い環境でしょうね」

学生の声を聞いた大人たちも、決意を新たにした様子。熊谷さんが「市の事業では今後もたくさんの人の声を反映したいです」と語れば、早田さんは、「中心部の商店街には熱い思いを持った方が多いのですが、周辺部の活動も応援したくなりました」。今年中に完了する予定のかさ上げ造成に触れた井上さんは、「皆さんが安心して戻ってこられるようなまちを、全力でつくります」と力強く宣言しました。

様々なトピックについて語り合ったセッションは、それぞれが陸前高田の未来に思いをはせ、自分にできることを考えるきっかけになりました。東日本大震災から9年。まちは今、飛躍のときを迎えようとしています。

URが取り組む復旧・復興支援について詳しくはこちら

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