DIALOG 日本の未来を語ろう :朝日新聞デジタル
2020/03/13

イケア・ジャパン 代表取締役社長兼CSO ヘレン・フォン・ライスさん 「家での暮らしが地球環境を救うことを伝えたい」

Text by 溝口恵子 with 朝日新聞DIALOG編集部
Photo by 石黒シエル

社会を牽引する企業のトップリーダーに若い世代が公開インタビューするシリーズ「トップに聞きたい!」。第2回はイケア・ジャパン株式会社のヘレン・フォン・ライス社長に、「自分も社会も幸せにする北欧的な働き方」について聞きました。聞き手は、朝日新聞DIALOG学生記者の黒澤太朗(21)と溝口恵子(21)です。ギャラリーとして大学生を中心に16人の若者が参加し、第2部のグループトークではイケアの社員たちに聞きたいことを次々と質問しました。その模様をお伝えします。

多様な人が一緒に働くことで最高のパフォーマンスを生む

イケアは「より快適な毎日を、より多くの方々に」をビジョンに掲げ、1943年にスウェーデンで創業したホームファニッシングカンパニーです。世界30カ国に374店舗を構え、従業員は16万人以上います。日本法人であるイケア・ジャパンは消費者向けのストアを9店舗、法人向けのプランニングスペース「IKEA for Business」、オンラインストアも運営しています。2014年9月からは、パートタイムのスタッフを含む全従業員を正社員化。また、店舗の運営に再生可能エネルギーを使用し、プラントベースフード(植物性食品)を提供するなど、環境問題への取り組みも率先して行っています。

最初に、ヘレンさんが自身のキャリアやイケアで学んだことについて話しました。

ヘレンさんは大学時代にイケアでアルバイトをし、卒業後は出版社に就職。その後、イケアに転職しました。日本に住んで3年の現在は、夫と14歳の息子と一緒に暮らしています。また、中国に留学中の18歳の娘がいるそうです 。「アルバイトからそのままイケアに入社できると期待していたのですが、ちょうど会社がコストを削減する時期でかないませんでした。そこで、まず出版社で働きました。イケアの外で働いたことで、逆に、イケアがどのような価値観をもってビジネスを展開しているか、お客様に接しているかがよく分かりました。大学生のときは若すぎて理解できていなかったのだと思います」

イケア入社後、最初はカタログを作る部署に配属され、次に商品開発を担当しました。「そこでは4年ほど働きました。300人ほどのクリエーティブな人たちを引っ張っていくリーダーとして、人の大切さとリーダーシップの楽しさを感じました。同じような人が集まってもマジックは生まれません。いろんな意見を持っている人たちが一緒に働くことで、最高のパフォーマンスを発揮することができます。まさにダイバーシティー、多様性を学んだ日々でした」

その後、夫のアドバイスもあり、中国・深圳しんせんの新店舗の店長に就任。言語の壁に直面しましたが、世界共通のイケアの価値観と、人に対するパッションで乗り切ることができたそうです。「深圳でもみんなと一緒に働くことでリーダーシップが生まれ、アイデアを出し合って考えを共有することが大切だと感じました」

エープリルフールの日に上司から「アメリカ法人の副社長になりませんか」というメールが来て、ジョークかと思いつつも受けることにしたというヘレンさん。アメリカ時代を振り返ってこう言います。「文化というものは非常に影響力があると感じました。イケアのカルチャーとその国の文化を融合させていくことには苦労もありました」

現在はイケア・ジャパンの社長として、都心部への出店やオンラインショッピングなどを通じて、新しいイケアをつくっていきたいと意気込んでいます。「とりわけ、地球環境のサステイナビリティー(持続可能性)をいかに社会に根付かせていくかが使命だと考えています」

家は世界で一番大切な場所

続いて、学生記者2人による公開インタビューへ移ります。

黒澤: ヘレンさんは2児の母ですが、育児と仕事をどのように両立してきたのですか?

ヘレン: 私は、若い女性と男性にはいつも「結婚する前に、自分をしっかりサポートしてくれる相手かどうかを見極めなさい」と言っています。その際はまず、きちんと座って話すことが大事です(笑)。どのような家庭を築いていくのか、十二分に話し合ってから結婚してください。スウェーデンだけでなく日本も、家族をサポートするシステムは充実していますが、日本の場合は文化的な難しさがある感じがします。若い人たちは、システムを活用して、しっかりチャレンジしていく必要があると思います。特に、男性の育児休暇取得が非常に大事なので、パパたちには育休をたくさん取るよう奨励しています。

溝口: イケアでは家を非常に大切にしていますが、私にとって家は寝に帰るだけの場所になってしまっています。北欧では家をどう捉えているのでしょうか?

ヘレン: 私にとって家はリラックスできる安全な場所で、働くためのエネルギーを家からもらっています。家は世界で一番大切な場所ですし、厳しい社会に向き合うためにも家でしっかりと休養をとって良い状態でいたい。特に、皆さんのような大都市に住んでいる方にとっては大切だと思います。

働く人の意見をしっかり聞くことが、成功の秘訣

黒澤: (セッション会場になっている)イケア・ジャパン本社のオフィスはすごく素敵ですが、社員からの「こういうふうに働きたい」「ここは変えてほしい」といった意見は、どのように吸い上げていますか?

ヘレン: 素敵なオフィスと言ってくださってありがとう(笑)。昨年、オフィスを改装して、いろいろな所にソファを置くようにしました。硬いデスクで仕事をするより、ソファに座ってリラックスして仕事をするほうがいいですからね。 イケアのコワーカー(co-worker=ともに働く人。同社では全従業員をそう呼ぶ)がイケアの価値観を共有していることが、意見の吸い上げやすさにつながっていると思います。 意見を吸い上げるときには、「こういうのがあったらいいな」ということを直接聞くようにしています。しっかりと意見を聞くことは、会社としての成功の秘訣ひけつだし、自分たちの意見が反映されることは、コワーカーにとって、とても重要です。働くなかで、しっかりと話すことは大切な要素なのです。

溝口: イケアの組織は非常にフラットだと聞いていますが、日本社会でフラットな組織を実現するにはどうすればよいでしょうか?

ヘレン: フラットな組織は日本でも十分に実現可能だと思います。会話を大切にし、決断するときに必ずいろんな意見を取り込むことが重要です。相手の肩書を重視して意見を聞くのではなく、誰もが大切な意見を持っていて、私たちはそれを知りたいという姿勢を示すことが大事だと思います。

環境問題の解決に役立つものを提供したい

黒澤: 環境問題とビジネスのバランスをどのように取っていくかについてうかがわせてください。イケアはどのようなスタンスで、この問題に臨んでいるのですか?

ヘレン: 私たちはまずグローバル企業として問われなければならないことがあります。「地球の環境を救うのか、それとも破壊するのか」。イケアは、世界の平均気温上昇を(産業革命前と比べて2℃未満、できれば)1.5℃に抑えるというパリ協定にコミットし、行動しています。エリアごとに各行動の効果を分析し、ゴールを設定して進めます。例えば、イケア・ジャパンでは全ストアにソーラーパネルを設置し、再生可能エネルギーを使用しています。

お客様とのコミュニケーションも非常に大事です。イケアの調査によると、90%以上のお客様が気候変動を食い止めるために何かをしたいと思っていますが、実際にやり方が分かっている人は3%しかいませんでした。そこで、家での暮らしが地球環境のサステイナビリティーとつながることを、いかにわかりやすく提示していくかが大きな課題になります。

日本のスーパーに行くと、多くの食品がプラスチックで包まれていますが、イケアではプラスチックに代わるソリューションを提供することが大事だと考えています。例えば、同じプラスチックでも再生可能な素材ならリサイクルできるし、食品をフードコンテナに入れれば容器を廃棄する必要はなくなります。そうした解決策を具体的に示すことが重要です。

溝口: 朝日新聞DIALOGは「2030年の未来」を考えるコミュニティーです。2030年の世界はどうなっていると考えていますか?

ヘレン:  2030年には、非常にポジティブな未来が待っていると考えています。人工知能(AI) が発達し、細かい仕事はロボットがやってくれるでしょう。気候変動の影響で自然災害は減らないのではないかと思いますが、人は地球を救えるイノベーションを考えていくでしょう。企業は自らできることをきちんと進めていかないといけませんが、何より大事なのは政府の役割です。気候変動を緩和するような非常に厳しい法律を作るべきだと思います。日本は民主主義国家で、皆さんは一票を持っています。ぜひ正しい政治を選んでください。

グループトークはコーヒーを飲みながら

公開インタビューの後、参加者全員が3班に分かれ、イケア社員を交えたグループトークに移りました。スウェーデンには「フィーカ」というコーヒーブレークの文化があります。甘いお菓子を食べながらコーヒーを飲み、おしゃべりをする時間をとても大切にしているのだそうです。参加者は、ヘレンさんが用意してくれたデトックスウォーターを飲んだり、お菓子をつまんだりしながら、社員の方々に、入社したきっかけやキャリアの積み方、北欧的な価値観、幼児教育についての考え方など、30分間にわたって様々な質問をしました。笑い声があちこちから響き、終了の合図があっても盛り上がり続けるグループもありました。

参加したイケアの社員の方々からは、「サステイナビリティーに関する興味など、若者たちの意識の高さが素晴らしい。日本の未来は明るいと感じました(笑)」「学生と交流するなかで、自分たちもインスピレーションを受けました」といった講評がありました。また、これから就職活動に臨む学生たちには、「就職活動では自分のやりたいことを大切にして、この会社でなら自分は輝けると信じて頑張ってください。応援しています」というエールも送られました。

参加した若者たちにも感想を聞きました。関西からこのセッションに参加したという大学3年生の女性は、「子育てと仕事を両立できる働き方や、環境に配慮した活動など、持続可能な企業活動の最先端を学ぶことができました。これからの日本を担う若者が集い、イケアの先進的な活動を知ったことは、持続可能な働き方とは程遠い日本企業を変える貴重な一歩になる気がします」と話しました。

取材を終えて

DIALOG学生記者の溝口恵子です。イケア・ジャパン本社を訪ねて感じたのは、「一人ひとりが一番心地良い環境で働こう」という空気でした。託児所やキッチンが併設されていたり、ソファに座ってお茶やお菓子を楽しみながら仕事をしていたり……。多くの日本人にとって、会社=肩に少し力が入る場所ですが、ここはまるで家にいるかのようにリラックスできる場所でした。また、ヘレン社長と社員の方々がニックネームで呼び合っているのも、とても印象的でした。こうした雰囲気も、働く人同士で意見を言いやすい環境につながっているのだと思います。それが実現しているのは、「一人ひとりの意見を尊重する」という意識の共有があってこそ。働き方を考える上で対話は欠かせないポイントだと学びました。

私と一緒にインタビューしたDIALOG学生記者の黒澤太朗さんの感想もご紹介します。

私たち学生記者のインタビューを快く受け入れ、真摯しんしに答えてくださったヘレン社長の姿がいまだに忘れられません。ヘレンさんからは、コワーカーの働きやすさを土台にしつつ、気候変動といった地球規模の長期的課題にも責任を持って向き合う、という強い意志をひしひしと感じました。多くの日本企業にとって、「ワーク・ライフ・バランス」や「CSR(企業の社会的責任)」の実現は、まだまだ「言うは易く行うは難し」かもしれません。スウェーデンという国の制度や文化、そしてイケアという会社のスタイルは、その実現に向けて大きなヒントを与えてくれている気がしました。

Helene von Reis (ヘレン・フォン・ライス)
イケア・ジャパン株式会社代表取締役社長兼Chief Sustainability Officer。スウェーデン・マルメ生まれ。ルンド大学卒業後、1998年に IKEA カタログを発行する IKEA Communicationsに入社。IKEA of Sweden での勤務後、2007年にIKEA Communications執行役員に就任。中国赴任、アメリカ法人副社長を経て、16年8月から現職。趣味は料理。2児の母でもある。

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