「大学SDGs ACTION! AWARDS 2020」最終選考会 斬新でハイレベルなプレゼンが続々:朝日新聞DIALOG
2020/03/21

「大学SDGs ACTION! AWARDS 2020」最終選考会
斬新でハイレベルなプレゼンが続々

Text by 藤崎花美、溝口恵子
Photo by 伊ケ崎忍、工藤隆太郎

国連は、貧困や格差、環境など17分野で2030年までの達成を目指す「SDGs(持続可能な開発目標)」を掲げています。その実現に向けて活動する若者たちを応援する「大学SDGs ACTION! AWARDS 2020」(朝日新聞社主催)の最終選考会が2月15日、東京・渋谷で開かれました。プレゼンテーションに登壇したのは119件の応募の中から1次選考を通過したファイナリスト12チーム・個人です。斬新でレベルの高い発表がそろった当日の模様をお伝えします。

歴代受賞者がファイナリストにエール

オープニングは、昨年のAWARDSでグランプリに輝いた立命館アジア太平洋大学のディッサ・シャキナ・アーダニサさんのビデオメッセージで始まりました。故郷・インドネシアの障害者が絶滅の危機にある動物をモチーフにしたぬいぐるみなどをつくり、収入を得られるようにするプロジェクトを提案したアーダニサさんは、「グランプリを受賞したことで、インドネシアの農村でプロジェクトを実施できました。皆さんも、自分たちのプロジェクトが社会に対してどのような影響を与え、持続可能性があるかどうかを考えてください」というメッセージを送りました。

次に、一昨年のAWARDSでオーディエンス賞を受賞した東京大学の尾川達哉さんが登壇しました。「誰一人取り残さない」をモットーに、障害を持つひとり親家庭の不利益を解消する法改正を目指す提案をした尾川さんは、受賞後も活動を続け、法改正の実現に近づいていることを報告しました。「信じるところに希望は生まれる」とファイナリストたちにエールを送りました。

12チーム・個人が気持ちのこもったプレゼンを展開

選考委員の紹介に続いて、12チーム・個人によるプレゼンテーションが始まりました。各組の持ち時間は7分です。
*丸数字の後は各プレゼンテーションのタイトルとプレゼンターの氏名、所属大学

①超スマート社会をひらく人・モノ・街づくり

田尻隼人、山田尚(岩手県立大学)

田尻さんと山田さんが暮らす岩手県では、若者の能力を生かせる仕事が少なく、年収も低いため、大学卒業後に首都圏で就職する人が多いそうです。自然豊かで暮らしやすい地元・滝沢市に住み続けるため、子どもたちにIT教育を行うNPO法人を設立して人材育成に努めるとともに、リンゴ農家の多岐にわたる作業を自動化できる農業ロボットづくりを目指して研究を進めています。地域の強みである農業と、自分たちの専門分野であるロボットづくりを掛け合わせた事業の提案は、地域にとっても、将来を担う子どもたちにとっても大きな力になり得ます。

②ShareRo(シェアロ)

三原尚人、所七海(東京外国語大学)

配偶者を亡くした高齢者や、独居老人になる可能性のある高齢夫婦は290万世帯ともいわれ、金銭面の不安だけでなく、孤独感などの精神的な問題も懸念されています。一方、一人暮らしの大学生や若い社会人の多くが、学費の上昇や収入の減少といった問題を抱えています。プレゼンターの三原さんは2年間、血縁関係のない「おじいちゃん」とホームシェアしてきた経験から、ともに暮らす人を求めているシニアと、安価な住まいに魅力を感じる若者とを結ぶオンラインプラットフォーム「ShareRo」を発案しました。「交わるはずのなかった人生が、ホームシェアでつながることで、新たなストーリーが生まれる」と熱く語りました。

③AGMProject(あおねグリーンマッププロジェクト)

三橋晴香、西山香瑠(麻布大学)

「グリーンマップ」とは、地域住民が協力して町の環境に影響するスポットをピックアップし、世界共通で使われる169個のグローバルアイコンによって表した環境マップです。相模原市にキャンパスがある麻布大学では、市内の青根あおね地区で住民と一緒に「SDGs未来グリーンマップ」を作製しました。この地区は山林に囲まれた自然豊かな里山ですが、高齢化と過疎化という問題を抱えています。グリーンマップに示した課題をSDGsの17の目標と照らし合わせることで、解決するための具体的な指針を立てることができます。「SDGsに取り組んでみたいけど何をしていいかわからない」という声に応える提案です。

④アクティヴに学べる実験・ものづくり授業を子どもたちへ! 新興国での理科教育コンテンツ製作と効果検証

霜倉チャールズ元気、山西康太(大阪大学)

バングラデシュの教育現場では、理科の実験やものづくりのような、手を動かして仮説検証する学習機会が不足し、初等教育では5人に1人が中途退学しているそうです。そこで、大阪大学の自主活動団体Bamb-EEは、学校の設備に左右されず理科実験ができるコンテンツづくりに挑み、紙製のミニ風力発電機を作ることを通じてエネルギーの性質を学べる教材を開発しています。すでに日本国内の協力校での実験は成功。同じものをバングラデシュの子どもたちに届ける準備をしています。プレゼンの最後は「世界の子どもたちに楽しい理科教育を」という言葉で締めくくりました。

⑤古着を布ナプキンへ! ~アフリカの月経貧困を解決する~

吉葉怜美、知念璃未(横浜市立大学)

アフリカの女子の初等教育修了率は、世界平均と比べて大幅に下回っています。その一因は、貧困のために生理用品を買うことができず、生理の日は登校できない「月経貧困」にあります。この問題を解決するため、日本で捨てられている多くの衣類をアフリカに送り、現地で布ナプキンにリメイクするプロジェクトを提案しました。日本国内のごみを減らせるだけでなく、現地の子どもたちが自分で作ることができるので費用もかかりません。実際に現地へ行って、布ナプキンの作り方を教えることも試行しているそうです。

⑥オンライン教育改革をネパール全土に広げ、教育格差や地域格差をなくしたい

ジョシ・ディネシュ・プラサッド(東京大学大学院)

多くのネパール人が中東など国外へ出稼ぎに行っています。出稼ぎの原因はネパール国内の教育格差にある、とプラサッドさんは指摘します。特に、地方の子どもたちが通う公立学校は、教師の質が低いなど問題が山積しています。そうした状況を改善するため、プラサッドさんは都市部の優れた教師と地方の生徒をオンラインで結ぶプロジェクトを進め、すでに二つの公立学校の70人の生徒を対象に試行しています。2年間で中学卒業試験の合格者を20人以上出すことを目標に、現地の協力者・チームとともに取り組んでいます。

⑦高齢者を輝かせるAI活用法

関勇輝、吉村怜(摂南大学)

日本では高齢化が急速に進んでいますが、働けるうちは働きたいと思っている高齢者は少なくありません。一方、今後、人工知能(AI)が発達すると、人間の仕事が減っていくことが懸念されています。そこで、高齢者がAIの「教師」となり、画像の正しい見方(例えば、映っているのがクマかイヌかといったこと)などを教える仕組みを作ります。それによって高齢者に働く機会を提供するだけでなく、開発されたAIによって得られた収益の一部を、協力した高齢者が暮らす介護施設に提供するといった付加価値の創出も目指します。

⑧Yellow Dream Project ~持続可能な女性支援プロジェクト~

丸山千裕、重松詩乃(大妻女子大学)

2015年の地震で大きな被害を受けたネパール中部のムラバリ村は男性中心社会で、育児や料理など家事全般は女性の仕事です。燃料にするまき割りや畑と家畜の世話も女性が担っています。そうした女性たちの状況を改善するため、村で栽培しているウコンで染色した黄色いカーテンを家々につけ、荒れ地にマリーゴールドやバナナ、ミカンなどを植えて、村をイエローに染めます。ウコン染めの布などを販売して収入を得るとともに、サステイナブルツーリズムの新たな観光スポットを目指すプロジェクトです。プレゼンの最後は、村の女性たちとの交流から生まれたダンスを披露し、和やかに締めくくりました。

⑨フードロスを解消するためのレストランと地域コミュニティー作り

片岡剛輝、長岡英太郎(立命館アジア太平洋大学)

食品の一部が傷んでいたり、パッケージに傷がついていたりするだけで、まだ食べられるのに捨てられてしまうフードロスが大きな問題となっています。そうした食材を利用しようと、片岡さんたちは昨年、大学がある大分県別府市でレストラン「Trash kitchen」を期間限定でオープンしました。この店では、近隣の飲食店のシェフを招いて調理してもらい、地元の事業者同士のつながりを強化するとともに、新規顧客の獲得につなげる取り組みもしています。また、地域住民に、家庭で余った食材を持ち寄ってもらうイベントも実施し、家庭でのフードロスを見直すきっかけを提供しています。レストランで出るゴミの堆肥たいひ化も視野に、フードロス問題を解決する循環型社会を目指しています。

⑩アフリカへの人道支援を通じたグローバル教育の実践 ―トーゴ共和国の井戸修復プロジェクト―

栁田竜也、黒木葵(宮崎大学)

西アフリカのトーゴ共和国は水不足が深刻で、農村部では約半数の人々が安全な水を飲めません。東京五輪・パラリンピックで宮崎県日向市が同国のホストタウンを務める縁もあり、宮崎大学の金岡保之研究室は同国の農村部で井戸を修復するプロジェクトを続けてきました。より多くの日本人にアフリカ支援を理解してもらうため、井戸の修復とSDGs関連の講義などをセットにした3週間の授業を計画しています。トーゴの人たちに安全な飲み水を供給するとともに、子どもたちを水くみ労働から解放して教育機会を増やすことが目標です。栁田さんと黒木さんは「ここで提案したプログラムとその成果をホストタウンのレガシーにしたい」と、力強く決意表明しました。

⑪性別なんかで判断されたくない! 新しい履歴書およびエントリーシートを作ろう!

山崎陽香(関西大学)

大学の国際協力ボランティア学生スタッフを務める山崎さんは、大学生に国際協力への理解を広める活動をしています。今年度はSDGsの5番「ジェンダー平等を実現しよう」に注力するなかで、アルバイトや就職活動に使うエントリーシートに注目しました。大学生にとっては身近なものですが、調査した結果、アメリカやイギリスでは日本のような決まった形式がないことがわかりました。性別や年齢、家族構成など差別につながりそうな項目は不要とされているそうです。日本でも、学生たちの意見を踏まえたエントリーシートの新しい形式を作ることや、企業への聞き取り調査をすることを提案しました。

⑫シンギュラリティ白杖「Co-イル」

中川翼(慶応義塾大学)、上原賢太(千葉大学)

視覚障害者の多くが白杖はくじょうを使っていますが、杖が届かない場所にある障害物は感知できないため、事故に遭ったり、外出が不安になって引きこもってしまったりするケースがあります。そこで、白杖の握り手にBluetooth型のグリップを付け、スマートフォンの画像認識アプリと接続するデバイス「Co-イル」を開発しました。障害物を立体的にとらえ、スマホの音声とグリップの振動で、障害物の形状とそこまでの距離を伝えます。最終的には「視覚障害者だけでなく、車椅子使用者が感じている移動の不便さも解消していきたい」と今後の目標を語りました。

「問い」から「問い」を紡ぐワークショップ

プレゼンが終わり、選考委員が別室で審査をしている時間を利用して、住友金属鉱山株式会社と日本ガイシ株式会社、日本航空株式会社の3社による「SDGsワークショップ」が開かれました。今回は「渋谷から世界へ問いかける、可能性の交差点」をコンセプトに掲げるスペース「SHIBUYA QWS(渋谷キューズ)」を会場としたことから、3社が投げかけた「問い」について、大学生を中心に約180人がグループに分かれて対話し、答えを導くための「新たな問い」を考えました。

住友金属鉱山の「互いに信頼し合える、持続可能な“開発”とは?」という問いからは、「開発後に残るレガシーは何か?」「信頼し合えることで何が生まれるのか?」といった根源的な問いが生まれました。日本ガイシの「未来の持続可能な社会を支える、あなたのそばの“クロコ”とは?」からは、「現在はなく未来に生まれ得るクロコとは?」「クロコであるメリットは?」といったユニークな問いが続出。日本航空が投げかけた「人と地域の未来を紡ぐ、これからの時代の“旅”とは?」については、「あなたにとってoffとは?」「千年後の旅とは?」といった思考を刺激する新たな問いのアイデアが出ました。

ワークショップの最後に、ファシリテーターを務めた株式会社ミミクリデザインのディレクター、小田裕和さんは、「解決策を考えることも大事ですが、『今まで考えたことはなかったけど、言われてみると確かに……』というような問いを投げかけることは、すごく大事だと思います。皆さんも、そうした問いを世の中に投げかけるスポークスマンになってもらえたらいいなと思います」と締めくくりました。

自分の足元から世界や地域を見る

オープニングから4時間半以上が経過し、窓から見える渋谷の街が夕闇に覆われたころ、「大学SDGs ACTION! AWARDS 2020」受賞者が発表されました。グランプリを獲得したのは、岩手県立大学の田尻隼人さんと山田尚さんが提案した「超スマート社会を拓く人・モノ・街づくり」でした。

受賞した山田さんは、「他の方々が世界に目を向けているのと比べ、自分たちの活動は岩手県滝沢市という限られた地域に目を向けたプロジェクト。しかし、今回、このような賞をいただくことができてよかったです」とスピーチしました。

選考委員を代表して朝日新聞社の山盛英司マーケティング本部長は、「選考会では、グローバル性と発展性、自分の足元から世界や地域を見ているかどうかが重視され、グランプリ受賞者の提案は高く評価されました。若い方々がいろいろなアイデアを持って未来へ進んでいることに強い期待感を持つことができました」と講評しました。

そのほかの受賞者は以下のみなさんです。

〇準グランプリ 住友金属鉱山賞
「古着を布ナプキンへ! ~アフリカの月経貧困を解決する~」
吉葉怜美/知念璃未(横浜市立大学)

〇準グランプリ 日本ガイシ賞
「アクティヴに学べる実験・ものづくり授業を子どもたちへ! 新興国での理科教育コンテンツ製作と効果検証」
霜倉チャールズ元気/山西康太(大阪大学)

〇スタディツアー 賞
「Yellow Dream Project ~持続可能な女性支援プロジェクト~」
丸山千裕/重松詩乃(大妻女子大学)

〇スタディツアー<瀬戸内町×JAL>賞
「AGMProject(あおねグリーンマッププロジェクト)」
三橋晴香/西山香瑠(麻布大学)

〇オーディエンス賞
「ShareRo(シェアロ)」
三原尚人/所七海(東京外国語大学)

〇審査員特別賞
「シンギュラリティ白杖『Co-イル』」
中川翼(慶應義塾大学)/上原賢太(千葉大学)

〇ファイナリスト賞
「オンライン教育改革をネパール全土に広げ、教育格差や地域格差をなくしたい」
ジョシ・ディネシュ・プラサッド(東京大学大学院)

「高齢者を輝かせるAI活用法」
関勇輝/吉村怜(摂南大学)

「フードロスを解消するためのレストランと地域コミュニティー作り」
片岡剛輝/長岡英太郎(立命館アジア太平洋大学)

「アフリカへの人道支援を通じたグローバル教育の実践 ―トーゴ共和国の井戸修復プロジェクト―」
栁田竜也/黒木葵(宮崎大学)

「性別なんかで判断されたくない! 新しい履歴書およびエントリーシートを作ろう!」
山崎陽香(関西大学)

行動する若者たちとともに歩む

最後に、朝日新聞社の渡辺雅隆社長が閉会のあいさつをしました。

「朝日新聞はジャーナリズムの担い手として、民主的な社会の発展に貢献してきました。それと同時に、もう一つ大事にしていることは、社会の様々な問題の解決に向けて行動する人たちに情報を提示し、その人たちとともに歩むことです。”ともに考え、ともにつくる”という企業理念を改めて掲げています。2030年には今日登壇された方たちが、社会の中核として時代を牽引けんいんしていく存在になっていると思います。皆さん一人ひとりがもっと成長して、2030年の社会をよりよくするために活躍されていることを願っています。私たちも、行動する若い人たちをサポートしていきたいと思っています」

朝日新聞に掲載された広告特集の記事はこちらから

関連記事

pagetop