DIALOG 日本の未来を語ろう :朝日新聞デジタル

俳優・山田孝之×朝日新聞DIALOGやりたいことをやれば、自分がアップデートされていく

Text by 休場優希 with 朝日新聞DIALOG編集部
Photo by 江口和貴

次代を担う若者と第一線で活躍する大人が世代を超えて対話するシリーズ企画「明日へのLesson」も2年目に入りました。今回は、近日公開の映画「ステップ」でシングルファーザー役に初挑戦した俳優の山田孝之さん(36)に、平成生まれの若者2人が様々な質問をぶつけました。

映画「ステップ」は、作家・重松清さんによる同名小説が原作です。山田さんが演じる主人公・健一は結婚3年目、30歳という若さで妻に先立たれます。物語はその1年後から始まり、健一と2歳の娘・美紀が、さまざまな葛藤や困難に直面しつつも、周囲の人々に支えられて成長していく10年間の軌跡が描かれています。

「ステップ」の場面から。©2020映画『ステップ』製作委員会

インタビュアーは、スタントウーマンとして国内外の映画のアクションにかかわっている伊澤彩織さん(26)と、人工衛星で撮影した画像データを使って農業のイノベーションに取り組む「 SAgriサグリ 株式会社 」代表取締役社長の坪井俊輔さん(25)です。試写を見て「自然と涙が出てきた」と語る2人と、どのような対話が生まれたのでしょうか。

娘の父親と、息子の父親はまったく違う

伊澤: 私は職業がスタントウーマンで、スタントを始めてから4年になります。アクション部としてかかわった主な作品は映画「キングダム」や「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」で、「キングダム」では中国での撮影にも参加しました。

坪井: 私は、宇宙を起点とした教育と農業の事業を行っています。教育事業の会社は学生時代に立ち上げ、小中高の生徒たちとロケットを作って打ち上げたりしています。農業事業では、人工衛星から撮影した画像を使って世界中の農地のデータを取得し、農林水産省からインドの農家まで幅広く提供しています。

伊澤: 山田さんが「ステップ」への出演を決めた理由の一つは、息子さんは実際にいるけれど、娘との接し方は未知の世界だったからだとうかがいました。主人公・健一との接点はありましたか?

山田孝之さん

山田: 僕は、健一のように会社勤めはしてないけど、父として仕事をすることかな。

伊澤: 父としての仕事をする?

山田: 「父としての」じゃなくて、「父として」仕事をする。働いてお金を家庭に入れることもそうですし、家事をしたり、育児をしたりすることもそうでしょうし。

伊澤: 娘と息子では接し方に違いがありましたか?

山田: 周りの同世代で娘がいる人を見て、違うってことはわかっていました。やっぱり娘は溺愛してしまうし、甘やかしてしまう。かといって異性なので、血が50%つながっているといっても、接し方がわからない。学生生活や社会で女性と接するのとは違って、そこに「教育」が入ってくる。教育といっても、会社で部下の女性に接するのともまた違うし、実の娘なので、姪っ子とも違うと思うんですよ。今まで経験したことがない接し方で、やっぱり戸惑いました。友達が娘と接しているのを見ても、父としてかっこつけたいし、かといって嫌われないようにしたいし、初対面の人を相手にするときよりも慎重に接している印象がありますよね。

伊澤彩織さん

伊澤: 役作りでは、どんなことを意識されましたか?

山田: 健一には今は亡き奥さんがいるので、その人を本当に自分の奥さんだと思い、その人との思い出をその都度作り、そこに浸りながら、生きるようにしました。

坪井: 試写を見た後に、自然と涙している自分がいました。山田さんご自身はどのようなメッセージを伝えようとされたのですか?

山田: うーん、なんだろうなあ……意識した部分でいうと、例えば、娘の学校の先生から朝、呼び出されて、お母さんの似顔絵を描くかどうかについて一方的に話をされる場面があります。健一からすれば、出社前で時間がないなか、会話もまともに成立せず、「この世間知らずの小娘が、何をわけのわかんないこと言ってるんだ」みたいな感情を抱くわけです。苦労して、周りに助けられながらなんとか頑張っている人の幸せな話に終始せず、こうしたイラつきを、リアリティーをもってしっかり見せることが、この作品の大事さだと思いました。

坪井俊輔さん

俳優以外の仕事も自分の中ではすべてつながっている

伊澤: 今回は娘を持つ父親役ですが、「闇金ウシジマくん」シリーズでは冷酷な闇金の社長、Netflixオリジナルシリーズ「全裸監督」ではAV監督の役を演じるなど、役の振れ幅はすごく大きいですよね。映画監督やプロデューサーをしたり、取締役を務める会社の企画から開催されたイベントで女性のバストサイズの測定をしたり、俳優業を超えたこともいろいろとやっていらっしゃいます。そうした活動をつなぐ「軸」みたいなものはありますか?

山田: 俳優としては、どんな役でも「芝居」をしている点では同じです。僕はそれをもう20年もやっているわけですよ。もし僕がラブストーリー専門の俳優だったら、やる側も見ている側もつまんなくないですか。僕は俳優として芝居を続けたいから、飽きないためにいろんなことをやるんです。

何か一つのことを続けると、そこはどんどんうまくなりますが、それ以外はできないままです。例えばミュージカルをやるなら、歌がうまくなりたい。でも、ラブストーリーをやっていても歌はうまくならない。立ち回りがうまくなりたかったら時代劇をやらなきゃいけないし、笑いのことを知りたいなと思ったらコメディー作品に出ないといけない。そうやって、自分が学びたいことを学ぶために、また、飽きないで続けるためにいろんなことをやっています。

俳優以外のこともやっているのは、僕が俳優を続けるためだったり、日本の映画制作への疑問を抱いているためだったり、いろんな理由がある。それを全部語っていたら5時間くらいかかっちゃいます。それぞれのアプローチがあるから、いろんなことをやっている感じになる。だけども、僕の中ではそれらはつながっていて、その先に見ているものがあるので、すべてやる必要があってやっています。もちろん、ただ好きなだけでやっている仕事もありますが。

必要がなくなったものは捨てることも大事

伊澤: 「ステップ」では、家庭は“変わり続ける場所”として描かれていました。私がかかわっているスタントの現場でも、同じ立ち回りは二度とありません。ただ、変化を表現するのはすごく難しいなと思っています。変わり続けるためにはどうすればいいですか?

山田: 変わり続けたいんですか。あまり変化がないんですか?

伊澤: 変化はすごくあるんですけど、いろんなアイデアや表現を自分から出していきたい気持ちがあって……。

山田: やればいいじゃないですか!

伊澤: 何か秘訣みたいのがあれば教わりたいなと……。

山田: 変化を出そうとしないほうがいいんじゃないですか。今ここでやるべきだと思うことをやっていると、自然と変化が出てくると思いますけどね。自分に足りないものが見えてくれば、必要なものを求めていくし、そこから「やっぱ、いらなかった」もあるだろうし、「もう必要ないな」と思ったら捨てることも大事。人間の容量は決まっているので、何かを入れるときには、何かを捨てなきゃいけない。とにかく進んでいけば、勝手にどんどんアップデートされていくと思います。

他人から見たら失敗でも、1歩踏み出せば、2歩目、3歩目がある

坪井: 今の若い世代は、教育課程の中で「個のアイデンティティー」がなかなか確立できず、社会に出たときに迷ってしまう人が多いなと感じています。一方で、社会全体では個が重視されるようになってきている。そうしたギャップに苦しむ若い世代に向けて、何かアドバイスはありますか?

山田: 僕が言ってどうなるのかって話ですけど、やりたいことをやりゃいいんじゃないですか。

坪井: 若い世代の人たちは、まず1歩踏み出して、自分の好きなことに手を出すべきだと……。

山田: 別に、若くなくても……「若い」っていうのは、年齢のことですか、気持ちのことですか。何歳までですか、若いって?

坪井: そうですね、自分自身は若くないと思っていて……。

山田: 今、何歳?

坪井: 25歳です。

山田: 25で若くない。アハハハハハ、なるほど。

坪井: ターニングポイントは回った気がしています(笑)。僕が言っているのは、主に中学・高校生のことです。いちばん揺れやすい時期かなと。

山田: でも、その年頃って何かに絞れなくないですか。いろんなものに興味があるし、何だってやっていいと思いますし……。中高生じゃないけど、ラーメンブームが来たとき、脱サラしてラーメン屋をやる人って、いっぱいいたじゃないですか。めちゃくちゃいいなと思って。大変だろうけど、なんか思うことがあったわけじゃないですか。ずっと会社勤めをするより、ラーメンを究めたいとか。借金してでもやる人がいたり、そのために貯金したりとか。それでいいじゃないですか。

坪井: 失敗するのが怖くて踏み出せない人って多いと思うんですよ。

山田: 99.9%がそうですよね。それを失敗と考えるのか、って話ですけどね。僕は失敗とは考えないです。

坪井: どう考えるんですか。挑戦ですか?

山田: 今までやったことがないことを初めてやるんですから、失敗するのが当たり前です。自分的には失敗じゃないとしても、他の人から見たら99.9%失敗だと言われるでしょう。だけど、1歩踏み出したら2歩目、3歩目がある。どんどん経験するから、どんどん成功に近づいていく。それって失敗なのかって話ですよ。一度きりの人生なので、やらないことのほうが失敗だと思います。

未来はわからない。だから、その時々で向きたい方向へ向かう

坪井: 朝日新聞DIALOGは2030年の未来を考えるコミュニティーです。2030年の日本や世界はどうなっていると思いますか?

山田: どうなっているんでしょうね。10年後までには、いろんなことがあるでしょうからね。何パーセントかの人は、火星に行ってるんじゃないですか。

坪井: 2030年までにこうなっていたい、といったことはありますか?

山田: ないです。今しかない。この強風(インタビュー当日は猛烈な風が吹いていた)で何かが飛んできて、刺さって死ぬかもしれないじゃないですか。2030年のことを考えていたら、刺さった瞬間に「うわぁー、俺はあれもやりたかったし、これもやりたかったのに、刺さって死ぬんだなー、やだなー」って思っちゃう。それは嫌なので、今やらなきゃいけないことをとにかくやって、生きています。

坪井: 未来よりも今と向き合うと?

山田: 僕はそうですね。2030年っていったら、10年先ですよね。僕はあんまり目標を立てたくない。目標にまっすぐ向かっていくのが、合っていないんです。もっと柔軟に生きたい。だって、10年あったら、他にどんなやりたいことが出てくるかわからない。というか、すごくいっぱい出てくると思うんですよ。そうしたら、向かっていた先(目標)に行くのがどんどん遅くなる。だったら、目標を決めずに、その時々に向きたい方向に進んでいきたい。

逆に聞いてもいいですか。坪井さんは経営者だから10年間の目標を立てなきゃいけないかもしれないけど、2030年に何か目指していることがあるんですか?

坪井: あと5年で、自分の農業の会社を上場させたいと思っています。その時点である程度、会社が回っている状態を作りたい。僕はそのときちょうど30歳ですが、プライベートでは子育てをしてみたい。「ステップ」のような形でやってみたいと思っているので、子どもが4歳か5歳になっているのが理想です。

山田: 子どもまで入ってくるとなかなか難しいですね。いつできるかわからないですし。僕は、先のことを考えるのは2年ぐらいが限界ですね。3年以上先のことはあまり考えたくないですね。

同じ人でもタイミングによって作品の見どころは変わる

伊澤: 最後に、「ステップ」の見どころを教えてください。

山田: 見どころはそれぞれ皆さんが決めてください。

伊澤: それぞれで?

山田: すみません、この質問は10年以上受け付けていないんです。主演した僕が見どころを話すと、そこが見どころになってしまう。でも、それがハマらなかった人には「ステップ」がハマらなくなっちゃうんですよ。「ステップ」には父だけでなく、娘や祖父母など、いろんな目線があります。見てくださる方によって、それぞれ響く場所が違うと思います。だから、見どころは作っている側が絶対に決めるべきじゃないと考えています。

「ステップ」の場面から。©2020映画『ステップ』製作委員会

伊澤: 観客が決めるということですか?

山田: そうですね。同じ人でも、タイミングによって変わると思いますし。今見るのと、5年後、10年後、自分の家庭環境だったり、ポジションだったり、子どもが増えたとか、父親が死んだとか、いろんなことによって見え方は変わってくると思います。僕自身がそうですから。

坪井: 「ステップ」を見て、人生にとって「愛」って大事だなって思いました!

山田: おぉ、今?

坪井: 山田さんにとって「愛」とはなんですか?

山田: なに!? すべてじゃないですか。愛がないと何もできなくないですか。

坪井: サラリーマンは会社に対する愛はなくても仕事はできますが……。

山田: ええ!? 仕事に対して会社に対して同僚に対して愛がないと無理だと思いますけどね。

坪井: 愛を持ち続けるって結構大変かなと思うんですけど……。

山田: いや、当たり前にすべてに対してあるものだから、大変ではない。まあ、一人で生きていても、無人島で生きていても、野菜を育てたり、狩りをしたりしないといけない。そうしたとき、食べさせていただくことなども含め、何に対しても愛や感謝がないと。自分が愛されたいと思うなら、自分が愛することが大切だと思います。

坪井: そうした愛にはレベルがあるんですか。「愛の階層」みたいな?

山田: わからない、それは宗教の勧誘ですか?

一同: アハハハ(爆笑)。

インタビューを終えて

DIALOG学生記者の休場優希です。山田さんが、それぞれの質問に対して、一言ずつ丁寧に言葉を選び、まっすぐ飾らずに答えていたのが印象的でした。だからこそ、山田さんの言葉には芯があり、強さを感じました。やりたいことをとにかくやるという山田さんの姿勢を見て、私自身もやりたいことと向き合えているのか、日々あれこれと言いわけを考えてばかりではないか、と考えさせられました。

では最後に、インタビューした2人の感想をご紹介します。

小さな変化を重ね、新たな表現を生み出したい(伊澤彩織)

山田さんと会う前に一番気になっていたことは、山田さんの幅広い演技力と多方面な活動性はどういった信念から生み出されているものなのか、という疑問でした。インタビューが終わった後の、私の中での山田さんのイメージは「表現を惜しみなく形にしながら、他の計画を内に秘めて進めている方」というものです。

自分が今までにやってないことや、やれないと思っているものにこそ挑戦する、という山田さんの「変化論」にどんどん引き込まれていきました。「自分ができないことだからこそ、その下準備や失敗が経験になる」と断言する山田さんの挑戦力こそが、私たちの想像を超えて、見たことのないものを次々と生み出している秘訣だと感じました。

俳優だけでなくプロデューサー、監督など様々な立場から日本の制作現場を変えていこうとしている山田さんから、今後も目が離せません。自身も含めたあらゆるものを、変化したり、変化させたりする山田さんのように、私も小さな変化を数多く重ね、スタントで新たな表現を生み出し続けたいと思いました。

起業家として成長していこうと改めて思った(坪井俊輔)

俳優さんにインタビューしたのは初めての経験で、画面を通じてしか見たことがない方が目の前にいる現場はつかみどころが難しかったです。でも、山田さんは冷静ななかにもフレンドリーな側面も見せてくださり、最後はとても気さくに話してくださいました。

私のような一般人からすれば、山田さんのような人気俳優は、完璧で手が届かない存在です。でも、対話を通じて、山田さんもさんざん壁にぶち当たり、それでも挑戦していることがよくわかりました。同じ人間だなと再認識できました。

その新鮮な印象は日がたっても消えず、電車の中で山田さんが出演している「ジョージア」の広告を見たときは、なんとも不思議な感覚がしました。「世界は誰かの仕事でできている。」というメッセージを、山田さんから面と向かって言われた気がしました。起業家としてこれからも成長を続けていこう。改めてそう思えた貴重な機会でした。感謝を申し上げます。

【プロフィル】
山田孝之(やまだ・たかゆき)
俳優。1983年、鹿児島県出身。99年に俳優デビューし、2003年に「WATER BOYS」でドラマ初主演。「闇金ウシジマくん」シリーズや「勇者ヨシヒコ」シリーズなどで人気を博す。出演映画は「電車男」(05年)、「クローズZERO」シリーズ(07-09年)、「凶悪」(13年)、「映画 山田孝之3D」(17年)、「50回目のファーストキス」(18年)、「ハード・コア」(18年)、「No Pain, No Gain」(19年)など多数。19年には主演ドラマ「全裸監督」がNetflixで世界配信され話題になった。ミュージカル「ペテン師と詐欺師」に主演したほか、映画「デイアンドナイト」(19年)でプロデュース、ドラマ「聖☆おにいさん」で製作総指揮、21年公開予定の映画「ゾッキ」で竹中直人、齊藤工と共同監督。インフルエンサーがファンに特別な体験を提供するミーアンドスターズ株式会社の取締役も務めている。

伊澤彩織(いざわ・さおり)
スタントウーマン。1994年、さいたま市出身。日本大学芸術学部映画学科卒。映画「キングダム」「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」「G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ」などで、メインキャストのスタントダブルを担当。NHKちょいドラ「斬る女」、西沢幸奏 Music Video「Break your fate」などに出演。モーションアクターとして、「MARVEL ULTIMATE ALLIANCE 3:The Black Order」(Nintendo Switch)や「モンスターストライク」(YouTubeアニメ)などにも参加している。

坪井俊輔(つぼい・しゅんすけ)
SAgri株式会社代表取締役社長。1994年、神奈川県出身。横浜国立大学理工学部在学中の2016年に株式会社うちゅうを起業し、宇宙を起点とした教育事業の開発・運営に従事。人工衛星の観測データを基に農地管理や収穫予測を行うアプリ「Sagri」を開発し、18年にSAgri株式会社を設立。「MAKERS UNIVERSITY」1期生、「DMMアカデミー」1期生。第3回日本アントレプレナー大賞受賞。世界経済フォーラムのGlobal Shapers Communityに選出。「GET IN THE RING OSAKA 2019」「Singularity University Japan GIC 2019」で優勝。

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