DIALOG 日本の未来を語ろう :朝日新聞デジタル
2020/06/10

ありのまま自由に YouTubeは学びの場へ
YouTube日本代表・仲條亮子さん×朝日新聞DIALOG

By 藤崎花美(DIALOG学生記者)
写真=Google提供

 「明日へのLesson」は、次代を担う若者と第一線で活躍する大人が対話するシリーズ。今回は、YouTube日本代表の仲條亮子さんに、オピニオンメディアmilieu編集長の塩谷舞さん(31)、NPO法人「ミラツク」研究員の森雅貴さん(25)がオンラインで話を聞きました。

 仲條さんは、テレビ局のキャスターを経て早稲田大学政治経済学部に社会人入学。経済通信社ブルームバーグ在日副代表就任後に米国でMBAを取得し、グーグル執行役員に就任するなど、自らのキャリアを切り開いてきました。巨大動画サイトのかじ取り役、そして家庭での母としての素顔に迫ります。

安全と活気 コミュニティー守る

 YouTubeは、いまや私たちの生活にあるのが当たり前の存在です。

仲條 今年、YouTubeは15歳。動物園の動画から始まり、現在は毎月20億人くらいのログイン済みのユーザーが見に来てくれて、動画を見てくれる方々の1日あたりの視聴時間は10億時間、視聴回数も数十億回に上ります。ここまで成長できたのは、視聴者、クリエーターやアーティストの方々が、私たちが思ってもいないような使い方をしてくださったことが一番の要因です。日本でも2014年に「好きなことで、生きていく」というキャンペーンをして、このあたりから等身大でありのままの、ユーザーに近い動画サービスと認知してもらい始めました。あらゆる人に表現の場所を提供し、その声を世界中に届けること。このミッションを、少しずつですが、実現してきています。

 これから広がっていくのは教育です。みんな、「学びたい」と思うことは多い。YouTubeは何かを学びたいときに訪れる、図書館みたいな存在になってきています。新型コロナで緊急事態宣言を経験して、自宅で学ぼうと思っている人も多い。勉強するというかたちではなく、一緒に何かをしようという動画も結構あるので、そうしたものに「参加」している視聴者の方々もいます。みなさんの知的好奇心をサポートしていきたいと思います。

森雅貴(もり・まさたか) 1995年、滋賀県生まれ。University of Sussex BA International Development 修了。在学中、発展途上国への関わり方を模索するためにアフリカ縦断・横断を実施、また1年間休学し東アフリカ・タンザニアでインターンシップに従事。2018年9月からNPO法人「ミラツク」研究員。地域や発展途上国の社会基盤づくりに興味関心を持ち、市民や行政など様々なステークホルダーが共創価値を生み出すオープンイノベーションやリビングラボについて研究している。

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 私もYouTubeを見ながら料理に挑戦してみました。日常生活で忙しく、わざわざやらなくてもいいことが、資本主義の中でどんどん外部サービス化されてしまっている。そうしたものが、いまコロナの影響で私たちの手に取り戻されている段階ではないかと思います。

仲條 私たちは「四つの自由」と呼んでいますが、表現の自由、情報にアクセスする自由、機会を得る自由、参加する自由。これらを提供することが私たちの存在意義です。そのために大事にしているのは、オープンネスとレスポンシビリティー。これは開かれた場で表現の自由をしっかりとサポートすることと、安全で活気のあるコミュニティーにすることです。この二つのバランスは大切です。

 コミュニティーを守るためにはガイドラインが必要です。私たちは研究者や外部の専門家と協議して、2019年だけで30回以上ガイドラインを更新しています。また、ものすごい量のコンテンツがあるので、人の目だけではなく、グーグルの高度な機械学習の技術と組み合わせて、違反コンテンツに対する措置もしっかりやっていきます。グーグルだけでも、審査に1万人くらい置いています。去年の10月からの3カ月間で約580万件の動画を削除しました。機械学習の精度を高めながら、コミュニティーをしっかり守っていきたい。

 責任、レスポンシビリティー(Responsibility)の部分で言うと、四つのRがあります。違反コンテンツを削除するリムーブ(Remove)、間違った情報の拡散を減らすリデュース(Reduce)、信頼できるコンテンツを見分けやすくするレイズ(Raise)。最後のリウォード(Reward)は、YouTubeを作ってくださっているクリエーターやアーティストの方々に報いていくことです。YouTubeのポリシーを理解してくれているクリエーターとかアーティストにとって使いやすいサービスであるように、みなさんの意見を聞き、形にしていきます。

本当の自分 解き放つ場

塩谷 マスメディアに演出の一部として出るのと比べて、YouTubeは発信者の自由度がまるで違う。文化の天変地異を起こしてしまった感覚があります。

仲條 自由に表現したいという思いは、みなさんの中に、もともとあったものだと思います。等身大の、ありのままの自分。見せびらかすのではなく、自分を知ってほしいという思い。自由に表現するいろんな手法を、みんなでトライしているのは面白いですよね。自由に表現できるプラットフォームとして認知いただいてきたのかと思います。

塩谷 YouTubeって、初めはくだらない笑いをあげている場だと思っていました。でも、ここ数年で、どんどん勉強系、ライフハック系のコンテンツが増えて印象が変わりました。家電の使い方が分からない時は、英語の説明書を読むよりYouTubeで型番を検索した方が早い。ライフラインの手助けになっています。

 学会のような、建設的なディスカッションを担保できるコミュニティーがあったら入りたい。セミナーで発表することはみんなやっていますが、論文や本を書くまでには、どうしてもタイムラグがある。動画で発表したものをYouTubeにあげることができれば、研究結果がタイムリーに利用されて、社会の発展につながるのではないかと思います。

塩谷舞(しおたに・まい) オピニオンメディアmilieu編集長・文筆家。大阪とニューヨークの2拠点生活中。1988年、大阪・千里生まれ。京都市立芸術大学卒業。大学時代にアートマガジンSHAKE ART!を創刊、展覧会のキュレーションやメディア運営を行う。会社員を経て、2015年に独立。

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塩谷 記事を書いて「すごくよかったです」とか「生きる希望になりました」と、うれしいコメントをいただく時もあれば、「このブス」とコメントをいただく時もあります。多くのSNSに手を出してきましたが、YouTubeだけは手が出せない。YouTubeだとありのままを出すことになるので、コメントも怖い。

仲條 よいコミュニティーを一緒に作っていこうと思っている人は多くて、サポーティブな言葉もたくさんある。テクノロジーをオープンに、正しく使い、お互いに学び合いながらやっていくことが大切なのではないかと思います。

 もともとエンタメだったものが、学びへと広がっていったというところが面白い。伝統工芸の職人さんたちの手仕事が消えていく時代に、YouTubeで可能性を残すこともできると思います。

仲條 今回の新型コロナ感染症の影響で、開催が難しいイベントもあります。歌舞伎や宝塚歌劇、文楽はそれぞれYouTubeチャンネルを開設し、コンテンツを通して魅力を発信されています。文化やエンタメの力を信じて活動している人は多い。日本古来の文化を伝えるサポートをすることも、重要だと思っています。

田舎育ち やりたいこと追求

 キャリア形成についてどう考えて、どんな価値観を大事にしていますか。

仲條 キャリア形成という言葉を使ったことがありません。好奇心や、足りないことを追いかけていたら今の自分につながりました。私が育った時代は、女性はキャリアを追い求めるよりも、家にいることが美しいという認識がありました。ただ、やりたいことは目の前にビビッドにあって、それをするためには勉強が必要だと思ってステップを踏んでいきました。

 だけど、自信はなかった。「なんでできないのか」という自分の気持ちと闘って、その気持ちと共に生きていくと決めることが大事です。昨日できなかったけれど、今日できるようになった。そういう経験を積み重ねれば、自分のやりたいことにつながっていきます。

 そのようなマインドは、どこから影響を受けましたか。

仲條 小さい頃、とにかくテレビや情報が大好きでした。自然が豊かなところで育ったので、創造性のある仕事を求めていたんだと思います。(作家の)あさのあつこさんの記事で「田舎には闇がある」という話がありました。まさにそれだなと思いました。暗闇の中って、すべての感覚が研ぎ澄まされる感覚がある。それがあったからこそ、今の仕事につながったのだと思います。

過去の新聞紙面。25歳だった仲條さんが「狭き門」をくぐり抜けた、とある

塩谷 田舎にいると、そこで与えられた役割を全うするのが美しいとされている雰囲気があると思います。なぜ米国に行く決断ができたのでしょうか。

仲條 時代や場所、男女の問題もあり、何か意見を言うと「わがままだ」と言われました。それでも、やりたいことはある。私は父を社会人1年目で亡くしたり、子どもがなかなかできなかったりした経験があり、私たちが生きているのって本当に奇跡だと心から感じています。だからこそ、子どもには人生を思いっきり生きてほしいと思いますし、私もいろんな人からそういうふうに思われていたと思います。「もうダメだ」と思った時に、先輩や友達、家族に希望を持たせてもらえる言葉をかけてもらった。その方々に感謝してやっていこうと思うからこそ、がんばれます。

「ママばかり忙しくていいの?」

塩谷 2人の息子さんの子育てと会社の代表。壁にぶつかってきたと思います。どう乗り越えてきましたか。

仲條 小さい子どもを育てていると、住むところと働く場所、幼稚園や保育園が遠いと、なかなかマネージできません。できる限り近い場所にすることで、具合が悪いときなどは家に連れて帰れるように設計しました。

 私もそうですが、働きすぎたらパフォーマンスにも影響が出てきます。自分の人生のかじ取りは自分でしなければならない。誰かが責任を取ってくれるわけではありません。自分の中で本当にやりたいことは何か、社会に貢献するために何をしたらいいのかを考えながらやっています。迷ったら書き出し、可視化して、散らばっているピースをかき集めて、迷子にならないように整理しています。パラレルにいろんなことをやっていくうちに、活躍できる場に出合えるんだと思います。

 自分に立ち戻るために、具体的にされていることは何ですか。

仲條 家族と過ごすことでしょうか。週末もNGOの会議に出たりするので、公園に行くとか観葉植物を外に出すとか、普通のことしかしていません(笑)。

 一人になる時間はありますか。

仲條 雑音も入ってくるから、頭をクレンズすることは大事です。朝早くカフェに行って頭の中のものを、書き出して整理します。今はカフェには行けないので、ベランダでしています。

 最近、家でも大きなホワイトボードを買って、子どもたちと今日することを書き出して可視化しています。私の家族は、ファミリーミーティングを誰でも招集できるようになっています。小さなユニットの社会を通して、助け合うことの大切さを学び、つらいこともあるという理解にもつながります。子どもたちからは「ママばっかり忙しくていいのか」っていうミーティングの案件もありました。

受け入れる力 自分を柔らかくする力

塩谷 大きい会社に個人として挑むとき、どうすれば自分に納得できる選択をし続けられますか。

仲條 その都度、判断するしかないのではないでしょうか。変えられないことを受け入れる力や、硬くなっている自分を柔らかくする力が大切です。悩んでも時間が過ぎてしまうだけなので、それなら前に進んだほうがいい。

 組織の中に入って大変なこともありますが、頼れるチームがあるかないかで全く違います。つらいときはチームのメンバーに相談して助けてもらっています。それぞれがすばらしい知見を持っているので、彼らに教えてもらって一緒に判断していきます。

塩谷 トップが支配するか、助けを求めていく姿勢なのかで、天国と地獄ですね。

仲條 バランスだと思います。チームは上下関係というよりも、それぞれが良いパートナーであり成長し合えるとチーム全体が成長できるのではないでしょうか。

塩谷 知り合いの映画監督が、チームのことを「兵隊」って呼んで、とてつもないハードワークをこなしています。すごくがんばってはいますが、現代の働き方として、たまっていくものが多すぎるのではないかと思います。逆に、私の友達の企業家で、人に頼る力がものすごくあって、みんなに「あの子のためならがんばりたい」と思ってもらえる子がいます。SOSを出すことや、やりたいことを言ってしまってから、助けを求めることも大事だと思います。男女で分けられるとは思いませんが、男の子は「弱みを見せてはいけない」「強くありなさい」って言われて育つのに対して、女の子は穏やかなチームマネジメントができる部分があるのかな、とも思います。

仲條 人はそれぞれで、いろんな人がいるから面白い。私は子どもたちに、みんなと違っても自分らしいチョイスをしてほしいと思っています。

 私が意識しているのは、チームのメンバーにとって働きやすい環境であること。私のアシスタントには小さいお子さんがいるのですが、その事実を含めてチームです。ここにいる彼女が100%の彼女ではない。働くことと、生活することのバランスをどう取るか。チームで何でも言える心理的安全性が仕事のパフォーマンスも上げます。そのために、すべての人の意見を聞くのを重要視しています。

塩谷 もっと先はこうしていたいとか、まだ改善できていないことはありますか。

仲條 山盛りですね。日々反省だし、挙げたらきりがありません。それを経験として、さらにトライしていかないと前に進むことはできません。

 若いときだからこそやったらいいこと、価値があると思うことはありますか。

仲條 中高生の時にやりたいと思ったことが、その人の本質に近い。ただ、それをちゃんと認識するには、いろんなことを経験しないといけない。いろんな人と会って、いろんな考え方に触れることで、チョイスが広がると思います。

塩谷 2030年の日本はどうなっていると思いますか。

仲條 イノベーション(革新性)やレジリエンス(復元力)がある国になっているのではないかと思います。どの時代にも課題や挑戦はあって、私たちの知見や知識、経験を生かして正しい方向に向かっていけばいいと思います。日本は、新しいものにオープンな社会です。そこに向かってチャレンジしていくべきだと思っています。

情報の海 意志ある選択が未来をひらく
森雅貴さん

 新型コロナウイルス感染症が蔓延(まんえん)し、働き方や暮らし方を見つめ直すこのタイミングでの取材を心から楽しみにしていました。たくさんの学びがあった中で最も印象的だったのは、意志を持ち決断する重要性です。

 多様なコンテンツが増えているYouTubeは、まだ見ぬ世界へとつながる入り口として、私たちの生活の一部になりました。世界中の知見や、まだ見ぬ美しさに触れられるようになった一方で、情報の海にのみ込まれることも少なくありません。情報供給が過剰になり、無限の選択肢が広がっているからこそ、意志を持って決断し選び取ることが、未来へ向かうための一歩になるのではないでしょうか。

 仲條さんの取材はあっという間に時間が過ぎてしまいましたが、人生の節目で読み返す価値のある記事になっていると思います。自分自身の生き方を見つめ直す良い機会で、私も彼女のように強く生きていきたいと改めて思いました。

変幻自在な「YouTube的なもの」
塩谷舞さん

 今回のインタビューで印象的だったのは、とにかくユーザーや投稿者の自由度を守っておられるということ。他のプラットフォーマーの話を聞くとき、「こんな人に使って欲しい」「こうした文化を育てたい」という理想像の話は頻出ですが、仲條さんとお話する限りでは、そうした作り手側によるディレクション欲のようなものを限りなく感じませんでした。制作側が番組構成を作るマスメディアの世界と、投稿者が舵(かじ)を切り、閲覧者の反応を見ながら作っていくYouTubeの世界とでは、同じ「動画」だとしても別の惑星くらい成り立ちが異なります。今私たちが抱いている「YouTube」のイメージは、運営会社側ではなく投稿者側によって形成されたものも多いのでしょう。

 私はYouTubeという自由度の高すぎるプラットフォーム対して、少なからず危険性を感じていました。「YouTube的なもの」にも偏ったイメージを抱いており、静かな文章を好む自分には不向きな場所だという認識でした。ただ、そうしたイメージすら自分たちで更新していける場なのだな、とも思いました。

希望の場へ 寄り添う力で

 DIALOG学生記者の藤崎花美です。今回のお話を通して仲條さんの「人に寄り添う力」を感じました。リーダーという立場にいても、強がらずチームのメンバーに自分ができないことをしっかりと伝え、メンバーの事情もちゃんとくみ取ってサポートする。お互いを支えあう関係は、すべてを包み込む力があるからこそできるのだと思いました。

 SNS上の誹謗中傷も話題に上がりました。インタビュアーの塩谷さんは、自身が投稿する際の心ないコメントが怖く、YouTubeには手を出せないと話していました。ありのままを表現するには、それができる環境が大切です。

 言葉は生きる希望にもなれば、凶器にもなります。だからこそ、一人ひとりが言葉の重みを知って、自分の言葉に責任をもって意見することが当たり前の世の中になってほしいと思います。

 「表現の自由」は大切な権利です。ただ、それを正当化して、人を傷つけてはなりません。仲條さんの「人に寄り添う力」で、YouTubeがさらに素敵な可能性を秘める場になることを願っています。


仲條亮子(なかじょう・あきこ)

 千葉県生まれ。立教女学院短大卒業後、テレビ局勤務を経て、フリーキャスターに。早稲田大に社会人入学し、国際政治を学ぶ。97年にブルームバーグ情報テレビジョン社長。米シカゴ大でMBA取得。2013年からグーグル日本法人執行役員。17年から現職。

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