DIALOG 日本の未来を語ろう :朝日新聞デジタル

ホームレスを救う——行動する少女は29歳になった
川口加奈さん

By 杉山麻子(DIALOG学生記者)
写真:いずれも川口さん提供

 「2030年の未来を考える」をコンセプトとしたプロジェクト、朝日新聞DIALOGでは、社会課題の解決を目指す若きソーシャルイノベーターの活動を継続的に紹介しています。

 今回注目したのは、「ホームレス状態を生み出さない日本の社会構造をつくる」をビジョンに掲げる認定NPO法人「Homedoor」の理事長を務める川口加奈さん(29)。2010年から大阪市北区を拠点にホームレス状態からの脱出をサポートしています。2018年には個室で宿泊もできる相談施設、「アンドセンター」を開設。昨年の新規の相談者は749人でした。立ち上げから10年。世の中が目まぐるしく変わる中で、どんなことを考えているのか、聞いてみました。

炊き出し・就労支援…6チャレンジ

——Homedoorではどのような活動をしているのですか。

 生活困窮状態から脱出するためのサポートを行っています。Homedoorの特徴としては、情報を届けるところから宿泊場所の提供、生活支援、就労支援、再出発のサポートなど、トータルに支援を行っている点です。ホームレス状態からの脱出をサポートする様々なメニューを毎年改善して磨いていきながら、新しい取り組みにチャレンジしています。

■路上脱出のための六つのチャレンジ

1 届ける 夜回り活動で路上生活者に弁当やチラシを届ける。ネットカフェなどへのポスター掲示やWebで情報を届ける。
2 選択肢を広げる 相談に来た人に、路上脱出の選択肢を提示
3 「暮らし」を支える 食料や衣服の提供。健康相談会やイベントの実施
4 「働く」を支える 仕事の提供や一般企業の求人とのマッチング
5 再出発に寄り添う 家を借りることや引っ越しのサポート
6 伝える 講演やワークショップ、ホームレスの人の数量調査
※就労支援として、Homedoorでホームレスだった人を10人ほど雇用しています。5種類の就労支援メニューを用意していて、駐輪場管理、マンション清掃、駐車場清掃、内職、シェアサイクル「HUBchari(ハブチャリ)」で働くことができます。

HUBchariで働くスタッフ

 「HUBchari」は、どこで借りてどこで返してもいいレンタサイクルです。ホームレスの方は、自転車修理の得意な人が多いので始めました。自転車のメンテナンスや貸し出しの仕事をしてもらっています。現在は、大阪市内の230ポート(ドコモ・バイクシェアポート含む)で借りることができます。今はマンションやホテルの下にポートを設置してほしいというご要望をいただけるまでになりましたが、拠点が一つもないときは、自分たちからポートになってほしいと営業しても門前払いがほとんどでした。当時は学生だったのでなかなか信用してもらえず、9年間かけて、ようやくポートが広がってきた感じです。

——ホームレス支援の団体は、他にもあると思いますが、その中で、自分で一からやろうと思ったのはどうしてですか。

 私たちの団体があること自体もひとつの選択肢だと思っているからです。あの団体とは相性が合わなかったけどこっちの団体とは相性が合うとか、この仕事は自分の特技を生かせるとか。団体も働ける場所も多様な方がいいんじゃないかと思っています。

——活動内容が今までにない新しいものだと思いました。アイデアはどうやって出てくるのでしょうか。ホームレスの人との会話で思いつくのか、川口さんの発想なのか、どちらですか?

 両方あると思います。当事者の話をずっと頭の片隅に置いておいて、あるとき結びついて、アイデアが見つかるという感じですね。

——やはり、おっちゃんたちとの会話を大切にしているのですか。

 普段は、事務所で当事者の人たちとわいわいやっているので、そうかもしれません。常に当事者視点を得られているなと感じます。友達のような存在です。

事務所に訪れてくるおっちゃんたちと団らん

「近寄ったらあかん地域」に疑問

——そもそもホームレスの支援を始めた理由は?

 中学生のときに、電車通学で釜ケ崎(大阪市西成区のあいりん地区)という日本で一番ホームレスの人が多いエリアを通っていたのがきっかけ。なぜ多いのか、なぜ周りの人が「あの地域、近寄ったらあかんよ」と言うのか、気になっていました。もともと、「ホームレスの人は怠けている」と思っていたけど、炊き出しのボランティアに参加し、当事者から話を聞くと、決してこの生活を選んでいるわけではないのだとわかりました。当時、大阪で年間約200人が路上死していることを知り、問題を知ったからには活動しようと、中学のときに活動を始めました。その後、もっと根本的に問題を解決したいと思って、19歳のときにHomedoorを立ち上げたんです。

——具体的に、中学高校のときにはどんな活動をしていましたか。

 当時、ホームレスの人への襲撃が多かったので、それを防止したいと思って、同世代にホームレス問題を伝えるということをしていました。学校の先生が襲っちゃだめと言うより、同世代の友達が「ホームレスのおっちゃんたちってこういう人だったよ」って言った方が伝わりやすいかなと。自分にしかできないことを見つけた初めての瞬間でした。自分だからできるし、自分がすべきことだし、それが一致したから、やろうかなと。ほかには、講演活動、炊き出し、釜ケ崎で2泊3日のワークショップなどもしていました。

「Homedoor」に込めた思い

 駅のホームにある転落防止柵のホームドアにちなんで、人生というホームからの最後の砦、転落防止柵でありたいという思いが一つ。加えて、ホームレスの人は物質的なハウスだけでなく、心のよりどころとなるホーム(居場所)もないと言われているので、ホームの扉の役割を果たしたいとの思いを込めている。

72歳が万引き 制度のすき間

——印象に残っているホームレスの人はいますか。

 2018年に始めた宿泊施設「アンドセンター」の設立を決意するきっかけになった人がいます。2015年に、加齢に伴いコミュニケーションをとるのが少し難しい72歳の男性が相談に来ました。事務所でも急にズボンを脱いで着替えだしたり、他の人の食料を勝手に食べたりして、みんなを困らせていました。年金を受給できるようお手伝いしたのですが、受給までに時間がかかるので、しばらくは所持金がほとんどない状態でした。

 あるとき、警察から電話がかかってきました。その人が大阪駅で380円のお弁当を盗んだけど、初犯で金額も大きくないので、身元引き受けをする人がいれば釈放するということでした。人生初めての身元引き受けをすることに決めました。年金が入るまでの2、3カ月は、その人にとって、しんどいものだったのだと思います。でも当時の私たちでは、十分な宿泊場所やしっかりとした食事を提供できる財力はありませんでした。

 行政は施設への入所を勧めますが、その方は集団での生活は厳しくて、生活保護に抵抗もあり、制度のすき間に陥っていたんですね。その件以来、少しでも早く、宿泊場所の提供ができたらと思い準備を始め、今のアンドセンター設立につながりました。これにより、アンドセンターで宿泊してもらうなかで、次どうしていきたいかをゆっくり考えてもらえる時間も提供できるようになりました。

——18室あるアンドセンターは満室が続いているそうですね。今後、増室も考えていますか。

 新型コロナウイルスの影響で相談者は急増しているので、増室は検討中です。ただ、私たちはホームレスの人をゼロにするというよりは、ホームレス状態から脱出したいと思ったときに、Homedoorに来たら困窮状態から脱出できる選択肢を提供したいと思っています。なので、規模を拡大するよりは、支援の精度を高めていきたいと思っています。こうしたらいいんじゃないかという仮説ができたら、ゆくゆくは行政に私たちの磨いてきたチャレンジを政策として提言していきたいですね。

新型コロナウイルスの感染が拡大したため、ホームレスの人にマスクを配布

「自分が路上に…」想像すれば

——Homedoorの活動のなかで自分に合う職種を見つけられるよう、なるべく職種を増やしたり、共同生活ができない人のために個室を用意したり。一人ひとりを大切にしている感じがしました。

 自分がその立場だったらこっちの方がいいよねっていうベターを求めているだけです。大阪市の場合、行政の提供している施設は定員が12人の部屋で共同生活を3~6カ月間過ごします。行政はそこに滞在して、就職活動をしてくださいと言うけど、その住所の人が面接に来たらホームレス状態だと分かってしまうわけですよね。

 もし自分が、家も仕事もなくて途方に暮れていたら、心身ともに疲れ果てているだろうなって思うんですよ。そんなときこそ、1人の時間が必要になると思います。次の人生へのリセットの期間だととらえて、ゆっくりできる時間があった方がベターだよなって思うんです。結局私はホームレス問題の当事者ではないので、当事者じゃないなかでできることは、自分がその立場だったらどうかって考えることだと思います。 

——当事者ではないけど、いつ当事者になってもおかしくないと感じるのですか。

 感じています。コロナのせいで、飲食店を経営していた友人が、借金を抱えてお店を閉めることになっていました。今後もコロナのような想定外の出来事は、誰しもの身に起きる可能性があるということを今回体感した人は多いと思います。

路上で寝泊まり 減る影で

——10年後はどうありたいですか。

 ホームレス問題については、路上で寝ている方は年々減ってきていて、10年後はほぼいなくなっているかもしれません。ただ、ホームレスになる前の段階で、家を追い出され、ネットカフェに行って、ネットカフェ代が尽きてしまってHomedoorに相談にくるというようなケースが増えているので、より早い段階で相談にきてもらえるよう、認知が広まるよう頑張りたいです。

——いまやっている支援を今後も続けていく予定ですか。

 究極の理想は、問題が解決してHomedoorは必要がなくなって解散しているのが一番がいいです。ただ、いつの時代も誰に何が起きるか分からないので、セーフティーネットとしていつでも機能できるように体制は整えておきたいです。

炊き出しに列 現実見えた

  学生記者の杉山麻子です。取材の翌日、東京・池袋で行われている炊き出しに顔を出してみました。ホームレスと関わったことがなく、取材の中で認識が乖離(かいり)しているのではないかと、もどかしさを感じたからです。そこには150人ほどがパンやお弁当を求めて並んでいました。

 一般的に想像するホームレスよりも多かったのは、街で見かけるような格好の人。スーツ姿の人、帽子をかぶりイヤホンを着けた男性、リュックを背負った20代くらいの男性などでした。

 炊き出しを主催していた人に話を聞くと、東京でも路上生活者は減少傾向にあるそうです。若いホームレスのなかには、路上は怖いと思っている人もいます。若いホームレスは、ビジネスホテルやネットカフェ、ビルの見えないところにいるそうです。実態を正確に把握するのは難しいと思いました。 彼らの背景は様々ですが、なかには障害を持っている人もいます。得意不得意のでこぼこが激しく、アルバイトをクビになった人もいるそうです。

 そう考えると、複数の職種を用意して、頼りたいときに頼ったら困窮状態からの脱出をサポートするHomedoorは、見えないホームレスが増加しているなかで、最も必要で、当事者にそっと寄り添う団体だと思いました。


川口加奈(かわぐち・かな)

 1991年、大阪府生まれ。大阪市立大学卒業。認定NPO法人Homedoor(ホームドア)理事長。14歳でホームレス問題に出合い、19歳でHomedoorを設立。シェアサイクル事業の「HUBchari」などを通じてホームレスの人々や生活保護受給者らに就労支援を行う。世界経済フォーラム(ダボス会議)のGlobal Shapers、青年版国民栄誉賞とされる日本青年会議所主催の「第31回 人間力大賞」グランプリなどに選出。

関連記事

pagetop