MISSION : 宇宙ゴミを除去せよ ベンチャー×老舗メーカー連続セッション第2回 便利さの影 増え続ける衛星:朝日新聞DIALOG
2020/07/13

MISSION : 宇宙ゴミを除去せよ ベンチャー×老舗メーカー
連続セッション第2回 便利さの影 増え続ける衛星

By 大谷津元(DIALOG学生記者)
大沢二朗さん(左)と、岡田光信さん=石黒シエル撮影

 宇宙ビジネスが進化すると、どのような社会を生み出していくのか。朝日新聞DIALOGでは、トップランナーをゲストに迎えて連続セッション「宇宙ビジネス解剖」を開催しています。第2弾は昨年11月22日に開催され、総合切削工具メーカーとして宇宙産業ともつながるオーエスジー株式会社の常務執行役員・大沢二朗さん(50)と、スペースデブリ(宇宙ゴミ)の除去ビジネスを展開する株式会社アストロスケールの創業者兼CEO・岡田光信さんが登場しました。

【宇宙ビジネス解剖】新事業を開拓 日本の底力

「宇宙が危うい」 創業80年企業の挑戦

 「なぜ我々が宇宙ビジネスに関わったのか、すごく不思議に思いませんか?」。大沢二朗さんが問いかけます。大沢さんが常務を務めるオーエスジーは、工作機械などの製造・販売を手がけます。創業80年。戦前から日本のものづくり産業を支えてきた老舗メーカーが、最先端の宇宙ビジネスに関わるようになったきっかけは、ものづくり産業で進んでいる「パラダイムシフト」でした。

 いままで常識だった考え方が劇的に転換することを意味するパラダイムシフト。例えば、スマートフォンは本来の電話としての機能だけでなく、車のナビゲーションシステムやパソコンを代替する情報端末へと役割を広げました。自動車の分野でもEV(電気自動車)の登場により、「ガソリンとエンジンで動く」という車の概念が変わりつつあります。大沢さんの会社も、こうした潮流に対応するため、新しいビジネスを開拓する必要がありました。

 大沢さんは2015年にアストロスケールの岡田さんと出会い、スペースデブリの現状を知ります。岡田さんから「このままだと宇宙が利用できなくなります」と告げられ、衝撃を受けたそうです。そして、同じ年に国連でSDGs(持続可能な開発目標)が採択されたこともあり、デブリの除去が社会貢献としても魅力的な事業になると確信。アストロスケールが手がけるスペースデブリ観測衛星のスポンサーになることを決意します。2017年に打ち上げられた「IDEA OSG1」は、企業名が付いた世界最初の人工衛星となりました。

 岡田さんが宇宙に魅せられたのは15歳のときだそうです。NASA(アメリカ航空宇宙局)のスペースキャンプを訪れ、宇宙飛行士の毛利衛さんに会いました。毛利さんは「宇宙は君たちの活躍するところ」との自筆メッセージと「宇宙飛行士という職業はない。何か専門分野を見つけなさい」とのアドバイスをくれたそうです。その後、岡田さんは東大農学部を卒業して大蔵省(現・財務省)に入り、IT企業などを経て40歳を目前にアストロスケールを設立しました。

 「宇宙には10センチ以上の物体が実に2万3000個以上飛んでいます。ですが、稼働している人工衛星はわずか2000機。それ以外はすべてスペースデブリです」と岡田さんは話します。デブリは主に三つの物体から構成されています。役目を終えた人工衛星、ロケットの上段、さらにそれらが劣化したり衝突したりしたことで生まれた破片です。それらが、地球の周りをあらゆる方向へ1日16周しているのです。「稼働中の人工衛星と衝突し、爆発を引き起こすことも多くなりました。放置しておけば、いずれ宇宙は使えなくなってしまいます」

 困るのは地上にいる私たちです。車・船・飛行機の交通管制は人工衛星からの情報を頼りにしているからです。コンピューターシステムに欠かせない時刻(タイムスタンプ)も、人工衛星からの情報をもとにしています。気象情報や災害情報も、人工衛星がなければ知ることができません。「もし宇宙が使えなくなったら、私たちの日常生活そのものが成り立たなくなってしまうのです」

各国から民間衛星 回収進まず

 デブリが増え続ける理由は三つあります。一つ目は宇宙開発に参加する国が増えていることです。現在、宇宙にある物体の9割以上はロシア、アメリカ、中国から打ち上げられたものですが、近年はインドなど他の国々も宇宙開発へと参加するようになりました。二つ目は、民間ビジネスの急増です。岡田さんによると5年前、日本に宇宙ベンチャーは2、3社しかなかったのが、いまは40社規模に拡大したといいます。また、世界の宇宙ベンチャー企業数は約3000社に達しているそうです。三つ目は「衛星コンステレーション」というシステムの普及です。1機の人工衛星で特定の地点の衛星写真を1日2回撮ることが主流だった時代から、今は数百機もの衛星をネットワーク化し、いつでもどこでも地球のあらゆる場所をカバーするようになりました。

 岡田さんはデブリ問題を2013年の初めごろに知り、ドイツで開催された会議を見学しに行きました。3日間、すべてのプレゼンテーションを聞いた岡田さんは愕然(がくぜん)とします。どれも「シミュレーション」「リサーチ」「コンセプト」だけで、肝心の「アクション」がありませんでした。「プラン」がある場合も、5年単位で語られていました。週単位で物事が動くIT業界に身を置いていた岡田さんは、なぜその人たちがそんな時間軸で話しているのかが理解できませんでした。「最先端でかっこいいと思っていた宇宙が、実はかっこ悪いやり方をしていた。じゃあ、自分でやろうと思ったんです」

 最初に考えたのは「宇宙のロードサービス」でした。高速道路などで、故障車や事故車を他の車と衝突しないよう速やかにレッカー移動させるあのサービスです。「社会にはそのためのレッカー技術があり、道交法というルールがあり、JAF(日本自動車連盟)や保険というビジネスがあります。宇宙にこれを当てはめると、混雑している人工衛星の軌道が、ハイウェーです。あとは技術とルールとビジネスモデルを作ればいい」

見つけ・捕らえ・落とす ゼロから開発

 そんな岡田さんのアイデアに対し、宇宙業界の当初の反応は冷ややかでした。「市場がない」「技術がない」「法制度が整っていない」「民間がやることではない」。ネガティブなことばかり言われたそうです。ですが、岡田さんはそれらをポジティブに受け止めました。一つの案件を50社ぐらいで取り合うIT業界に比べ、スペースデブリは、課題が明確なのに競合他社がいない絶好の市場だと感じました。当時住んでいたシンガポールで会社の登記を行い、アストロスケールがスタートしました。現在、資本金は153億円。世界4カ所のオフィスと100人のメンバーを抱えています。

 オーエスジーがスポンサーになったデブリ観測衛星「IDEA OSG 1」は、地上から測定できない細かいデブリの密度を調べる衛星です。こうした取り組みは過去に例がなく、デブリに特化した世界初の衛星と期待が集まりました。ところが、ロシアのロケット「ソユーズ」を使った2017年11月28日の打ち上げは人的ミスから失敗し、衛星そのものを失うアクシデントに見舞われました。一時は失意に沈んだ岡田さんですが、デブリ除去へのニーズはなくなるどころか高まるばかり。歯を食いしばり新たな衛星を作り続けました。

 デブリを回収するうえでもっとも難しいのは、太陽などの様々な光が混じり合う環境でデブリを見つけ、対象物と相対速度をゼロにしたうえで捕獲する技術です。アストロスケールは高速で移動しながら回転しているデブリを捕まえ、大気圏に落とし、燃焼させる技術をゼロから作り上げました。現在「ELSA-d」と呼ばれるデブリ除去実証衛星が、JAXA(宇宙航空研究開発機構)で試験を受けています。今年、ようやく世界初のデブリ除去が始まる予定です。

子どもたちのため「我々の世代で解決を」

 岡田さんはよく「どうやってもうけるの?」と聞かれるそうです。ビジネスでのターゲットは“今後出るごみ"と“既存のごみ"の2種類に分かれます。“今後出るごみ"は、人工衛星を打ち上げる会社が責任をもつ必要があります。宇宙空間で壊れた場合、代替機を送るとともに、デブリとなった機体を回収しなければなりません。放置すると、代替機や他の人工衛星を破壊する原因になるからです。こうした需要に対するサービスが「EOL(End of Life)」で、主に50~500キロの重量の物体が対象となります。

 “既存のゴミ"は、国家プロジェクトに関わるものです。2年ほど前から各国政府が本格的にデブリ除去に取り組み始めました。これらを請け負うサービスが「ADR(Active Debris Removal)」です。扱うのは500キロ以上、数トン単位の物体。アストロスケールは「EOL」を2023年から、「ADR」を2025年からスタートさせようと考えているそうです。現在、新たに「ADR」に適した小型人工衛星の開発を進めています。

 岡田さんは宇宙のルール作りの場にも呼ばれています。例えば、国連に2年連続で招かれ、基調講演もしました。温暖化のような地球環境問題はどこまでが人間のせいで、どこからが自然のせいか分かりません。しかし、宇宙環境問題は100%人間のせいだと言います。22世紀を生きる次世代の子どもたちに対して「宇宙はもう使えないんだよ」とは言えません。「だからこそ、我々の 世代でスペースデブリの問題を解決していかなければならないのです」。言葉に熱がこもりました。

「30代までインプット」「悠々として急ぐ」
2人から 次の世代へメッセージ

 後半は、約40人の参加者から寄せられた質問をもとに、DIALOGメンバーの間宮秀人さん(早稲田大4年)がファシリテーターとなり、岡田さんと大沢さんに質問しました。

——スペースデブリをなくすことは可能でしょうか。

岡田 全部なくすのは無理です。今あるデブリに優先順位をつけ、混雑の激しいところにある大きなものから順に除去していくしかありません。1000個ぐらい除去すれば、宇宙はだいぶ安定すると思います。ただし、早くやらないと、大きなデブリが細かくなってしまう。もちろん、今後はデブリを生み出さないことも重要です。

——どうしたら、岡田さんのような柔軟な発想ができるようになりますか。

岡田 僕も40歳前まで「何をしたいか」悩んでいました。自信がなくオタオタしていた。やりたいことを探していたら、スペースデブリに出合った感じです。世界の偉人を見ても、40代からという人は多い。例えば、進化論を提唱したダーウィンは、20~30代の頃は航海に出たり動植物をスケッチしたりしていました。そうした経験から進化という概念を見いだし、40代で自然淘汰説を考え始め、50歳で「種の起源」という本を完成させた。つまり、20~30代はインプットする期間だということです。40代までに何かが身についている可能性は十分あります。焦る必要はありません。

——大学生的目線では、つい、「早くでかいことやらなきゃ」と思ってしまうのですが。

大沢 焦ってはダメです。「悠々として急ぐ」が大事です。私も岡田さんも、とにかく「現地、現物、現場主義」。何か知りたかったら、まずはそこに行き、起きている事象や本物を自分の目で確かめて判断する。それを積み重ねていくと、やりたいことは見えてくるものです。

——最近の大学では、文系よりも理系が人気のようです。両者にはどのような違いがあるのでしょうか?

岡田 「文系」「理系」と区別している場合ではありません。誰もが技術にコミットしないと。法律の条文が毎日増えることはありませんが、理系の世界は新しいことが日々、無限に生まれている。これからの時代は、「文系なので技術は分かりません」では通用しません。とにかく学び続ける必要があります。ただ、物事の本質は、文学を読んでいる時に浮かびやすい気がします。

——岡田さん、大沢さんそれぞれの今後の目標は何ですか。

岡田 会社を設立した2013年には、7年後の2020年までに技術、ビジネス、レギュレーション(ルール)に関わる問題を解決しようと決めていました。さらに7年後の2027年までにデブリ除去を日常的なものにしたいと思っています。

大沢 宇宙利用はどんどん当たり前になっていくと考えています。私の子どもたちが、デブリにぶつかることなく、安全に宇宙へ出かけられる環境を整備したい。最初に手がけたのが、私たち「スペース・スウィーパーズ(宇宙の掃除屋たち)」だった、というふうにできればいいなと思っています。


大沢二朗(おおさわ・じろう)

 オーエスジー株式会社常務執行役員。1969年、米イリノイ州生まれ。Cornell University Master of Mechanical Engineering修了。1994年、同社に入り、技術部商品開発室室長、デザインセンター開発グループリーダーなどを経て2006年から執行役員。米国法人会長、常務取締役・デザインセンター長兼米州担当などを歴任。

岡田光信(おかだ・みつのぶ)

 株式会社アストロスケール創業者兼CEO。1973年、神戸市生まれ。東京大学農学部卒。米パデュー大学クラナートMBA修了。大蔵省(現・財務省)主計局、マッキンゼー・アンド・カンパニー、IT企業等を経て2013年5月にアストロスケールを創業。英国王立航空協会フェロー。国際宇宙連盟委員。世界経済フォーラム宇宙評議会委員。

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