「陸の豊かさも守る」 みんなを動かす言葉を僕らが考えた慶応義塾中等部で出張授業SDGs169ターゲットアイコン日本版制作プロジェクト:朝日新聞DIALOG

「陸の豊かさも守る」 みんなを動かす言葉を僕らが考えた
慶応義塾中等部で出張授業
SDGs169ターゲットアイコン日本版制作プロジェクト

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ゴール15のターゲットのコピーに取り組んだ慶応義塾中等部の生徒たちと足立先生(左)、住友林業・田上さん(左から2人目)、慶応義塾大学大学院の蟹江教授(右から2人目)、中村先生(右)

 国連が掲げる「持続可能な開発目標(SDGs)」は、2030年を見据えています。その頃に社会の主要な担い手となる世代に、早くからSDGsを「自分ごと」として認識してほしい——。そんな期待を込めた取り組みが始まりました。SDGsの17のゴール(目標)達成に必要な具体的な行動を示す169のターゲットを、わかりやすい日本語のコピーにするプロジェクトで、全国の子どもや学生たちから、コピー案を募集しています。

 プロジェクトを主催する「SDGs169ターゲットアイコン日本版制作委員会」はこのほど、日本語コピーづくりに向けた初めての出張授業を、東京都港区の慶応義塾中等部で実施しました。6月中旬から3回にわたり、選択授業「SDGsのすゝめ」を履修する3年生の男子生徒11人が、ゴール15「陸の豊かさも守ろう」にひもづくターゲットのコピーを制作しました。7月7日に行われた最終授業の様子をお伝えします。

対面授業・オンライン 動画も活用

 SDGsのゴール15「陸の豊かさも守ろう」には、15.1から15.cまで、計12のターゲットがあります。原文は英語です。外務省などによる日本語の仮訳はありますが、若い世代がより身近に感じられ、具体的な行動を起こしたくなるコピーを考えることが、この授業の目的です。生徒たちは、外務省などの仮訳や、各ターゲットのアイコンにつく英文のコピーやイラストを参考に、日本語コピーの制作に取り組みました。

 6月23日の授業では、慶応義塾大学大学院教授でSDGsについて教えている蟹江憲史さん(国際政治学)が、17のゴールの狙いや背景、それぞれのゴールが互いに結びついていることなどを対面授業で説明しました。6月30日の授業はオンラインで実施。一人ひとりの生徒が自宅学習で取り組んだ、ターゲット15.1から15.4までの日本語コピーを発表しました。

6月30日の授業で生徒たちが発表したコピーの一覧
(上段がコピー、下段はその言葉を選んだ理由など)
15.1 森や川にすむ生き物を守ろう
→「淡水」という言葉に注目。森だけでなく、水や川にも着目した。
15.2 昔の緑を取り戻し、いつまでも続く森をつくろう
→できるだけ簡単な言葉に。リズムの良さを意識。
15.3 黒色の土地を緑色にぬり替えよう
→ターゲットアイコンのイラストを見ると、木の色が変わっていた。色の変化を盛り込んで、インパクトのあるコピーにしたいと考えた。
15.4 山の自然と生物を守ろう
→「生態系」という言葉をシンプルにした。

 その後、生徒たちはゴール15への理解を深め、コピーライティングのコツを学ぶべく、①蟹江さん②SDGsの公式日本版アイコンを制作した、博報堂のクリエイティブディレクター・井口雄大さん③プロジェクトの協賛社で、住友林業の資源環境事業本部山林部・田上誠さんによるミニ講義の動画を視聴。残り八つのターゲットのコピーづくりの宿題に取り組みました。

生徒たちは自ら考えたコピーを紹介しあい、よりよい表現について意見をかわした

 7月7日は、学校内での「3密」を避けるため、あらかじめ出席番号で割り振られた生徒5人が登校し、6人はオンラインで授業に参加。登校組、オンライン組ともにそれぞれ2グループに分かれ、各自が考えたコピーを披露しながら、グループとして一つのコピーにまとめ上げる話し合いをしました。蟹江さん、慶応中等部で社会科を担当する足立朋之先生、理科担当の中村宜之先生のほか、住友林業の田上さんや、同社サステナビリティ推進室の飯塚優子さんらも、ファシリテーターとして参加しました。

 各ターゲットの原文は、中学3年生で習う単語や文法の範囲を大きく超えています。たとえば15.bの英文コピーは「Finance and incentivize sustainable forest management」です。「incentivize」(~への動機づけをする)をはじめ、大人にも難しい単語が並んでいます。それでも生徒たちは、こんなコピーを考えてきました。

「お金で綺麗な森を維持しろ」
「コインを綺麗な森に変えろ」
「コインで森を維持してみよう」
「全世界に豊かな自然を持続させる資金を」
「自然を持ち続けるためのお金を世界のみんなに」
「自然を守るためのお金をみんなが持てるようにしよう」
「資金を提供して世界の緑を増やそう」
「世界の森林の復元に協力しよう」
「発展途上国の森林を守ろう」

 足立先生は「ちょっと難しい言葉が多いかなあ」とコメントしました。SDGsのモットーは、「誰一人取り残さない」です。日本語コピーも、誰にでも分かりやすい表現であることが求められます。生徒たちは「どんな言葉で言い換えられるか」「どんな表現にすれば、多くの人に自分ごととして考えてもらえるか」をあれこれ考え、話し合った末に、「未来にも豊かな緑を保ち続けられる資金を」というコピーにすることに決めました。子どもにも分かりやすいように、「自然」を「緑」に、「持続」は「保ち続ける」に、表現を改めたのです。

森林資源の循環などについて講演した住友林業・田上さん(左) 学校林について解説する足立先生(右)

エイリアン あえて原文のまま

 ターゲット15.8を担当したグループは、「Prevent invasive alien species on land and in water ecosystems」という英文コピーと悪戦苦闘。「alien species」(外来種)という硬い言葉をどうするか、悩みました。蟹江さんのアドバイスは「みんな真面目に考えすぎている。もっと楽しく考えていいんだよ」。話し合った結果、インパクトを出すために、あえて原文の「alien」という言葉を残し、「エイリアンから自然と生物を守ろう」に決まりました。

 この後、グループごとに自分たちのコピーを発表しました。ターゲット15.aに取り組んだグループは、「Increase financial resources to conserve and sustainably use ecosystems and biodiversity」を「緑のために」と表現しました。「5歳児にも分かるように」と考えたそうです。別のグループは、ターゲット15.7の英語の原文「Take urgent action to end poaching and trafficking of protected species of flora and fauna, and address both demand and supply of illegal wildlife products」を「絶滅危惧種の密猟・売買をなくそう」と訳しました。絶滅危惧種の密猟・密売は、大人が好む皮革製品に使われることが多いため、「中学生以上に分かってもらえればいい」と、あえて「絶滅危惧種」という用語を使いました。それぞれのコピーに込められた生徒たちの熟慮に、大人たちからは感嘆の声が上がりました。

7日の授業で生徒たちが発表した、ゴール15にひもづくターゲットのコピー
(上段がコピー、下段がこの言葉を選んだ理由など)
15.5 地球上の生き物を回復させよう
→「守ろう」ではなく「回復させよう」に言い換えた。
15.6 DNAからわかる大切な情報を世界で平等に共有しよう
→「遺伝資源」を「DNA」に。原文から「平等」という言葉を入れた。
15.7 絶滅危惧種の密猟・売買をなくそう
→中学生以上の人に特に分かってもらいたい。
15.8 エイリアンから自然と生物を守ろう
→原文の「エイリアン」という言葉を残してインパクトを出した。
15.9 国で自然と生物のことを考えよう
→国や政府という大きな単位で、生物について考えることが大切だから。
15.a 緑のためにお金を使おう
→5歳児にも分かるようなコピーを意識した。
15.b 未来にも豊かな緑を保ち続ける資金を
→分かりやすい表現を心がけた。
15.c 世界全体でサポートしあって動物たちを守ろう
→「グローバル」を「世界全体」に変換。15.7とは違う表現にした。

森と街の循環促す アイデア次々

 授業後半には、ゴール15「陸の豊かさも守ろう」にちなんで、住友林業の田上さんが「森の循環」と「森林資源の活用」をテーマに講演しました。田上さんは、森林が放置されると土砂災害の原因になると指摘し、森林にはCO2を吸収し酸素を供給する、水源を涵養(かんよう)するなどの公益的な機能があることを説明しました。また、木材を建築資材や木質燃料などに活用していくことで、森林の循環を促し、都市と地方の経済の循環をつくる必要性についても語りました。

 その後は、足立先生と中村先生が「慶應義塾の森」について解説しました。実は慶応義塾は学校法人として、東は宮城県南三陸町から西は岡山県真庭市まで、約160ヘクタールの学校林(分収林を含む)を所有しており、課外活動や研修の場として活用し、生徒のSDGsへの興味・関心を育む取り組みを続けています。先生方の学校林と環境教育への思いを聞いた生徒たちは、持続可能な森と街をつくるための学校林の活用方法についてアイデアを出し合いました。「災害が起きた地域に、復興用の資材として学校林の木材を送ったらいいんじゃないか」「小さい時から森林を身近に感じられるように、学校の校舎に木材を使ってはどうか」など、様々なアイデアが出ました。

 最後に、蟹江さんが生徒たちに語りかけました。「SDGsのターゲットは、世の中の様々な現場の課題を短くまとめたものです。日本語のコピーを考えるには、ターゲットの言葉の裏にある問題を、現場に立ち戻って考えることが大事です。今回はゴール15にフォーカスしましたが、他のターゲットについてもぜひ、その背後にある世界を考えてください」

 「SDGs169ターゲットアイコン日本版制作委員会」は引き続き、プロジェクトのサポート企業(住友林業、大和証券グループ、フラグスポート、ライオン)とともに、各地の学校で出張授業を実施します。コピーは11月末まで、こちらで募集しています。

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