DIALOG 日本の未来を語ろう :朝日新聞デジタル
2020/10/24

未来をひらく「おカネの流れ」 私たちにできること
青山学院中等部で出張授業
SDGs169ターゲットアイコン日本版制作プロジェクト

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SDGs169ターゲットのコピー制作に取り組んだ、青山学院中等部の3年生の生徒たちと三好文子先生(前列左端)、大和証券グループ本社・川那部留理子さん(前列右から4人目)
※この授業はマスク着用などの感染症対策を講じた上で実施されました。集合写真の撮影時のみマスクを外しています。

 国連が掲げる「持続可能な開発目標(SDGs)」は、2030年を見据えた取り組みです。10年後の社会の担い手となる世代に、早くからSDGsを「自分ごと」として認識してほしい——。そんな願いを込めて、SDGsの17の目標達成に必要な行動を示す169のターゲットを、わかりやすい日本語のコピーにするプロジェクトが始まっています。全国の子どもや学生たちから、コピー案を募集しています。

 プロジェクトを主催する「SDGs169ターゲットアイコン日本版制作委員会」は、日本語コピーづくりに向けた出張授業を、各地の学校で開いています。9月は、東京都渋谷区の青山学院中等部で2週にわたって実施し、選択授業「ソーシャルイノベーション入門」を履修する3年生 23人が日本語コピーを制作しました。

すべての人にワクチンを 日本語コピーに

 今回のテーマは「未来をより良くするおカネの流れについて考えよう」。日本語コピーを作りながら、SDGsの目標を達成するためには資金の流れが重要であることを学びます。

 生徒たちは初回の授業に向けて、ゴール3「すべての人に健康と福祉を」にひもづくターゲットの8番目「全ての人々に対する財政リスクからの保護、質の高い基礎的な保健サービスへのアクセス及び安全で効果的かつ質が高く安価な必須医薬品とワクチンへのアクセスを含む、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を達成する」(外務省などの仮訳)について調べ、日本語コピーを考えました。

■ターゲット3.8の原文
Achieve universal health coverage, including financial risk protection, access to quality essential health-care services and access to safe, effective, quality and affordable essential medicines and vaccines for all.

 課題に取り組むにあたり、次の3氏によるミニ動画も視聴しました。①SDGsを専門とする蟹江憲史・慶應義塾大学大学院教授②SDGsの公式日本版アイコンを制作した、博報堂の井口雄大クリエイティブディレクター③日本版制作プロジェクトに協賛する大和証券グループ本社の川那部留理子SDGs推進室長。動画でターゲットへの理解を深め、コピーライティングのコツを学んだうえで、各自が日本語コピーを考えて初回の授業に臨みました。

 9月16日の1回目の授業では、4つの班に分かれて各自が考えてきたコピー案を披露。班として一つのコピーにまとめる話し合いをしました。授業を担当する社会科の三好文子先生や英語科のネイティブの先生、大和証券グループ本社の川那部さんらもサポートしました。

accessは「手軽に」 universalは「誰もが」

 2班は、「誰もが健康を保障される世界へ」というコピーにまとめました。事前に調べた結果、開発途上国では、医療保険制度があっても自己負担率が高く、貧困層が十分な医療サービスを受けられないことが分かりました。そこで、「健康に生きる権利が保障される世界へ」という意味を込め、また、原文の「universal」という単語を「誰もが」という表現で強調しました。

 3班は話し合いの結果、「空気のように広がる健康」というコピーを考えました。「空気のように」という言葉で、どの年代にも「手軽に、安く」、医療が普及していくイメージを「広がる」と表現しています。

 4班は英語科のネイティブの先生から、「原文のaccessという単語が持つ意味をよく考えてみよう」と、アドバイスを受けました。「世界から見れば日本は医療水準が高いとされているけれど、日本国内でも地域によっては医療格差がある」ことに気づき、「だれでも手軽に健康を保てる環境へ」というコピーに決めました。

 1班は議論が白熱し、時間切れに。「健康にかかるお金」を強調することで、課題の深刻さがより多くの人に伝わるのではないか、と話し合いました。医療へのアクセスは開発途上国だけの問題ではなく、アメリカでも、国民皆保険制度がないために医療費を払えない人が大勢いるからです。

SDGs債について解説する川那部さん

途上国を救う 日本で最初にワクチン債

 後半では、「未来をより良くするおカネの流れについて考えよう」というテーマで、大和証券グループ本社の川那部さんが授業を行いました。開発途上国で2030年までにSDGsを達成するには、日本の年間国家予算の数倍にあたる、年間約7兆ドル(最大)が必要という試算があるそうです。その資金を集めるために証券会社が販売するのが、SDGs債です。環境問題を解決するための「グリーンボンド」、福祉や健康などの社会課題の解決を目指す「ソーシャルボンド」など、さまざまな種類があります。

 投資家がSDGs債を購入し、集まった資金で企業や団体が社会課題を解決する。その結果、社会が安定したり経済が発展したりし、そこで得られた利益が上乗せされて投資家に戻る。そして再度、SDGs債を購入してもらう。そんな資金の循環が必要だと川那部さんは語りました。

 大和証券は2008年、日本で最初に「ワクチン債」の販売を始めています。かつて、開発途上国でのワクチン接種を広げていくには寄付金に頼るしかありませんでしたが、このワクチン債で投資家から多額の資金を集めることで、ワクチンの早期接種が実現しました。投資家への返済は、各国政府が10年以上の単位での支払いを約束している寄付金を充てています。

大和証券グループ提供

ジェンダーギャップ・安全な水・エネルギーも

 9月23日の2回目の授業では、班ごとに異なる4つのターゲットのコピー制作に取り組みました。

ターゲット3.3 2030年までに、エイズ、結核、マラリア及び顧みられない熱帯病といった伝染病を根絶するとともに肝炎、水系感染症及びその他の感染症に対処する。
ターゲット5.5 政治、経済、公共分野でのあらゆるレベルでの意思決定において、完全かつ効果的な女性の参画及び平等なリーダーシップの機会を確保する。
ターゲット6.1 2030年までに、全ての人々の、安全で安価な飲料水の普遍的かつ衡平なアクセスを達成する。
ターゲット7.2 2030年までに、世界のエネルギーミックスにおける再生可能エネルギーの割合を大幅に拡大させる。

 ターゲット5.5を担当した3班を例に、生徒たちの活動を追ってみましょう。

ターゲット5.5の原文
Ensure women’s full and effective participation and equal opportunities for leadership at all levels of decision-making in political, economic and public life.

これは、ゴール5「ジェンダー平等を実現しよう」にひもづくものです。生徒たちは、日本のジェンダーギャップに注目しました。世界経済フォーラムが発表した「ジェンダーギャップ指数2020」で、日本は153カ国中、121位。国会議員(衆議院)の女性比率が1割にとどまり、管理職に占める女性の割合も15%と、世界全体の半分に満たず、先進7カ国中最下位である実態が浮かび上がりました。

 背景を学んだ生徒たちは次に、外務省などの仮訳にある「リーダーシップの機会」という言葉をどう表現すれば興味を引くことができるのか、知恵を絞りました。「リーダーシップ」は「自分の意見を発すること」、「機会」は「未来を描ける」という表現にし、さらにジェンダーの多様性を考慮して、「性別を問わず」という表現を考えました。こうして、ターゲット5.5のコピーは「性別を問わず、未来を描ける世界へ!」に決まりました。

 他の班のコピーは下記の通りです。

1班(ターゲット7.2)
原発は危険 化石燃料は有限 クリーンエネルギーは無限
2030年までに再生可能エネルギーの比率を大幅に上げよう
原文:By 2030, increase substantially the share of renewable energy in the global energy mix.
 この班は2つのコピーを考えました。1つ目のコピーは韻を踏んでいるのが特徴です。2つ目には具体的な年限を入れて、再生可能エネルギーを率先して使うべきだという思いを込めました。

2班(ターゲット6.1)
誰もが安全な水を手軽に得られる世界へ
原文:By 2030, achieve universal and equitable access to safe and affordable drinking water for all.
 世界には、水道施設がなく、水くみのために何時間も歩く人、汚染された水を使わざるを得ない人がいることから、世界の人が安全な水をいつでも飲めるようにしたい、という願いを込めて「手軽に」という言葉で表現しました。

4班(ターゲット3.3)
防げる感染症とたたかう
原文:By 2030, end the epidemics of AIDS, tuberculosis, malaria and neglected tropical diseases and combat hepatitis, water-borne diseases and other communicable diseases.
「防げる」には「防げるはずの感染症が防げていない」現状への課題意識を、「たたかう」には「医療関係者を派遣し、ワクチンが開発途上国の人に届くように」という思いを込めました。

私たちが考えた こんなSDGs債!

 後半は、自分たちで作りたいSDGs債を考えるグループワークを実施しました。普段の生活ではなじみの薄い「債券」に戸惑いつつも、大和証券グループの社員のアドバイスを受けながら、アイデアを出し合いました。

 ゴール3「すべての人に健康と福祉を」に着目した4班は、「先進国と開発途上国が協力 して医療従事者を増やす」SDGs債を考案しました。①医療従事者への教育②既存の医療従事者の技術向上、という2点に寄与する債券です。

 1班はゴール7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」を取り上げ、島国の日本に他国から再生可能エネルギーを送るシステムに資金を使うSDGs債を考えました。

 ゴール1「貧困をなくそう」のために貧困層を支援する債券を考えた2班は、ディスカッションの中であることに気づきました。貧困は、ほかのゴール、例えば、飢餓(ゴール2)や健康(ゴール3)、教育(ゴール4)、安全な水(ゴール6)、そして不平等(ゴール10)とつながっていることです。

 生徒たちの発表を聞いた大和証券グループ本社の川那部さんも、次のように指摘しました。「SDGsには17の目標があり、相互につながっています。一つの社会課題を解決することは、別の課題も解決していくことにつながります」

生徒の感想は——
・事前に調べて考え、ディスカッションすることで、SDGsをより深く、自分ごととして考えることができた(石黒百合子さん)
・世界には必要最低限のものでさえ足りない人がたくさんいる。その人たちに必要なものを届けることがどれほど難しいか、改めて感じました(小池健心さん)
・SDGs債は長期的に見れば先進国の人々にもメリットとして返ってくる(柴幸太郎さん)
・幼い頃から「あいうえお」と同じくらいに当たり前なこととして、SDGsに触れられる環境が必要だと感じました(新井理紗子さん)
・SDGsは国単位でないとできないと思っていたが、個人単位でも始められると分かった。小さなことから行動を起こしていきたい(高村光佑さん)

左から石黒さん、小池さん、柴さん、新井さん、高村さん

 青山学院中等部では学年・教科を問わず様々な場面でSDGsについて学ぶ機会をつくっています。

 担当の三好先生は「原文を単に訳すのではなく、ターゲットの背景や世界の現状を理解した上でメッセージをこめたキャッチコピーをつくる、という課題は難しかったですが、生徒たちは真正面から取り組んだからこそ多くの気づきを得られたと思います。授業を通して、SDGsについての理解を深めることもできました。この2回の授業で終わり、ではなく、今回得たことや新たな問いを今後の学びにつなげていきたいと思います」と、期待を語りました。

難しいテーマに挑んだ“後輩”たち

 この記事を担当した学生記者の森松彩花です。実は、私は青山学院中等部出身で、7年前の自分を思い返し、懐かしさを感じながら取材に臨みました。今回は「債券(SDGs債)」という中学生にはなじみのないテーマでしたが、臆することなく意欲的に課題に挑む後輩たちの姿が印象的でした。

 今回の取材で、想像よりも多くのSDGs債が発行されていることを知り、驚きました。私は来年4月から社会人になるので、自分のお金を社会貢献のために使うためのひとつの手段としての「SDGs債」を覚えておきたいと思います。三好先生が話されたように、SDGsは掘れば掘るほど本当に奥深く、「この奥深さをどうやって周りに伝えていくか」を、私たち一人ひとりが考えていかなければならないと改めて思いました。

 「SDGs169ターゲットアイコン日本版制作委員会」は、全国の子どもたちから169ターゲットの日本語コピーを募集しています。学校単位でも、個人単位でも応募できます。締め切りは11月末。こちらからご応募ください。

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