女性たち、野心と勇気で羽ばたいて 雲を抜けよう 世界の同志と二宮理沙子さん:朝日新聞DIALOG

女性たち、野心と勇気で羽ばたいて 雲を抜けよう 世界の同志と
二宮理沙子さん

By 杉山麻子(DIALOG学生記者)
二宮さん(右)とFacebook社COOのシェリル・サンドバーグさん(写真はいずれも二宮さん提供)

 私が背中を押してもらったように、他の女性たちが一歩を踏み出す勇気を持ってほしい——。二宮理沙子さん(26)は「女性が野心を持って挑戦できる社会」の実現をめざす一般社団法人「Lean In Tokyo」の代表を約2年間務め、現在も教育関係の仕事をしながら運営メンバーとして活動しています。アクティブに活躍する彼女の原動力に迫るインタビューです。

 「2030年の未来を考える」をコンセプトとしたプロジェクト、朝日新聞DIALOGでは、社会課題の解決をめざす若きソーシャルイノベーターの活動を継続的に紹介しています。

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2019年に行ったトークセッションで司会を務める二宮さん(左端)

学ぶ 話し合う 発信する

——今の活動について教えてください。

 ボランティア団体「Lean In Tokyo」の活動は大きく三つあります。一つ目はイベントです。一歩踏み出しているゲストを招いて、ご自身の人生やキャリアでどう踏み出してきたのかを伺います。お話を踏まえて、参加者同士で自分だったらどうアクションできるかについて話し合う取り組みで、コロナ禍の中でも毎月オンラインで実施しています。

 二つ目は、8人ぐらいで行う少人数のミーティングです。少人数で行うのは、Lean In Tokyoの母体である「LeanIn.Org」を立ち上げたFacebookのCOO(最高執行責任者)であるシェリル・サンドバーグさんが、少人数で悩みを共有してサポートし合うことで次の行動につなげることを大事にしていたためです。コロナ禍の前はブランチをしながら、最近の出来事を話したり、読書会をしたり、育児とキャリアのモヤモヤについて話したりしていました。今はオンラインでそれぞれの自宅からディスカッションをしています。

 三つ目は、SNSやnoteを使ったリポートの発信です。一歩踏み出している人にインタビューした内容や、アンケート調査を行った結果をまとめています。

——イベントにはどういう人たちが参加していますか。

 主に20~30代で、大学を卒業して企業でフルタイムで働いている女性が多いですね。

——参加者の反応を教えてください。

「管理職に手をあげることができた」「今のポジションでも活躍している」「Lean Inに参加して、自分以外の人にモチベーションを持ってもらうきっかけを与えられた」など、前向きな変化の声が届いています。私たちはリーダーシップや交渉のスキルも提供しているので、一歩踏み出す気持ちとスキルを合わせることでアクションにつなげられているのだと思います。「将来やりたいことが分からない」と悩んでいた私の友人は、キャリアのモヤモヤを共有するイベントに参加したところ、「やりたいことが分からない状態を受け入れられるようになったし、モチベーションにつながった」と話し、現在はステップアップのために転職を考えています。アメリカの本部が集計しているアンケートでも、イベントで8割以上の女性が仕事に対してポジティブになれたという結果が出ています(※「LeanIn.Org」はアメリカの本部を中心に、現在約180カ国に支部が存在)。

性差との闘い 留学が原点

——Lean In Tokyoに出合ったきっかけは何でしたか。

 大学3年生でアメリカに留学したときに『Lean In』という本を知りました。2013年にシェリルさんが出版した本で、女性が野心を忘れずに自分がやりたいことに挑戦したり、キャリアを積んだりする方法などについて書かれていました。シェリルさんは出版後に「LeanIn.Org」を立ち上げ、女性がコミュニティーサークルを持ち、互いに支え合うことで社会を変えていこうと提唱しています。

 私は、留学先で教育行政や日米の保育政策を学んでいたのですが、日本の男女の働き方の違いをデータで見て、社会人になったら男女で違いがあるのだと驚き、性差と闘わなければならないのだとショックを受けました。そんなときに、ちょうどLean In Tokyoが発足した(2016年)ことがわかり、帰国後にLean In Tokyoのイベントに参加しました。自分らしくキラキラと働いているメンバーに会い、私も参加したいと思いました。

——代表になったきっかけは。

 前の代表が海外に行く際に、母校の早稲田大学にLean In WASEDAを立ち上げるなどの私の活動経験から推薦していただいて、2018年夏から約2年間代表を務めました。社会人1年目で仕事もままならない時期で悩んだのですが、「Lean In」の精神でやってみようと思ってチャレンジしました。また、私が一番年下だったので「自分が代表でいいのかな…」と思うこともありましたが、全員ボランティアでお互いに支え合っている団体なので、先輩も後輩も手伝ってくれました。私にはスキルはなくてもパッションだけはあることを周囲は買ってくださっていたので(笑)。

——Lean In Tokyoで活動する原動力は何ですか。

 私自身、Lean In Tokyoのおかげで一歩踏み出すことができたからです。就職活動の時に教育を仕事にしたいと思い、学校の先生も検討していました。ところが、家族や親戚からは「商社や銀行などの大企業に就職して、エリート男性と結婚するのが女性の幸せだよね」と言われたのです。両親はステレオタイプが強く、家族の思いは大切にしたいけれど、それが正しいのかわからなくてモヤモヤしていました。そんなときに、Lean In Tokyoの人たちから「一歩踏み出してみたら」とアドバイスをもらい、教育分野で働き始めることを決意できました。こうした「成功体験」を他の女性たちにも実感してもらいたいと思っています。

中高ハワイ 多様性に興味

——そもそも教育関連の仕事に興味を持ったきっかけを教えてください。

 両親が英語教育に熱心だったため、中学・高校とハワイに留学していました。インターナショナルスクールでは生徒の半分は現地の子どもで、それ以外は約30カ国から集まってきていました。この経験から、教育の違いで人の考え方が変わると思いました。ハワイの(ポリネシア系の)人たちは、若い世代でも白人に対して交わり合えないわだかまりがあるようで、教室の中で何となくグループが分かれていました。「パールハーバー」についても、ハワイの人の見方はアメリカ本土の人の見方とも違っていました。親や周りの大人たちがどのように歴史を話してきたかで、スタンスが変わってくるのは興味深いなと思いました。

——その後、帰国して早稲田大学に進まれました。日本の大学に入ろうと思ったのはなぜですか。

 アメリカの大学も受けていたのですが、7年間離れていたので、そろそろ日本が恋しいなと思ったからです。将来は日本のために働きたいですし、漠然とですが、教育をキャリアにしたいと思っていました。

——教育を仕事にすることを決意され、どんな会社に勤めたのですか。

 新卒では、LITALICO(リタリコ)という教育と福祉の会社に勤めました。発達障害を持った子どもたちの指導員・先生として働いたり、学校や保護者に対して、発達障害を持った子どもたちのサポートの仕方をコンサルティングしたりしていました。1年働いて、今の会社に転職しました。

——今のお仕事について教えてください。

 子どもに英語の自宅レッスンを提供する会社「Selan」に勤めています。私の仕事は、英語のカリキュラムを作ったり、先生のトレーニングをしたりといった内容です。コロナ前は、21世紀型のスキルを身につける教室も運営していたので、私も教室で子どもたちと触れ合っていました。

——仕事とLean Inの活動はつながるところはありますか。

 ありますね。Selanのミッションの一つは、英語を通して子どもたちが世界観を広げることです。また「お迎えシスター」といって、働いているお母さんたちに代わって、Selanの英語の先生が子どもたちを学校や学童保育からピックアップした後、そのまま英語のレッスンをするというサービスがあり、女性を応援するという点ではLean In Tokyoの取り組みとつながる部分があると感じています。

生きづらさ解消 少しずつ

——2030年はどんな社会になってほしいですか。

 2030年までに管理職など指導的地位の3割を女性にするという目標の達成を、政府はもう先延ばしにしないでほしいと思います。本来は2020年が目標だったので(苦笑)。私たちも草の根でできることはしたいと思います。世界経済フォーラムのリポートでは、ジェンダーギャップの解消には100年かかると言われています。でも、女子のIT教育や性教育の話題がメディアに取り上げられるようになるなど、これまでの歴史では数十年で改善されたこともあるので、私は希望的観測を持っています。

——男性に対しては、どうアプローチしていますか。

 Lean In Tokyoの運営メンバー20人のうち男性は2人で、男性へのリーチは苦労しています。昨年の国際男性デー(11月19日)に合わせて、男性の生きづらさに関する調査を実施したところ、約300人が回答し、約8割の人が何かしらの生きづらさを感じていることがわかりました。男性、女性、その他の性の人たちを苦しめているジェンダーバイアスは同じものが根源になっていると思うので、性別にとらわれずに一緒のフィールドに立って解決していきたいと思っています。

——理想の社会について教えてください。

 生きづらさがもう少し解消される、もしくは解消の手立てを持っている人が増える社会です。自分の生きづらさを解消するためには、一人よりも、誰かと一緒に共助という形で悩みを共有したほうがアクションにつなげやすいと思います。それを手立てとして提言したいです。企業内で取り組んでいるところもあり、例えば「Lean In docomo」は女性メンバーが所属してランチ会をしたり、サポートし合ったり、役員を呼んでワークショップをしたりしています。このような取り組みをする企業が増えるといいなとも思います。

——Lean Inのことを知らない人もいます。裾野を広げるにはどうしますか。

 日本国内の各地にLean Inのファミリーサークルがあって、ネットワークがあります。東京はイベントに参加しやすいし、情報も得やすい。一方で、例えば北海道ではメンバーは2人だけで、自分の職場で活動するのが精いっぱい。「メンバーも広げにくいし、経営者にアクションをうながすのは無理」と聞きました。それでも、彼女たちは地道に活動をして、定期的に他のエリアの人たちとコミュニケーションをとっています。まずは、そういう人たちをサポートすることから、少しずつやっていこうと思っています。また、より多くの人にリーチするために、メディアを通じて訴えようとも思っています。

 Lean Inのように、心理的安全性を保って女性が一歩踏み出すことを後押しするようなコミュニティーを、企業内でも社外でも紹介する動きをつくりたいですね。

たくましい女性、と思っていた
杉山麻子(DIALOG学生記者)

 取材を通して、私もバイアスを持っていたことに気づきました。取材前は、働く女性を支援している人なら、きっとたくましい女性だろう、と想像していたからです。ですが、二宮さんは、家族の価値観への違和感に悩んできた経験から、同じような悩みを持つ人の横に並んで一緒に歩んでいるような印象を受けました。女性活躍を支援する団体というと、少しとっつきにくさがありましたが、二宮さんの人となりから、私も参加してみたくなりました。

 日本のジェンダーギャップ指数は、153カ国中121位でした。今後、国会、議員や経営者の女性が増えれば、順位は上がるでしょう。ですが、たとえ活躍の場が設けられても、生きづらさが改善されなければ意味がありません。LeanInは、顔と顔を合わせた関係づくりをしています。ジェンダーギャップを埋めるだけでなく、全ての人が輝ける社会につながる活動なのではないかと思いました。


二宮理沙子(にのみや・りさこ)

 1994年生まれ。中高7年間をハワイで過ごす。早稲田大学国際教養学部卒業。在学中にイエール大学に留学し、LeanIn.Orgの活動を知る。大学3年からLean In Tokyoに携わる。2018年から2年間代表を務め、現在は教育プログラム担当。新卒で、教育と福祉の会社LITALICOに就職。その後Selanに転職。2021年秋からアメリカの教育大学院に進学予定。女子中高生の自己肯定感をあげるためにどうアプローチできるかを研究予定。

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