食・美容——まだ見ぬ出会いをデザインする西村隆ノ介さん:朝日新聞DIALOG

食・美容——まだ見ぬ出会いをデザインする
西村隆ノ介さん

By 内田早紀(DIALOG学生記者)
左=動画講座your schoolでのワンシーン、西村さん提供
右=Photo by 児玉聡

 美しくて崩したくないのに、手を伸ばさずにはいられないフルーツサンドやケータリング料理。手掛けるのは「にしむー」の愛称で親しまれる西村隆ノ介さん(31)です。食のデザインだけでなく美容も手がけ、さらにモデルも務めてしまう多才さの源泉は、幼い頃から感じていたモヤモヤとした思い——。不思議な魅力をもつクリエーターのバックグラウンドや信念、そして未来への願いを聞きました。

「2030年の未来を考える」をコンセプトとしたプロジェクト、朝日新聞DIALOGでは、社会課題の解決をめざす若きソーシャルイノベーターの活動を継続的に紹介しています。

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にしむー食堂 コラムもモデルも

——現在の取り組みを教えてください。

西村 大きく分けると「食とデザイン」と「美容」です。ほかにもコラムを書いたり、モデルをしたりしています。大きいのは「食」で、「にしむー食堂」と呼ばれています。間借り店舗でフルーツサンドを販売したり、イベントや料理撮影のスタイリング、ケータリングをしています。デザインはグラフィックが主で、ロゴを作ったりすることが多いです。モデルもしていて、いろんなブランドでお仕事をさせていただいています。メイクやアクセサリーといった美容系の楽しみは女性向けとみなされていますが、もっと自由に楽しめたらいいなと思っているんです。その思いを広げるイベント「mirrors」を立ち上げました。性別や年齢を問わず共通するメイクをプロにレクチャーしてもらったり、日頃の美容の悩みを共有したりする場になっています。その他にも、ユニセックスに楽しめるジュエリーのセレクトショップを準備しています。

西村さんの最近の活動
・毎週金曜日 6curry渋谷/恵比寿(週によって入れ替わり)で、「フルサンデー」として生クリームと白砂糖を使わないフルーツサンドを提供
・GINZA onlineにて「22時の冷蔵庫」連載中
・your schoolにて動画講座配信中
・その他、不定期でイベントを開催

——「にしむー食堂」は、いつ頃から始めたのですか。

西村 「にしむー食堂」と呼び始めたのは大学時代の友だちでした。卒業制作展を学外で開いたときにレセプションのケータリングを担当したのが最初です。そのころから「いろんな人が集まれる場所」をつくりたいと思っていました。間借り店舗での営業を続けているのも、いろんなところに出向くことができて、「初めましての人」と知り合えるからです。「その場所ならでは」のことや出会いがあって、楽しいです。

——にしむー食堂のケータリングはとても芸術的ですよね。

西村 ケータリングのイメージって、銀のお皿に揚げ物がたくさんあって、冷めたらおいしくない感じですよね。食べ物を捨てるのが嫌なので、すごく「もったいないな」と感じていました。自分がずっとやっていたアートの分野に「食」を掛け合わせたら、残されないケータリングができるかなと思いました。実際にケータリングを行うときは、一からヒアリングして二度と同じテーブルは作らないようにしています。

イチゴのサングリアフルーツサンド

イートデザイナー そのココロは

——様々な活動をされていますが、肩書きは何になるのでしょうか。

西村 ずっと迷っていて、「食」の活動のときだけは「イートデザイナー」と名乗っています。食べるシーンまでデザインしたいので、「フードデザイナー」より「イートデザイナー」かな、と。最近、活動がデザイナーだけでなくなっているので、どうしようかな……。

——西村さんの描く「食のシーン」とは、どのようなものですか。

西村 自分のほかの活動にも共通しているんですけど、来てくださった方に「新しい発見、価値観」を提供したいんです。意外な食べ物の組み合わせや、「食」と何か別のものとのコラボで新しいものを見つけて、その人の食べる行為が楽しくなればいいなと思います。

 コロナ禍で、自炊する人が増えたと感じます。Noteや雑誌「GINZA」のコラムに載せている、フルーツサンドなどのレシピへのアクセスも増えました。「食べる」という行為が、カロリーを摂取するためだけのもの、という人は一定数いますよね。人それぞれなので否定はしませんが、毎日食べるのだったら、楽しく興味を持って接することができたらいいなと思っています。

Hairmake by 愛結実 Photo by 平野理大
 この名刺のロゴは「にしむー食堂」の活動を始めたときにつくったといいます。円形には「みんなで囲む食卓」や「円卓」のイメージがあり、完全な円形ではないところがこだわりです。西村さんは「端っこが欠けていることで、食べかけの状態や、生きている感じを連想しやすくしました。たくさん交わった線には、いろいろな人やものがつながっていくイメージ」と説明してくれました。

「きれいに」ではなく「ありたい自分に」

——「mirrors」はどのようなイベントですか。

西村 美容は外見をきれいにするためだけではなくて「ありたい自分」でいるためのもの、という思いから、「mirrors」は始まりました。2019年11月から、ヘアメイクアーティストや、性別を問わないアンダーウェアを開発しているREINGなど、協力してくださるブランドとともに続けています。「人目や性別にとらわれないで、メイクや美容を楽しむ」というコンセプトで、最初はオフラインがメインでしたが、今年はオンラインでもイベントを開いています。1回目は、性別や年齢を問わず共通する「ベーシックスキンケア」と「ベーシックメイク」のやり方やポイントをプロのモデレーターからレクチャーしました。参加される方は、性別も国籍もいろいろです。メイクやスキンケアに興味があるけれど、カラーメイクといった挑戦には踏み込めなかった人など、いろんな人にとって美容の入り口になっています。

ビンク好き 「女子力高い」?

——どんな幼少期を過ごされたのですか。

西村 祖母が元々、熊本で旅館をやっていました。母もその旅館の喫茶店で働いていて、いろんな料理を作っていました。思えば、そこが食に興味を持つきっかけになったのかもしれません。

 小さいころから、ピンク色が好きな子どもでした。ピンクはすごくハッピーな色だと思うんです。最近はメンズでもピンク色のアイテムが増えてきましたけど、いまだに「ピンク色=女性」というイメージはありますよね。うちの親は「何でもあなたの好きにしていいよ」というスタンスなんですけど、高校生で真っピンクの携帯電話を選んだときは、「本当にピンクでいいの?」って言われて……周りからのイメージを心配してのことだったと思います。そういうギャップはいろんなところで感じていました。例えばスキンケアの知識があるとか、細かいところに気づくだけで、周りから「女子力高いね」と言われることもしばしば。単純に好きでやっているのに、「女子力って何だ?」とモヤモヤします。「女子力」じゃなくて「生活力」ではないかと思っています。ギャップはいろんな場面で感じてきましたけれど、周りの意見に染まらなかったのは、頑固で負けず嫌いなので、反発心でしょうか。でも、その自分のモヤモヤを、せっかくなら仕事にできたらいいなと思っていました。

——進路はどのように考えていたのですか。

西村 中学生くらいまでは獣医、薬剤師とか理系の方向に行きたいと思っていました。でも高校生になって、理系の授業が一気に苦手になってしまったので、とても獣医にはなれないなと。進路を考えたときに、昔から「ものを作る」ことが好きだったのを思い出して、デザイン系を学びたいと思いました。それを学べる大学は熊本にも九州にもあるんですけれど、東京に出た方が展示やイベントがいっぱいあるので、「刺激が得られる」と上京を決めました。

——どんな大学時代でしたか。

西村 首都大学東京(現・東京都立大学)のシステムデザイン学部に進みました。美大だと専攻が決まっていることが多いんですけど、首都大では家具作りから芸術学、人間工学まで幅広く勉強しました。今の活動のきっかけになったのが、キャンパスがある日野市で行われた「地域アートプロジェクト」の授業です。そこに参加された「食」のアーティスト、中山晴奈さんのケータリングを見て、「食の分野って飲食店で働くだけじゃないんだ」と気づかされました。そこから中山さんのケータリングやイベントでバイトをさせてもらって、調理法、見せ方などのノウハウを学びました。

伝えられなかった思い 今は

——大学を卒業して、すぐフリーで活動を?

西村 グラフィックデザインを学んでいたので、広告業界とメーカーを受けて、広告の制作会社に入りました。でも、広告は自分の肌に合わなかった。大量生産、大量消費で、次から次にものを作る。このまま行くと、もの作りが嫌いになると思って……「自分の作ったものを喜んでほしい」という気持ちを大切にしたかったので、1年くらいで辞めてフリーになる道を選びました。不安もありましたけど、「何とかなるだろう」という気持ちでした。

——いまの活動につながったきっかけは。

 小さい頃から、あまり人とのコミュニケーションが得意じゃなかった。「これは違うんじゃないかな」と思っても、「自分はこう思う」と伝えられないことが多かった。それがずっとモヤモヤとしてあり続けて、食でも美容でも自分の思いが外に出せていなくて。でも、フリーで活動する中で「自分が発信するからこそ、できることがある」と思い始めると、自分の考えを伝えやすい雰囲気の人たちが自然と集まってきました。もっと多くの人が、いろいろな価値観に触れる機会が増えれば、暮らしやすい世の中になるんじゃないかな。それが活動の原点になっています。

——朝日新聞DIALOGは2030年を考えるプロジェクトです。どんな社会になっていてほしいですか。

西村 最近は「ダイバーシティ」とか、いろんな価値観が表に出てきやすい世の中だと感じます。SDGs(国連の持続可能な開発目標)とか環境に配慮する活動も表に出てきましたよね。それは世の中が「発信する人」を受け入れるようになってきたからだと思います。でも、すべての人が受け入れられているわけではありません。価値観や考えが違うのは当たり前のことですよね。自分の考えを他人に押し付けるのではなく、「いろんな考え方がある」ということを受け止められる世の中になってほしいです。それが、もうちょっと進んでいたらいいなと思いますね。

互いに異なるカタチ 受け入れる
内田早紀(DIALOG学生記者)

 価値観、考えというのはそれまでに出会ってきたモノや人、経験によって作られる、それぞれの人としての在り方=カタチだと思います。西村さんの「新しい価値観を提供したい」という思いは、カタチを変えろと強制するのではなく、互いのカタチの違いを受け入れられるように、愛せるように、そんなメッセージに感じました。その「違い」の魅力を伝える言葉が、食であり、デザインでありアートなのだと思います。

 「美しさ」について質問したら、西村さんは、こう答えてくれました。

 「『美しくある』というのは、見た目でなく『心持ち』だと思っています。こういうふうになりたい、という気持ちを持ち続けたとき、わずかながらでも外側に出てくるもの。それが『美しくなる』ということかなと思います」

 自分の引っかかりを大切に活動してきた、その優しくも芯のある強さを美しいと感じました。インタビューを終えて、まだ見ぬカタチとの出会いが楽しみになりました。


西村隆ノ介(にしむら・りゅうのすけ)

 1989年生まれ。熊本県出身。にしむー食堂主宰。ケータリング、スタイリング、間借りでの営業などをしている。執筆、 グラフィックデザイン、ビューティーイベント「mirrors」を開催。高校生まで地元・熊本で過ごし、大学入学と共に上京。デザインを学び、卒業後は広告制作会社にデザイナーとして勤める。その後、フリーランスとして、グラフィックデザインだけでなく、食にデザインとアートを掛け合わせた活動を始める。飲食店のメニュー開発、プロデュースも手がける。食分野だけでなく、ビューティー分野でのイベントを主催。近日アパレルのセレクトショップもオープン予定。

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