豊かでやさしい町へ チャレンジ新たな出発 復興を語り合う——福島県大熊町〈後編〉:朝日新聞DIALOG
2021/03/10

豊かでやさしい町へ チャレンジ
新たな出発 復興を語り合う——福島県大熊町〈後編〉

【PR】UR都市機構
※集合写真の撮影時のみマスクを外しています

 朝日新聞DIALOGは、東日本大震災からの復興支援事業に取り組むUR都市機構と共に、東京で暮らす若者たちが原子力災害に見舞われた福島県大熊町の復興の現状を学ぶスタディーツアーを実施しました。参加した学生3人は2日間にわたって見聞きしたツアーの内容を踏まえ、この地の新しい出発を支える方々とのセッションに臨みました。

■参加したみなさん
王翔一朗さん(早稲田大学1年)、古川遥さん(津田塾大学3年)
齋藤陽介さん、佐藤由香さん、南場優生海さん(大熊町役場)
栗城英雄さん、川﨑明樹さん、茂木和也さん(UR都市機構福島震災復興支援本部)
ファシリテーター 古野香織さん(東京学芸大学大学院修士3年)

(上)王翔一朗さん
早稲田大学1年 インターンシップで町づくり支援に参画
(左下)佐藤由香さん
大熊町役場 議会事務局 2011年に入庁。役場が分散移転したいわき市で業務にあたっていた
(右下)南場優生海さん
大熊町役場 企画調整課 中学の卒業式当日に被災。大学卒業後、社会人生活を経て今年度入庁

町の「今」 手書き情報紙で発信

 町の新庁舎と住宅群、全線再開したJR常磐線の大野駅、これから開発されるまっさらな事業予定地などを見て回った学生たち。人の営みが戻ったことの尊さを実感したという王さんは、ソフト面について「どんな思いで、どんな課題に取り組んでいるのでしょうか」と質問を投げかけます。

 「もどかしさがあった」と答えたのは、大熊町役場の佐藤由香さんです。役場のある大川原地区での暮らしについて情報発信できていなかったからだと言います。そこで、職員有志で結成した「ふるさと未来会議」のメンバーと2019年10月から情報紙「大川原LIFE」を発行。「行政の発行物ですが、あえて手書きで柔らかくまとめています。仮設店舗のサービスや町で働き始めた新人のお仕事紹介といった、住まなくては知り得ない情報を扱うようにしました。町内外から反応がありますね」。昨年入庁した南場優生海さんも、執筆スタッフの一人。「久しぶりに帰った町の様子を伝えることで、みなさんが大熊に戻ってくるきっかけになれば」と、地元への特別な思いを語りました。

齋藤陽介さん
大熊町役場 企画調整課 ゼロカーボン推進係
交通インフラ担当も兼務している

多世代交流へ 図書館も構想

 齋藤陽介さんが目下の課題として挙げたのは、高齢化問題。「多世代交流が必要だと思っています。若者や子育て世代を呼び込む上では、宅地整備も必要です。どれぐらいの人が来てくれるかわからない中で、どう進めるか。ハード面とソフト面のバランスは常に検討しています」。町が23年の開設を目指している幼保・小中一貫校では、大熊町に古くから根付く読書文化を未来へつなぐため、地域の方にも開かれた図書館をつくるそうです。

(左)栗城英雄さん
UR都市機構 福島震災復興支援本部 復興支援部 大熊復興支援事務所 まちづくり整備第2課
いわき市で津波災害の復興支援に携わったのち、大熊復興支援事務所に着任
(右)茂木和也さん
UR都市機構 福島震災復興支援本部 復興支援部 建築計画課
大野駅前の開発支援を担当。着任を機に、初めて福島県へ

三位一体の支援 町民の声を大切に

 この地の未来を町と同じ目線で検討し、「復興拠点整備」「発注者支援」「地域再生支援」の三位一体型支援に取り組むUR。これからハード面の整備が本格化していく大野駅周辺を担当する茂木和也さんは、その心構えについて「ただつくればいいのではなく、使われることが大切です。複数の部署と密に連携しながら、廃炉の先も見据えて長く使ってもらえるものを目指しています」とコメント。基盤整備に加え、復興ビジョンの策定に携わってきた栗城英雄さんは、人の声を大切にしていると言います。「ビジョンの策定時には、町民の方にアンケートを取りました。戻ってきたい、移り住みたいと思えるサービスを計画に落とし込み、町内外で求められるものをつくることを意識しています」

(左)ゼロカーボンに向けたまちづくりミーティングの様子
(右)共助タクシー事業の実証実験を昨年12月に実施=いずれも大熊町提供

ゼロカーボン・共助タクシー…施策次々

 ハード面とソフト面が同時に検討され、プロジェクトが進められる大熊町。前提となる町のコンセプトはどのように定めているのでしょうか。齋藤さんはゼロカーボンが大きな柱になっていると説明します。「原子力災害の経験から、再生エネルギーの町になることを宣言しました。50年までにゼロカーボンを達成するための検討が進んでいます」。先進的な内容でなければ埋没するという危機感を持ったプロジェクトだと言い、「新しいエネルギーや新しいチャレンジを、URさんと共に考えているところです」

 URの提案で、新たな流れを生み出したプロジェクトがあります。その一つが、町民を巻き込んだ運用を目指して実証実験が進められている共助タクシー。「バスやタクシー事業ではカバーしきれない時間帯などの移動を、町内居住者が自家用車で送り届ける仕組みです」と齋藤さん。共に計画に携わるURの川﨑明樹さんは、課題を逆手に取った試みだと解説します。「人口が少ないからこそできることです。単なるデメリットと捉えず、それを利用した事業を組み立てれば、町での暮らしの満足度が高まると思います。役立てるなら、と協力を申し出てくださった町民の方がいたこともうれしかったですね」

川﨑明樹さん
UR都市機構 福島震災復興支援本部 復興支援部 地域再生課
福島県が実施した避難先の住宅建設事業に携わった経験がある

まずはトライ いい流れを生み出す

 ハード面の整備と異なり、「まずはトライ」が利きやすいソフト面の施策。齋藤さんも「前例がないことも含めて様々な事業を動かしています。この共助タクシーはすぐに実装が求められるものではないかもしれません。それでも、アイデアはまず種をまいて、少しずつ蓄積していこうと考えています。大川原LIFEのように、若手職員が主体的に新たなチャレンジをしていくいい流れができつつあると思います」と話します。

キウイ再生クラブの活動の一コマ=大熊町提供

 そんなチャレンジの種が芽を出したプロジェクトも。町の名産品だったキウイ生産を復活させるための任意団体「おおくまキウイ再生クラブ」です。一昨年冬に立ち上げられ、昨年はついに苗木を植樹。数年先の収穫に向けて手入れを続けていると言います。メンバーとして活動する栗城さんは、収穫の場が交流を生むことはもちろん、名産品の復活は町の誇りを取り戻す手立ての一つだと感じています。「町に今もある原石が輝くことが、活気につながっていくと考えています。思い入れのある地元で何かに参加したい、関わりたいという人が踏み出すきっかけにしていただければ」

 町に貢献したい人も、誇りを持って出荷していた農産物も、新しい大熊町の魅力の原石です。町と人に寄り添い、地元ならではの特長を生かしたアイデアがチャレンジの気運の中で次々に生み出されています。

古川遥さん
津田塾大学3年 過疎地域の活性化に興味を持っている

関係人口を増やす 学生からアイデア

 古川遥さんは、関係人口を増やす施策が気になったと言います。「私の地元・青森では、毎年ねぷた祭で盛り上がります。人を集めるような催しが開かれていたら、どんな効果があったかも伺いたいです」

 大熊町では、これまでに庁舎前の広場で盆踊り大会、餅つき大会などが開かれました。近隣の市町村からの来訪もあり、イベントは町の活性化に欠かせないもの、と佐藤さん。「交流の場は定期的につくりたいのですが、感染症拡大防止の観点から今年度は立ち止まらざるを得ませんでした。町には、電力会社の寮で暮らしている作業員の方もいます。この地の仲間として横の交流を生み出していきたいですね」

(左)一昨年夏の盆踊り大会
(右)昨年の正月に開かれた餅つき大会=いずれも大熊町提供

 ゆくゆくは町外の人にも町の活動に関わってほしいという南場さんが、学生たちに若者を呼び込むアイデアを尋ねます。王さんは、宮城県の若手漁師団体によるプロジェクトがヒントになりそうだとコメント。「三陸で漁業を体験したのちに、オンラインでビジネスプランを考えるというものでした。期間が長めに設定されている上にとても実践的で、町や特定の仕事に入り込む時のハードルが下がる取り組みだと思いました」。古川さんは、充実度の高いプログラムとして「たくさんの人と会えて濃密な時間を過ごせる環境があるとうれしいです」と要望します。古野さんは「ここにしかない体験がカギになるのでは」と語り、キウイ再生や新設される学校などに言及。「色々な角度から興味を持つ人は多いはずです。チャレンジするという町の精神が若手の活躍に反映されると、携わりたい人が増えるのではないでしょうか」

 活発に意見が交わされる中、佐藤さんが震災後数年におよぶ避難生活でずっと抱えてきたというある葛藤を明かします。それは、原子力災害の現場である大熊町の出身だと言い出しづらかったこと。「打ち明けた時に『大変だったね』と声をかけてもらっても、罪悪感のような思いが消えることはありませんでした。そういう人は少なくないと思います。いい町になったと胸を張れるようにすることが、今の目標です」

 新旧の大熊町の特徴、そして町の精神が未来をつくるヒントになる——。町の魅力が取り入れられたアイデアが実現する日は、そう遠くないかもしれません。

古野香織さん
東京学芸大学大学院修士3年 教員を目指している。過去2回のURと朝日新聞DIALOGによるスタディーツアーにも参加

10年後の町 みんなで描く

 セッション最後のテーマは「10年後の大熊町」。それぞれが画用紙に思いを記します。古川さんは、〈チャレンジ先進地域〉というパワーフレーズで会場を沸かせました。「このツアーではチャレンジという言葉を何度も耳にしました。そういう姿勢が色々なものに生かされれば、大熊って有名だよねと覚えてもらえたり、面白いことができるらしいという評判につながったりするのではないでしょうか」。王さんは〈学びの町 大熊〉として、災害の経験とチャレンジの蓄積が飛躍のポイントになると予測します。古野さんは〈達成感のある街〉と書き、次のように話しました。「ハードもソフトも前向きな取り組みを続けていることが素晴らしいと思います。一方でなかなか拭えない罪悪感のような思いがあるというのも胸に残りました。大熊町が挑んだことや達成したことをたくさん発信していけば、達成感が得られる街というイメージに変わっていくのではないかと感じました」

■みんなが描いた「10年後」
・学びの町 大熊(王翔一朗さん)
・チャレンジ先進地域(古川遥さん)
・達成感のある街(古野香織さん)
・有機的につながる(齋藤陽介さん)
・大川原LIFE→大熊LIFE I♥おおくま(佐藤由香さん)
・挑(南場優生海さん)
・小さくても自立的にお金と人と知恵がまわるまち(栗城英雄さん)
・WELCOME 初心者(川﨑明樹さん)
・震災復興のモデルとなる町(茂木和也さん)

 たっぷりと語り終えた9人。それぞれが思い描いた「大熊町の未来」を手に、集合写真を撮影。人に寄り添うやさしさと試行錯誤の熱気にあふれるセッションとなりました。

pagetop