今を撮る 未来を変える 静かな、尖った視線で亀山睦実さん:朝日新聞DIALOG

今を撮る 未来を変える 静かな、尖った視線で
亀山睦実さん

By 岸峰祐(DIALOG学生部)
写真=亀山さん提供

 境遇の異なる2人の女性を描いた映画『マイライフ、ママライフ』など、鋭い視点で現代を切り取る映画監督・映像ディレクターの亀山睦実さん(31)。映画の監督・脚本づくりだけでなく、VR、舞台のプロジェクションマッピングなど多様な映像制作に取り組んでいます。映像の持つ可能性や社会に伝えたいことなどについて、亀山さんに聞きました。

女性の生き方 そしてヒューマノイド

——現在、どのような活動をしていますか。

 映像制作会社でディレクターの仕事をしながら、映画をつくっています。ここ2年間で二つの長編映画で監督を務めました。自分で資金やスタッフを集めた自主制作の『12ヶ月のカイ』と、スポンサーなどからも制作費をいただいて制作した作品『マイライフ、ママライフ』。どちらもこの夏、劇場で上映される予定です。

 映画のほかに、スマホ視聴用のSNSドラマも制作中で、こちらは5月中旬に公開される予定です。

マイライフ、ママライフ
“仕事と子どもと… 彼女だけの問題じゃない。
妊娠・出産を先延ばしにして仕事に生きる綾。2人の子どもを育てながら働く沙織。異なる立場の2人が現代女性ならではの生きづらさを少しずつ解きほぐし、諦めていた夢に向かってもう一度、歩みはじめる。”
——テアトル新宿HPの映画紹介から

——『マイライフ、ママライフ』は、どんな作品ですか。

 働きながら子ども2人を育てる女性と、子どもを持たず仕事をバリバリしている女性という、30歳くらいの女性2人が主人公です。「若手の監督にオリジナルの話を撮らせてみたい」というプロデューサーに声をかけてもらって、女性の物語が今の時代にも合いそうだ、ということで実現しました。

 私は31歳で独身ですが、子どもを「産みにくい」「育てにくい」といった同年代の愚痴をSNSで読み、世の中でニュースになっていることを、同世代の問題として実感したんです。彼女たちが本当に思っていることであれば、ニュースだけではなく、物語として残しておいたほうがいいと思い、『マイライフ、ママライフ』を企画しました。

 主人公たちの境遇について、私は全く経験がなかったので、たくさん聞き取りをして企画を練りました。関係者にお披露目をしたときに意外だったのは、女性に見てほしいと思って書いた作品だったのに、男性からもたくさんのお声をいただいたこと。男女ともに、何かしら放置してきてしまったところがあるのだと思いますし、この映画がそのことを話し合うきっかけになったら、と思っています。

——テーマの決め方、制作の際に心がけていることは。

 今を生きる私たちの状況や心情を表す、というのがベースにあります。全ての物語を自分が体験できるわけではないので、とにかくいろんな情報を集めます。特に『マイライフ、ママライフ』は働きながら子どもを育てている女性と、結婚していて子どもがいない女性が出てくるので、同級生や仕事関係の女性の方々に話を聞くなど、丁寧にリサーチをしました。

 人間の女性が男性型のヒューマノイドを所有する世界を描いた『12ヶ月のカイ』では、ヒューマノイドづくりの現状や、他の作品でヒューマノイドがどのように描かれているのかを見て、表現の仕方を考えていきました。映画の制作の際には、今まで見たことのない物語をお見せすることを心がけています。

メイキングに見た ステキな映画愛

——映像やその制作との出会いは何でしたか。

 ジブリ作品やセーラームーン、デジモンといったアニメーションを見て、物語をつくること自体に憧れを抱きました。小学生、中学生時代は家族とよく映画を見に行くようになって、『踊る大捜査線』『ハリー・ポッター』『スター・ウォーズ』などを見ました。本編も面白かったのですが、メイキングで制作の人たちを見たときに、「この人たちすごい楽しそうだな、ここに行きたい!」と。映画の裏側にはキャストさん、監督さんのほかに、いろんな人がいて、衣装、特殊効果、音楽……一つひとつの作業に、みんな愛を持って真摯(しんし)に作品に向き合っていてステキだなと思ったんです。

 監督さんで言えば、映画『バトル・ロワイアル』の深作欣二さんが体を張って子どもたちに演技を教えているのを見て、「こういう人になれたらな」と思ったこともあります。

 私は中高一貫の女子校に通っていて、放送部でラジオドラマをつくったり、ビデオカメラを回して撮影したりしていました。撮影場所は学校内が主でしたけど、日本大学芸術学部(日芸)の卒業生だった部活動のコーチの紹介で、男子校の放送部と共同で作品をつくることもありました。

 当時は、恋愛が非日常で面白いと思っていました。その感覚が、今の恋愛作品の描き方にも名残があるかな、と思います。

 映像作品を撮っていた経験から、大学でも同じことをやりたいと思い、映画を専攻しました。当時から、映画をつくらないと息苦しいというような中毒に近い感覚があって、つくり終わってしまうと、またやらなきゃ気が済まないという感じはありましたね。

『12ヶ月のカイ』の一場面 ©12months of KAI

映画オタクが少なくて…珈琲研究会

——大学は日芸に進学されました。

 もともとは大学進学を考えていなくて……。専門学校のオープンキャンパスには行っていたのですが、ある日、親に泣きつかれて。「お願いだから大学に行ってくれ」と。

 そんなときに、日大附属高校出身の友人から日本大学芸術学部映画学科を紹介されてオープンキャンパスに行きました。鳥山正晴先生という脚本コースの教授がすごく面白くて、「ここに入ろう」と決めました。

——入学して、どうでしたか。

 入ってみたら映画オタクみたいな人は、想像していたよりも少ない印象でした。もっといろんな人と関わりたいなと思い、「珈琲(コーヒー)研究会」という部活動に入りました。放送学科や文芸学科など、他の学科の友人は、この珈琲研究会で出会った人がほとんどです。

 大学での作品制作の際にも、そのつながりで一緒に作品をつくって、卒業した今でも交流が続いていますし、映像制作のために話を聞くこともあります。

バイトしながら 短編映画づくり

——大学卒業後、数年を経て映像制作会社へ。

 最初は就活をしてテレビ制作会社に入社したのですが、情報バラエティー番組の制作が主で、合わなくて1カ月で辞めました。そこからは、アルバイトをしながら自主制作の短編映画をつくっていました。

 ノアドに入社したきっかけは、私が入選した京都国際映画祭です。ノアドの社長が審査員をやっていて、私の名前を覚えてくれていて。映画祭とは別の行事で再会したときに声をかけてくれました。ノアドに入ってからは、一人でではなく、チームで制作する機会が増えましたね。

 映画・映像のディレクションに加えてドラマ、広告……ここ最近だとVR、MV、2.5次元舞台のプロジェクションマッピングなど、いろんな映像作品に関わっています。次々に新しいものが降ってくる環境なので、やりがいがありますし、VRなど新しいことをゼロからやっていくのはチャレンジングだなと感じます。

——人生を振り返って、転機だったと思うことは。

 転機は、大きく四つあります。

 一つ目は、初めてジブリ作品の『天空の城ラピュタ』を見たときで、物語の面白さを教えてもらいました。

 二つ目は大学受験。大学に行っていなかったら今の進路に至っていないと思うので、道が定まったポイントかなと思います。

 三つ目は数年前に家族が大きな病気にかかったのを知ったとき。自分の生き方を深く考える機会になりました。

 四つ目は監督を務めた新作の『マイライフ、ママライフ』が、第14回田辺・弁慶映画祭で観客賞をもらったことです。お客さんにきちんと作品が届いた、という感動がありました。

半径5メートル 抜け出さないと

——ご自身の性別や年齢は、キャリアにどう影響していますか。

 いろんな業界で、女性が取り上げられることがすごく多い。一方で、実際に活躍している女性や、ちゃんと評価されている女性が少ないからこそ、失敗したときに「やっぱり女性ってだめだよね」とひとくくりにされてしまうというのは課題だなと感じます。

 映像制作を始めた頃は、大作メジャー作品とインディーズ作品の間の壁が厚いと感じていたのですが、全国公開された『カメラを止めるな!』をきっかけに、インディーズの作品にも光が当たるようになってきたと感じます。

 インディーズの作品や若い人の作品は「半径5メートルの物語が多い」と言われることがあります。身近なテーマ自体は悪くないのですが、物語の世界観が狭い範囲に終始しがちなので、大きな予算がついたり大御所のクリエイターの方とお仕事する機会を得たりしたときに、そのスケールに物語が釣り合わない場合も出てくる気がしています。私たちクリエーターは何のために物語を撮っているのか。20代、30代の若い人たちからも、10年、20年、あるいは100年先を見つめた物語を撮れる人がもっと出てこなければいけないかなと思っています。

130年後 人間は生きているか?

——ご自身の将来に、どのようなビジョンを持っていますか。

 一生映画を撮っていたいなと思います。ただ、ここ10年は「今、この瞬間」に集中して生きてきたので、自分の人生についてはノープランです。人生の先でどういう映画を撮りたいか、どういう世界に生きていたいかというのは考えているので、それを少しずつ形にできたらなと思っています。

 作品としては、いつか130年後くらいの地球の話を撮りたい。あくまでもフィクションですけど、人類が地下に住んでいて、その理由を掘り起こしていくような作品。ディストピアの後に成り立つユートピアというようなイメージです。

 130年後って、そもそも人間は生きているのだろうか、住んでいる場所も我々と全く違うのではないか、でも人類としてつながっているという点では家族みたいな感覚もあって。そういう彼らがどうしたら楽しく幸せに生きていけるかということを考えるのが今は楽しい。また、それを楽しんで見てくれる誰かがいたらいいなと思っています。

 また、海外ではさまざまな人種の方をキャスティングする作品が増えていますが、日本ではまだまだ。10年後には、もっと多様な人々が出演したり、他国籍の人が主役を演じたりするような作品もできたらいいなと思っています。

人生を変える 物語をつくる

——「世界を変えるきっかけになるものづくりをしたい」と、過去のインタビューで語っていました。

 キーワードは「物語」です。映像に限らず、本でも映画でも人との出会いでも、人生が変わったり世界の見え方が変わったりすることって、何かしらあるんですよね。そういう、それまで見えていなかった世界とか考え方をそっと教えて、気づかせてくれるものに映画がなったらいいなと思っています。

 私は物語を考えるとき、常に「それはおかしいんじゃないか」という違和感というか、静かな尖(とが)った視線を持っていて、それが誰かの世界や目線を変える上で必要だなと思うので、これをうまく伝えられるようになりたいと思っています。

——思い描く10年後の日本を教えてください。

 2030年よりもっと後になってしまうかもしれませんが、国境というものがとけて「宇宙船地球号」のように、一つの球体に乗っかっている人類として、もうちょっとよく機能したらうれしいなと思っています。

 映像作品は教育的な面でも寄与できるんじゃないかと考えていて、それこそNHKのEテレよりもっと広いところに向けた教育映画みたいなもの、エデュ・エンタ的な要素を掘り下げていけたらいいなと思っています。

 ジブリアニメも、宮崎駿さんの思想が強いですよね。そういうふうに、これからも映像にメッセージ性を込めていきたいです。

エンタメを超える 映像の力
岸峰祐(DIALOG学生部)

 映画をほとんど見ない私は、映画をエンターテインメントだと捉えていました。だからこそ、過去のインタビュー記事にあった亀山さんの「世界を変えるきっかけになるものづくりをしたい」という言葉が引っかかって、今回のインタビューの質問に織り交ぜました。

 インタビューを終えて感じたのは、映像には社会を変えていく力があるということです。

 映像をつくる人々が持つ社会への違和感が視覚を通して伝わり、観客の視点や思考が変わっていく。映像を見ることは受動的な行為のようで、実際には観客の心に影響を与え、行動や社会にまで変化をもたらしていく可能性にあふれた行為なのだと学びました。

 私たちが映像を見ない日はありません。一方で、深く考えずに、ただ消費するだけの観賞の時間が長くなっている気もします。

 新しい情報を得た上で、それをきっかけに考え、行動に移していく。そうなって初めて、映像により大きな価値が生まれるのではないでしょうか。


亀山睦実(かめやま・むつみ)

 1989年生まれ、東京都葛飾区出身。幼少期から映像制作に興味を持ち、日本大学芸術学部映画学科監督コースに入学。卒業後は、短編映画を自主制作。2016年に映像制作会社ノアドに入社。映画の監督・脚本や、CM・TV・MV・2.5次元舞台のマッピング映像演出など、さまざまな映像作品を手がける。2020年11月、第14回田辺・弁慶映画祭で映画『マイライフ、ママライフ』が観客賞を受賞。主な映画・ドラマ作品として、『ゆきおんなの夏』『追いかけてキス』『12ヶ月のカイ』など。

pagetop