全世代でイノベーション! 若手100人の提言に未来を見た杉山実優さん×DIALOG学生部:朝日新聞DIALOG
2021/04/26

全世代でイノベーション! 若手100人の提言に未来を見た
杉山実優さん×DIALOG学生部

By 鈴木優香(DIALOG学生部)

 「政治なんて若者には縁遠い話だよなあ」「政策って、おじさんばっかで決めてるんでしょ」なんて思ったことはありませんか?

 世の中を動かす国の決定や、組織が決めることに、20代、30代の声が届かない、若手の意見が入っていない——。そんな現状を変えようとする若い「官僚」がいました。リクルートキャリア(現リクルート)から経済産業省に出向した杉山実優さん(26)。主に平成生まれの官民の若手100人以上を集めて「官民若手イノベーション論ELPIS(エルピス)」として未来について議論し、「企業・大学・官庁の若手が描く未来のたたき台」と題した報告書を取りまとめたのです。

ベテランと若手の溝 埋めるため

 ベテラン「最近の若手が何を考えているか分からない」

 若手「自分の考えが上司の理解を得られない」

 報告書では、こうしたベテランと若手の溝について、価値観のズレを直すことから提案します。ベテランの長年の経験に基づく知恵と、「まずはやってみる」という若手の機敏性・発想力・実行力を掛け合わせて「全世代型イノベーション」を起こそう、というのです。

共有するべき価値観 五つの変化

 それでは、共有するべき価値観とはどのようなものでしょうか。未来に向けた変化として、報告書は次の5分野を挙げました。

【コミュニティ】フォルダ型(所属組織の肩書) ▶ ハッシュタグ型(プロジェクトベース)
 組織への帰属意識から、組織の壁を越えたプロジェクトや自分の関心への帰属意識が主流になっていきます。SNSのハッシュタグ「#」のように、自分と同じ思いの人とつながっていきます。個人が気軽に「#」を付け足して新たな挑戦をすることで、一人ひとりが社会を動かす力になっていきます。

【マインドセット】取得・所有 ▶ 貢献・共有
 これまでは取得・所有することが「幸せ」でした。しかし、これからはモノも情報も共有することが主流となります。マイカーではなくカーシェアを利用する。寄付に協力する。また、終身雇用でずっと一つの会社にいるだけではなく、ボランティアや副業、兼業によって活躍の場が増えていきます。

【研究】真理探究志向の研究 ▶ 社会変化までの研究
 従来の研究は社会との距離が遠く、「よくわからない」「難しそう」といったイメージでした。しかし、これからは社会と接点を持った研究が未来社会をつくっていきます。人や予算、知識を研究者の周りにとどめるのではなく、大学や行政、企業を巻き込み、循環させることが求められます。

【ビジネス】機能性 ▶ ストーリー性
 従来、プロダクト(商品)やサービスは「いかに便利になるか」が重要でした。新しい機能や利点、効率性——。それらが価格によって表されました。しかし、今はSNSなどで自分が手にしたものや体験への感想を気軽に発信でき、ストーリーや体験への共感が、価値を生む時代になるのです。

【社会】経済大国 ▶ 持続可能な社会
 これまではGDPをはじめとする経済指標が、他国と比べた日本の位置を示す指標でした。しかし、いまは「経済大国」であればいい、というものではありません。目指すべきは「持続可能な社会」。気候変動や人口減少、パンデミック——。社会の持続性を保つため、国を超えた協調が求められています。

 こうした価値観の変化を踏まえて、報告書は「未来の実現に向けて動いていること」「未来へのネクストステップ」へと続きます。でも、具体的に何に取り組むのか、事細かに記されているわけではありません。

 どんな人や組織と手を組み、何をするのか。それは、私たちの手に委ねられているのかもしれません。

杉山実優(すぎやま・みゆう)2017年、株式会社リクルートキャリア入社。新卒採用・社内人事を担当した後、2019年に経済産業省へ出向。産学連携における人材育成支援に取り組む。「官民若手イノベーション論ELPIS」を立ち上げ・運営。産業構造審議会研究開発・イノベーション小委員会の下に2020年4月に新設された「若手ワーキンググループ」事務局。2021年、リクルートに帰任。

なぜ提言? どう実現? 杉山さんに聞きました

 DIALOG学生部は、杉山さんを招いてディスカッションをしました。この提言のきっかけは。どう実現させていくのか。杉山さんに聞きました。

——ELPISはどんな団体で、杉山さんはどんな活動をしましたか。

 経産省で「若手こそ未来を考えて議論し、政策に若手の視点を届けていこう」と活動をしている団体です。最初は、企業、大学、スタートアップなどにいる平成生まれの人たちを集め、科学技術イノベーション政策を読んでもらって意見を聞きました。それを取りまとめて、経産省内で提示したんです。その結果、継続的に若手の声を聞く取り組みが必要だと上層部に認めてもらうことができたので、ELPISを立ち上げました。

 2020年4月に提言書を取りまとめると、それを目に留めた経産省の副大臣が「面白い」と言ってくれたんです。ちょうど2020年4月からは正式な会議として、有識者会議の下に若手のワーキンググループを立ち上げることが決まっていました。副大臣は興味を持って陪席してくださり、「歴史的な会合」と応援してくださいました。

 若手ワーキンググループでは、企業、大学、官庁などの若手が科学技術イノベーションを通じてどのような未来を作りたいのかを議論し、具体的な政策提言につなげる場となっています。その議論の方向性づくりや議論の取りまとめを、私が担ってきました。

「失われた30年 若手に失礼では」

——この取り組みのきっかけは。また、どのように省内で動いたのですか。

 この報告書を出した研究開発・イノベーション小委員会という有識者会議では当時、「失われた30年」をベースに話をしていました。その会議の中で「『失われた30年』という表現は若手に失礼なのではないか」と言ってくださる大学の先生がいたんです。

 当時、私は経産省に出向して2カ月くらい。この発言を聞き、自分が政策に対して抱いていた違和感が、世代間の価値観の違いにも関係するのではないか、と思いました。そして自分と同世代の人たちと政策の議論をしてみよう、と思ったのが最初です。

——官僚組織は動かすのが大変なイメージがあります。そんなに、すぐできるものなんですね。

 委員会での発言を局長なども聞いていたこともあり、この考えを上司に相談した際も、後押ししていただけました。たまたま理解があるというか、「やってみなよ」と言ってくださる方がいたのは、恵まれていたと思います。

社員であり親であり…自分である

——提言の中で、思い入れのある部分はありますか。

 やはりハッシュタグ型のところでしょうか。いろんな組織の見方やいろんな人の価値観を知って、自分の中に多様な軸を持ち、多様な関係者とつながることで、一歩進められる部分や挑戦できる部分は常に増えていくのかなと思っています。兼業については「貢献・共有」のページにも書いていますが、これも自分の枠から一歩踏み出すことなんですよね。

 これからは、いろんな顔を持っている自分を受け入れていく。企業に所属していても、家に帰ればお父さんやお母さん。会社ではその顔を忘れて仕事をしていますが、それも含めて本当の自分です。だからこそ、いろんな顔を自分の中で持ち続けるのは、自律や共生につながる重要な概念なのではないかと思います。

いま200人 どんどん広げてハッシュタグ化

——提言だけで終わらせず、どのように実現しますか。

 ELPISはその後も活動していて、提言に興味を持ってくれた方をコミュニティー化しています。この提言は約100人で議論した結果として取りまとめましたが、今は200人以上に増えています。

 最近の活動では、30人から80人くらいをZoomで集めて、この提言をどのように自分事化していくのかを議論しています。また最新の科学技術イノベーション政策について議論した回もありました。産学官の様々な立場で挑戦している人たちが集まると、議論の中で自然とお互いに触発されていきます。自分の組織ではどんなことができるだろうかと、挑戦の種火を持ち帰ってもらえるような場をつくり続けています。

 この取り組みは2021年度以降も続けようとしています。挑戦している人たちのコミュニティがどんどん広がって、ハッシュタグ化ができたらいいな、と考えています。

大企業に入っても 染まり切らずに

——就活でも、大学生は大企業志向が強い。大企業は得てして旧来型で、杉山さんの言うマルチトラック(複線的)な生き方とは違うと思います。どうしたら変わるでしょうか。

 私は、最初に大企業に入ること自体が悪いことだとは思っていません。大企業に入っても、染まり切らないことが大事なのではないでしょうか。

 大企業は大企業の価値観を持っていますし、今までの経験や知見がたまっているはずです。それはそれとしてうまく利用しつつ、兼業などでいろんなコミュニティーに入ることによって、その価値観だけが全てではないと知り続けること、自分をアップデートし続けることが大事なのではないでしょうか。

 ベンチャーに挑戦してみたらいいのではないか?という考えに流れがちですが、ベンチャーも最終的には大きくなりたいはずです。大企業がどうやって動いているのかを知っておくことは、将来ベンチャーに挑戦してみたいと思ったときにも、すごく役立つと思います。

私たちの声を代弁 ワクワク
鈴木優香(DIALOG学生部)

 Made by(誰がつくるか)の時代は終わり、Made with(誰とつくるか)の時代になっていく——。

 ELPISの報告書の冒頭に出てくる言葉が、とても印象的でした。長引くコロナ禍に混迷を深める今だからこそ、「未来」を全世代の一人ひとりが考えることが求められているのではないでしょうか。

 未来についての議論には「これから」を担っていく世代の声が必要である。考えてみれば、わざわざ声に出して言うこともないくらい大切で当たり前のことです。しかし現代、旧態依然とした体制が色濃く残る社会に生きる私たち若者は、自分たちの未来のためにアクションを起こすことを諦めてしまったり、そもそも考えたことがなかったり、という人が多いのではないでしょうか。

 そんな中、一歩踏み出し、私たちの思いを代弁してくれているようなこの報告書は、とても刺激的で、未来に希望を持たせてくれるものでした。行政のものとは思えないくらいポップで、読みやすく分かりやすいこの報告書にはワクワクするような内容が詰まっています。

 令和に入り、平成の「失われた30年」を乗り越えようと、様々な場所で再検討がなされています。しかし、その渦中に生まれ育ってきた私たちにとって、その30年は「失われた」ものではありません。過去にとらわれるのではなく、未来の当事者としてこれからの社会を見据えている若者がたくさんいます。

 報告書に盛り込まれた価値観の変化が世代を超えて浸透すれば、個人が社会に直接的にコミットしたり、アクションを起こしたりしやすくなると感じました。

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