街に描く「女性のヒーロー」 みんなの幸せのためにアーティスト・KATHMIさん×DIALOG学生部:朝日新聞DIALOG
2021/06/04

街に描く「女性のヒーロー」 みんなの幸せのために
アーティスト・KATHMIさん×DIALOG学生部

By 徳田美妃(DIALOG学生部)

 壁一面に描かれた、女性の顔。見る人へ大きなインパクトを与えます。女性は目をつむって、何を考えているのでしょうか——。

 こちらの絵を描いたのは、ウォールアートなど壁画制作を中心に活動するアーティスト、KATHMI(かすみ)さん(27)です! 若いイノベーターと語り合うDIALOG学生部のイノベーターセッション、第2回目のゲストとして招きました。

 私は大学で音楽を専攻していますが、音楽で食べていけるか悩んだ時期がありました。また、コロナ禍では演奏会が中止になり困窮しているアーティストも少なくありません。KATHMIさんは独自の感性を作品で表現し、ビジネスとしても成り立たせています。そんなKATHMIさんのアートにかける思いをうかがいました。

 インタビューは、KATHMIさんがウォールアートを担当した都内のシェアオフィス「A YOTSUYA」の一室で行いました。DIALOG学生部のメンバー2人がインタビューし、私を含めた他のメンバーがオンラインで参加しました。(※写真撮影時のみマスクを外しています)

アート? 芸術? 辞書を開くと

——ウォールアートについて教えてください。

KATHMI 壁に絵を描くことは、いろいろな国で昔からあります。日本でも伝統的に、寺院や武家屋敷の襖(ふすま)や壁面には絵がちりばめられていました。障壁画といいますが、広い意味でウォールアートの一種です。現代で一番有名なのは、ニューヨークのストリートアートからインスパイア(触発)されたウォールアートです。

——「アート」と「芸術」って……。

KATHMI 国語辞典で「芸術」をひくと「アート」って書いてあることがあって、「アートとは何だろう」と悩んでしまう方も多いかと思います。早く国語辞典に変わってほしいんですが……。「芸術」っていうと、絵画や彫刻が思い浮かんで、高尚なものという印象があります。でも、アートは「人間が創造するすべて」だと私は解釈しています。だから、ダンスも演劇もアートなんです。

——どんな作品を描いていますか。

KATHMI 基本的には制作を依頼され、企業の理念や飲食店のコンセプトをくみ取ってビジュアル化します。お題を受けて答える大喜利のように提案していくんです。

——表現方法としてウォールアートを選んでいる理由は何ですか。

KATHMI 人とコミュニケーションをとることが好きなのと、ウォールアートを見ることそのものが好きだからです。ウォールアートは公共空間にあるので、生活の中で気軽に見てもらえることに魅力を感じています。一部の人にしか見てもらえない美術館や展覧会とは異なります。幼いころからアートが身近にあると、心が解放されると思っていて、その意味でもウォールアートに取り組んでいます。

 海外では住民の間で言語が通じない国もあるので、ビジュアルに特化したコミュニケーションが発達しています。特にアメリカやヨーロッパですね。言葉を介さないでビジュアルで意思疎通する表現にひかれています。

KATHMIさんの制作風景=©Symmetry Dimensions Inc.(元DVERSE)

多様性にあふれた家 作品に反映

——女性を描いた作品が多いようですね。

KATHMI 私は福岡で育ったのですが、きょうだい7人のうち6人が女性でした。母子家庭だったので、女性に囲まれて育ったことが影響していると思います。また、母親が3回結婚していたり、アメリカ人と結婚したきょうだいがいたりもします。家族の職業も自営業だったり、警察官だったり……まるでニューヨークのように多様な考え方にあふれた家になっていました。

——「強い女性」が描かれていると感じます。

KATHMI 身近に暮らす人たち、母親や姉妹のストーリーが無意識的に反映されているんじゃないかな。結婚や離婚、出産など、女性ならではの出来事がいっぱいあった。それを乗り越えるというか、生命力の強い、かっこいい女性に対する憧れがありました。

——誰かを思い浮かべて描いていますか。

KATHMI 特定の答えは、ないですね。インスパイアに近いです。絵は頭で考えると描けなくなります。夢に落ちるような感覚、フロー状態で描くほうがうまく表現できて、最適解にたどり着くことがよくあります。スポーツと同じように、全身の筋肉を連動させている感じです。あえて言うと、鳥肌が立つなど感覚的な部分で共鳴するようなことを意識しています。描く場所、目で見る情報、人相、顔、装い、気候などすべての情報を頭に入れて、その場の最適解を考えています。

——作品に込めている思いはありますか。

KATHMI 「女性のヒーロー」が頭にあります。ヒーローの女性形はヒロインです。そうではなく、ヒロインは守られる立場として描写されることが多いですが、みんなのために能動的に動き、胸を張って堂々としている女性を意識しています。自立しながらも優しさがあり、あたたかい印象を与えるような姿も思い描いています。

VRでも制作 無限のキャンバス

——ウォールアート以外ではどのような活動をしていますか。

KATHMI パソコンやiPadで描く活動が中心です。VR(バーチャルリアリティー、仮想現実)の活動にも取り組んでいます。ウォールアートもそうですが、もともと大きな空間に描いて、その絵の中に没入することが好きです。VRは無限のキャンバスのような感覚です。サイズが固定されたキャンバスとは違って、拡大縮小も簡単にできるので、まさに神の手のような……例えれば、歯ブラシと(歯磨き粉の)チューブで描いた画像を宇宙空間に漂わせる感覚です。

——絵を売ることを意識していますか。

KATHMI まず日本では、まだ絵をアーティスト自身が「売りたい」と思って売る行為に対して、肯定的でない雰囲気があると思います。それでも私はアーティストとして生きていくためのビジネスラインを自分なりに探しています。どのようにして絵を売って食べていくかは日々意識して活動しています。

——商業的に成功するための戦略はありますか。

KATHMI 戦略は特にありません。高校生のときにブログで自分の好きなことを書き、絵を投稿し続けていました。そのなかで、絵のオーダー(注文)を得られることがあり、純粋に表現した気持ちがお金になる体験がありました。そのときに、自分のしたいことと、お客さんの幸せがつながることを意識しました。お客さんのことを考えたうえで、後からビジネスマインドもついてきた感じです。人の「欲しい」に寄り添って作品制作しています。

絵で生きる 目覚めた高校時代

——高校生のころからアーティストを目指していたのですか。

KATHMI 高校は、なぜか美術の教科がない学校の進学コースに進みました。絵は小さい頃から得意だったのですが、周りから「(絵では)食べていけない」と言われていたので、勉強しようと思っていました。でも成績が下がり、夜9時まで学校に残されました。そうするとバイトができないので、なんとか稼がなくちゃいけない。ブログで絵のオーダーが入ってからは、家で朝まで描いて、授業中は寝ているという生活でした。「絵で食べられるんじゃないか?」という希望と、「絵では食べられない」という言葉の狭間で泣きながら描いていました。

 高校3年のとき、担任の教師が私の尋常じゃない画力に気づいてくれたので、地元の大学の商業デザイン学科に進むことになりました。ダンスや演劇も好きだったけれど、お金を稼ぎながら生きるには、私の場合、絵かな、と。

路地裏をギャラリーに 地方創生

——ウォールアートを始めたきっかけは何ですか。

KATHMI 19歳のとき、福岡市の大名という地区全体をアートギャラリーにすることに、青年会議所が取り組みました。私を含めて7人のアーティストが選ばれたのですが、私は路地裏の壁面に横幅20メートルのウォールアートを描きました。その後、その路地裏が活性化したそうで、改めてアートが地方を創生する可能性があることを感じました。でも、なんでも自由に描いてはうまく機能しません。アートプロジェクトの趣旨をきちんと把握して、方向性を定めてアーティストを選ぶアートキュレーターの存在が非常に大事です。

——日本にはアートキュレーターは少ないのですか。

KATHMI キュレーターが少ないだけでなく、アーティストが活動できる環境が整っていないのが現状だと思います。例えるならば、サッカー選手は日本中に飽和しているけれど、プロとしてプレーできるサッカーリーグがない状態です。

 キュレーターだけでなく、国連のSDGs(持続可能な開発目標)やこれからの時代を見つめられる、視野の広い善意あるビジネスマインドを持つ他分野の人が、アーティストと企業や行政、観客との間に立ってほしいと思います。アーティストは独特の感性を持っているので、その感性を守り、アーティストの気持ちをくみ取ってくれる人に関わってほしいですね。それが、アートを人びとにとって身近な存在にすることにつながります。

A YOTSUYAの別の部屋にもKATHMIさんの作品がある=A YOTSUYA提供

弱い立場の人のため これからも

——今後の展望を教えてください。

KATHMI 絵を描くために自分を深掘りしています。「何をしていきたいのか?」を常に考えて、弱い立場の人が生きやすい世の中になることに貢献していきたいと思っています。地方の母子家庭で育ち、周りに困難を抱えている人も多く見てきた経験が影響しています。

 ただ、自分を深掘りして一人で内省していると、たいてい心を病んで、闇に落ちてしまいます。なので、自分の好きなヒーローや、松岡修造さんのようなポジティブな人を頭において、「壁打ち」することをお勧めします(笑)。

——夢は何ですか。

KATHMI 二つあります。一つ目は、困って泣いている人がいない世の中にしたい。この問題を、アートで解決できるとうれしいです。二つ目は、アーティストとして大成するために、ビジネスマインドを持って活動を大きくしていきたいです。

 私はいま27歳ですが、周囲を見ると、女性のアーティストが出産や育児でアートを諦めることが多い。育児とアートをどう両立させて、事業を成長させるかが課題です。私自身、省エネで自分の表現の生産性を「爆上げ」していきたい。

——学生へのメッセージをお願いします。

KATHMI 若い世代の人にも、これまでの人生で一番時間とお金を費やしたものがあると思います。テレビやゲーム、漫画、雑誌、人と会話する時間、家族のなかでの役割などです。それを抽象化していくと、やりたいことが見えてくると思います。他人から「くだらない」と言われてしまうものでも、自分が無意識に没頭したことは非常に重要な時間であり、より深掘りしていくべきだと思います。

パブリックな空間 アートが潤す
徳田美妃(DIALOG学生部)

 アートと聞いて、何を思い浮かべるでしょうか?

 音楽専攻の私は、ウォールアートのお話を聞きながら、ストリートピアノを思い浮かべました。パブリックな空間で、不特定多数の人に印象を与えられる点が似ています。一方で、描いた作品は時間に関係なく存在し続けますが、ストリートで奏でられる音楽は一過性です。その違いに気づくことができ、音楽と絵画、それぞれのアートのよさも感じました。

 コロナ禍では、アーティストの活動の幅が狭まり、美術館や博物館、演奏会などは大きく制限されています。しかし、パブリックな空間にあるアートは、このような状況でも触れられます。その魅力を肌で感じてみたい、と思いました。

 アートとビジネスの両立も、音楽で食べていけるか悩んだ時期もあった私にとって、純粋に気になる部分でした。

 さまざまなことにアンテナを張り、新たな可能性を見つけ、みんなの幸せにつなげていく感受性——。KATHMIさんの、アートで生きる覚悟をひしひしと感じながらも、面白い言葉のチョイスに楽しませてもらったインタビューでした。


KATHMI

 1993年、福岡県生まれ。壁画制作やイベントやライブペイント出演、個人クライアントなどから絵画制作。また、デザイン領域にてロゴや紙媒体のDTP・Webやプロダクト制作を受注。2012年、九州産業大学芸術学部デザイン科入学。 2015年度から武蔵野美術大学視覚伝達デザインに編入、中退して2016年グラフィックデザイン制作会社EMOGRA.inc設立。

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