好きにひたむき 仕事も住まいも、一つじゃなくていい小林未歩さん×DIALOG学生部:朝日新聞DIALOG
2021/06/20

好きにひたむき 仕事も住まいも、一つじゃなくていい
小林未歩さん×DIALOG学生部

By 杉山日菜子(DIALOG学生部)

 パラレルワーク(複業)という言葉を聞いたことがありますか。副業(ダブルワーク)とは違い、パラレルワークとは、一つの仕事を本業ととらえず、すべての仕事や活動に本業と同じように取り組むワークスタイルのことを言うそうです。

 今回のイノベーターセッションに招いたのは、主にホテルの企画やプランニング、まちづくりなど四つの仕事を手がける小林未歩さん(29)。コロナ禍で、住まいを一つに定めない多拠点生活も始めました。

 仕事をする原動力や、多拠点生活を始めたきっかけは——。インタビュアーを、保浦真美香(DIALOG学生部)が務めます。

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こばやし・みほ 新卒でクックパッドに入社、その後スマイルズへ転職。現在は温故知新の社長室でホテルのプロデュース業務を行い、企画を担当。そのほか、フリーランスで熱海の老舗ホテル「ホテルニューアカオ」の観光マーケティング、宮崎県都農町のまちづくりに携わる。「ホテル・観光・地方」をテーマに活動中。(写真はすべて小林さん提供)

ホテル・まちづくり…四つの「顔」

——小林さんの現在のワークスタイルを教えてください。

 主に四つの仕事をしています。一つ目は、温故知新という会社。二つ目は、熱海のホテルニューアカオ。三つ目が、宮崎県都農町のまちづくり。四つ目が、ライターや地域の観光開発です。ボリュームとして最も大きいのが温故知新の仕事で、週3、4日、正社員として働いています。

——温故知新は何をしている会社ですか。

 ホテルの運営とプロデュースをする会社です。いま運営しているホテルは3カ所で、箱根と長崎と愛媛にあります。もともとあった旅館の事業継承をしたり、遊休施設を再利用してホテルとして運営したり、新規のホテルを、いちからつくったりもします。

——温故知新での、小林さんの役割は何ですか。

 ホテルの企画とプランニングです。現地に行き、新しいホテルの企画をゼロから考えたり、ブランディングの方向性や、どういうコンテンツがあると良いかなどを考えて形にしたりしています。インテリアや備品類のことを考えることもあり、ホテルにまつわることは幅広くやります。

【外部リンク】温故知新のHPを見る

競輪ホテル?! いちから勉強

——どんなジャンルのホテルを企画するのが得意ですか。

 得意・不得意はありますが、どんなジャンルのホテルの企画でもやることを心がけています。というのも、温故知新の事業は、一貫した考え方があるんです。例えば「目的地になる宿づくり」「一つひとつカスタマイズし唯一無二の宿をつくる」「地域のショーケースであること」「とがったコンセプトの宿をつくる」「既視感のあることはやらない」「一つひとつの地域に向き合った宿をつくる」。そのうえで、自分の知識を生かして企画をします。

 現在、競輪をコンセプトにしたホテルの企画に携わっています。「競輪に詳しくないからできない」とは言えないですし、むしろ、知らない世界に飛び込んでいくチャンスをもらったと思い、楽しんでやっています。いちから競輪のルールや歴史を勉強することからはじめました。

面倒くさい だからよい

——温故知新は「数値計画は常に控えめ」だそうですね。

 会社として収益を産み続けなければならないので、きちんと数値計画はあります。ただ、大げさなことを言わずに、実直にひとつの地域や宿と向き合い、成果を出し続ける会社だと感じています。また、重要なのは効率性だけを重視している会社では全くない、ということかと思います。

——効率化をしない理由は何ですか。

「唯一無二の宿をつくる」や「その地域一つひとつに向き合う」という、効率性だけでは実現できないことをやっているからです。

 会社のことを語るとき、社長は「面倒くさいことをしている会社です」と紹介します。どんどん効率化して、お金を稼ぐ仕組みをつくって……という選択肢もあると思います。しかし、それでは本質的な価値がつくれない。温故知新のユニークなところは、個々のホテルの価値を磨くことで、付加価値の高い宿をつくり出すことだと考えています。「一つひとつ、面倒くさいことをやります」というのが、うちの会社らしさですね。

——温故知新という会社名にも、考え方が表れています。

 そうですね。入社当初は、「温故知新の小林です」と名乗るのが少しだけ気恥ずかしかった。すごくストレートな名前なので。いまは、それを体現し、実践している会社だと強く感じているので、誇らしい名前だと思いながら働いています。

グッズ開発 エコイベントも

——熱海のホテルニューアカオでは、どのような企画を行っていますか。

 SNSでの発信や、ニューアカオの魅力を伝えるためのグッズ作り、その他イベントの企画や、観光コンテンツの開発などを現地の方たちと一緒になって推進しています。ニューアカオを知ってもらい、「行きたい」と思ってもらうためです。

——オリジナルグッズを作っているそうですね。

 緊急事態宣言下で現地に来てもらうことは難しいので、グッズを通して、アカオの存在そのものを知ってもらいたいからです。クリエーターとコラボして、レトロなテイストのオリジナルグッズを開発しました。

——エコツーリズムの観点から企画されたことはありますか。

 今年、アカオハーブ&ローズガーデンで行った企画で、リサイクル瓶の新しい活用法を提案しました。協業した熱海ふれあい作業所は、障がい者の方に働いてもらい、使用済みの瓶を回収・洗浄し、販売する事業をしています。その瓶を買い取り、イベントで販売したり、ディスプレーで使用したりしたんです。

 自然を大切にしないと成り立たない観光コンテンツを扱っているからこそ、自然を生かそうという気持ちが一人ひとりの心の中にあると思います。

宮崎と東京 料理でつなぐ

——宮崎県のイツノマでの仕事についても、教えてください。

 イツノマという会社は、宮崎県の都農町のまちづくり全般を担っています。地域の情報発信のほか、コミュニティースペースをつくって運営したり、高齢者にタブレットの使い方を教えたりもしています。

——小林さんの役割は何ですか。

 都農町の食の価値をブラッシュアップして伝えたり、まちの魅力を再発見したりすることです。コロナの影響で、現在はオンラインを中心に関わっています。

——具体的にはどんなことをしていますか。

 東京で活動する料理家の方と、オンラインの料理教室を毎月開催しています。参加者は都農町の食材を取り寄せることができ、農家直送の新鮮な野菜が開催日の前の日に届きます。都農町の人は、食材を喜んでもらえたり、感動してもらえたりすることを通して、都農町の食材のおいしさに改めて気がつくことができます。

——まちの人が、自ら魅力に気づくことは難しいのですか。

 おいしい野菜を毎日食べていると、当たり前になってしまいます。でも、東京の人からすると「こんなにおいしい野菜、なかなか食べられないですよ」ということがよくあるんです。なので「当たり前の再発見」を外の人と一緒にできるようにしていくことが私の役割です。

「ただいま」の場所 いくつも

——多拠点生活を始めたきっかけは何ですか。

 自分の経験に投資したい、と思ったからです。会社に近いという理由で、東京の目黒区に住んでいましたが、コロナ禍でリモートワークになって、家とスーパーの往復しかしなくなりました。そこで家賃を自分の経験に回したいと思ったのと、ちょうど多拠点生活をしやすいサービスや仕組みができていたので、やってみようと思いました。

——アドレスホッピング(引っ越し生活)ではなく、多拠点生活を選んだ理由は何ですか。

 人見知りなので、初めて行くところは疲れてしまいます。毎回「はじめまして」ではなく、「ただいま」と帰れる場所、何度も通える場所を増やそうと思いました。

新卒でクックパッド そして観光

——観光のお仕事をずっとされてきたのですか。

 最初は食に関する仕事をしていました。新卒でクックパッドに入社し、3年目に、スープストックトーキョーなどを手がけるスマイルズという会社に転職しました。

 実は、クックパッドで働いていた時から静岡県で観光マーケティングの仕事もしていました。そこで、観光の魅力に気づき、観光にフォーカスしていきました。

——小林さんにとって働く意味は何ですか。

 好きなものを守るために働いています。地域や観光、ホテル……どれも、なくなったらすごく悲しい。クックパッドを選んだ理由もそうでした。「クックパッドがなくなったら困るので入りたいです」と面接で言った記憶があります。

住む人も観光客も ハッピーに

——仕事をするうえで大事にしていることは何ですか。

「自分がその土地の一番のファンであること」は絶対、大事にしたいです。好きな人のためなら、がんばれますよね。それと一緒だと思います。お金のためだけではありません。

——小林さんが考える、これからの観光業界の展望を教えてください。

 私がこれからやっていかないといけないと思っていることを話します。一つ目が「ラグジュアリー」を再定義し、アップデートすること。二つ目がインタラクティブ(対話型)な観光です。

 コロナ前は、オーバーツーリズム(観光過剰)によって、観光地の環境や住民の暮らしが脅かされていました。コロナを機に「もう観光客を受け入れたくない」となったところも世界的に少なくありません。

 数や量だけを追い求めていた観光が、見直されつつあります。いかに丁寧に、その土地の魅力を味わってもらうか。「質」の良い観光体験、それにはラグジュアリーの再定義が必要だと考えています。

 観光で経済的に潤っても、日常の暮らしや環境が破壊されれば地域の人は幸せではなくなってしまいます。地域の人が幸せでなければ、観光は全く意味がない。だから、観光客と地域の相互の努力や理解がとても重要なんです。

 感動や喜びを分かち合える人を地域に呼び込む。それが、地域も観光客もハッピーな観光につながっていくと思います。

旅人たち この場所で、ときめく
杉山日菜子(DIALOG学生部)

「当たり前の再発見」のお話にとても共感しました。私は父の転勤で、釧路、沼津に3年間ずつ、留学で、ニュージーランドに1年間住んだことがあります。その間、おいしい食材や景色を存分に楽しみました。「ここは田舎で、何もない」と地元の友人が言うたびに、「魅力がたくさんある場所なのに!」と思っていたんです。まさに外から来た人間だからこそ気づいたことでした。

 いまは東京に住んで10年ほどになり、ずっと住んでいるからこそ知っているお店やまちの魅力もありますが、「東京、飽きたな」と感じることもあります。長年住んでいる場所にときめきを感じ続けることの難しさを感じます。インタラクティブな観光を通して、旅人と地域の人がお互いのまちの魅力を共有できたら楽しいなと思いながらお話を聞いていました。

 今はコロナ禍で旅行をすることが難しいですが、いつか小林さんが手がけるホテルに泊まってみたいです。

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