すぐそばの幸せを撮る 愛があふれる世界のために駒下純兵さん:朝日新聞DIALOG
2021/07/08

すぐそばの幸せを撮る 愛があふれる世界のために
駒下純兵さん

 幸せな瞬間を、もっと世界に——。

 スマホが1台あれば誰でも気軽に写真が撮れる時代ですが、撮った写真はどこかわざとらしく、ぎこちない、なんてことも多いのではないでしょうか。出張写真撮影サービス「ラブグラフ」は、大切な人と過ごす私たちを、もっと自然な、ありのままの姿で写真に収めます。これまでに撮影したのは約2万5000組。切り取られた一瞬には、私たちが忘れてしまっている、当たり前だけどかけがえのない「幸せ」が写っています。「写真を通じて世界を平和にしたい」。ラブグラフCEO、駒下純兵さん(27)の思いを聞きました。

家族・ウェディング…出張撮影

——ラブグラフについて教えてください。

 メインの事業は二つで、出張撮影サービスと写真教室です。

 出張撮影はウェブサイトで撮影を希望する日付と場所を入力し、出てきた候補のカメラマンの中から、好みの人に撮影を依頼できるというサービスです。全国にカメラマンが約500人います。家族での撮影が全体の6割程度、2割がウェディングで、そのほかにも卒業式や成人式など、幅広く需要があります。

 もう一つはオンラインの写真教室。ラブグラフのフォトグラファーが継続的に指導する講座や、テーマごとの単発の講座、パーソナルレッスンなどがあります。受講者が動画教材で自習することもできます。

ラブグラフ提供

すべてを伝えきらない「余白」

——思い出を記録する媒体はいろいろあります。なぜ写真を選んだのですか。

 写真はすべてを伝えきらない。その余白がいいと考えています。1枚の写真だけでは、その前後に何があって、どんな話をしたかわからない。なので、それをきっかけに会話が広がりますよね。また、どういう一瞬を切り取るかはカメラマンのセンスによります。カメラマンにとっても表現のしがいがあり、楽しいものです。それに加え、写真は簡単に見ることができます。動画は何回も見返すことってあまりないけど、写真だったら部屋に置いておくとか、スマホの待ち受け画面にするなどして、日常での接点を増やすことができるところもいい、と思っています。

——ラブグラフが多くの人に受け入れられたのは、なぜだと考えていますか。

 二つあると思います。一つは、シンプルにニーズがあったこと。以前は、七五三や成人式、卒業式など人生の節目に、スタジオで写真を撮っていました。でもスタジオだと、撮影料は比較的安くても、データでもらえなかったり、フォトブックが高かったりするので、サービスに不満を持っている人がたくさんいたんです。ラブグラフは最初から金額を明示して、お客さんが欲しいデータがもらえるサービスです。

 もう一つの理由は、一見わかりづらいニーズを見抜いてサービス提供したことです。例えば、カメラマンの人柄。初対面の人が撮影するわけだから、お客さんは緊張しますよね。なので、カメラマンを採用するときには、コミュニケーション能力にこだわっています。

戦場カメラマンになりたかった

——大学在学中に起業されました。

 写真そのものは、大学の先輩が楽しそうに撮影しているのを見て始めたんです。友だちに撮影を頼まれたり、写真を渡したら喜んでもらえたり。その経験が自分のアイデンティティーをつくっていきました。

 カメラを始めてしばらくしたころ、「戦場カメラマンになって世界を平和にしたい」と思っていたんです。でも、戦争の写真ってたくさんあるけれど、戦争はなくなっていない。その理由を考えたときに、結局、思いやりの欠如なんじゃないかと思ったんです。

 最近はSNSの発達で、自分が持っていないものばかり目につくじゃないですか。それで自分の幸せに気づけなくなって、くだらない話をして笑える友達やパートナーがいるという当たり前の幸せに気づけなくなってくる。

 どれだけお金が稼げるようになっても、幸せを認識する能力が低いと幸せにはなれないと思うんです。目の前にある幸せに目を向けることができれば、人生が豊かになるはずだし、そう思えている人は誰かに優しくできるはず。それが世界の平和につながるんじゃないかって思って、ラブグラフを立ち上げました。20歳のときです。

全国のカップルから撮影依頼

——いま自分が感じている「当たり前」が、実は大事だということですね。

 もともと起業しようと思っていわけではないんですよ。自主的な活動として始めたら思いの外、話題になって、全国のカップルから撮影依頼がくるようになったんです。当時は大阪にいて、全国を飛び回ってました。でも、それだと時間がかかるし、お客さんからも撮影料1万円なのに交通費を3万円とかもらうことになる。もったいないじゃないですか。

 それなら、現地のカメラマンと現地のお客さんをつないであげたほうが、より多くの人の写真を撮ってあげられるし、それが伝えたいメッセージを届けることにつながると思って、共感してくれるカメラマンを集めていったら、現在のような形になりました。

「こうしたい」理想こそ力

——仕事をする上で大事にしていることは何ですか。

 意思を持つことです。会社のオリジナリティーを維持するためにも、トップに立つ僕に「こうしたい」という意思がないとダメだと思っています。問題ってそもそも理想と現実のギャップなんです。「どうなりたい」っていう理想がなければ、何が問題なのかもわからない。なりたい未来のために、現実との差を埋めるのが、日々の仕事なんです。

——苦労したこと、挫折したこと、そこから得られた教訓を教えてください。

 会社を立ち上げて3年目ぐらいに、事業も伸びないし、お金もなくなっていくし、創業以来一緒にやってきた人たちが次々と辞めていくみたいなことが重なった時期がありました。

 そこから学べたことは、コミュニケーションの大切さ。僕は当時、会社の人たちに気を使っていた部分もあって、率直に意見をすることがあんまりできなかったんです。でも、腹を割って話さないと相手の不満をすくい上げられない。例えば誰かに仕事をお願いするときも、ぼんやりしたままではなく、具体的に言葉にして伝えるべきだと思います。

サラリーマンしていたかも

——人生でターニングポイントになったことはありますか。

 「会社にしよう」って話になったときが、ターニングポイントの一つだった気はします。会社にしていなかったら、サラリーマンやりながら気のいい仲間2、3人で写真を撮る、ぐらいしかやってなかったと思います。

 もう一つは、投資家の千葉功太郎さんに出会ったこと。当時は投資を受けるとかは考えていませんでした。でも千葉さんに「君はもっと自分のサービスに自信を持ったほうがいい」って言われて。理由を聞いたら、「ラブグラフの成長の先には必ず人の幸せがある。だからこそ、君はラブグラフを大きくする義務がある」っていう話をされたんですよ。

 確かに「便利だな」と思うサービスはいっぱいあるかもしれないけど、使ってみて「幸せだな」と感じるサービスは意外と少ないですよね。投資を受ける分だけ大変な思いもたくさんしましたが、普通に生きていたら経験できないことを経験できたっていうのは、大きかったと思います。

自分が生まれて 世界は良くなったか?

——駒下さんの原動力になっているものは何ですか。

 いままでになかったもので、世の中の人を驚かせて幸せにしたいっていう思いですかね。自分が生まれる前と生まれた後を比べて、世界は良くなったのか、っていうのはめちゃめちゃ大事にしてます。(アップル創業者の)スティーブ・ジョブズが生まれて、間違いなく世界は良くなりましたよね。そういう人間になりたいです。

——これから挑戦してみたいことはありますか。

 世界に出ていきたい。いまもパリとかニューヨークにラブグラフと契約したカメラマンがちらほらいるんですけど、みんな日本人なんです。

 現地のカメラマンが、現地のお客さんを撮るようにしたい。あと、将来的にはラブグラフがプロデュースをしたブランドで服を作ったり、音楽や映画も作ったりしてみたいです。音楽や映画でも「日常の幸せに気づいてほしい」ってメッセージは伝えられますからね。

——ラブグラフをどう進化させていきたいですか。

 日常のいろんなところでラブグラフの世界観を表したものに触れられるようにしたい。ディズニーもそうじゃないですか? ディズニーランドとかグッズとかがあって、映画も毎年新作が公開されている。ディズニーがある世界となかった世界とで、子どもの価値観は変わったと思うんですよ。日常的にディズニーに触れて育った子どもたちって優しく育つと思うので、日本のウォルト・ディズニーみたいになりたいと思ってます。

境界線の向こう 思いやる

——駒下さんが、これからの社会に必要だと思うことは何ですか。

 僕も完璧にできているわけじゃないんですけど、境界線の向こうの人への思いやりだと思います。境界線っていうのは国と国の境界線かもしれないし、会社と会社っていう境界線かもしれないし、もしかしたら私とあなたっていう境界線かもしれない。人間って境界線を隔てていると、思いやりを持てなくなりがちだと思うんです。

 SNSで誹謗(ひぼう)中傷があるのも、自分ばっかり幸せになればいいっていう人が出てきちゃうのも、人への思いやりがないからだと思います。

——今の大学生にメッセージをお願いします。

 挑戦のハードルは、年を重ねるとどんどん上がる。何のリスクもなく、何でもできる大学時代ってすごく貴重。でも、若いことのメリットって若いときに気づけないんですよね。

 仮に21歳で起業して、3年やってダメになったとしても、まだやり直せるし、その人は新卒で3年働いた人よりおもしろい人間になっていると思うんです。仕事においては、どれだけ希少であるかでその人の市場価値が決まっていきます。

 起業に挑戦する人って、友だちが100人いても1人ぐらいですよね。その時点で、100分の1の希少な人間になれている。そう思うと、挑戦しないと意味がないと思います。

一瞬の尊さ みんなが気づけば
鈴木優香(DIALOG学生部)

 写真で世界を平和にしたい——。駒下さんの熱い思いに圧倒された時間。「自分が生まれる前と生まれた後を比べて、世界は良くなったのか」。この言葉が、とても印象に残りました。

 SNSなど技術の発展は利便性をもたらしました。その半面、いま私たちが生きている社会は、どこか、みんな余裕がないように思います。争いにまで発展しなくても、日々の小さなひずみは絶えません。私たちは様々なことを他人と比較して捉えるようになってはいないでしょうか。私自身、他人と比べて「いいなあ」と思うことは多いです。

 ラブグラフで撮影された写真には、ごく当たり前の日常が写っていると感じました。コロナ禍の中で感じた人もいるかもしれませんが、当たり前だと思っていることは、意外と当たり前ではなかったりします。

 一度きりの人生。過ぎ去っていく一瞬の尊さに、私たちはなかなか気づきません。

 立ち止まって、いまの自分が当たり前だと思って享受している「幸せ」に目を向けてみる。駒下さんがおっしゃるように、こうした小さな意識の変化が、世界を平和にする第一歩なのかもしれません。


駒下純兵(こました・じゅんぺい)

 1993年生まれ、大阪府出身。関西大学社会学部卒。大学から始めたカメラで撮影した「友人カップルの写真」がSNSで話題になり、サイトアクセスは初日で3万PV。全国から撮影依頼が入るようになったことを契機に在学中の2015年に株式会社ラブグラフを設立。2019年、Forbes「アジアを代表する30歳未満の30人-アート部門-」に選出。2020年には株式会社ミクシィと資本業務提携。

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