スポーツ×SDGs 私たちが動けば世界が動くふわっと、ゆるっと 野球もスキーもカバディも:朝日新聞DIALOG
2021/08/06

スポーツ×SDGs 私たちが動けば世界が動く
ふわっと、ゆるっと 野球もスキーもカバディも

By 中川晶結(DIALOG学生部)

 使い古され、捨てられるはずだった野球グローブをよみがえらせ、新しい世代に手渡す。そんな事業を手がける元高校球児の起業家を招いて、DIALOG学生部はSDGs(国連の持続可能な開発目標)を考えるイベント「スポーツ×SDGs 私たちが動けば世界が動く」を開きました。身近な「もったいない」から世界に目を向けたとき、私たちにできることは何だろう——。スポーツの力に気づいた、1時間半の議論を紹介します。

話し合ったみなさん(カッコ内は経験したスポーツ)
米沢谷友広(野球)グローバルポーターズ株式会社代表取締役
内田早紀(ソフトボール)お茶の水女子大3年、モデレーター
梅田智司(野球)創価大4年。関東地区大学準硬式野球部連盟学生委員長
鈴木優香(水泳、バスケットボール、ベリーダンス)東京外国語大4年
寺澤愛美(新体操、基礎スキー)津田塾大3年
中川晶結(スポーツに打ち込んだ経験なし)日本女子大4年

米沢谷さん

グローブ再生 元高校球児の挑戦

 イベントの冒頭、野球グローブ再生事業に取り組むグローバルポーターズ株式会社の米沢谷友広さんが話をしました。野球に打ち込んだ経験から「野球界に貢献したい。子どもたちに野球を始めてほしい」と思い、野球用品の会社を起業。いまはプロ野球7球団のオフィシャルグッズを制作・販売しています。

 グローブ再生事業「Re-Birth(リバース)」にかける思いを、米沢谷さんはこう語ります。

米沢谷 Re-Birthは「再生させる」「生まれかわる」という意味です。理念は「グローブ再生でつなぐ未来」。高品質な牛の皮を使うグローブを、長く使ってほしい。スポーツ用品は大量生産・販売が当たり前ですが、既存のものを再生し、新たなプレーヤーへとつなぐ循環を目指します。モノがあふれる時代から、より良いものや、思い出のあるものを長く使う時代へ変わっていくと思うからです。

【外部リンク】Re-BirthのHPはこちら

SDGs 目的ではなく手段

 SDGsも意識しているのでしょうか。米沢谷さんは「僕は、まず成し遂げたいことを考え、手段としてSDGsを結びつけます。ついでにSDGsを考えるくらいが続きやすい」と語り、関係するゴールを挙げました。

ゴール3 すべての人に健康と福祉を 野球は生涯スポーツ。シニアの方にもアプローチできる。仲良くなりやすいスポーツです。
ゴール8 働きがいも経済成長も (野球ビジネスで)人の成長を含めた循環型経済をつくれば、やりがいのある仕事も生み出せます。
ゴール9 産業と技術革新の基盤をつくろう グローブの修理技術と循環活動を、野球産業のインフラにしたい。機械化などで、もっと生産性を上げられるはず。
ゴール12 つくる責任 つかう責任 置き去りにされているグローブを、一つでも多く回収して再生するのが使命です。
ゴール13 気候変動に具体的に対策を 将来的には、二酸化炭素を多く排出する牛の皮を、できるだけグローブに使わないようにしたい。
ゴール17 パートナーシップで目標を達成しよう Re-birthの理念に共感していただけるプロ野球選手とアンバサダー契約をして、野球教室などを開いていきたい。グローブのリペア(修理)協会も発足させ、職人の育成システムを構築したい。

Re-Birthの店舗=東京都内

眠る道具・捨てる道具 もったいない

内田 スポーツに関係して「もったいない」と感じたことありますか? 私はソフトボールをしていたのですが、使い切れないくらいのボールやベースが、倉庫に眠っていました。

寺澤 基礎スキーはウェア・ブーツ・板を買っちゃえば続けられる。眠っていたり、もったいないと感じたりするものは、あまりなくて。ただ、スキーのストックをよくリフトに挟んで曲げちゃったり、バキッって折っちゃったりして買い替えることがあります。「また5000円……」と思うことはありますね。

鈴木 水泳に関しては、ちっちゃいころサイズが頻繁に変わるので、ユニフォームをかなり買い替えた記憶があります。あとは、小中学校と続けていくうちに、学校指定の水着みたいなのがありますよね? まだ着られるのに、買い替える意味あったのかな? バスケでは、現役のときに「もったいない」と感じたことは、あまりなかったです。ユニフォームがチーム内で代々受け継がれていて、逆にサステイナブルでした。でも、バスケのボールは野球グローブと同じで手あかがつくし、3年くらいでダメになってしまうので捨てちゃうことがありました。引退後に「もったいなかった」と思いました。

内田さん

水着 他人と共有できる?

内田 梅田さんは、野球を小学生のころから続けています。道具は新品を買い替えてきましたか?

梅田 グローブはいつも新品でした。中古を使うのは聞いたことがなかったので、Re-Birthさんの取り組みは、とても新鮮です。グローブって5万円とかしちゃうけど、ポジションが変わると使えない。グローブが一番、「もったいないな」と感じますね。

米沢谷 「人が使っていたものはイヤ」って思うもの、何かあります? 鈴木さんの言っていた水着とか……クリーニングされていれば問題ないですか?

鈴木 確かに、水着は共有すると汚い気がしますね。

米沢谷 そういう心理が湧くものだと、文化になりづらいって思うんですよね。Re-Birthのグローブも、汗や汚れがしみついているから、手を入れるところを新品にしてきれいさを打ち出す。心理的な部分を除けたら、後輩に受け継ぐことが当たり前になったり、レンタルのマーケットができたりする。成長とともに買い替えるようなものであれば、例えば、子ども用レンタル水着があってもいいのかなと、思いました。

鈴木さん

バッシュが高い レンタルいいね

鈴木 レンタルいいですよね。

米沢谷 スポーツ用品のレンタルマーケットができたら面白い、と思うことがあります。小さい子どものおもちゃって、いまサブスクリプションやレンタルマーケットがだいぶ大きくなってきているんです。スポーツも、一生続けるものじゃなかったり、成長とともに変わったり。梅田さんが言うように、ポジションが変わるとおしまい、という道具もある。みんなで共有するマーケットプレイスとか、もしかしたらつくれるかも。

鈴木 中高の部活は3年で終わり。成長期だとサイズも安定しないのに、バッシュ(バスケットシューズ)とか、すごく値段が高くて。

米沢谷 試し履きして買っても、実際に使ってみるとサイズが合わなかったり。交換できたらラッキーですよね。

内田 学校にも、ずっと汚いグローブありますよね。「あれじゃ、ボール捕れない」と思うし、レンタルできたらいいですね。

中川 通っていた高校がスポーツコースを設置していて、三つ体育館がありました。道具によっては、同じ種類が同じような数、置かれているんです。それぞれの体育館で同じ時間に種目が重なることは少ないので、眠っているものが多くて「もったいない」と感じました。

ベリーダンスも 続けたらSDGs

 話題は「もったいない」からSDGsへと移ります。内田さんは、スポーツ用品メーカー・ミズノを取り上げました。足元の暑さを防ぐ「白スパイク」を提案、高校野球公式戦での解禁につなげたり、水鳥の羽を使わない人工羽根のバドミントンのシャトルを開発したりといった事例を、同社ホームページから紹介しました。

内田 スポーツと言えば、SDGsの17ゴールのうち、どれを連想しますか?

鈴木 最初に思い浮かんだのは、ゴール3「すべての人に健康と福祉を」。大学でベリーダンスをやっているんですが、年齢層が広く、全身運動でもずっと続けられるものだと感じます。工夫をすれば誰でもできるようなスポーツが、たくさんある。あとはゴール14「海の豊かさを守ろう」と、ゴール15「陸の豊かさも守ろう」。スポーツをしに山や海へ行くと「自然を守らなきゃ」という気持ちになります。

寺澤さん

スキー場 住み込みバイトで

寺澤 スキーのような自然相手のスポーツだと、かなり感じるところがあります。冬休み、長野の菅平で住み込みのアルバイトをしていました。例年、冬の最低気温がマイナス20度を下回るような、ものすごく寒いところですが、「暖冬で、雪不足になる年もある」「昔よりも全体的に気温が高くなっている」というお話を現地で聞きました。環境問題に気づく大きなきっかけになると感じました。また、現役インストラクターをしているおじいちゃんを見たときは、人生100年時代でスポーツが果たせる役割ってあるのかなと思いました。

米沢谷 スポーツを続けたらSDGsにつながる、ということですよね。仕事を制限してでも続けられるようにすれば、ずっと健康でいられる。

内田 スポーツは、仕事とは別の、新しい場にもなりますよね。

米沢谷 兼業できる社会になってきています。バランス良くやれば、健康、福祉、気候変動への対策、海や陸の保全に貢献できるかもしれないですね。

梅田さん

発表する場 モチベーション

内田 梅田さんはもう引退したそうですが、どれくらいの頻度でスポーツをしていますか?

梅田 野球は好きなのでよく手伝いに行っていますが、外に出る頻度は減っちゃって……。暑いとおっくうになって、クーラーをかけて屋内で過ごしたり。悪循環だな……。

鈴木 私は週1回、ダンスを続けています。発表する場がないからモチベーションが微妙ですが。痩せたり健康になったりするだけではなく、人と話す機会ができて、気晴らしにもなる。体を動かすことを意識的に続けようとしていますが、仕事をするようになると難しいのかも。

米沢谷 発表会とか大会って、モチベーションになるんですね。

鈴木 なります! すごく。

中川さん

野球して出勤 疲れない?

内田 中川さんは、スポーツとSDGsでつながると思うものはありますか?

中川 ゴール3「すべての人に健康と福祉を」。ゴール8「働きがいも経済成長も」。ゴール11「住み続けられるまちづくりを」あたりですね。家族で一番スポーツをしているのは父です。週に1回ほど早朝、野球に参加していて。疲れているのでは?と思ったら、すごく楽しそうに帰ってきて、そのまま仕事へ行くんです。生きがいにつながっていると思うし、家族で一番健康なのは恐らく父です。最近は「スポーツ都市」の戦略などを記事で見かけますが、スポーツは地域交流も担えると思います。

寺澤 スキー場周辺に住む人は、ほとんどウィンタースポーツに従事しています。スポーツが街にガッツリ根ざしている例は、意外と多いのかもしれません。Jリーグやプロ野球のサポーターがゴミ拾い活動をするなど、プレーする時間がなくなっても、サポートする側で関わる人も多いと思います。また、サポートするチームに、外国にルーツを持つ選手が多いことを知ることも。多様性に気づき、先入観なく見られるようになるのも面白い、と思いました。

梅田さんが関わる準硬式野球では、女性も参加しやすくしているそうです

性別・国籍…関係なく楽しむ

内田 オリンピックも多様性を掲げていますよね。スポーツと関わる分野だと思いました。

梅田 ラグビーの日本代表戦なんかを見てると、日本代表なのに名前も見た目もいわゆる「日本人」じゃない人がいる。それでも純粋に応援できるのはスポーツの力かなと思います。

内田 日本国籍じゃなくていいの?という話ではなくて、純粋に競技に興味を持って見ると、素直に受け止められると思います。e-sportsでは男女一緒に戦ったりしますよね。ルールによっては、同じ土俵に立てると感じました。

寺澤 女性はソフトボールに行くイメージ。野球をする女性はいないのかな?

梅田 プロ野球の球団も女性チームをつくったとニュースになっていました。僕は準硬式野球ですが、人口が減って、女性も巻き込みたい思いがあります。いくつかの大学では、女性が普通に一緒にプレーしているチームもあります。

内田 逆にソフトボールは女子が多い。高校のソフトボール部だと、男子チームはわずかです。

鈴木 スポーツと男女平等は、難しいテーマですよね。

走って廃プラ減 幸せのサイクル

 SDGs達成に向けて、何ができるのか。内田さんはスポーツ用品メーカーadidasの取り組み「Run for the Oceans」を紹介しました。ランニングアプリを使って、参加者が走った距離に応じて企業が海のプラスチック廃棄物を回収。リサイクルを経て新しいウェアが誕生します。そのウェアを買った人が、また走る——。みんなが幸せになるサイクルです。

出会い・気づき 山に登るだけでも

内田 私たちにできることを考えていきたいと思います。私は「スポーツを続けたらSDGs」が気になっていて。モチベーションとして何かあれば、きっと面白いと思います。

米沢谷 発表する機会や大会への参加、友だちとか。きっと、そういうことですよね。

鈴木 SDGsって何をすればいいの?と思う人も、身近なこととしてできるようになりそう。自然がたくさんある場所に行くとか、小さなことでも。そこで出会う人もいるだろうし、一緒にスポーツをしてみるとか。山に登るだけでも楽しそうですよね。

鈴木 「大変だな、気候変動」「海、守らなきゃダメだな」って何となく思っているだけだと、「誰かがやってくれる」という気持ちになってしまう。だけど、泳いだり、スキーをしたりするには、環境が不可欠です。スポーツによって、環境問題が、もっと身近に感じられると思います。

マイボトル観戦デー どう?

寺澤 エコバックを持ち始める人が増えて、環境問題の「か」の字も出てこなかったようなおじいちゃんに「レジ袋を買っちゃうと、海の動物が死んでしまうんだぞ」と言われたことがあるんです。例えば、マイボトルで野球観戦する日をつくるだけでも「こういうところからプラスチックを減らせるんだな」と気づけたりしますよね。

米沢谷 アメリカのメジャーリーグでは、ゴミを減らすためにチームオリジナルのマグボトルを売っていて、それを使うとビールが安く買えるんです。インテリアにしても、めちゃめちゃ映えるデザイン。みんな10個くらい自宅に飾ったりして。日本にも、そういう文化があっていい。

鈴木 持っていてカッコいいのも、すごく大事。「環境にいいです」だけだと厳しい。

内田 地域限定とか、ローカル感もあると楽しいですよね。

生涯スポーツ ハードル下げよう

寺澤 新体操をやめてから、なかなか次のスポーツに飛び込めなかった。運動が得意なほうではなく、抵抗感があったからです。スポーツを始めるハードルを下げることが、スポーツとの関わりを増やし、SDGsに結びつくのかなと思います。

米沢谷 ちなみに、基礎スキーを始めたきっかけは?

寺澤 ずっと「スポーツを始めたい」と思いながらもできなかったのが一つ。それから、長く続けられるスポーツって何だろう?と考えたときに、大人の付き合いでスキーやスノーボードをしている人がいるなあ、と思ったのがきっかけですね。ハードなスポーツだと長く続けられないな、と思って。生涯スポーツと思って始めました。息抜きや趣味になればいいな。

鈴木 私もバスケをやめてから、スポーツは趣味で続けようと思っていました。大学で結局、部活に入っちゃったんですけどね。

「あなたは、このスポーツ!」アプリで

内田 今だったらテレワークが浸透しているし、家の近くへスポーツをしに行くのも珍しくないかな?

寺澤 ママさんバレーは聞きますが、大人のバスケチームはあんまりない。野球はチームがたくさんあって、いいなあ。

米沢谷 野球、またやろうと思いました。応援だけでも十分、SDGsにつながるから、野球観戦に行かないとなあ。それと、自分に合うスポーツって年を重ねるほど分からなくなる。生涯続けられるスポーツは何なのかを探せるサイトがあればいいかな。習い事の延長でもいい。「あなたに合うスポーツはこの三つ! 体験に行ってみて!」というようなことが、アプリで簡単にできるかもしれません。AIがどんどん学んで「ソフトボールやめて、こっち続けた方がいいよ!」「野球やめてサーフィンにしてみなさい!」みたいな。そうすれば、人生がもっと豊かになると思うし、無理なく長く、スポーツを続けられる可能性が高くなりますよね。

スポーツ都市 カバディから広がる夢
中川晶結(DIALOG学生部)

 カバディがやりたくなりました。

 鬼ごっことドッヂボールが交じったような、インド発祥のチームスポーツ。攻撃中は「カバディ、カバディ、カバディ……」と一息で言い続けなければいけません。日本でも全日本カバディ選手権大会が開かれています。カバディを題材にしたマンガや映画もあり、知っている人も多いのではないでしょうか。

 今回のイベントの参加者のうち、私は唯一、これといったスポーツ経験がありません。大学進学を機に上京しましたが、近所にスポーツセンターや体育館はなく、自宅も限られたスペース。体を動かすことへの苦手意識もあって、スポーツを始める機会が、なかなかありませんでした。

 そんな私がカバディを始めたら——。

 週末、友だちと一緒に公園に出かけ、カバディを楽しむ。汗を流した後、みんなでごはんを食べに行き、互いのプレーをほめ合う。全日本カバディ選手権を観戦に出かけ、一流選手の動きに声援を送る。カバディグッズを持っていたら、大学で友だちに「それ、何?」と声をかけられ、仲良くなるきっかけになるかもしれません。

 私が議論の中で触れた「スポーツ都市」は、そんな夢が広がる街です。「区内の○カ所に公園をつくる」といった都市戦略を立て、みんなが自由に運動を楽しめるフリースペースを増やす。初心者向けのイベントを定期的に開く。スポーツに「敷居の高さ」を感じる人が減るのではないでしょうか。

 私は約9年ピアノを習い、大学からはチェロに挑んでいます。スタートするのに遅すぎることはありません。だから、スポーツにも挑戦していきたい。

 野球でも、ベリーダンスでも、カバディでも——。ふわっと始めて、ゆるっと続ければいい。心のよりどころが増えるだけでなく、持続可能な未来にも貢献できるのだから。

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