おせっかいなら 任せとき! ヘルプの心を大阪から学生と難病患者 スタディーツアー:朝日新聞DIALOG
2021/08/09

おせっかいなら 任せとき! ヘルプの心を大阪から
学生と難病患者 スタディーツアー

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 内部障がいや病気、妊娠初期の人など、見た目からは分かりにくいけれど、援助や配慮を必要としていることを知らせる「ヘルプマーク」をご存じですか? 全国で普及が進んでいますが、まだまだ知らない人も多いのが現状です。若い世代で未来を考えるプロジェクト「朝日新聞 DIALOG」は、大阪の大学生ら5人と難病を抱える2人を招き、ヘルプマークとバリアフリーの実情を学ぶスタディーツアーを実施しました。Osaka Metroや大阪府による現場の意見に接して、学生らが得たものは——。

※参加者はマスクをして互いに距離をとり、室内の会場にはパーティションを設けるなどの感染症対策を講じて実施しました。

ヘルプマーク
 義足や人工関節を使用している人、難病や妊娠初期の人など、外見からは分からなくても援助や配慮を必要としている方々が、援助を受けやすくなるように東京都が2012年に作成したマーク。2017年にはJIS(日本産業規格)の案内用図記号に採用されました。大阪府も(一財)大阪府地域福祉推進財団と協働で啓発を進めており、府と市区町村で配布しています。
(左)櫻井さんのバッグには、ヘルプマークが付いている (右)櫻井さんと尾下さんは、改札からホームに向かった

Osaka Metro 全駅でバリアフリー

 一行は、まずOsaka Metro長堀鶴見緑地線の大正駅(大阪市大正区)を訪ねました。

 Osaka Metroは前身の大阪市交通局時代の1980年に開業した谷町線の喜連瓜破(きれうりわり)駅に全国の地下鉄で初めてエレベーターを設置。人にやさしい街づくりと歩調を合わせ、2011年3月までに同社の地下鉄・ニュートラムの全133駅で、ホームから地上までのエレベーターによるバリアフリー経路(ワンルート)を完成させました。

 案内してくれたのはOsaka Metro広報部の永澤良太さん。車いすユーザーで、障がい者をサポートする旅行会社「櫻スタートラベル」代表の櫻井純さんと、NPO法人「大阪難病連」広報担当で、線維筋痛症患者の尾下葉子さんが、学生たちともにバリアフリーのワンルートで改札からホームまで移動します。

 ホームでは、点字ブロックや転落防止のために作られた可動式ホーム柵の説明を受けました。「可動式ホーム柵は大阪・関西万博が開かれる2025年度末までに、全駅で整備を予定しています」と永澤さん。学生たちは普段利用している交通機関で対応が進んでいる様子を、興味深そうに聞きます。

(左)優先座席に座った尾下さん (右)ホームと車両との隙間は、ほとんどない

ホームと車両 すき間わずか

 ホームに到着した折り返しの電車に、全員が乗り込みます。ホームと車両の間には段差や隙間があることが多く、車いすの乗客には駅員が用意したスロープで乗り降りを補助することが多いですが、長堀鶴見緑地線では、ホーム床面をスロープ状にかさ上げ。さらにホーム端には、くし状のゴムの隙間材を取り付けているため、車両との隙間がほとんどありません。介助なしでスムーズに車両に乗り込む櫻井さんを見て、学生たちから驚きの声が上がりました。

 同社は、ヘルプマークのポスターを2017年から駅構内や車内に貼り、2018年からは車内の優先座席部のステッカーをヘルプマーク入りのものに変更。視覚障がい者には音声で乗車位置に誘導したり、電車がホームに入る時のメロディーを上下線で違うものにしたりと様々な工夫もしています。

 永澤さんは「視覚障がい者をはじめ、様々な障がい者の見守りサポートにも力を入れています。ただ、あまり駅員が近づきすぎると『いらない』と言われるお客様もいらっしゃいます」。乗客の要望に合わせて、きめ細かい対応を心がけていると明かしてくれました。

Osaka Metro交通事業本部の三宅壮一郎さん(右端)から車内で説明を受ける

人が倒れている! そのとき…

 同社交通事業本部の三宅壮一郎さんは、車掌から「ヘルプマークを付けた人が倒れている」との通報を受け、現場にかけつけた経験があります。「倒れているお客様が緊急連絡先を記載したヘルプカードを持たれていて、お母様の電話番号が書かれていました。電話すると、『本人にはてんかんの発作があるので、救急車を呼ばずに見守ってください』と。ヘルプカードの情報があったおかげで、迅速な対応ができました」と振り返ります。同社では障がいのあるお客さんとの距離感を縮めるため、全駅員のサービス介助士取得も目指してます。

満員電車 声かけに救われる

 自己免疫や神経系の病気を持つ櫻井さんは、普段から地下鉄を使っていますが、困るのは通勤時間帯だと言います。「朝8時から9時台は電車が満員。コロナ禍でも通勤する人は多く、ドアが開いても、中には人が山のように立っています。乗れなくて、2、3本乗り過ごすことが普通です」

 櫻井さんが強調したのは、施設のバリアフリーだけではなく、人による援助の大切さです。「本当は急ぎたいのに、迷惑をかけるようでなかなか自分から言えない。そこを駅員さんが『車いすの方がいます』と乗客に声をかけてくだされば、みなさん、さっと場所を空けてくれるので、心強いです」。

やっぱり最後は人の力

 駅構内のスロープも、傾斜がきつく長くなると自走の車いすでは体力を奪われ、一人では移動も難しくなるそうです。

 「スロープがあるからバリアフリーは大丈夫ではなく、やはり、そこに誰か気にかけてくれる人が必要なんですよ」と櫻井さん。尾下さんも「いろんな人の要望に応えて問題を解消できる設備が整いつつあるのは素晴らしいけれど、やっぱり最後は人の力がないと乗り越えられないことって多いですね」と応じます。一方で「様々な人々への配慮のあり方は、私たち乗客同士の課題でもあると思います」と語りました。

(左)電車に乗り込んだ学生たち (右)ホームで説明に耳を傾ける竹田光貴さん

ユニバーサルデザイン 意識した

 学生たちも、たくさんの気づきがあったようです。

 瀬渡ゆかりさん(大阪大学人間科学部4年)は「身近に助けを必要としている人がいなくて、ヘルプマークについては特に意識してきませんでした。ユニバーサルデザインやバリアフリーについて知り、より良い社会を実現していく当事者に、自分も含まれているんだと感じました」と話しました。

 「障がいがあるから特別ではなく、みなさんがよりよく生きるにはどうすればいいか考えさせられました」と明かしたのは、竹田光貴さん(大阪府立大学地域保健学域・教育福祉学類4年)。「普段、足元はあまり見なくて、段差や隙間などは使いづらいなとしか思っていなかったんですが、インクルーシブ(包摂的)な社会を自分ごととして、かみ砕いて考えていきたいです」と意欲をみせました。

 竹田光(大阪大学人間科学部4年)さんも、今まで段差や隙間などの対策を意識したことはなかったと話します。「可動式ホーム柵がこんなにも増えているんだと初めて知りました。ハード面の対策に加えて、多くの人の理解が得られるようなソフト面の対策と人々の支えが必要だと感じました」

ゴウハイって? 民間も義務に

 一行はOsaka Metro大正駅から朝日新聞大阪本社(大阪市北区)に移動。大阪府福祉部障がい福祉企画課の中﨑友梨さんを講師に迎え、「障がいを理由とする差別のない、共に生きる大阪の社会をめざして 大阪府障がい者差別解消条例とヘルプマーク」をテーマに勉強会が開かれました。

 障がいのある人が障がいのない人と同じように活動できるよう、その場で必要とされる調整や工夫のことを「合理的配慮」と言います。「ゴウハイ」と略して言われることもあります。

 障害者差別解消法では、国と自治体などの行政機関に合理的配慮の提供を義務付けていますが、民間事業者は努力義務にとどまっています。しかし、法施行から3年が経過し、その概念が浸透したと思われることから、大阪府では大阪府障がい者差別解消条例を改正し、2021年4月に施行しました。これによって、大阪府では、企業や個人事業主などの民間事業者に、合理的配慮の提供を義務化しました。

 一方、国においても、民間事業者に対して、合理的配慮の提供を義務化する改正法が今年5月に成立し、6月に公布されました。ただし、施行は「公布の日から3年を超えない日」とされています。

障害者差別解消法(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律) 国連の「障害者の権利に関する条約」の締結に向けた国内法制度の整備の一環として、2013年に制定され、2016年4月1日に施行されました。全ての人が、障がいの有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向け、障がいを理由とする差別の解消を推進することを目的としています。

大阪府の担当者から障がい者施策について説明を受ける

差別的取り扱いには相談窓口

 中﨑さんは、合理的配慮の事例を挙げながら、府の先進的な取り組みを説明しました。

 段差解消やスロープ設置はもちろん、身振りや手話、要約筆記、筆談、図解、ルビ付き文書の使用から、代読・代筆の手配まで、配慮は多岐にわたります。障がいの特性により本人の意思表明が困難な場合は、家族や支援者が本人を補佐して意思表明すれば、本人の意思とみなされることも。

 障がいを理由とする不当な差別的取り扱いや、合理的配慮の不提供に関する相談があった場合、市町村の相談窓口や大阪府の広域支援相談員が対応します。中﨑さんは、障がいのある人と民間事業者のどちらからも相談を受け付けていると言い、「何か問題が起こっても、お互いが話し合って障がいがある人に対する理解を深め、共生社会に向けて、より良い方向に向かっていくことが求められています」と語りました。

「いのち輝く」万博に向けて

 熱心に聞いていた学生たち。中﨑さんの「質問はありませんか?」の声に、川中大地さん(大阪市立大学大学院工学研究科都市系専攻修士2年)は「事業者側からは具体的にどういった相談がありましたか」と尋ねました。「障がいのある人から『合理的配慮がなかった』などの相談は寄せられているのですが、事業者からの相談は、まだあまりないんです。もっと広報していかなくてはいけないと思っています」と中﨑さん。義務化についてよく知らない民間事業者が多いのかも知れません。

 2025年には「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに大阪で万博が開かれます。そのためにも障がい者差別解消条例の改正は大阪にとって大きな一歩で、国籍や人種による差別だけでなく、障がい者差別のない共生社会に向けての取り組みがますます期待されています。

川中さん(左)らは熱心にメモを取った

ヘルプマーク なぜ条件ない?

 ヘルプマークは利用者からの申し出により、自治体の窓口などで受け取ることができます。障がい種別・等級、病名などによる条件はなく、書類の記入も不要です。瀬渡さんは「なぜヘルプマークには条件がないのですか?」と質問。すると、尾下さんが「私が答えましょう」と手を挙げました。

 尾下さんによると、2011年に障害者基本法改正で合理的配慮の概念が規定されたとき、現行法ではカバーできない障がいがある、という問題が出てきたと言います。「発達障がいや難病などは、見た目からは分かりにくい。私は首が長時間座らないので、いすには数分間しか座れませんが、医学的証明ができないから障がい者手帳がもらえません。世の中にあるものが自分たちには合わないから、生きる上で結果的に『障がい』を抱えてしまう。そんな人たちも障がい者に含めようという動きになりました。そして当事者たちが、自分たちの『障がい』を可視化しようと活動を始めました。そんな流れの中で東京都が考え出したのがヘルプマーク。だから条件がないんですよ」と尾下さん。

 ヘルプマークは現在では46都道府県で採用されています。「ヘルプマークは、私たち当事者たちにとっては希望なんです」と尾下さんは力を込めました。その思いは午後のセッションに向けて、「おせっかい」を大切にしようという、学生たちの気づきにつながっていきます。

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