助けて、助けられて…そんな大阪ええんちゃう?学生と難病患者 ディスカッション:朝日新聞DIALOG
2021/08/09

助けて、助けられて…そんな大阪ええんちゃう?
学生と難病患者 ディスカッション

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 内部障がいや難病、妊娠初期の人など見た目からは分かりにくいけれど、援助や配慮を必要としていることを知らせるヘルプマーク。大阪府では2017年から導入されていますが、まだまだ知らない人が多いのが現状です。若い世代で未来を考えるプロジェクト「朝日新聞 DIALOG」は、Osaka Metro長堀鶴見緑地線・大正駅でのスタディーツアーを踏まえ、学生と難病患者が「ヘルプの気持ちを行動に」をテーマに議論。「私たちが今できること」を考えました。

※会場にはパーティションを設け、写真撮影時のみマスクを外すなど感染症対策を講じて実施しました。

ヘルプマーク
 義足や人工関節を使用している人、難病や妊娠初期の人など、外見からは分からなくても援助や配慮を必要としている方々が、援助を受けやすくなるように東京都が2012年に作成したマーク。2017年にはJIS(日本産業規格)の案内用図記号に採用されました。大阪府も(一財)大阪府地域福祉推進財団と協働で啓発を進めており、府と市区町村で配布しています。

参加したみなさん
尾下葉子さん(NPO法人「大阪難病連」広報担当)
櫻井純さん(櫻スタートラベル代表)
瀬渡ゆかりさん(大阪大学人間科学部4年)
生貝遥香さん(大阪大学人間科学部4年)
竹田光さん(大阪大学人間科学部4年)
川中大地さん(大阪市立大学大学院工学研究科都市系専攻修士2年)
竹田光貴さん(大阪府立大学地域保健学域・教育福祉学類4年)

「ヘルプマーク反対論者だった」と語る尾下さん

ヘルプマークにモヤモヤ…最初は反対論者

 朝日新聞大阪本社(大阪市北区)で開いたセッション。ヘルプマークについて、NPO法人「大阪難病連」広報担当で、線維筋痛症患者の尾下葉子さんが意外なことを打ち明けます。「実は最初、ヘルプマーク反対論者で、憤りを感じていました。当事者発信から作られたヘルプマークですが、『みんなが助かるような思いやりをお願いします』と、きれいごとで済まされた気がして……。本当は、障がい者の権利保障の問題なのに」。ヘルプマークは2013年、東京に出かけた際にもらいましたが、モヤモヤした気持ちを抱え、何年も使わずにしまっていたそうです。

 尾下さんは、こう打ち明けます。「私が一番つらいのは、交通機関で網棚に荷物を上げる動作ですが、優先座席で困った顔をしていたら、外国人観光客も含め、すぐに乗客が助けてくれる。『助けてください』とも臆せず言えます。元々は障がいがなかったこともあり、『何か事情のある人』として見られるのが怖かったんだ、と気がついて……自分自身を差別しているような気になりました」

勇気を出すマーク お守り代わり

 尾下さんは様々な当事者と話をする中で、ヘルプマークを着けたくても事情があって着けられない人がいることも知った、と言います。そして、多くの人にマークのことを知ってほしいと、使い始めました。

 「実際に身に着けてみたら、ヘルプマークを着けた人が『私は発達障がいで音が怖くて……』などと自分のことを話してくれて、見ず知らずの人と話す機会が増えました。ヘルプマークがあるから周りの視線を気にせずに優先座席に座れるようになった、という声も聞きます。私にとっては、自分が自己開示のための勇気を出すためのマークだったんやなと。今は『誰か見てくれている人がいる』と思えて、お守り代わりになっています」

櫻井さんは、啓発のためにヘルプマークを身に着けるようになったと言います

全身に痛み 気づかれないつらさ

 櫻スタートラベル代表の櫻井純さんは、ヘルプマークが京都府で導入された2016年に着け始めました。

 櫻井さんは2014年から自己免疫や神経に関わる難病を患い、「調子が悪いときは、のたうち回るような痛みが全身に起こる」と言います。鎮痛剤を服用して車いすで生活することが多いですが、症状が軽いときは杖なしで歩くこともあり、つらさが見た目からは分かりにくいそうです。「生活があるので仕事をしないといけませんし、治療なしでは生きていけない。病気で制限されていく時間を、みなさんに支えてほしい。それを分かっていただきたくて、最初から着けました」と語りました。

 「ヘルプマークを見ても席を譲ってくれる人はまだ少ない」と櫻井さん。ヘルプマークを付けるのは主に杖ですが、「足が悪い人だ」と思われたり「外出しているから元気だろう」と思われたりするそうです。「最初はリュックに付けていたら『立てているんだ』と思われて、電車でも席を譲ってもらえない。この4年間で席を譲ってくれたのは、『おい、座れ!』と声をかけてくれた怖いお兄さんだけでした(笑)」

スマホに夢中…気づいてほしい

 櫻井さんには、電車内の風景はどう見えているのでしょうか。「みなさん、電車の中では下を向いてスマホに夢中です。私がヘルプマークを着けて外出することによって、優先座席に座っている人に気づいてもらえたら。世の中の認知度を高めて、病気のつらさが生活をどう『障がい』しているのかを知っていただきたいです」と訴えます。

 櫻井さんは、障がいがある人をサポートする旅行会社を経営しています。「外に出たくても出られない人もいるんだよ、と知ってほしい。旅行先からもSNSでそんな投稿もしています。今は啓発のために着けているほうが大きいですね」

高齢者が複数 そのとき、どうする?

 二人の切実な話や訴えを、学生たちは真剣な面持ちで聞いていました。

 竹田光さん(大阪大学人間科学部4年)は「ヘルプマークについて全然知りませんでした。知らないから注目もできなかった。無知は本当に怖いことだと思います」と話します。

 川中大地さん(大阪市立大学大学院工学研究科都市系専攻修士2年)も初めてヘルプマークを知りました。「電車の中では高齢の方に席を譲りますが、譲った後も会話したほうがいいのか?すぐ移動したらそっけないと思われるんじゃないか?と、考えてしまい、なかなか声をかけられない。杖をついた人が横断歩道を渡るときも気になっていました。お二人の話をうかがって、後ろで寄り添うだけでもいいんだと感じました」

 瀬渡ゆかりさん(大阪大学人間科学部4年)も、声かけをためらうことが多いと話します。「高齢者と距離が遠かったり、2、3人いらっしゃったりすると、どなたに声をかけたらいいんだろう?と悩んでしまって……。何も言わずに席を空けたりはするんですけどね」

どこに障がい? 聞くのは失礼かも…

 竹田光貴さん(大阪府立大学地域保健学域・教育福祉学類4年)は、地域活動支援センターで精神障がいや発達障がいがある人と接するボランティアをしています。「ヘルプマークについては何となく知っていました。ただ、ヘルプマーク利用者に、障がいやヘルプの内容について聞くのは失礼かなと思ってしまいます。自分から声をかけるのは勇気がいります」と打ち明けます。

 生貝遥香さん(大阪大学人間科学部4年)は、ヘルプマークのことは知っていましたが、同じ大学で初めてヘルプマーク利用者を見かけたそうです。「その人は見た目も行動も私たちと同じ感じで、どこに障がいがあるのか分からないし、そこに触れていいのか、どういうヘルプが必要かは聞けていないんです」。声かけの必要性は理解していても、もどかしさは尽きないようです。

「何かお手伝いしましょうか?」

 学生たちの話を聞いて、櫻井さんは「困っている人を見たら『何かお手伝いしましょうか?』と聞いてくださるだけで良いんですよ」と励まします。「障がいについて深く聞く必要はないのかも。ヘルプマークを着けているから気を使ってください、というのは本来の目的ではなく、利用者が何かのタイミングで助けてほしいと伝えることもヘルプマークの役割だと思うんです」

 尾下さんも「ヘルプマーク利用者は自分を分かってほしいという気持ちがありますし、着けているのはそのサインでもあります。障がいを隠したい人は着けられないと思うんですよ。何か困っていると感じたら『荷物を持ちましょうか』など、自分がその場でできることを具体的に伝えるのもいいと思います」とアドバイスしました。

合理的配慮「知らない」73%

 車いす利用者、目や耳の不自由な人、歩くのがつらいお年寄り……。私たちの周りには、助けが必要な人がたくさんいます。学生たちに8種類のマークを例示。知っているものが何個あるかアンケートすると、「意味まで知っている」は半分ほどでした。みなさんは、いくつ分かりますか?

(それぞれのマークの名称は記事末尾に)

 また、スタディーツアーで学生たちが学んだ「合理的配慮」についての課題も、データで示されました。「合理的配慮」とは、障がいのある人が障がいのない人と同じように活動できるよう、その場で必要とされる対応のことを言います。改正障害者差別解消法では、国と自治体などの行政機関だけでなく、民間事業者にも提供が義務づけられます。

 東京都が2019年に行ったインターネット都政モニターアンケートでは、「合理的配慮の提供という考え方を知っていますか」という問いに73%が「知らない」と答えました。「名前も内容も知っている」は11%にとどまりました。

「顔をあげて」「おせっかいを」

 セッションの最後に「私が、社会が今、心がけること」をテーマに参加者全員がキーワードを画用紙に書いて締めくくりました。まずは、学生たちの言葉を紹介します。

(左から)生貝さん、瀬渡さん、竹田光さん

顔をあげよう(生貝さん)
 電車の中でスマホばかり見ているのではなく、顔を上げて、段差を見たり、困っている人がいないか探したり、気づくことが最初のステップだと思います。
当事者意識を持つ(瀬渡さん)
 自分ごととしてとらえると、助けようという意識が芽生える。そうなるにはヘルプマークのことについて知ったり、障がいのある人の生の声を聞いたりすることが大切だと思います。
知る(竹田光さん)
今日は、知って気づくことによって、自分が助けられる人がいるのに気づきました。みんながヘルプマークや障がいについて理解を深めることが大事ですね。

(左から)竹田光貴さん、川中さん

正しく知り関わりあうこと(竹田光貴さん)
 インターネットなどから間違った情報を得ると、差別や偏見が生まれやすいと感じます。当事者と継続的に関わることで、心の底から理解できる関係が生まれるのではないでしょうか。
おせっかいの気持ち(川中さん)
 困っている人を見つけてためらったら、おせっかいでもいいから一旦、声をかけてみることにします。助けを必要としていないならそれでもいい。おせっかいをすることによって、気軽に声をかけ合えるいい社会につながるのではないでしょうか。

「時間を重ねて」「助ける、助けられる」

続いて、櫻井さん、尾下さんの言葉です。

寄り添う(櫻井さん)
 ヘルプマークがあるから人を助ける、というのは本来の目的ではありません。助けないといけないから助けるのではなく、時間を重ねてお互いを知り、継続的に寄り添うことがポイント。年をとれば誰もが身体的な不自由が出てきて、いつかは自分ごとになる。できる範囲で行動を起こしてほしいですね。
自分自身のヘルプに気づくこと(尾下さん)
 私たち自身も誰かを助けられることが絶対にあるし、助ける、助けられるが逆転することはいつでもある。逆転しやすい世の中になればいいな。

 お互いの話や思いをしっかりと聞き、語り合った参加者たち。最後に全員で写真に収まり、いきいきとした笑顔があふれました。これから、一人ひとりの考え方と行動が日本を少しずつ変えていきます。

学生たちの声 未来に向けて——

瀬渡さん 「助けたい」という気持ちは誰にでもあるはず。ヘルプマークを着けている人に、自分には何もできないんじゃないかと傍観していて距離がありましたが、自分ごととしてとらえて、おせっかいになったらいいと思いました。
生貝さん バリアフリーになったから問題がすべて解決するわけではなく、周りの人の心づかいが大切なのだと改めて痛感しました。これからヘルプマークの人を見かけたら声をかけたり、席を譲ったりしようと思います。
竹田光さん 今までバリアフリーや段差、ヘルプマークを意識して見たことがなかったので、気づきになるすごくいい機会でした。トイレなどみんなが見る場所にヘルプマークとその説明があれば、もっと広がると思います。
川中さん SNSなどでヘルプマークを広めるのもいいですが、人助けをしたとき、ヘルプマークのことを周りに話すなど、人と人のコミュニケーションで直接伝えたほうが、今日の僕のように、心に強く残りやすいと思いました。
竹田光貴さん 大学で福祉を学んでいるのですが、分かってはいるけど実際どうすればいいかが課題でした。いろんな人の話を聞いて、自分から勇気を出して声をかけて、社会を変えていこうと思いました。

支援に関するマークの名称 (上段左から)マタニティマーク、障がい者のための国際シンボルマーク、身体障がい者標識、聴覚障がい者標識(下段左から)ほじょ犬マーク、オストメイトマーク、「白杖SOSシグナル」普及啓発シンボルマーク、手話マーク

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