宇宙にこそ医学がいる 夢の旅ができる時代だから石橋拓真さん:朝日新聞DIALOG
2021/08/12

宇宙にこそ医学がいる 夢の旅ができる時代だから
石橋拓真さん

By 大友沙羅(DIALOG学生部)

 星空に星座を思い描き、皆既月食に沸き立って、宇宙旅行を夢見る。人はいつの時代も、宇宙に魅せられてきました。でも、どこか遠い世界だった宇宙を旅行できる時代が近づいています。東京大学医学部5年の石橋拓真さん(24)は、「宇宙医学」を探究し、多くの人に知ってもらう活動を続けています。また、分断が広がる世界を宇宙テクノロジーでつなぎとめようとする「Earth Light Project」にも参加。点火装置を打ち上げて、成層圏でともした炎の向こうに浮かぶ地球を撮影するという、世界初の試みが行われたばかりです。

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スペースバルーン 地球と炎

——Earth Light Projectで石橋さんはどのような役割を果たしていますか。

 Earth Light Projectは大規模なプロジェクトで、メンバーの役割はプロジェクトのフェーズに応じて変化してきました。私が加入したのは2020年夏だったのですが、最初の仕事はプロジェクトのコンセプトに宇宙開発史と人類史の観点を盛り込み、ストーリーラインを整理することでした。

 その後、クラウドファンディングが本格化すると、宇宙開発業界の方々に応援コメントの投稿をお願いしたり、リターン品の金額設定や商品開発を行ったり、企業と協賛の交渉を行ったり。資金調達達成後は、打ち上げ当日の中継配信の番組制作や、広報力の強化を行いました。

 Earth Light Projectは技術開発的なチャレンジであると同時に、分厚いコンセプトをベースにしたアートプロジェクトでもあります。その両面をうまく表現できるように企画を練り、映像技術のメンバーと協力していきました。

スペースバルーンを打ち上げ、成層圏で炎を点火します。
宇宙をバックにして、この炎越しに地球を撮影。
ライブ配信で地球上のみんなで同時に見守ります。
このシンボルをみんなのものにするために、あなたを加えて、世界へ広げたい。
世界のみんなと一緒に1つの炎を囲みましょう。

Earth Light Project

打ち上げを中継配信 結果は…

——打ち上げの結果はいかがでしたか。

 梅雨のただ中、晴れ間となった6月26日、茨城県の大洗海岸から打ち上げることができました。メンバーは寝る間を惜しんで最後の追い込みを行いました。打ち上がった機体からの同時中継映像が届いたときには、感激のあまり涙を流すメンバーもいました。

 個人的には、成層圏から帰還し着水した後に漁船で回収された機体を見たときの感動が忘れられません。残念ながら、上空での炎の点火というミッションの本体は達成できませんでしたが、打ち上げから着水までをカメラに収めることに成功し、点火失敗の原因分析も進んでいます。また、中継配信が思うようにいかない面が多く、計画と事前訓練の不足を痛感しました。

 そんな中でも200人超の方々に中継を見ていただいたことには、感謝の念しかありません。次回、9月の打ち上げで、私たちの炎をみなさまに届けられるよう、課題をひと夏かけて解決していきます。

学生コミュニティー 学ぶ・つながる

——石橋さん自身の活動についてうかがえますか。

 宇宙医学に関心のある人の、とっかかりの場になることを目的とした学生コミュニティー「Space Medicine Japan Youth Community」を2017年に立ち上げました。文理関係なく参加できるコミュニティーです。ウェビナーを開いて、大学の研究者やJAXA(宇宙航空研究開発機構)の方など、宇宙医学に関わる方々から話を聞くほか、宇宙医学に関係する論文の抄読会を開いています。外部にも広く知ってもらうため、夏休みと春休みに短期集中型のオムニバス講義もしています。コロナ禍になる前はスタディーツアーを実施していました。アメリカで作られた宇宙医学の教科書の日本語版を作成するといった単発プロジェクトもいくつかあります。学んだことを記事にするなど、アウトプットを大事にしています。

東大医学部 入って目覚めた

——宇宙医学という分野を追求し始めたきっかけは何ですか。

 宇宙飛行士になるために医学部に入ったので、宇宙と医学という二つの要素は元からあったんです。ただ、きっかけとしては、大学に入って自分の「凡庸さ」にがくぜんとした時期があったことです。その中で、自分にしかできない方法で世の中に貢献できることがあるかと考えたときに、宇宙と医学が結びついた一つの分野として思いつきました。

——なぜ自分が「凡庸だ」と思ったのですか。

 東大の医学部っていう、一見、凡庸とはほど遠い場所に入りましたが、入学後、大学にいるすごい人たちの大群に圧倒されました。そのすごい人たちに刺激を受ける中で、消費者であるよりは生産者でありたい、という思いが芽生えたんです。つまり、何かを創造して世の中に発信する側になりたい、そのほうが楽しいと思うようになりました。そうして「宇宙医学」という分野を見つけました。

——周りの人たちから宇宙医学の分野で触発されることはありますか。

 まだそこまでは行っていません。今は、既存の宇宙医学の知を広めていく活動をしています。宇宙開発は単一の学問領域内だけではなしえないので、他分野の人たちに協力してもらう必要があります。東大には工学部や法学部といった、将来日本の行政や産業を担うための学びの場がたくさんあります。大学の同級生たちに話をすれば、宇宙開発について上向きのアウトリーチができる環境なんです。

病院実習 手術室での学び

——現在、医学部ではどのようなことを学んでいますか。

 大学では病院実習が始まりました。僕の班は4月から外科系を回っていますが、もともと外科系に興味があるので、すごく勉強になります。

 外科手術では役割分担が洗練されています。手術室には医師が3人とか4人いるんですね。執刀医と助手を務める医師たち、そして麻酔科医です。看護師も数人います。

 メスなどの器具を渡すのは手術室看護師と呼ばれる人です。例えば、執刀医ががんを取り除くときには、助手の医師がほかの臓器をよけたり、水をかけたりします。針や糸といった器具を用意する看護師もいます。呼吸と血圧と体温、心拍を見るのは麻酔科医。そんな感じで美しく分業されていて、無駄がないんです。

——役割分担は、宇宙医学にも通じますか。

 すごく似ているのは、宇宙飛行士だけで仕事をしているわけではないというところですね。宇宙飛行士が大気圏を突破した後も、地上から管制官が支援しています。管制官に必要とされる能力は、先回りして指示をする力なんです。手順の2個先、3個先を秒とか分の単位で先読みしていく力が必要です。そういう部分で、宇宙医学と重ねて勉強になるなと思っています。

宇宙旅行の時代 広がる夢

——将来の展望として考えていることはありますか。

 宇宙医学については、ここ数年で変化しうる、激変のタイミングかなと考えています。「ブルーオリジン」や「スペースX」といった宇宙開発ベンチャーが、有人宇宙飛行に成功しています。民間の人たちが今後、宇宙に向かって動き始めていく。大小さまざまな企業がその領域に目を向けているので、景色が大きく変わることは確かだと思っています。

——民間の有人宇宙飛行の動きが進む中、石橋さんの夢は変化していますか。

 もともと宇宙飛行士として、宇宙空間で医療や医学を研究したいと考えていました。しかし大学入学後に宇宙医学という分野に出あい、飛行士の健康管理や、地上での模擬実験という役割もあることを知りました。

 さらに民間の宇宙旅行への動きが本格化し、「健康な飛行士をつつがなく帰還させる医学」から「病気のある旅行者でも安全に滞在できる医学」へと、宇宙医学のフェーズが大きく切り替わる時代の転換点を迎えています。人類全体が宇宙に進出していく未来のためには、国から民間、民間から市民へと主役が切り替わっていくことが必要です。

 民間宇宙旅行を医学でサポートすることで、その流れを加速させることができるのなら、全力を尽くしたいと今は考えています。もちろん宇宙飛行士という夢は今でも中心にありますが、それを含めて、夢の選択肢が広がっている感覚です。


石橋拓真(いしばし・たくま)

 神奈川県出身。2017年に宇宙医学分野の振興を目的として学生コミュニティー「Space Medicine Japan Youth Community」を設立。一般向けのウェビナーや学生向けのスタディーツアー、教科書の翻訳プロジェクトなどに取り組む。2018年、国際宇宙会議(IAC)にJAXAから派遣。2020年から有人宇宙開発振興を目的としたHomer Spaceflight Project、成層圏で“炎越しの地球” を撮影するEarth Light Projectメンバー。

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