自由自在な世界へ デジタルの力でイノベーションZホールディングス社長・川辺健太郎さん:朝日新聞DIALOG
2021/08/19

自由自在な世界へ デジタルの力でイノベーション
Zホールディングス社長・川辺健太郎さん

By 遠藤文香(DIALOG学生部)

 若い世代が各界の著名人と対話する「明日へのLesson」。今回は、経営統合したヤフーとLINEの親会社「Zホールディングス」社長の川辺健太郎さん(46)を招きました。対話に臨んだのは、駒下純兵さん(27)と福田恵里さん(30)。駒下さんは「写真を通じて世界を平和にしたい」と出張写真撮影サービスを展開するラブグラフのCEO。福田さんは、女性向けのキャリア支援サービスを行うSHEのCEOです。コロナ禍で存在感を増すデジタルの世界。巨大ITグループのかじ取り役は、いま何を思うのでしょうか。

コロナ禍 得意技が生きた

 デジタル化やインターネットの最大の利点は「非接触」に尽きます。あるいは、何かをマッチングさせる。インターネットの得意技が(コロナ禍で)生きましたよね。

 新型コロナウイルス感染症の収束が見通せず、世の中は「新しい生活様式」への変化を余儀なくされました。多くの企業で、自宅などから勤務するテレワークが取り入れられています。川辺さんのインタビューもリモート取材でした。

 また、外出できない中でも「ほしい」と「売りたい」のニーズはあり、人々が会わずに物のやりとりをすることが頻繁に行われました。「接触」が制限されたからこそ、「非接触」での取引が促されたのです。

 ヤフーとLINEといったサービスを通してマッチングを仕掛けて、こうした有事の際に困っている人を助けたり、支援したりするのがZホールディングスの役割だ、と川辺さんは語ります。

駒下純兵(こました・じゅんぺい) 1993年生まれ、大阪府出身。関西大学社会学部卒。大学から始めたカメラで撮影した「友人カップルの写真」がSNSで話題になり、サイトアクセスは初日で3万PV。全国から撮影依頼が入るようになったことを契機に在学中の2015年に株式会社ラブグラフを設立。2019年、Forbes「アジアを代表する30歳未満の30人-アート部門-」に選出。

【駒下純兵さん】愛があふれる世界のために

得意なことに こだわらずに

 Zホールディングスは国内では「巨大」ですが、国際的に見れば、アメリカのGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)や中国のアリババなど他国の企業に水をあけられています。

 駒下さんが尋ねます。「日本が中国やアメリカに差をつけられた要因は何でしょうか」。川辺さんは「非常に難しい」と前置きしながら、こう答えました。

 日本は30年間、得意なことをやりつづけて、成長するところを必ずしもやってきたわけではなかった。それで、これだけの差がついたのではないか。

 川辺さんの言う「得意なこと」とは、アナログ技術を活用した製造業です。一方、デジタル化によって、すりあわせの技術やチームワークの優位性が失われ、世界ではサービス業が成長分野となっていきました。

 日本には世界に通用するサービス業はほとんど出ていない、と川辺さんは指摘します。そして、これからは成長分野に重点をおくべきだ、と強調しました。

 「我々も得意分野は物売りと広告ですが、あまり固執しないで、AI化で成長が期待できる産業に果敢にチャレンジしていくのが大事」と自らを戒めます。例えば、近い将来、車の自動運転ができるようになり、生み出される市場の大きさは計り知れない、と語りました。

福田恵里(ふくだ・えり) 1990年、滋賀県生まれ。大阪大学に進学後、米国留学を経た4年生のとき、女性の初心者向けにWebデザイン講座などを立ち上げる。卒業後、リクルートホールディングスを経て、2017年にミレニアル女性向けのキャリアスクールを運営するSHEを設立。2020年4月には、産休・育休と同時に代表取締役CEOに就任。

【福田恵里さん】あなたの挑戦に伴走する

偶然の出あい オンラインでも

 スマホからでも、十分にセレンディピティーが得られると思います。

 セレンディピティーとは、予想外なものとの偶然の出あい。街で友人と鉢合わせる、裏通りに魅力的な店を見つける——。そういった機会が失われていると感じるコロナ禍。福田恵里さんは「リアルとの融合のみにしか、セレンディピティーは得られないのでしょうか」と問いかけました。

 川辺さんは「オンライン前提の社会になっても、サービスなどのアイデアならセレンディピティーはつくれるのではないでしょうか」と答えました。そして「この1年半で、ヤフーではコロナ関連の機能を100個以上つくっている。ほぼ誰も出社しないで、オンラインのみでやってのけている。できるわけがないと思ってましたが、できている」と続けました。

異なる手と手 副業でつなぐ

 イノベーションをもっと起こしたい。同質性の高い人たちが話し合っても、なかなか出てくるものでもない。異なる手と手を持った人が対話をすることで、生まれてくるもののほうが多い。

 イノベーションを見据えて、川辺さんがコロナ禍で推し進めた事業の一つに「ヤフー!副業」があります。「ヤフー!副業」に登録した人を、人材募集している会社とマッチングするサービスです。ヤフー自体にも副業を取り入れ、社員が副業することを奨励している、と言います。

 日本では一つの会社に所属するのが当たり前とされてきましたが、その風潮は変わってきています。ほぼ世界中からインターネットにアクセスすることが可能になり、地理的にも時間的にも難しいと思われていた副業が、昼休みなどのスキマ時間で行うことが可能になりました。川辺さんは「瞬間移動を手に入れたようなもの」と言います。

欲望の化身? その通り

 (これからの社会は)もっとAI化していって「人生、自由自在だな」と感じられるようになるはずです。「それはヤフーが、LINEが、ZOZOがあったからだな」という会社になりたい。

 Zホールディングスは「人類は、『自由自在』になれる。」というビジョンを掲げています。「瞬間移動」も、その一つなのかもしれません。

 川辺さんは「人間は欲求で生きている」と語ります。「ネットという技術によって、この20年で人々の自由度は広がりました。夢や思いつきのアイデアが現実になり、それが人々に使われる可能性が圧倒的に増えた」

 GAFAは「欲望の化身」とも例えられますが、川辺さんは「その通り」と認めつつ、人類に「自由自在」を提供しているとも言います。そして、GAFAを参考にしながら、Zホールディングスとして「今これをしたい、こんなことを実現したい」を後押しするサービスを提供したい、と語ります。

金融の恩恵 若い世代に

 金融をユーザーフレンドリーにして、若い人でも簡単に金融の恩恵にあずかれるようにしたい。それだけで、若い人たちの幸福感や可能性が大きく変わってくる。

 川辺さんは、お金を「自由自在になるためのパスポート」と表現。若者に貢献できるような金融サービスに力を入れたい、と語ります。少子高齢化によってお年寄りの福祉にお金がかかり、若い世代の給料がなかなか伸びない、という背景があるからです。

 ユーザーが増えている金融サービスの例として、川辺さんはPayPayの「ボーナス運用」を挙げます。買い物などで利用者に付与された「PayPayボーナス」を投資に回すサービス。運用益が出れば、再投資したり、買い物などに使ったりできます。本格的な投資よりもハードルが低く、若い人にとっては「お小遣い」が手に入る感覚だ、と川辺さんは言います。

 福田さんは「金融教育が大事と言いますが、自動的にポップに学べる」、駒下さんも「本格的な投資をしようというところにつながっていく」と、その可能性に共感します。

成功するには 失敗がいる

 Zホールディングスは持ち株会社で、グループ企業にはヤフーのほか、買収した衣料品通販サイト「ZOZOTOWN」を運営するZOZOや、経営統合したLINEなど大小さまざまな企業があります。駒下さんはカルチャーの違う企業をまとめていく、その秘訣について質問しました。

 お互いちゃんと向き合って話をする、キャッチボールをすることが大事。LINEの場合は対等経営統合ですからキャッチボールを繰り広げることでよくなっていく。ZOZOの場合は買収ですけど、上から目線で「オレの球だけを受け取っておけ」という話ではない。

 「キャッチボールをしながら、全部を理解しなくてもいいし、融合しなくてもいい。相互理解をして、お互い補完的な関係になることが重要」と言う川辺さん。それぞれの企業のこだわりを尊重して向き合っていくことが、相乗効果を生むための重要な要素なのかもしれません。

 最後に、川辺さんは次世代の経営者たちにエールを送りました。

 早く意思決定をして、早くチャレンジをして、早くいっぱい失敗をしたほうがいい。そのためにはたくさんチャレンジし、たくさん意思決定をすることです。

 「必要な失敗をした人から成功する。失敗していない人はなかなか成功しない。仮に成功したとしても、まぐれなので再現できない」。失敗を恐れるな、という力強いメッセージ。対話の最後に、福田さんと駒下さんは勇気をもらったようでした。

意思があれば幸せに 勇気もらった
遠藤文香(DIALOG学生部)

 AI、デジタルの発展により「意思を持った人が幸せになる時代」になるという川辺さんの言葉に勇気をもらいました。近い将来、意思さえあれば夢がかなう、スキルやコストを理由に諦めなくていい世の中になる、という話を聞き、一気に世界が広がったような感覚になりました。

 人々の生活を豊かに、自由にしているデジタル業界。そんな業界を牽引(けんいん)している川辺さんが、何を大切に仕事をしているのか。それは意外にも、誰にでも当てはまる重要なことでした。

 「お互い向き合って話をする、キャッチボールをすることが大事」。この言葉を聞き、自分がそのような姿勢で普段生活できているかを見直すきっかけになりました。

 失敗を恐れずたくさんチャレンジをする、そのマインドをもって社会へと羽ばたいていきます。


川辺健太郎(かわべ・けんたろう)

 1974年生まれ、東京都出身。1995年、青山学院大学在学中に電脳隊を設立。2000年にヤフー(現・Zホールディングス)に入社、ヤフー!ニュースのプロデューサーなどを務める。2018年からヤフー社長。2020年ZOZOの取締役、2021年ソフトバンクグループの取締役に就任。

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