一生、永遠、サステイナブル 心地良さを探索する田中滉大さん×DIALOG学生部:朝日新聞DIALOG
2021/09/03

一生、永遠、サステイナブル 心地良さを探索する
田中滉大さん×DIALOG学生部

By 小原悠月(DIALOG学生部)

SDGs、ソーシャルグッド…….。
未来のために動きたい。

でも何から始めたらいい?
今も手がかりがつかめない。

「好き」をエネルギーに。
無理なんてしなくていい。

そうヒントをくれたのは、
建築会社NoMaDoS(ノマドス)の田中滉大さん(28)。

slowz(スロウズ)。
サステイナブルに出会えるアプリのプロデューサーです。

イノベーターセッション DIALOG学生部は、若い起業家やアーティスト、社会活動家など、明日を切りひらこうとする人たちを定期的に招いています。活動への思いや生き方、めざす世界を共有、その果実をDIALOGウェブサイトで発信します。

お店の検索サービスを「建築」

——現在の活動について教えてください。

 NoMaDoSという会社でCSO(最高戦略責任者)を務めながら、新規事業開発責任者としてslowzの企画・運営を担当しています。

 NoMaDoSは建築を軸に、心地いい暮らしをどうすればつくっていけるのかを考えて、様々なプロジェクトに関わっている会社です。slowzは、生物多様性の維持や自然保護など、サステイナビリティーを掲げてサービスを提供しているお店を検索できるマップ型プラットフォームです。

当たり前に無理のない都市と生活をつくる
見せかけじゃない、アクションと効果をともなったサステナビリティが求められています。
都市の形だけじゃなく、生活の切り替えだけじゃない、包括的なサステナブルの形を求めている人たちがいます。
slowzは、プラットフォームによるソリューションを通じて、これからの時代に求められる社会と行動を 応援するために生まれた、サステナブルサービスです。

slowzホームページから
人工たんぱく質を使った建築アイデア

——slowzという名前に込めた思いを教えてください。

 スピードが上がり続けるアクセラレートな社会に対して、多くの人が自分のペースを取り戻すために一回スローになろうよ、考えながら消費や生産をやっていこうよ、というメッセージを込めています。slowzをきっかけに、サステイナブルな活動が生まれていくのがいいと思っています。

 slowzはあくまで一滴の存在。例えば、世界中でslowzしか使われていないという状態になると、一つの価値観で覆われてしまって、選択肢を狭めてしまう。社会に対して、さざ波を起こさせる存在でありたい。一滴のしずくであるslowzをきっかけとして、ほかのプレーヤーたちがその波に乗っていけることが理想だと思っています。

情報が足りない ヤバくない?

——slowzの開発の経緯を教えてください。

 2019年、次世代のクリエイターを支援・育成する国際デザインコンペ「LEXUS DESIGN AWARD」に、人工たんぱく質を使った建築アイデアを出品したところ、2000組ほどの応募からショートリストに選んでいただきました。

 僕が企画・プロデュース・コンセプトデザインを担当しました。サステイナビリティーをテーマに、木材など天然資源を使うのではなく人工たんぱく質を用いることで、地球に対して非暴力でありながら災害に負けない文明をつくる「地球に対しての非暴力・不服従」をコンセプトに掲げました。

 このアイデアを形にするために様々な情報ソースにあたったのですが、日本では情報がまとまっていなかったり、アクセスしづらかったり。一方、海外では自治体レベルでリポートを出しているところがあり、国内外の差を感じました。

 情報に差があると、「動こう」と思っている人たちが動けず終わる。この日本の状況、ヤバくないか?と思いました。グローバルで取り組むべきサステイナビリティーにおいて、日本が置いていかれないためには、情報の可視化・整理がまず必要だと思い、slowzのアイデアのきっかけが生まれました。

——アイデアは、すぐ形になりましたか。

 サステイナブルというと、エネルギーシステムの開発や大規模なプロダクトシフトなど、大きな動きに注目が集まっている印象があります。でも、建築会社にいながらも、僕は文学部卒で、キャリアも広告・メディア領域から始まっています。「大きな動きだけで、生活者はサステイナブルな日常にスイッチできるのか」という疑問がありました。

 ボトムアップで生活者が行動を起こせる状態じゃないと、ハコモノや、生活者が置きざりのシステムばかりになってしまう。結果的に、大きな波が持続しません。小さなことでも生活をサステイナブルにスイッチするほうが求められているのでは?と思い、お店や商品を選ぶ段階から情報にアクセスできるようにしようと思いました。

 slowzは2020年の2月半ばにキックオフして、2020年の11月にはリリースを開始しました。

slowzとYahoo!JAPAN「LODGE」のコラボレーション企画で

「無理なくスイッチ」反響が

——リリースしてみて、どうですか?

 今のアプリはプロトタイプ(原型)のようなもので、機能的にも狭く、想像している1%くらいしかできていないのですが、想定以上にダウンロードがありました。メディアの注目があってユーザーの声も集まり、実証実験的に出したという点では成果を感じています。

 最初は、サステイナブルに関してすでに活発に活動を行っている人に使ってもらおうという想定でしたが、実際にリリースすると「すべてをサステイナブルに変えていこう」とか「サステイナブルじゃなきゃダメだ」という強い方向性よりは、「日常の無理のない範囲でサステイナブルにスイッチしたい」という人が多かったんです。

 このアプリを通して「ナチュラルにサステイナブルの選択肢がとれるようになりました」とか「プラスαの豊かさを手に入れることができました」という人が実は多くて……。いい意味で予想外でした。

どう生きるべき? 歴史に学ぶ

——社会問題に昔から興味があったのですか。

 バブル崩壊後、経済は低迷しているのが普通でした。リーマン・ショックや就職氷河期など、課題がたくさん残された状態で生まれてきた世代なので、社会課題を考えることに対して抵抗感はないと思います。

 歴史を学んでいると、時代が変わっても同じことが繰り返されている、と気づくはずです。同じようなことが起きると、人間は同じように動く。ある課題を一部だけ解決しても、見落としていたものが新しい課題として現れてくる。「無駄なこと、ずっと繰り返しているな」というのは中学生くらいからずっと思っていました。

 「人間はこれまでどう生きてきて、これからどう生きていくべきか」ということに興味がありました。大学で日本史、とりわけ文化史を民俗学などの知見を踏まえて学び、それ以外にも哲学の授業を受けたり、イタリアに留学してヨーロッパの人の価値観に触れたりするうちに、人類が直面する課題に対する視点が深まっていったと思います。

——なぜ文学部にしたのですか。

 子どものころから、歴史が「好き」かつ「得意」だったという単純な理由です(笑)。うちは、よく本を読んでくれる家庭でした。とりわけ歴史に関する話に興味を持って、「もしこんな歴史になってたら、今の世界はどうなってるんだろう?」などと、いつまでも考え続けられる子どもでした。学校では日本史だけ成績が良くて「ここしかオレの生きる道はない。日本史をやる学科に行こう」と思って文学部に進みました。

——ロールモデルはいますか。

 アメリカにエリック・ホッファーという哲学者がいます。幼いころに失明して、10代で再び見えるようになってから本を読み漁り、独学で哲学者となりながらも、60代まで港湾労働者としての生活を続けた、変わった経歴の人です。

 定住せずに、常に新しい場所を放浪して、そこで出会った人やリアルな社会の姿から思索を深めることで、トップダウンではなく、ボトムアップでの思想の形を作っていったという生き方に共感する部分が多いです。

レビュー文化しんどい だから

——slowzを、どうアップデートしていきますか。

 slowzは「当たり前に無理のない都市と生活をつくる」をビジョンに掲げていて、「取り組む人たちが、しんどくない」というのを一番に考えています。

 ビジネスや市場経済、モノづくりをサステイナブルな方向に変えるのは時間がかかります。短期間で変えようとして、なかなか変わらないことに焦燥感や不安を感じ、追い詰められてしまう人も多くて。それってサステイナブルじゃないな、とslowzの着想のときから思っています。

 人間にとって一番サステイナブルなのは、一人ひとりが心地良くあれる状態だと思っています。その上で、その人を取り囲む他者、自然を含んで心地良い環境になることが理想です。

 次のアップデートでは「心地良さ」を一つの指標にしようと考えています。

 お店や商品を評価するレビュー文化は、しんどさを生みます。レビューが低いと「良くないお店」になってしまう。でも、お店の価値は多様で、ある人にとってはすごく価値があるかもしれません。

 構想段階から僕は「レビューはやりません」と言っています。今考えているのは、ユーザーがお店で感じた心地良さを投稿してもらうことです。「ワクワクした」「リラックスできた」「落ち着けた」など心地良さのタグを付与して、コメントも残していく仕組みです。

 データが集積していけば、心地良さでお店が選べます。サステイナビリティーと心地良さを両立させた形で、お店の価値を可視化していきたいと思います。

 また、slowzのアンバサダーのような制度をつくっていきたい。ローカルサステイナブルガイド(LSG)と呼んでいるのですが、いろんな地域でサステイナブルな情報発信をされている方々にお声がけして、地域のサステイナブルなお店につないでいただいたり、ライフスタイルをコンテンツ化してslowzに掲載させていただいたり。それぞれの地域でイベントを開くなどしながらエリアの拡大をしていこうと思っています。

「イケてる 最高じゃん!」へ導く

——若い世代の声をslowzの設計に生かしていますか。

 「情緒を大事にしよう」というのが前提にあります。「イケてる」と思わない店は載せません。サステイナブルにこだわった店だとしても、主なターゲットの20代やZ世代が「イケてる」と思わないと絶対行かないよねっていう感覚が僕にはあるんです。

 イケてるかどうか。かわいいかどうか。オシャレかどうか。これは人々の欲に響くかどうかだと思います。欲に応えられないと、「行動させる」ことになってしまう。

 必要なのは「させる」ではなくて、その人たちが「する」ことです。「情緒的にもイケてるし、社会的にもイケてる、最高じゃん!」という状態を増やしていくことがslowzの大切にしている部分です。

「好き」のエネルギー つながれ

——若い世代の思いを、どうslowzの設計に生かしますか。

 slowzは意図的に「SDGs」という言葉や指標を用いず、「サステイナビリティー」「心地良さ」「無理のない」などの言葉を使っています。

 SDGsは期限つきの開発目標であり、現状のサステイナビリティーに関する課題を解消するためのものですが、そもそもサステイナビリティーは自然や社会、その中にいる人間が永続的に持続可能であるという状態のことを指します。なので、サステイナビリティーには「終わり」がない。一生、永遠。終わってしまったら「世界が滅びそう・滅んだ」と同義の意味を持ってしまうようなものではないでしょうか。

 一方で「サステイナビリティーで選ぶ」というのを最初に考えなくていいと思っています。まず自分の欲が動くかを考えて、その欲が社会につながっているかを次に考えてほしい。そうすることで、無理をしない状態で、かつ世の中の無理のなさにつながる行動ができると思います。

——若い世代へのメッセージはありますか。

 「好き」を大切にしてほしい。「好き」を人生の中に組み込めているかで、幸福度は変わります。「好き」があるからエネルギーが生まれて、行動を起こすことができる。

 社会人になると「好き」の純度が減って、やらなくてはいけないことの優先順位が高まり、自分の「好き」から離れたり「好き」に向き合えなくなったりします。そのことでWell-beingでいられなくなり、自分自身がサステイナブルではなくなります。

 「好き」の純度を高めていくことで、自分だけがサステイナブルの状態になるのではなく、誰かの「好き」をつくったり、誰かの「好き」を守ったりすることができる。自分の「好き」を、他人の「好き」、社会の「好き」につなげることで、世の中全体のサステイナビリティーや幸福さを生んでいけるのではないかと思います。

楽しむことが 地球にいいこと
小原悠月(DIALOG学生部)

 SDGsに、距離を感じていました。
 「自分の利益よりも、社会や将来世代のことを考えなさい」
 やりがいよりも、義務感。

 そんな私の心を軽くした、田中さんの言葉。
 「全部がサステイナブルじゃなくていい。無理をしない」
 「いつもの生活プラスαの豊かさ」

 多国籍料理にハマっています。
 食事に「プラスα」するだけで、異文化を知り、触れあえる。
 そのことに、ひかれているからだと気がつきました。

 楽しむことが、地球にいいこと。
 そう考えるとワクワク。
 心に余裕と豊かさが生まれます。

 slowzがめざす世界——。
 ちょっと自分にいいこと。
 そこから社会にいいこと、してみませんか。


田中滉大(たなか・こうだい)

 1992年、熊本県生まれ。早稲田大学文学部卒業後、(株)インフォバーン、(株)ビズリーチを経て建築クリエーティブスタジオNoMaDoSのCSOに就任。都市型サステイナブルライフスタイルサービスslowzの立ち上げとプロデュースをはじめとした新規事業開発を行い、VOGUE JAPANやananなど有名メディアの注目を集める。また、ブランディング施策として企画したコンテンツから2冊の出版が決まり、プロデュースした作品がLEXUS DESIGN AWARDでショートリストに選出されるなど、プロデュース業でも実績多数。バズや目的のない急成長よりも、当たり前に心地良く生きやすい街や生活をテーマに事業づくりや企画を行っている。そのほか、複数企業の取締役も務めている。

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