届け!あなたの熱狂 この手のひらのラジオから井上佳央里さん:朝日新聞DIALOG
2021/09/15

届け!あなたの熱狂 この手のひらのラジオから
井上佳央里さん

By 寺澤愛美(DIALOG学生部)

 Instagram、YouTube、TikTok……。さまざまなSNSが普及して、私たちの生活に溶け込んでいます。そして誰もがインフルエンサーになれる時代になりつつあります。次に人気になるのはどんなコンテンツなのでしょうか?

 写真や動画から、音声コンテンツに注目が集まっていくかもしれません。「話すこと・聞くこと」に新たな価値を生み出している音声配信サービスを手がけるRadiotalk代表取締役の井上佳央里さん(31)に、その魅力と可能性について話を聞きました。

自分だけの番組 ライブで収録で

——現在の取り組みを教えてください。

 「話すことをエンターテインメントにする」を目標に、Radiotalkというスマホアプリを運営し、経済圏が生まれるような仕組みを作っています。

 エンターテインメントを作るには経済圏が生まれることが必要不可欠で、Radiotalkでは投げ銭のように、配信者を応援するリスナーに課金できるようにしています。そして配信者は、盛り上がりに応じて収益を受け取ることができます。面白い話ができる人、人々を楽しませることができる人ほど、経済的にも報われる仕組みです。

Radiotalk
 自分だけのラジオ番組が作れる無料音声配信アプリ。生放送でリスナーと一緒に盛り上がるライブ配信と、編集して効果音などが付けられるトーク収録があり、「Apple Podcasts」「Google Podcast」「Spotify」「Amazon Music」でポッドキャストの自動配信もできる。

——どのような層が利用していますか。

 Radiotalkは、リスナーも話をする人も8割が35歳未満です。地上波のラジオだと平均年齢は50歳前後、局によっては60代以降のケースもあるようです。Radiotalkはラジオを聞いたことがない人がほとんどで、ラジオが好きな人ではなくて、ラジオを知らない人たちが聞いているサービスです。

 ラジオは、すでに有名な人がアサインされている。でもRadiotalkは逆です。

 YouTubeからヒカキンさんやはじめしゃちょーさんといったYouTuberが生まれたように、Radiotalkからトーカーという人気者が生まれていく。そして、ここで人気者になった人がラジオ局でパーソナリティーをやるみたいな、そんな形で誰にでもデビューのチャンスがあります。

Radiotalkのホームページから

話す・聞く 衰退していない

——ラジオと聞くと、衰退しているイメージです。

 聴取率自体は1990年ごろから衰退して、現在は下げ止まっているような状態にあります。しかし、実は「聴取率を指標にして広告を扱う」というビジネスモデルに限界があるだけなんです。このビジネスだと、聴取率を稼ぐには、ラジオ受信機を持っている今の60代、70代のリスナーがターゲットになる。広く広告を売るビジネスモデルからの脱却の時を迎えているだけだと思います。

 でも、「音声を聞く体験」や「トークコンテンツ」は普遍的なもので、衰退してはいないとみています。古代から説話が口承で伝わったように、「話すこと」は人間が普遍的に行うコミュニケーションの手段なので、「音声を聞く・話す体験」をもっと盛んにさせることで、進歩していくものだと思っています。

ひとりの部屋の孤独を癒やす

——音声メディアの良さは。

 好きなことを、好きなように話すことで、音楽みたいに感情移入ができることが魅力だと思っています。知識をインプットするだけではなくて、とにかくこのアニメが好きとか、バンドが好きとか、映画が好きとか何でもいいけれど、「これが好きだ」と楽しそうに話すと、それを同じファンが聞くと「分かる! 分かる!」ってノリになる。音楽のように、楽しさや心地良さを提供してくれるんです。

 音声は三つの性質を持っていると思います。

 一つ目は情報性。効率的に「ながら聞き」して情報収集ができます。

 二つ目は情緒性です。その音声を聞いただけで心地良くなります。また、人の気配を与えてくれます。一人暮らしの無音な部屋で孤独を感じてしまうとき、人の話し声が流れていると、人と人のつながりを感じられることがあります。

 これは、人間の根源的な孤独を解消してくれる。実際、笑い話みたいな音声を聞きながら作業をすると、その作業が楽しかったような気がしてくる。それは、情報というよりは「情緒」をもたらしてくれているのだと思います。

 三つ目は機能性です。音声で、あらゆるものが自動化されつつあります。 GoogleやAppleなどがスマートスピーカーに力を入れているのもこれが理由です。

 例えば「アレクサ、おはよう」と声をかけると、電気がついてカーテンが開いてお風呂のお湯を沸かしてくれる。しゃべるだけで、対応した家電が動いてくれる。世界のテック企業がデバイス開発に参入して、音声への積極投資を進めています。

熱狂の経済圏 月100万円稼ぐ人も

——エンタメに経済圏を作り出すことが必要ですか。

 Radiotalkには月100万円以上稼いでいる人がいます。これは、広告単価が1円で100万人が聞いているというわけではありません。実は、リスナーは100~200人ほど。小規模ですが、みんなが1万円を払っていれば100人で100万円だし、配信者をすごく気に入っているリスナーがいて、その人が10万円を払えば、そういう人が10人いるだけで100万円になります。

 規模が小さくても、その中に「熱狂」が生まれていれば経済圏が生まれる。それを「個の熱狂的経済圏」と言っています。このビジネスモデルは、人を「浅く広く」集めるよりも「深く狭く」集めるほうが向いていて、結果的に「浅く広く」と同じ経済圏が生まれるのです。

盛り上がれる 親友のように

——井上さんの経歴を教えてください。

 ラジオが好きで、ラジオ番組の作り手になりたいと、ラジオ制作の実習ができる大学に通っていました。でも、2、3回目くらいの授業で、「ラジオ産業に進むのは違うかもしれない」と気づいたんです。

 ラジオ産業は、リスナー数を増やして聴取率を稼ぐビジネスモデル。だから、マイナーかもしれないけれど熱狂的にみんなで盛り上がれるという、ラジオに対して魅力だなと思った体験とは異なっていると思いました。

 知り合いでも友人でもなく、年齢も異なる赤の他人が、同じ共通のラジオ番組があれば、大親友のように楽しく盛り上がれる。そんな体験を生み出せるのはインターネットだと気づきました。

 新卒で、インターネット企業のエキサイトに入りました。そこではブログやレシピ投稿サイトのようなユーザー投稿型のサービスを多く手がけていました。

 そのときに、読み手のデバイスはスマホにシフトしているのに、書き手のデバイスは長文を書くためにパソコンのまま、ということに気づいたんです。

 これからは、思ったことをスマホに直接話して聞けるような未来が来るのではないか——。そう考えて立ち上げたのがRadiotalkでした。

朝礼台の下 遠くを思った

——いまにつながる原体験はありますか。

 小学生のころ、朝日小学生新聞によく投書をしていて、それをきっかけに読者リポーターをやることになりました。

 当時、小学校では人としゃべることが全然できなくて……。休み時間、朝礼台の下で誰にもバレないように20分間過ごすみたいな、そのレベルで人と話せませんでした(笑)。

 ただ、朝礼台の下でも、書くこと、考えることはしていました。考えたことを投稿することで、新聞に載る。それに対してコメントがもらえたり声をかけられたりする。もしかしたら、それを目にしたどこか遠くに住む小学生が同じことを考えているかもしれない、みたいなことがすごく面白いと思っていました。

 「等身大」という言葉の意味を知って、ひかれたのがこの10歳のときでした。映画やテレビ番組のようなプロではなく、一般の人が考えたり、書いたり、発言したりしたものがコンテンツになるという面白さを知った原体験だったかもしれないですね。

みんなの「好きです」を心に

——事業をしていく中で感じる難しさは。

 人類が、まだSNSに対応しきれていないと思っています。100人の「好きです」という声よりも、1人の「最低!」という誹謗中傷のほうが心に残ってしまうんです。

 「好きです」「応援しているよ」というようなねぎらいの言葉は、リアルな生活でも表現している。一方、面と向かって誰かを否定することはリアルの場であまりやらない。

 ところが、その誰かを否定することが、ネット上だと起こりやすい。

 否定されたときに「全然、気にしないっす!」と言えるのは、ほんのひと握りの人です。一般の人は、知らない人に「つまんない」って言われただけで、かなりヘコみます。人間が否定的意見に対応しきれていないと感じています。

「話して稼ぐ 会社を辞めた」

——やりがいを感じたときは。

 Radiotalkで、誰かの人生を変えることができたときです。

 先日、配信者の中で「Radiotalkで話すこと一本で食べていこう」って、会社を辞めた人がいたんです。「個の熱狂経済圏」が生まれた証拠だと思っています。話すことで食べていくトーカーが連続的に生まれていくと、エンタメとして成長していくと思います。

 配信者がリスナーの人生を変えたパターンもあります。配信者がリスナーの悩みに向き合い、リアルの友人以上にきっぱりと答えたことで「仲がうまくいって新しい家族ができました」とか「転職を決意しました」みたいな声が届いて……。

 人生の分岐点に立つ人の背中をトーカーが押しているっていうのを後ろから見ていると、すごくやりがいを感じます。熱狂的に好きな人の言葉が人生を変える。理にかなっていて、うれしいです。

「トーカー」が辞書に載る未来

——10年後のRadiotalkは、井上さんは、どうなっていたいですか。

 話すことで食べていく職業としてのトーカーを生み出すことです。トーカーっていう言葉が一般化されて辞書に載っていて、みんなが知っているような状態になってほしいと思います。

 YouTuberのヒカキンさんのように、日本を代表するトーカーがRadiotalkから生まれている。そして「このトーカーさん、本当に話が面白いよね」って、リスナーが毎日エンターテインメントを感じられる。人々がもっと面白い話ができるようになろうと意識し、進歩している。そんな10年後にしたいと思っています。

ライブハウスのような場所 明日へのエネルギー
寺澤愛美(DIALOG編集部)

 私はバンドが好きで、よくライブハウスに足を運びます。そこに行くと、気づいたら見ず知らずの人と友だちになっていることが多いです。

 ライブハウスには、同じアーティストに熱狂する人が集まってくる。特別な時間を一緒に共有できる。それだけで、年齢や性別、属性を飛び越えて仲良くなれてしまう。出会った方たちと語り合い、盛り上がる時間は心から楽しく、充実しています。好きなことに一緒に夢中になれる、そんな空間がとても好きです。

 Radiotalkはライブハウスに似ていると感じました。好きなことを、好きな人たちが、好きなように話す。そこに熱狂が生まれる。リアルでも起こりうるけれど、インターネットだからこそ生まれる出会いがRadiotalkにはあふれています。

 心から好き、楽しいと感じられる時間は、日々を乗り越えていく大きなエネルギーになると思います。「今日はこの配信があるから頑張れる」のような、ちょっとしたことでも、その一日の過ごし方が変わってきます。

 Radiotalkでは、周りの目を気にすることなく、自分の好きなことについて胸を張って語れる、共感できる。肩の力を抜いてほっとできるような、自分の居場所となるような、そんな特別な場所だと思います。


井上佳央里(いのうえ・かおり)

 1990年生まれ。東京都出身。Radiotalk代表取締役。大学で放送を専攻し、卒業後、エキサイト株式会社へ。2017年8月に社内ベンチャー制度を利用しRadiotalk(β版)をリリース。その後2019年3月にRadiotalk社をXTechグループの子会社として設立し、代表取締役に就任。最近では、2021年2月「ICC スタートアップ・カタパルト」、6月「IVS LAUNCHPAD」の決勝に出場。ACC TOKYO CREATIVITY AWARDSの選考委員も務める。

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