
環境活動家が「なくしたいモノ」って何でしょうか?
温室効果ガス、プラごみ、フードロス……。
いろいろ考えられますが、露木しいなさん(20)の場合ははっきりしています。それは——。
「環境活動家」
環境活動家が、もはやいらない世の中にしたい。その思いを、DIALOG学生部とのセッションで語ってくれました。
■イノベーターセッション DIALOG学生部は、若い起業家やアーティスト、社会活動家など、明日を切りひらこうとする人たちを定期的に招いています。活動への思いや生き方、めざす世界を共有、その果実をDIALOGウェブサイトで発信します。
——いまの活動を教えてください。
学校での講演とコスメの開発・販売の二つが柱です。いまは大学を休学していて、全国の小学校から大学までの学校を回りながら気候変動について講演をしています。また、環境に配慮したコスメキットの開発・販売にも取り組んでいて、いまは休んでいますが、10月には再開する予定です。

全国で講演 きっかけ届ける
——講演について教えてください。SNSでの発信などいろいろあると思いますが、なぜ講演を?
SNSだと関心がある人しか話を聞かない、というか目にしません。学校の授業では、環境について学ぶ機会がなかった人たち、関心がない人にも話を届けられる。そういう人たちに、きっかけを届けたいと思っています。
——講演での伝え方で、大事にしていること、工夫していることは。
実体験をもとに話すことが大事かな?と思います。私は国連のCOP(気候変動枠組み条約締約国会議)の青年の部に18歳のときと19歳のときに参加したので、そこで見た世界からの視点や、高校生のときに留学した最先端エコスクールといわれるグリーンスクールの話、グリーンスクールに通っていたときにインドネシア・ボルネオ島の熱帯雨林に行ってパームオイルが燃やされているところを実際に見てきた話などをしています。
——講演後に、みなさん行動を変えてくれましたか。
これまで1万8千人くらいに私の話を届けました。講演後にすぐに変わるというよりは、種をまいて、ちょっとずつ芽が出てきている感じです。小学生だと、学校の裏庭に生えているササの茎でマイストローを作って、クラスのみんなに配ったり、給食のパック入りの牛乳のストローとして使ったり。環境イベントを定期的に開いている高校生もいますし、家の電力会社を再生可能エネルギーに変えた人もいます。講演ではないですが、私の普段の活動をSNSなどで見て刺激を受けて、沖縄で規格外の野菜を使って商品開発を始めましたっていう高校生もいます。講演と発信は、どちらも大事だなと思いました。

自分でつくる たったひとつのコスメ
露木さんHP(Lip Kitは10月リニューアル時から)
Beauty comes with Earth(地球とともに美しく)
原材料はすべて明確、そして天然材料
毎日使うものだからこそ、
こだわってほしい地球にも体にもやさしいモノを
今までにない、新体験がおうち時間でできる
ときめきとラブが詰まったLip Kitが完成しました
「彼女のために、口紅を」
——自分で作るコスメキットについて教えてください。
妹の肌が弱かったことがきっかけで、まず口紅を商品として開発しました。人に安全で、プラスチックをあまり使わなくて、容器も再利用できて、人にも環境にもやさしいブランドです。「消費者の選択が地球を変える」というメッセージを高校生のときから、ずっと考えていました。そのメッセージをコスメのコンセプトに込めて「日々のものに目を向けようね」という思いで販売したんですけど、お金を出して買うっていう一瞬の行動だけでは、人の意識ってなかなか変わらない。だから、五感を使った体験を届けたいと思って、「自分で作る」っていう面倒くさいと思われる工程をわざわざ入れることにしました。
——開発は一人で?
一人です。いまも一人。「遠くに行きたかったらみんなで、早く行きたかったら一人で」って言うじゃないですか。なので、これからは仲間が集まってくれれば、うれしいです。
——コスメキットの反響は。
一人で作るよりも、友だちと作ったとか、お子さんと作ったとか。一つのキットで2本の口紅が作れるので、そういう使い方をしていただいています。彼氏さんが「彼女のために口紅を作りたい」というのもあって、「オススメです、ぜひ!」。そんな感じで販売期間は過ぎていたんですけど、「どうしてもカートを開けてほしい」って言われて、1回だけカートを開けたことがあります。ステキな彼氏さん。めっちゃうれしいです、本当に。

グリーンスクール留学 目が覚めた
——環境問題に興味を持ったきっかけはグリーンスクールでした。
正式名称は「グリーンスクールバリ」。インターナショナルスクールです。私が通っていたころの話にはなってしまいますが、生徒が約500人。幼稚園より下の世代から高校まで。42、43カ国くらいの生徒が世界中から集まって、日々、英語を使って勉強しています。「世界のグリーンリーダーを育てる」を目標にしています。私は高校の3年間、通いました。「英語を話せるようになりたい」と思って進学先を探していたとき、たまたまグリーンスクールを見つけたのがきっかけです。
——どんなことを学びましたか。
ある授業で、バリ島にあるゴミ山を訪れる機会があって、その規模感がすごかった。海から流れてきたのかな?って思っていたんですけど、そのゴミは海外から送られてきたものでした。ゴミが海外から送られてくる、ゴミのやりとりがあると初めて知って……。母国の日本も、処理しきれないゴミを海外に輸出している。日本にいたときに教科書で見たゴミ山や貧困問題は、世界の裏側で起きているような気がしていました。「かわいそうだな」「そういう問題って、あってもしょうがないよね」っていう雰囲気だけど、その原因を作っているのは、自分たちみたいに毎日安定した生活をしている人たち。そのために犠牲になっている人たちとか、国とかってあるんだなって思ったんです。自分みたいな人たちが変わっていかなければ、ただただ犠牲になる人が出るから、その人たちのためにも環境問題に取り組んでいかないといけないなと感じました。

気候変動へのアクション 授業で
——ゴミ山のほかには。
グリーンスクールでは、クライメートアクションという授業もありました。気候変動に対して行動を促す内容です。気候変動に対して、世界にはどういう活動をしている人がいるのかを知って、今の自分の立場でどういうことができるのかを考えて、実際に行動するってところまで授業に含まれます。
——高校の3年間で、考え方に変化は。
「普通が普通じゃない」っていうことを学びましたね。自分が当たり前に思っていることが全然当たり前じゃないんですよ。「当たり前を疑って当たり前に感謝する」っていう言葉を大切にしています。例えば、この洋服って当たり前に着ているけど、どうやって作られているの?と疑ってみる。今の生活に感謝しながら、ちゃんと疑って、どんなことが解決できるのか考えていくことが大切だなと思います。
環境活動家 なくしたいけど…
——「環境活動家をなくしたい環境活動家」として活動しています。環境活動家がいらないというのは、どんな状態ですか。
地球の平均気温の上昇を2050年までに1.5度未満に抑えたいっていうのが目標ではあるんですけど……1.5度だとしても重症じゃないですか。いまこれだけ被害が出ているのに、2度上がらないように1.5度をキープするのに意味はありますが、でも被害はある。だから、環境活動家としての役目は一生、終わらないと思っています。

ハッピーワールドリーダー?
——スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさんもCOPに出ていました。賛否がある周りの視線を、どう感じますか。
どう思われているのか、あまり興味がないので分からないです。分からないですけど、でも自分のことを調べるとかエゴサーチはほとんどしません。興味がないから、やらないんです。どう期待されるのか知らないし、期待に応えたいというよりは、やりたいことをやりたいって感じです。これ、今まで聞かれたことがない質問でした。
——環境活動家という肩書を、どう思いますか。
なぜ「環境活動家をなくしたい環境活動家」って名乗っているかというと、自分がそういうラベルが嫌いだからです。でも、なんで「環境活動家」になったかというと、バリから日本に帰って、そう呼ばれるようになったから。「しいなちゃんって環境活動家だよね。ペットボトル買わないし、お肉を食べないし、『環境のために』って人に伝えたりしているよね」って言われるようになって……。「環境活動家」って過激っぽいじゃないですか。もっと「ハッピーワールドリーダー」とかのほうが好き。もはやそれくらいでいいんじゃん!って思うんですけど。ちょっとゴミ減らすとか、一人ひとりが環境活動家になって、そういうラベルがなくなっていくのが一番だと思っています。
——同世代にメッセージをお願いします。
「何かを始めるのに、大人になるまで待たなくていいよね」っていう言葉があります。私は昔から勉強がすごくできなくて。日本にいると、勉強ができていい大学に行くのがすべてみたいな風潮があって、私は勉強ができないっていう絶望的な環境にいました。でも、グリーンスクールに行ったら「大学を卒業しないとできないことって別にないじゃん」「行動しながら学ぶ方法もある」って学んで。だから、世の中の風潮に流されて「できない」って思っている人がいるなら、ぜひ行動を。それが私のメッセージです。
ちょっと先の未来へアクション
神里晏朱(DIALOG学生部)

環境問題を自分ごと化し、アクションを起こしている姿に多くを学びました。特に、グリーンスクールへの単身留学、日本全国を飛び回っての環境活動など、並外れた「行動力」には感銘を受けました。露木さんのアクションが人々の意識や行動の変化に結びつき、まさにチェンジメーカーの一人であると感じました。
2030年にSDGs(国連の持続可能な開発目標)の達成期限が迫る中、露木さんの「環境への行動を起こす人が増えてほしい」という思いを受けて、意識ではなく行動の変革が求められていると改めて思いました。露木さんのような、身近に感じられるロールモデルがいれば、より多くの人々がアクションを起こすことができるのではないでしょうか。
最初は自分のためであっても、ボトムアップで行動の変革が起これば、ゆくゆくは社会そして世界に影響を及ぼすでしょう。私たちの行動が、未来をつくる。私も「ちょっと先の未来」を見据えて、アクションを起こしていきたいです。
(9/25 14:50 一部誤字を修正)