完璧じゃない 仲間がいるから遠くへ行けるポーラ社長・及川美紀さん:朝日新聞DIALOG
2021/10/14

完璧じゃない 仲間がいるから遠くへ行ける
ポーラ社長・及川美紀さん

By 隈部萌栞(DIALOG学生部)
及川美紀さん=関田航撮影

 若い世代が各界の著名人と対話する「明日へのLesson」。今回は、化粧品会社ポーラ社長の及川美紀さん(52)を招きました。対話に臨んだのは平間亮太さん(30)と松岡奈々さん(24)。平間さんは、サトウキビストローを販売、回収し、堆肥化するなどの取り組みをする4Natureの代表取締役。松岡さんは、ベトナムの保育園に向けたヘルスケア管理サービスを展開するWELYのCEOです。

 日本企業の女性管理職の少なさが指摘される中、同社初の女性社長となった及川さん。社長は強く完璧であるよう求められることもありますが、及川さんは自分の強さではなく、弱さについて語り出しました。

みんなが夢を追う 理想の船

 理想のリーダー像は『ONE PIECE』のルフィです。

 平間さんの「理想のリーダー像があれば教えてください」の問いに対して、及川さんは、古今東西の著名な経営者ではなく、意外にも漫画『ONE PIECE』の主人公ルフィを挙げました。平間さんは「ワンピースが出てくるとは……」と驚いた様子です。

 ONE PIECEは1997年に週刊少年ジャンプで連載が開始され、アニメや映画、ゲームにもなっている、人を引きつけてやまない作品です。ルフィは海賊王になることを目指して仲間とともに冒険します。仲間たちにも夢があり、ルフィとともに、それぞれが夢を追います。

 及川さんは、ルフィのように強い思いを持ち、全体のビジョンを示しながら、みんなの夢とともに同じ船に乗るのが理想の会社だと言います。

 ポーラは「お客様にとっての豊かな時間を作り上げる」をビジョンとしています。この目標を達成するためにも「一人ひとりが自分の中の大事にしたい思いをとがらせて、その魅力で人と人とがつながっていくような組織にしたい」と及川さんは語ります。

平間亮太(ひらま・りょうた) 株式会社4Nature 代表取締役。千葉県出身。2018年、同社を設立。資源循環や地域循環、循環サービスを提供している。資源循環の一つとして、100%天然成分で生分解性を持つサトウキビを使用したストローの販売・回収を行っている。地域循環ではコミュニティーをベースにし、コーヒーかすを再利用した製品や、竹を使用したプロダクトを開発中。

完璧である必要はない

 なぜリーダーになれたかというと、足りないことがいっぱいあったから。

 「強いリーダーシップで引っ張っていくことは理想としていない」と言う及川さん。自分が社長に推薦されたのは「及川にはこういうところが足りないから『ここは僕が頑張らなきゃ』『ここは私が頑張らなきゃ』と思ってくれる人たちが、きっといっぱいいるだろう、という期待があったからではないか」と振り返ります。

 ポーラの2029年ビジョンに“私と社会の可能性を信じられる、つながりであふれる社会へ”があります。及川さんは、ビジョンの実現に必要なつながりをつくるためには「完璧である必要はない、みんな少しずつ足りないところがあって、ちょうどいいのではないか」と考えています。

 企業理念である「永続的幸福」を実現するために「ここは私が力を発揮する」「ここは私がサポートする」といったように、みんなでつくり上げることを理想としていると言います。

松岡奈々(まつおか・なな) 1997年生まれ、鹿児島県出身。ビジネス・ブレークスルー大学経営学部ITソリューション学科卒。 2017年5月、WELLNESONE JAPAN(現WELY)を設立。同年、孫正義氏が創設した公益財団法人 孫正義育英財団1期生に選出。2020年、Forbes JAPANによる「世界を変える30歳未満の30人」でHEALTHCARE & SCIENCE部門受賞。さらに、シンガポール最大紙The Straits Timesが選ぶ「30 and under Young Asians to watch」に選出された。

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どんな境遇でも 得るものがある

 意味があることのために生きているわけじゃない。

 「生きている意味って何だろう」

 ネガティブな意味かポジティブな意味かはさておき、一度は考えたことがある人も多いと思います。特に就活をする時期は、人生の意味を探すことが多くなることでしょう。

 しかし、及川さんは「『こんなことをやって、何の意味があるんだろう』と思わないようにしなければならない」と言います。その理由は、意味があることのために生きているのではなく、後からその意味が出てくるからだそうです。

 そのことを痛切に感じたのが、及川さん自身の経験した“異動”でした。

 希望が通った異動は、社長になるまで一つもない。

 驚いたことに、及川さんは社長に就任するまで、希望通りの異動は一つもなかったんだとか。しかし、与えられた場所で「今、何ができるか」を考え、行動してきた及川さんは、すべての異動を受け入れてきました。

 「(希望した先でなくても)行ったら行ったでやることは山ほどあって、そこで私が責任を果たさなければならないこともたくさんある。恩返ししなければならないこともいっぱいある。与えられた場所で新しいスキル、人間関係を手に入れることができた」と及川さんは振り返ります。

 「出向させられた」「希望がかなわなかった」とふてくされたり、やる気をなくしたりするのではなく、異動先での活躍を期待されていることを自覚して、それに見合う成果を出していけば、必ず将来に生きてくると及川さんは考えています。

女性社長第1号 なぜ今ごろ

 私より前にも、能力のある人が山ほどいた。

 「なぜ、私が今ごろになって国内の大手化粧品会社の女性社長第1号なんでしょう?」。答えは、日本社会の構造が男性型だからだ、と及川さんは言います。

 例えば、出産・育児など仕事以外の負担は女性に偏り、女性が仕事を続けたり昇進したりする上で不利な環境があります。

 人生には、仕事以外にも大切にしなければいけないことがたくさんあります。こうしたライフステージの変化に伴う経験を企業がポジティブに受け入れなければ、急病への対応や親の介護といったこともデメリットとして切り捨てられてしまう、と及川さんは警鐘を鳴らします。

 そして、女性が自分の能力に自信を持ち、高みを目指せるプログラムを普及させたり、男性の育休取得を促進させて女性の負担を軽くしたりする取り組みを挙げ「そういうことを会社として懸命にやっていかなければいけない」と決意を新たにしました。

 松岡さんは「及川社長が先駆者。近くにロールモデルのような存在がいると思わせるのは大切だと思います」と語りました。

可能性の扉 待っていても開かない

 社長になれたのは、能力が足りなくても「WILL」があったから。

 女性の管理職が少ない理由として「女性は責任を感じすぎてしまう」と言う人もいます。

 及川さんは、社長就任を打診されたときに「社長になる能力がありますか?」と聞かれたら、「はい」と答えられなかった可能性も大いにあったそうです。

 しかし「これから(社長として)学んでいく意思はありますか?」「自分の器を大きくしたいと思いますか?」「会社を頑張って大きくしたいという意思はありますか?」と聞かれたら、自信を持って「はい」と答えられた、と振り返ります。

 及川さんは「やれるかどうか」という能力よりも「やってみよう」と思うかどうかの意思を、とても大事にしています。

 「『私には能力がありません』と今で判断するのか、『これから能力をつけたい』と未来で判断するのか、判断の軸がすごく大事。私はWILLがあればリーダーになれると思っています」と言い、及川さん自身も社長就任をWILLで判断しました。

 「可能性の扉は自動ドアではない」と人によく話すという及川さん。「何事もすんなりうまくいくことはないから、まず自分が何をしたいのかに気づいて、それを発信する。『扉を開けたい』と強く願って、声に出して、じたばたしてみる。そうすると『しょうがないわね』と手伝ってくれる人が必ず出てきます」

 まずは自分のしたいことに気づき、それを明確な意思を持って周りに伝える。それによって協力してくれる仲間ができ、一緒にチャレンジしていくことにつながっていく。

 ルフィになるための第一歩。それは足りないところを認め、仲間を信じ、声を上げることなのかもしれません。

みんなと進む 次にリーダーになったときは
隈部萌栞(DIALOG学生部)

 取材前は、かなり不安でした。「社長にお話をうかがう」のは難しそうで、やりとりも堅く淡々としたイメージがあったからです。しかしいざ実際に取材で伝わってきたのは、明るく気さくな及川さんの人柄でした。

 そんな及川さんのお話をうかがっていると「みんなでやっていくこと」に重きを置かれていると感じました。これは、ご自身の得手・不得手を理解した上で、性別や年齢に関係なく社員一人ひとりを尊重し、大事にしているからこそだと思います。「まさにルフィ!」と感じました。

 私は小学校から高校まで、何度も部活やクラブチームのリーダーや副リーダーを務めてきました。その際にどうしてもワンマンプレーになってしまい、うまくチームを回せなかったのが今でもコンプレックスです。

 また一緒に頑張る仲間を信用できず「自分でやったほうが早いから」と勝手に一人で物事を進めてしまうのではと不安になり、最近はあまりリーダーをやらなくなっていました。

 しかし、及川さんの社員に対する真摯(しんし)な姿勢と柔軟さを知ったことで「私も及川さんみたいになりたい」「みんなと協力して物事を円滑に進めたい」と思うようになりました。

 「早く行きたければ一人で進め。遠くまで行きたければみんなで進め」という言葉があります。

 みんなで進むためには、一人ひとりと向き合ったり、自分に足りないところや得意なところを知ったりすることも大事になってくるのでしょう。それに気づき実行できる人に私もなりたいです。


及川美紀(おいかわ・みき)

 1969年生まれ、宮城県出身。1991年、東京女子大学文理学部卒。同年、ポーラ化粧品本舗(現ポーラ)に入社し営業部に配属される。翌年、埼玉県の販売会社に出向となり、埼玉エリアマネージャー、商品企画部長を歴任。2012年からは商品企画・宣伝担当執行役員を務め、2014年からは商品企画・宣伝・美容研究・デザイン研究担当取締役に就任。2020年から同社初の女性代表取締役社長を務める。

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