ベトナムから健康を広める 起業の種、農業高校で見つけた松岡奈々さん:朝日新聞DIALOG

ベトナムから健康を広める 起業の種、農業高校で見つけた
松岡奈々さん

By 仲川由津(DIALOG学生部)

 「東南アジアから世界を健康に」という思いから、起業して試行錯誤する若者がいます。ヘルスケア企業WELYのCEO松岡奈々さん(24)です。ベトナムを拠点に、子どもが遊びながら栄養について学べるカードゲーム教材「MoGuMoGu」を開発し保育施設向けに販売、10月には保育施設の健康管理を一元化できるシステム「MoGuCare」をリリースする予定です。昨年、世界に影響を与える30歳未満の30人の一人として、Forbes JAPANの「30 UNDER 30 JAPAN 2020」にも選出されました。松岡さんの歩みと、これからの活動に迫りました。

【明日へのLesson】仲間がいるから遠くへ行ける

畳の材料イグサ 食べてみる?

——現在の活動について教えてください。

 主な活動は「MoGuCare」という健康管理システムの開発で、9月には開発が終わって10月にはリリース予定です。保育施設向けで、体重や身長、食事の量を記録するなど、保育施設のデータ管理業務をデジタル化しています。現在もベトナムでは子どもの健康に関する公的な書類の多くは手書きで作成されており、手間がかかっています。「MoGuCare」を導入することで業務の負担を減らし、データを可視化することで子どもの健康維持につなげていきたいと思っています。

——高校時代からビジネスコンテストに参加されていました。

 農業高校で、農作物の栽培だけでなく栄養素を研究し、商品化する活動をしていました。その活動を通して、良い野菜を作るだけでなく、どう売るかを学ぶためにビジネスコンテストに出ました。そこで、食材の機能を生かして健康問題に寄与することに関連した事業を二つプレゼンしました。

 一つは、畳の材料に使われるイグサを食用として東南アジアで普及させ、食中毒を防ぐことを目的としていました。イグサは実は食べることができます。豊富な栄養素を含み、腸管出血性大腸菌O157などへの抗菌作用もあります。

 もう一つは、ハスの種子をテーマにしたものです。ハスの種子には抗酸化物質が多く含まれているとされ、その機能を生かして、生活習慣病の予防、アンチエイジングに関する商品開発をプレゼンしました。

京野菜の聖護院大根とともに=松岡さん提供

「怪しいお金もうけ」誤解だった

——そこから起業に至る経緯を教えてください。

 起業に踏み出したきっかけは、やはり高校時代のビジネスコンテストです。当時はまだ、ビジネスというと「怪しいお金もうけ」と思っていました。

 コンテストで最終審査に残ったときに、出雲充さん(バイオテクノロジー企業「ユーグレナ」社長)の講演があり、栄養問題の解決を目指したのはビジネスで持続的に世界をより良くするため、という話をされていました。その講演を聞いて「ビジネスだからこそ社会をより良くする仕組みが作れる」と気づきました。食とか栄養分野で誰かの役に立ちたい、とは前々から考えていましたが、その手段として起業を選びました。

 コンテストの審査員で、早期起業家教育を手がける「セルフウイング」代表取締役社長・平井由紀子さんがベトナムで事業をしていらっしゃいました。私は高校卒業後、ビジネス・ブレークスルー大学に進んだのですが、平井さんから「ベトナムで一緒に事業をしよう」と誘われ、在学中の2017年に起業しました。

 ベトナムでは栄養過多・栄養不足の問題があり、私が学んでいる分野を生かして子どもたちの栄養改善につなげることができたら、と思い、2018年にベトナムのダナン市を活動拠点に決めました。ただ、コロナ禍でベトナムの主要都市がロックダウンされ、現在は日本からリモートで仕事をしています。現地の保育施設に向けて、オンラインでサービスの説明をさせていただいています。

親子でカードゲーム 栄養を学ぶ

——ベトナムではまず、親子で遊べるカードゲームを開発したそうですね。

 「MoGuMoGu」という紙のカードゲーム教材です。子どもの頃から栄養バランスの知識を伝えたいと思いました。大人にも学んでほしいので、親子が一緒に遊びながら能動的に学ベることをテーマにしました。

 ベトナムにはネットがつながらない環境も多くあります。アナログな手法なら、様々な地域や世代の方に使ってもらうことができると考え、デジタルではなく紙を選びました。

——事業を始めてうれしかったこと、力不足を感じた経験はありますか。

 遊ぶことで栄養バランスの知識が身につくことが一番の目的だったので、「何回でも遊びたい」と言ってもらえたときは、とてもうれしかったです。

 一方、力不足もたくさん感じました。組織体制、経理、マネジメントなどは初めてのことばかりで、常に仲間に支えていただいています。

 特に力不足を感じたのは、一緒にサービスを行っていた仲間が辞めてしまったときです。私が業務に追われて相手を理解しようとせず、チーム自体も透明性が低かったことが原因ですが、悲しかったです。二度と起きないように、いいことも悪いことも情報共有したり、心理的安全性を高めるために毎日、オンラインで15~30分程度雑談したりしています。

異国の文化 補い合えば

——ベトナムと日本の違いを感じることはありますか。

 以前、ベトナムの別企業をお手伝いした際、教育関連の建設プロジェクトで土地を探していたことがありました。日本人はじっくり比較検討することが多いのですが、ベトナム人の担当者は土地の購入を即決しました。

 ベトナムでは話を聞いた翌日に契約書にサインすることもよくあります。一方、日本だと決断まで時間がかかって、結局決まらない場合もあります。また、日本人は決めたら最後までやり抜いてくれるという印象を持たれていますが、ベトナム人はスピード感はあるものの企画を最後までやり遂げられないことも多いです。お互いの短所を補い合えば最強のコンビになるのではないかと考えました。

 また、ベトナムでは「80%できたらすごい」「日本人からは100点でないと失敗と言われることが多い」とよく言われます。一長一短だと思うのですが、日本人は失敗を恐れる傾向にあると思います。完璧じゃなくてもとりあえずやってみる。その姿勢を受け入れられる社会になれば、もっと面白くなるのではないかなと感じます。

数字を追うだけでは…葛藤

——ビジネスを始めて成長したこと、高校時代から一貫していることを教えてください。

 私はもともと人前に出るのが得意でなく、教室の隅にいるようなタイプでした。しかし、ベトナムの人と関わり、周りに支えられ、自分も成長しなくてはと感じました。プレゼンにも苦手意識がありましたが、不安を払拭するため練習を数多く積むことを心がけています。そのような面で自分が少しずつステップアップしていけたように感じています。

 一方、食、栄養、健康の分野で、ビジネスという手法で誰かの役に立ちたいという思いは変わりません。ビジネスの成功と社会貢献の両立は難しいことも痛感しています。数字を追い求めたり成長したりすることで、経済格差を拡大する当事者になってしまうことも事実なので、どう最善を尽くすかはまだ模索中です。ただ、顧客の声を一番に聞くことは忘れていません。

成功の反対 失敗ではない

——今後、どのような事業を展開しようと考えていますか。

 医療機関、特に産婦人科と「MoGuCare」のデータを連携することを目指しています。ベトナムには「妊婦さんは太っていたほうが健康だ」という考え方があります。「妊婦さんは赤ちゃんの分も食べなければ」と考えてしまったり、家族や看護師さんから「もっと食べなさい」と怒られたりすることもあります。しかし、妊婦さんが太りすぎてしまうと帝王切開や死産のリスクが高まります。

 「MoGuCare」とデータを連携することで、誕生から保育施設まで健康状態を適切に把握・管理できれば、母子の健康をともにサポートできると考えています。

——起業を考えている若い世代に伝えたいことは何でしょうか。

 私もまだ挑戦の途中なので偉そうなことは言えないのですが、成功の反対は挑戦しないことだと私は考えています。挑戦して失敗した際に、その時点であきらめたら失敗になってしまいますが、失敗してもあきらめなければ気づきになります。心配してくれる人もいると思いますが、自分の信じた道を進めばいいと思います。

みんなと違う道 選べる勇気
仲川由津(DIALOG学生部)

 「私は普通に就職活動をして、どこかの企業に入るのだろうな」と漫然と考えていたので、20歳で起業した経験がある松岡さんのお話から、視野を広げたいと思って取材に臨みました。

 起業の経緯と、日本人は失敗を恐れる傾向があるという言葉を聞いたとき、「失敗したくない」という考えに私もはまっていたことに気づきました。いつ職に就かないといけないというルールはないはずなのに、「みんなと同じ道に従えば安心」という考え方をどこかでしていたと思います。

 自分のやりたいことに素直になって行動を起こしてもいいのではないかと、松岡さんのお話を聞いて感じました。将来への選択肢が広がったような気がして、わくわくします。

 国際的な支援に興味がある私にとって、異なる文化や社会に生きている人とのコミュニケーションの大切さはもちろん、ビジネスと社会貢献のあり方について考えさせられました。

 ボランティア活動とは異なり、事業を起こしている以上、問題解決だけでなく利潤追求も無視することができないという視点に初めて気づき、そのバランスの難しさを垣間見ました。まだまだ考えを深め続けたいと思います。


松岡奈々(まつおか・なな)

 1997年、鹿児島県生まれ。ビジネス・ブレークスルー大学経営学部ITソリューション学科卒業。高校時代に京都の伝統野菜の普及・研究活動に取り組む。 2017年5月、WELLNESONE JAPAN(現WELY)を設立。同年、孫正義氏が創設した公益財団法人「孫正義育英財団」1期生に選出。2018年からベトナムのダナン市で幼稚園や教育施設の立ち上げや運営に携わる。2020年、Forbes JAPANの「30 UNDER 30 JAPAN 2020」HEALTHCARE & SCIENCE部門に選出。シンガポール最大紙The Straits Timesが選ぶ「30 and under Young Asians to watch」にも選出。

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