すべてが巡る世界 たった一つの花束、あなたに望月萌々子さん×DIALOG学生部:朝日新聞DIALOG

すべてが巡る世界 たった一つの花束、あなたに
望月萌々子さん×DIALOG学生部

By 吉武かおる(DIALOG学生部)

 flower and peopleの望月萌々子さん(26)。

 依頼主との丁寧な対話を通して、オーダーメイドのフラワーアレンジメントを手がけます。

 じっくりと時間をかけて作られた花々は、一生に一度の節目のプレゼントにと贈られていきます。

 思いの込められた美しい花の数々に思わず見とれてしまいますが、望月さんの願いは制作の「過程」にこそありました。

 ゆっくりと、丁寧に言葉を選びながら。静かだけれど、確かな口調で。

 自然に寄り添うとはどういうことか。誠実さとは何か。

 フラワーアレンジメントの背景にある深い考えを語りました。

イノベーターセッション DIALOG学生部は、若い起業家やアーティスト、社会活動家など、明日を切りひらこうとする人たちを定期的に招いています。活動への思いや生き方、めざす世界を共有して、その果実をDIALOGウェブサイトで発信します。

思いを花に昇華していく

——今の活動を教えてください。

 flower and peopleというプロジェクトを運営しています。この活動には三つの軸があります。

・オーダーメイドのフラワーアレンジメントの制作
・展示やインスタレーションといった表現活動
・人と自然について話し合ったりするインタラクティブなワークショップ

 使っているお花にも特徴があります。お花農家さんに提供していただいた、市場に出回らないような規格外のお花や、実家の畑で無農薬で作っているお花をメインに制作しています。

——どうやって作っているのですか。

 まずオーダーをいただいてから、依頼主さんと30分から1時間かけてじっくり会話をするんです。そのお話から受けたインスピレーションを元に、感じるままにお花を選び、ブーケにしていきます。

 「プレゼントの受け取り手を例えたら何ですか」「色、季節、景色、音楽に例えたら何ですか」「ジブリの映画に例えたら何ですか」などと質問をしながら、受け取る人の人生や贈る人の気持ちのイメージを理解していきます。

——話していく過程で、お花の色とか形が見えてくるのでしょうか。

 感覚的なもので、何が見えてくるか……。いろんなヒントから、自分の心をその方に寄せていって、その方の気持ちに自分がなったときにどういうお花になるかを想像して、手を動かしていきます。

 お花に昇華していく過程では、あまり何も考えないな。お話をヒントに没頭していく感じです。

——オーダーする方はどんな人?

 人生でも数えるほどの節目とされる日に贈りたいという方が多いかな……。「別々の道を行くことになったパートナーに、はなむけを」「余命わずかと宣告されたおばあさまへ」「結婚式の際にご両親に贈る感謝のお花を」など純粋であたたかい気持ちでオーダーをいただくので、どれも印象深いです。

 客層は若い方、特に20代前半から後半くらいが多いです。オーダーをいただいてから、だいたい1カ月くらいかけて、丁寧に作るようにしています。

人と自然との境界をなくしたい

——flower and peopleでは、どのような思いで活動されているのですか。

 オーダーメイドフラワーのサービスではありますが、大切にしてもらいたい部分はその過程です。flower and peopleのプロセスを通して「内発的な自然」に触れてもらいたいと思っています。

 私は感情、感覚といったものを内発的な自然と捉えていて、flower and peopleではそうしたものを大切にしたいんです。一緒に話していく過程で自分の奥にあった気持ちと改めて向き合いながら、時間を共有するという行為によって、人が自然に帰れる瞬間があるんじゃないかなと。

 いまの社会では、自分の感情を表に出すことが弱さと捉えられがちだと思うんです。みんな、自分の柔らかい気持ちを外に出すのはあまりしちゃいけないんじゃないかと思っている節があるのではないでしょうか。でも、私はその柔らかい部分こそが人の中の自然性だと思うし、大切にしたい。だから、サービスの過程でお話しするときも「あなたと私」という対等な関係で対話するようにしています。

「お花の気持ちになって」祖母の教え

——今の活動に至った原点は。

 祖母がおうちの一角で行っていた生け花教室です。自分も小さいときから生徒のみなさんに交じってお花を生けたりしていました。祖母の言葉の一つひとつから、日本古来の華道の考え方や、自然へのリスペクトを学びました。

——どんなことを教えてくれたのですか。

 「お花は、人間の勝手によって茎から切り離される。人の都合で命をいただいたお花たちを、器の中でどう美しく見せてあげられるのか、お花の気持ちを想像してみなさい」と教えられました。

 例えば、華道ではお花を剣山(針山のような、花を立てる土台)に生けるんですが、一人じゃ立っていられないお花も出てくるんですね。そういうお花に対しては「どうサポートすれば、きれいに立たせてあげられるか、お花の気持ちになって考えなさい」と。

 また、お花の向き。お花にとっての正面というのは、太陽があった方向。祖母は、「生けるときは、お花がどのように太陽を見ていたか、お花の目線になって考えてみなさい」と言っていました。

 こうした祖母の教えに加え、学生時代にお花農家・市場巡りの旅をしたことも、いまの活動に至る契機になっています。

虫食い・曲がり…でも美しい

——その旅を通して、どのような出会いがありましたか。

 お花をオーガニックで育てている農家さんとの出会いが思い出深いです。この農家さんの農園では、先代までは農薬を使ってお花を育てていたそうです。ただご自身が家業を継ぐことになって、いま作っているお花を子どもに触らせたいかと考えたときに「触らせたくはないな」と思った。それから、コスト面のリスクを背負ってゼロから無農薬のお花を育てたそうです。

 そうしてできたお花は、虫食いがあったり曲がったりしてはいますが、ものすごく美しかったんです。その姿こそが自然の摂理で、生き物が備えている能力の表れだと思いました。

 これをきっかけに「完璧=美しい」という価値基準が揺さぶられ、本当の美しさ、ひいては本当の豊かさについて考えるようになりました。

お花屋さんで ひずみを感じた

——お花屋さんで働いていたこともあると伺いました。

 お花屋さんって、すごく忙しいんですよね。流れ作業的な仕事を通して、私はお花の命を十分に尊重できませんでした。また「お花屋さんのお花」に対しても思うところがあり、心が削られていました。でも、その忙しい日常のなか、自分の心が削られていることにすら気づけなくなっていたようにも思います。

——「お花屋さんのお花」というと?

 お花屋さんでは、欠けのあるお花ははじかれちゃうんですね。商品としての完璧さを演出するために、最初から農薬でサイズや長さが調節されているお花もあります。そうした、流通・競争の仕組みに自然を合わせる行為に、お花と人間とのひずみを感じていました。

 これって、人間の教育にも起きていることだとも思いました。「個人の幸せや個性を尊重した教育じゃなくて、社会における生産性という評価軸にはめる教育が行われているのではないか」。お花を思って感じた痛みが、私の人生を通して感じてきた痛みと重なったんです。

 そこで個人の内的な自然性や自然の循環を、自分の手で表現したいと思ったことが、いまのオーダーメードのお花の制作につながっています。

 いまの活動では、自分とお花、自分と人との会話もある。対等な関係ですべてのものに向き合えることがとても気持ちいいです。お客さんの愛情に触れて感化されたり、ハッピーをシェアしたりするのがうれしくて楽しくて幸せです。

——規格化されていく社会を憂い、自然、ひいては個人の内面の豊かさを体現する活動の一環がflower and peopleなのですね……壮大な背景が見えてきました。

 (笑)。一つお伝えしておきたいのが、規格化されたお花がダメというわけではないことです。お花屋さんに並んでいるお花にも、農家さんの熱意が込められています。丹精込めて作り込んだお花は、堂々としていて、やっぱりすごくカッコいいんですよ。

 何が良い悪いと白黒をつけるわけではなく、あくまで私が気持ち良く感じる心のあり方のお話です。

人と花 人と人 地球そして宇宙

——自然と向き合ってきた望月さんにとっての、人と自然との立ち位置とは。

 人がどう動いたらいいとかよりも、人の中の自然性を思い出すということが一歩だと思っています。「みんなで海岸へゴミ拾いに行くキャンペーン」みたいなものも意味があると思う一方、人と自然を切り離して、人が自然に対して何かをしてあげようという形の環境保護活動には少し違和感を覚えることがあるんです。

 もし自分が海の近くで育って、海と本当に友だちになれていたら。友だちである海が汚され傷ついているとき、ただただ手を差し伸べると思うんです。そういうほうが対等な関係と言えるんじゃないかなと思います。ふと内からこぼれ出てしまうようなもので関係を築いていけば、人と花、人と人、地球全体、宇宙全体とつながっていけると思う。こうしたあり方を実践するためにも、いまの活動があります。

——これから挑戦したいことは。

 農園を持ちたいと思っています。お花を育てるところから、自分の手でやりたいなと。現在、制作しているのはドライフラワーが中心です。私が住居を転々としながら活動をしていることから、生き物である生花はなかなか扱えていなくて……。だけどいつかは生のお花を使いたいですね。

 畑のようなものを持って、自分の手でお花を育て、人にも来てもらって直接やり取りをしたいのです。その場所で、命の循環、来てくれる人と人との気持ちの循環も表現できたらなと思います。

野の花は 自由に咲く
吉武かおる(DIALOG学生部)

 規格化された完璧な美が求められるお花屋さんのお花と、若者を枠にはめがちな今日の教育とが重なった、というお話が印象的でした。

 私も「グローバルリーダーになれ」と言われながら10代を過ごしました。その教育の過程で何か抑圧に直面したわけでは全くないのですが、勝手に自己暗示をかけて自分を枠にはめ込むようになっていました。結果、「本当はどんなルートで何になったって、自分が満足できればそれでいいんだ」ということに気づくのに少し時間がかかった気がします。

 毎日忙しく、外の世界から様々な情報やプレッシャーの嵐が吹き荒れる中で、「内発的な自然」に到達するのはなかなか難しいかもしれません。そんなときに、腰を据えて自らの心とじっくり向き合い、自分に「おつかれさま」とプレゼントするためにflower and peopleを利用するのもいいのかもしれないなと思いました。


望月萌々子(もちづき・ももこ)

 1995年、山梨県生まれ。自然に囲まれた田舎で育つ。祖母が華道教室を営んでいたことから幼い頃から植物に魅せられる。 在学中はデザインを学ぶ。

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