大量生産、大量廃棄…ファッションを変える その仕組みから川崎和也さん:朝日新聞DIALOG
2021/12/04

大量生産、大量廃棄…ファッションを変える その仕組みから
川崎和也さん

By 遠藤文香(DIALOG学生部)

 大量生産、大量消費、そして大量廃棄が世界中で問題になっています。知ってはいるけれど自分が貢献できることはあるのだろうか、そう思っている人も多いのではないでしょうか。

 そんな世の中にファッションの領域から新しい提案をしているのが、Synflux(シンフラックス)です。デザイナーやエンジニア、AI研究者など様々な領域の人々による「思索的デザイン集団」で、持続可能な次代のファッションに向けて開発や設計を続けています。2019年に、ファッション業界の変革を目的とする「グローバル・チェンジ・アワード」のアーリーバード特別賞を受賞。その代表取締役CEO、川崎和也さん(30)に、これからのファッションのあり方について聞きました。

作り方・売り方・伝え方にアプローチ

——Synfluxの事業について教えてください。

 デジタルとサステイナビリティーを掛け合わせて次の時代のファッションを提案することが会社のビジョンです。大学時代に研究をともにした仲間と立ち上げました。今までのファッション業界は、服作りに特化したブランド経営がメインでしたが、僕たちは社会問題にどのようにアプローチできるかを模索しています。エンジニアや研究者とともにファッションの未来を創るという意味を込めて、自分たちの活動を「ファッションラボ」と位置付けています。

——環境問題に対しては「スローファッション」などが提唱されていました。「ファッションラボ」は、どう違いますか。

 環境問題とファッションに関しては長い歴史がありますが、僕たちの特長は「仕組みへのアプローチ」だと思っています。これまでファッションは、表現することで環境問題に訴えていましたが、私たちは服の作り方・売り方・伝え方などの仕組みを変えることでアプローチしています。

Synflux提供の動画から

大量に捨てられる 布の端切れ

——そのアプローチはどのような効果をもたらしますか。

 いま、最大の問題は大量生産と大量消費、そして大量廃棄です。世界的に見ると人口は増加傾向にあります。人が増えると服の生産も増えていきます。2005年から2015年の10年間で服の生産量は倍になりつつあり、今後もマーケットの拡大が見込まれます。生産が増えている半面、服を買っても使わないまま廃棄する人たちが増えています。

 デザインの観点からの問題点は、布の端切れが大量に捨てられていることです。布地は四角形ですが、服は人間の身体に合わせるために、型紙にカーブができます。そのカーブに沿って布地を裁断すると端切れが出てしまうんです。このような問題を服の作り手に知ってもらう、仕組みを変えていくことが重要だと思っています。

Synflux提供の動画から

テクノロジー×着物文化

——端切れの問題はどうすれば解決できますか。

 「グローバル・チェンジ・アワード」特別賞を受賞した「アルゴリズミック・クチュール」が、端切れ問題を解決するためのシステムです。AIと3Dの二つのテクノロジーを掛け合わせて服を作るシステムです。

 型紙はほとんどの場合、手で作られています。それをコンピューターの中で作れるようにしました。服の3Dのデータをこのシステムに入れると、四角形と三角形だけでできた型紙がダウンロードできます。

 四角形と三角形の組み合わせなら、布の端切れを最小限に抑えた服作りが可能になります。

 これは元々、着物の考え方です。着物はほとんどの型紙が四角形なので、端切れが出ない作り方になっています。それをデジタルで可能にしたのが「アルゴリズミック・クチュール」です。3Dのデータを元にして、より身体にフィットした型紙ができるので、着物より動きやすくなります。「端切れを減らす」と「フィット感を高める」の両立を実現しています。

——S・M・Lといったサイズ展開とは違うのでしょうか。

 より多様なサイズにフィットさせることができるので、より細かいサイズ展開が可能になるポテンシャルを持っていると思います。

Synflux提供の動画から

買って着る、だけではなく

——サスイテナブルファッションへ移行させるために、消費者側へのアプローチは考えていますか。

 スマートフォンが次第に当たり前になったように、「アルゴリズミック・クチュール」などの仕組みが広がり、消費者が気づかないうちに端切れが出なくなっている、という状態が理想です。

 他方、消費者に問題を知ってもらうことも重要です。僕が大量廃棄の問題に気づいたのは大学でデザインを勉強したから。自分の使っているアイテムが作られる過程を知ったり、作ることに参加したりすることが問題を知るきっかけになると思っています。

 服作りの全てのプロセスに参加してください、というのは難しいので、簡単なカスタマイズや修理ができるサービスを提案していきたいと考えています。戦後の生活を想像すると分かりやすいかもしれません。一家に一台ミシンがあって、使わない着物は子どもの服に仕立て直していました。

 服作りに参加できれば、スニーカーの色や素材を自分で組み合わせるカスタマイズサービスのように、服に愛着が湧き、当事者性が生まれます。ハードルが低いので、環境問題解決に一歩踏み出すことにつながると思います。

Synflux提供の動画から

震災がきっかけ デザインの道へ

——どのような経緯でファッションの環境問題を考えるようになったのでしょうか。

 新しい人間の姿や生活像をずっと提案してきたものがファッションです。自分を肯定してくれるものもあれば、挑発的で問いを投げかけるようなものもある。その刺激的な表現や自由度を生かして、服作りのシステムを作ることで問題提起をしてみようと思いました。

——ファッションは、いつ頃から好きですか。

 高校から大学に入る頃に興味を持ち始め、漠然とものづくりをしたいと思っていました。大学進学のために上京したのが、東日本大震災があった2011年。震災や津波で多くの建築物などが崩壊し、デザイナーや建築家は自分たちの作ったもののもろさを目の当たりにしていました。

 「今後どのように社会と接点を持っていくべきか」と、デザインを学んでいる先輩たちが議論しました。ものづくりだけでなく、真剣に議論して環境問題に取り組んだり社会との関わりについて考えたりしている姿を見て、僕もデザインを学ぼうと思ったんです。

Synflux提供の動画から

領域横断 未来への同盟

——テクノロジー、サイエンスなど幅広い分野を横断するメリットは。

 環境問題などの複雑で大きな問題は、ファッション領域の専門家だけでは解決できません。デジタルを得意とする人の力を借りることで相乗効果が生まれ、ファッション業界の環境問題がより早く解決すると思います。デジタル側の人たちもファッションの知見を得られることはメリットになる。未来のための同盟ができればいいと思います。

——サイエンスやテクノロジーにもともと関心があったのですか。

 もともとSFが好きで、その世界観を大事にしようと思っています。SFは突拍子もない未来のことを描いていると思いきや、実は私たちの生活の身近な話だったりします。人々が新しいアイデアを思いつくヒントになったり、自分を見つめ直すきっかけになったりもする。僕もテクノロジーを通して、当たり前と思われているファッションに刺激を与えたいと思います。

 ファッションは歴史が長くて、強固なフォーマットがある。良いことではありますが、様々な問題や分断を生み出している側面もある。歴史を更新しようとしたときにテクノロジーの力を借りようと思いました。

「服もう着ない」できないから

——川崎さんの目指す未来像は。

 ファッションだけでなく、ものづくりに関する大きな問題が大量生産・大量消費・大量廃棄。だけど「作るのも買うのも使うのも明日からやめましょう」は理想じゃない。

 「おいしいものを食べたい」「カッコいい服を着たい」というのは人間の本質的な欲望です。それを否定するのではなく、仕組みを変えてバランスを取ることで、ファッションを楽しめるしゴミも減らせる、という両立をかなえることが重要です。サステイナブルな社会に最適化した生産と消費にシフトすることが必要ですね。人の欲望も大切にした、豊かな社会が理想です。

食の廃棄物を着る そんな未来

——ファッションとコラボさせてみたい領域はありますか。

 一つはゲームです。コロナ禍で私たちの活動がバーチャル空間へ移行しました。特にゲーム空間ではバーチャル上で誰かと接する機会が多いので、アバターに何を着せるか?という話が出てくると思うんです。ゲーム関連の人と未来のファッションを考えてみたいです。

 もう一つが食です。今はデジタルの側面からファッションの問題に取り組んでいますが、食材から新しい素材を作ろうという動きもあるんです。例えば、きのこやパイナップルの葉の繊維を材料にしたレザーがすでに開発されています。食関連の廃棄物を着る未来が来る、と思っています。

——川崎さんがしていきたいこと、消費者が意識するべきことは何でしょうか。

 僕はSynfluxとともに「アルゴリズミック・クチュール」の社会実装に向けて邁進(まいしん)していきたいです。「グローバル・チェンジ・アワード」特別賞を受賞してから、いろいろなデザイナーやブランドから関心を寄せていただいているので、それに向けたプロジェクトを走らせています。端切れの出ない仕組みで作った服を、みなさんに手に取ってもらう活動を真剣にやっていきたいです。

 この記事を読んだ方には、当たり前になっている仕組みを考え直してほしい。自分が買った服がどのように作られたか、どのようにできているかを検索したり、作る側に参加してみたりしてほしいです。自分なりの形で行動を起こしてくれたらうれしいですね。

一度しか着ていない服 手に取って考えた
遠藤文香(DIALOG学生部)

 買ったけれど一度しか着ていない服、クローゼットにありませんか。私はありました。その服を手に取って、考えました。

 環境のためにはファッションを我慢するべきだ、と思っている人もいるのではないでしょうか。私もその一人でした。

 「明日から服を作るのも買うのもやめましょう」は理想じゃない、という川崎さんの言葉で答えが見えた気がしました。

 ファッションを楽しみたい、という気持ちを否定せずに環境に優しいシステム作りをされている川崎さん。未来について語る姿からは「ワクワク」が伝わってきました。

 環境と人間のどちらか一方を優先する社会ではなく、最適化した社会を目指していくべきだという考え方が、これからの社会に必要かもしれません。

 領域横断で、今まで考えたこともない新しい発想が生まれる。人間か環境か、ではない、どちらにも優しい世界は、きっと実現できるはずです。


川崎和也(かわさき・かずや)

 1991年生まれ。スペキュラティブ・ファッションデザイナー。Synflux株式会社代表取締役CEO。慶應義塾大学SFCで研究をともにした仲間と2019年にSynfluxを設立。会社のビジョンは、デジタルとサステイナビリティーを掛け合わせ次世代のファッションを提案すること。2019年、H&Mファウンデーション主催「グローバル・チェンジ・アワード」アーリーバード特別賞。編集書に「SPECULATIONS 人間中心主義のデザインをこえて」。

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