柔らかアタマでSDGs! 社会を変える 自分も変わる〈みらい甲子園〉東京都市大学大学院・佐藤真久教授×DIALOG学生部:朝日新聞DIALOG
2021/12/16

柔らかアタマでSDGs! 社会を変える 自分も変わる
〈みらい甲子園〉東京都市大学大学院・佐藤真久教授×DIALOG学生部

By DIALOG編集部

 SDGs(国連の持続可能な開発目標)の達成をめざして、高校生からのアクションアイデアを募る「みらい甲子園」。首都圏大会(SDGs Quest みらい甲子園首都圏大会実行委員会主催、朝日新聞社メディアビジネス局共催、ファーウェイ・ジャパン特別協賛)の実行委員長で、SDGsに幅広く取り組む佐藤真久・東京都市大学大学院教授にインタビューしました。「SDGsに個人で取り組むときの心構えは?」「日本は当事者意識が低いのでは?」。対話に臨んだのは、DIALOG学生部のメンバー2人です。

 佐藤さんは、この20年間、SDGsを支える教育や能力開発の取り組みを通して、国内外のプロジェクトに関わりながら、日本国内の社会起業家のインキュベーションや協働の場づくりに取り組んできました。社会起業家の育成やそのエコシステムの構築に関わり、環境や経済、社会、文化といった領域を横断して社会課題の統合的解決に挑んでいます。

デザイン思考とシステム思考

 インタビューの冒頭、佐藤さんはSDGsに取り組む際の大切な考え方を紹介しました。「デザイン思考」と「システム思考」です。聞き慣れない言葉ですが、どういう意味なのでしょう。

佐藤 デザイン思考は、ありたい姿を描く力。想像を膨らませて、いろんな人たちのアイデアを持ち寄って未来を描くことです。一方、システム思考はさまざまな事柄をつなげて、積み上げて、現実に変容をもたらす力です。SDGsの達成には、この二つの考え方が重要です。

 さらに、SDGsの本質についても語ります。

佐藤 SDGsには17の目標と169のターゲットがありますが、本質は変容、つまりトランスフォーメーションです。変容には二つの意味があると思っています。「社会を変える」「自分たちが変わる」が重要であり、その連鎖が重要です。一つの領域にとどまらず、いろいろな問題をつなげて考え、テーマの統合、同時解決をめざすことが大切です。

企業の取り組み どう評価?

 DIALOG学生部メンバー、杉山日菜子さんと阿部千優さんが問いかけます。

杉山 SDGsを掲げながら、実は解決に取り組んでいない「SDGsウォッシュ」という言葉があります。企業の取り組みを、どう見ていますか。

佐藤 「SDGsウォッシュ」という目線で判断するのではなくて、「変わる」「変える」の連動性を高めようとしている人や組織を応援することが重要です。人間を見ても、完全な人などいません。企業がチャレンジし続ける姿勢や変容しようとする意志、チャレンジの度合い、変容の加速度を見極めてほしいと思います。

杉山 企業の取り組みは評価が難しい。どう見ていくべきですか。

佐藤 企業の取り組みを現時点でのパフォーマンスで全て判断するのではなく、変化(中長期的なリスクと機会)を先取りし、変容の意志を持ちながら、持続可能な社会のために今からできることで投資的にチャレンジしている姿勢を見る必要があります。世の中の変化が激しく、不確実な社会であるからこそ、社会の変化に対応し、社会を変え、自身(企業)も変わるような取り組みを評価することが重要です。さらに、多様な主体がどのようにその企業を見ているのかについて情報を集めたり、その企業に関わる人たちとコミュニケーションしたり、実際の製品を手に取ったり、サービスを受けたりして判断することも重要でしょう。働いている社員の方々が、誇りをもって生き生きと働いているかも、大きな判断の基準になると思います。

和食文化から見える連動性

阿部 友だちとSDGsの話をしても、あまり詳しく知っている人がいません。日本の教育水準は高いはずなのに、当事者意識が低い気がします。

佐藤 SDGsを知っていることが重要なのではなく、SDGsの本質として、全てつながっていること、「変える」「変わる」を連動させることの重要性を認識することが重要です。SDGsへの取り組みについて、ドイツのシンクタンクがレポートを出していますが、日本の教育は高い評価を受けています。しかしながら、教育だけではSDGsの全体の達成にはつながりません。SDGsは全てがつながっています。ほかの分野の問題を解決して底上げするためにも、教育を生かすことが重要です。一つの分野ごとに問題解決を図るのではなく、同時解決を促さないといけません。さらに、そのレポートを見ると、日本のランキングは下がってきています。昨年17位、今年18位でした。このランキングが下がる一つの理由には、様々な分断(官民の分断、世代の分断、縦割り、専門分化など)があると言われています。共に力を持ちよる協働の文化をつくっていく必要があります。

 「大学で栄養学を専攻している」という阿部さん。佐藤さんは、ユネスコの無形文化遺産に登録された和食文化を例に挙げて、その「つながり」を説明します。

佐藤 和食がなぜ無形文化遺産なのか。大きな理由は発酵の文化です。しょうゆ、味噌、みりん、お酒……。いろんなものが発酵から生まれています。そして、これらを生み出す仕組み全体が日本の環境と経済を支えています。日本のお酒を考えてみましょう。農業がしっかりしていないとお酒ができません。お米が健康でなければ(発酵に使われる)糀(こうじ)はくっついてくれません。つまり、環境に配慮した農業が重要になってきます。また、おいしいごはんがあれば生活が楽しくなる。収穫のときにはお祭りをする。日本の文化は、このように環境・経済・社会の連動性で成り立っています。いろいろなものがつながっている、という感覚を持てるのではないでしょうか。

個人でSDGs? どうしたら

杉山 個人でSDGsに取り組んでも、環境や未来へのインパクトが見えにくい。継続的に取り組むにはどうしたらいいですか。

佐藤 SDGsに直接、貢献しようと思うのではなく、日本のローカルな社会プロジェクトに取り組むことが重要です。私が理事をしていた認定NPO法人ETIC.では、日本の227の社会プロジェクトを分析し、日本特有の社会課題を31抽出しました。ローカルな課題に取り組むことで、SDGsを身近な課題として捉えることにつながります(SDGsの自分ごと化)。さらに、構造的な課題の理解に結びつきます。例えば格差の問題は、都市も農村も、先進国も途上国も関係なく存在します。いじめの問題もそうです。いじめと社会的排除は、同じ構造です。「自分さえ良ければいい」という発想では、貧困・社会的排除の問題や環境問題などが起きてしまうのです。

杉山 個人では、モチベーションを維持しにくい気がします。

佐藤 重要なのは、仲間をつくることです。世代間、世代内、国内外といった枠組みにとらわれず、多様な仲間たちとつながることがモチベーション維持につながるだけでなく、苦楽をともにすることで行動が継続的になってきます。「社会を変える」ことだけを考えずに、「自分が変わる」という前提で多様な人たちとコミュニケーションをし、行動、協働をし続けられれば、物事を広くとらえられるようになります。

豊富なアイデアで未来を描いて

杉山 デザイン思考とシステム思考。どう身につけていけばいいですか。

佐藤 日本人は、自身の分野・領域における積み上げ型の思考と経験を大事にしてきました。今後は、分野外の思考とも関連づけること(システム思考)が求められているだけでなく、ありたい姿を描くデザイン思考が求められています。例えば、まちづくりで言うと、日本を含むアジア地域は近視眼的な開発をやってきた。近視眼的な開発は、環境問題や集団間格差を助長するだけでなく、まち全体の景観・美しさを悪化させます。つまり、住み続けられるまちづくりになっていません。これからは、多様な分野・領域をつなげて行動を促すシステム思考と、ありたい社会を描くデザイン思考が重要です。みなさんのような柔らかい頭でモノ、コト、ヒトをつなぎ、豊富なアイデアを生かして、未来を描いてほしいと思います。

カラフルな色 混じり合う世界
阿部千優(DIALOG学生部)

 17の目標がそれぞれの色に分かれ、四角いマスとなって並んでいる。SDGsと聞いて、あのカラフルな画像を思い浮かべる人も多いかと思います。

 大学1年生のとき、英語の授業で取り組んだものは「17の目標から興味のあるものを一つ選び、抱える問題や解決に向けた主張などを自由にプレゼンする」というものでした。当時の私は深く考えることもなく「ゴール1 貧困をなくそう」を選び、子どもの貧困についての現状と課題解決に向けた意見を述べました。

 「一つの領域にとどまらず、いろいろな問題をつなげて考え、同時解決をめざすことも大切」。この言葉を聞いて、私に足りなかったものが明確に浮かび上がった気がしました。17のカラフルな目標から一つを選ぶ。きっかけとして、興味がある一つに目を向けることも大切です。しかし、それらをつなげて考える、カラフルな色は混じり合ってこの世界に存在しているということを理解する必要があったのです。

 私は今回のインタビューで「和食文化とSDGs」の連動性を学びました。どこか遠い存在で、人に説明することが難しいなと感じていたSDGsは、一つのキーワードに落とし込んで考えることで途端にわかりやすくなりました。そんな身近なSDGsとの出会いを、自分の力で発見していきたいと思います。

子孫から借りた地球 汚さぬよう
杉山日菜子(DIALOG学生部)

 「ありたい未来を描く」。この佐藤さんの話を聞いて、「地球は先祖から受け継いだものではなく、子孫から借りているもの」という言葉を思い出しました。借りているものは汚してはいけない、汚したら、きれいにして返そうというネイティブアメリカンの考え方です。

 海に行ったとき、砂浜にペットボトルやプラスチックの破片がたくさん落ちていて、青くきれいな海よりも、ごみが気になってしまいました。

 海までごみを拾いに行けなくても、まずはできることからやってみよう。そう思って、これまでに数回、住んでいる町のごみ拾いを友人としました。市が無料でボランティア用のごみ袋を配布しているので使ってみました。

 教育の分野でも社会の役に立つことができないかと、学校での勉強につまずきを抱えた子どもへの学習支援ボランティアに参加しました。経済的理由で十分な教育を受けられていない、一斉授業では勉強についていけない、など問題は様々ですが、生きづらさを抱えている子どもがたくさんいるのだと知りました。

 環境問題、ジェンダー平等、教育格差……。日本にもたくさんの課題があります。今の状態で地球を未来の子どもたちに返したくはありません。自分の行動で何か変わるのだろうかと思うときもありますが、誰もが幸せに暮らせる未来のために、多様な考え方に触れながら仲間とともに行動に移していきたいです。


佐藤真久(さとう まさひさ)

 1972年生まれ。筑波大学第二学群生物学類卒業、同大学院修士課程環境科学研究科終了。英国国立サルフォード大学でPh.D.取得(2002年)。地球環境戦略研究機関(IGES)の第1・2期戦略研究プロジェクト研究員、ユネスコ・アジア文化センター(ACCU)の国際教育協力シニア・プログラム・スペシャリストを経て現職。現在、UNESCO Chair(責任ある生活とライフスタイル)国際理事会理事、文部科学省・ユネスコ未来共創プラットフォーム事業座長、IGESシニア・フェローなどを務める。

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