海のブルーカーボン 魚たちの楽園 私たちの未来〈ko-doプロジェクト〉豊かな海へ アマモを増やせ:朝日新聞DIALOG
2021/12/21

海のブルーカーボン 魚たちの楽園 私たちの未来
〈ko-doプロジェクト〉豊かな海へ アマモを増やせ

【Supported】神戸市

神戸の街で、耳を澄ます。
里山、里海から届く命の鼓動。
人と自然をつなぎとめる。
持続可能な社会へ、若いチカラが行動を起こす。

 「海と山が育むグローバル貢献都市」を掲げる神戸市は、須磨海岸と烏原貯水池を舞台に、ブルーカーボンを活用した二酸化炭素(CO₂)削減に挑戦しています。

 この取り組みに学生団体Re.colab KOBE(通称リコラボ)が参加し、発信するko-doプロジェクト。ブルーカーボンとは何か。その先にどんな未来が広がっているのか——。リポートの一部を紹介します。

2021.12.20 @須磨
明石海峡を望む アツい海岸

 みなさん、初めまして。リコラボ里海(さとうみ)班リーダーの鎌田と申します。私たち里海班は、神戸市須磨区にある須磨海岸で主に活動しています。西に行くと淡路島に架かる明石海峡大橋、東に行くと神戸の繁華街・三宮がある場所です。

 夏には海水浴場として多くの人が集うこの海岸。実は、「大学生×地元の環境保全団体×神戸市」が一つのチームを結成し、 「海の生物多様性」「海のブルーカーボン」に貢献するアマモという海草を普及させる取り組みの、ホットスポットになろうとしているのです。

須磨海岸沖。海に浮いているのは海底を撮影するための神戸高専ロボティクスの水中ドローン

想像しよう 豊かな海を

 ここで少し目を閉じて、想像の中で海に潜ってみましょう。

 目を開けてみると、大小さまざまな魚たちや、ゆらゆらと優雅に揺れる海藻、色鮮やかな貝殻など、うっとりするような世界が広がっていませんか?

 これぞまさに私たちがイメージする豊かな海の姿と言えるでしょう。

 しかし、私は素朴な疑問を持ちました。それは……

 「大きな魚もたくさんいる中で、小さな魚たちはどうやって生き延びているの?」

 小さな魚たちが生きていくためには、大きな魚たちから逃げることのできる「隠れ家」が必要です。この記事では、魚たちを守ってくれる存在であり、同時に、私たちが暮らす地球の温暖化対策にも貢献してくれる「アマモ」という植物についてご紹介したいと思います。

須磨海岸沖の海底=須磨里海の会提供

海の中に「林」がある?

須磨里海の会の会長、吉田裕之さん

 豊かな海には、海草や海藻が生息しています。

 海草の一種「アマモ」は、海底の栄養を吸収し、背の高いものは1メートル近くに成長します。稚魚の隠れ場や魚の産卵場所として非常に重要な役割を担っています。

 「アマモは海の中の林。魚にとっての隠れ場所。小さい魚は隠れられるけど、大きい魚は隠れられない。小さい魚はアマモの中に身を隠して、力をつけて沖に出ることができる。沖で育つ魚も増える。アマモが『ゆりかご』と言われている所以(ゆえん)は、そこにある」

 「須磨里海の会」の会長、吉田裕之さんはそう言います。

 アマモは近年、新たな役割が注目されるようになってきました。それは、CO₂の吸収源という役割です。

 国土交通省港湾局のパンフレット「海の森 ブルーカーボン」によると、海底に育つアマモは光合成でCO₂を吸収し、炭素を海中に隔離します。このステップが繰り返されることで、海底は次第に巨大な炭素貯留地になっていくのです。

青い炭素…と思いきや

 みなさんは「ブルーカーボン」という言葉を聞いたことがありましたか?

 私は初めて耳にしたとき、「『青い炭素』って何?」と感じました。かろうじて、「炭素っていうことは、CO₂が何か関係するの?」と考えた程度です。

 「海の森 ブルーカーボン」によると、地球の平均気温は、このままだと2100年には最大4度上昇すると予測されています。

 世界各国がさまざまな脱炭素政策を打ち出す中で、日本は「2050年カーボンニュートラル」を宣言しました。2050年までに温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させることで、排出量実質ゼロを目指すという取り組みです。

 そこで、CO₂吸収源の一つとして新たに注目されているのが「ブルーカーボン」なのです。

須磨海岸沖へ

そして須磨海岸に飛び出した

 海や山に恵まれた神戸市は、2020年からブルーカーボンの取り組みを始め、須磨里海の会とともに須磨海岸にアマモを増やそうとしています。

 海の生物多様性やブルーカーボンについて何も知らなかった私たちは、机上から飛び出して、須磨海岸に関わるたくさんの方たちにインタビューしたり、船の現場作業に同乗したりして、体感型学習を重ねてきました。

ブルーカーボンについて学ぶリコラボのメンバー

海のブルーカーボンの歩み

7/11

吉田さんとの出会い

 須磨海岸にはどんな生物が生息するのか。海底の砂はどんな性質を持つのか。海はどれくらい透き通っているのか。そもそもアマモとは何なのか……。

 数えきれないほどの小さな疑問を抱きながら、須磨里海の会会長の吉田さんと初めてお会いしました。

 須磨海岸をさまざまな生物が生息する海岸として、また、ブルーカーボン啓発の拠点として継承していきたいという信念をお持ちの吉田さんから、海岸で採取できた生物の名前や特徴を教えていただき、アマモの生態についてじっくりとお話を聴かせていただきました。

8/5

アマモの種子選別体験

選別したアマモの種子

 須磨海岸にアマモを移植するのに先立って、特定非営利活動法人「アマモ種子バンク」の方々にご協力いただき、アマモの種子を自分たちの目で見て選別するという作業を行いました。

 見た目はチアシードのような小さな粒で、独特の腐卵臭のような臭いがします。正直、この臭いには苦戦しました……。

 丁寧に選別した種子でも発芽するのは一部だけとのことで、芽生えてくるアマモはいかに貴重かということも教えていただきました。

10/13

アマモの移植

 この日は、「須磨浦漁友会」の漁師さんたちや須磨里海の会の吉田さんとともに船に乗って、移植作業に同行させていただきました。成長したアマモの株を海底に移植していく作業です。

 アマモを海の中に植えると言っても、地上の植物のようにスコップで土を掘り、苗を植えるというような工程はたどりません。アマモを移植する方法は大きく分けて、成長した株を植える方法と、種を植える方法の二つがあります。

 どの方法が一番よく育つか、吉田さんたちも模索中だということで、海底に区画を設けて方法別に移植作業が行われました。

 慣れない船上での作業で少々船酔いしましたが、アマモの普及活動のイメージをより鮮明につかむことができました。

アマモの茎を割りばしにくくりつけるリコラボのメンバー
10/16

第1回ブルーカーボンフェア

 ブルーカーボンについて広く市民のみなさんに知っていただくための啓発イベントとして、私たちが目標としていたイベントがこの日、須磨海岸で行われました。「ブルーカーボンフェア at SUMA BEACH」です。

 須磨海岸を訪れた方たちを対象に、会場に設置したパネルでブルーカーボンの仕組みを説明。アマモの移植体験としてアマモの茎を割りばしにくくりつけたり、泥で包んでガーゼで覆ったりする作業を体験してもらったりしました。

 参加者が準備したアマモはダイバーに託し、海底に移植してもらいました。

 イベントには、神戸市立工業高等専門学校(神戸高専)の学生たちが水中ドローンを携えて参加しました。水中ドローンを使って撮影した映像を、浜辺に置かれた画面に映し出し、海底での移植作業の様子を浜辺にいる参加者も見ることができました。

 私たちリコラボは啓発担当として、アンケートの管理や移植体験のお手伝いなどをしました。

(上)アマモを移植するダイバー=神戸高専ロボティクス提供
(左下)割りばしにくくりつけたアマモの茎をダイバーに渡すイベント参加者
(右下)ブルーカーボンフェア at SUMA BEACH

 印象的だったのは、足を止めて話を聞いてくださった男性が別れ際に「今日、ここに来なかったらブルーカーボンのことを知らなかったし、知ろうともしなかった。こういう取り組みがあることを知ることができたことだけでも、ありがたいです」と言ってくださったことです。

私も「若者」だった…長年の願い

 須磨里海の会の吉田さんは、大学生の頃から海洋生物の調査研究に携わられ、さまざまな自然環境を保全するというお仕事に長年取り組んでこられました。

 「高度経済成長期以降、私たちの生活の快適さが急速に向上した一方で、自然との関わり方は見過ごされがちになってしまった。海の豊かさを享受できる環境を取り戻したい」という想(おも)いから、里海の会を立ち上げたという吉田さん。漁業関係者だけでなく若者も参画して、社会に向けて発信し、海の問題を一緒に解決してほしいと願っておられます。

 「海に携わっている研究者や関係者はみんな、アマモが海からなくなったら魚がいなくなると分かっている。この現状を海に直接関わりのないいろんな世代に広く伝えたいが、なかなか難しい。海の現状を知らなくても生きていけるからね」

イベント参加者の子どもと一緒にアマモの移植準備

見て見ぬふり できないから

 確かに、海の中にアマモを植えることでCO₂が減少し、魚たちにとって住みやすい環境になるということを、知らなくても生きていくことができます。

 ですが、このまま問題意識を持たずに見て見ぬふりをして暮らし続けることは、地球温暖化の危険性をさらに加速させることになるでしょう。

 たとえ微力であったとしても、問題意識を「行動」に移すことが大切なのです。

 私たち学生世代には、未来のために保全活動に取り組んでいらっしゃる方々の想いをバトンとして受け取り、次の世代につなげていく役目があるのです。

 きれいごとに聞こえるかもしれませんが、小さな行動の積み重ねが、予想をはるかに超える大きな行動につながると、私たちは日々実感しています。

 今日、みなさんに知っていただいたリコラボの想いが、環境に向き合う「きっかけ」として、「行動」の第一歩として、お役に立てるとうれしいです。

須磨海岸

:鎌田春風
取材:太田帆香、鎌田春風、出口真愛、中山遥香、雪定弦生、吉田愛子、吉田有里、吉村萌湧
写真:門野京香、高田将之、吉村萌湧
動画編集:雪定弦生
動画撮影:高田将之、藤野真太郎、雪定弦生
動画提供:須磨里海の会、神戸高専ロボティクス
監修:朝日新聞DIALOG
提供:神戸市

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