いのちは巡る——おしゃれカフェ? 街角の実験室大山貴子さん×DIALOG学生部:朝日新聞DIALOG

いのちは巡る——おしゃれカフェ? 街角の実験室
大山貴子さん×DIALOG学生部

By 阿部千優(DIALOG学生部)
大山貴子さん(中央)とDIALOG学生部メンバー

 みなさんにとってサーキュラーエコノミー(循環型経済)を仲間とともに考えられる場所はありますか?

 2021年10月、東京都台東区の街角に「élab(えらぼ)」という「実験室」が誕生しました。つくったのは株式会社fog代表取締役の大山貴子さん(34)。

 サーキュラーエコノミーについて考え、自分も実践者であり続ける。あらゆるものとともに「伴走」し続ける、大山さんの姿に迫りました。

イノベーターセッション DIALOG学生部は、若い起業家やアーティスト、社会活動家など、明日を切りひらこうとする人たちを定期的に招いています。活動への思いや生き方、めざす世界を共有して、その果実をDIALOGウェブサイトで発信します。

生ゴミを堆肥化 働くのは…

 élabは、浅草橋駅から歩いて10分ほどの、ビルと住宅が混在する街並みの中にあります。外から見ると、おしゃれなカフェのよう。大山さんに、中を案内してもらいました。

 まず、店内入り口近くにあるコンポスト。élabではなるべく廃棄物が出ないように、野菜の皮はスープに入れるといった工夫をしていますが、それでも出てしまった生ゴミはこのコンポストに入れています。100匹程度のミミズが生息し、堆肥化する「仕事」を担っています。

 続いてキッチンラボ。カウンターキッチンで、基本的には50キロ圏内の農家さんの野菜を使って料理を提供しています。このカウンターも、自然の素材を使いたいという思いから、土と石灰で作っているそうです。

カカオ豆の外皮 捨てずに味わう

 大山さんが、手作りパウンドケーキを乾燥させて作ったラスクを振る舞ってくれました。チョコレートの香りがふわっと鼻から抜け、風味豊かで、とてもおいしくいただきました。

 この風味の秘密は、生地に練り込まれたカカオ豆の外皮。チョコレートと同じく、気品高い香りを放ちます。でも、カカオ豆の外皮は、チョコレートを作る過程で、普通は廃棄されてしまうといいます。

 ラスクに使われているカカオ豆の外皮も、élab近くのチョコレート店で以前は廃棄されていました。外皮をどのように工夫したら、おいしく食べることができるのか——。élabは今、チョコレート店と協力し実験をしているところです。

循環をつくる( )をつくる

 こうした「ラボ」は、どのような思いから生まれたのでしょうか。

 大山さんは米ボストンの大学を卒業し、ニューヨークで新聞社に勤務した後、帰国し、2019年10月に株式会社fogを設立しました。

 fogは「循環をつくる( )をつくる会社」。( )の空欄には、人、コミュニティー、組織などが入ります。これらは全て「人を育てることで続く社会の土台」を設計しているものです。会社だけが持続可能ならいい、というわけではなく、土台は社会であり、地球。それらが持続可能になっていくために、あらゆる( )と伴走している、と言います。

 コンサルティングだけではなく、自分たちも変化を起こす実践者として機能していく。そのためにより生活に近くて、目線を合わせられるラボとしてélabは誕生しました。

広がる共感 クラファン300万円

 élabという名前は「えらぶラボ」が由来です。「循環する未来を選択していくラボ」。気候変動などの環境課題を自分たちの生活から切り離すのではなく、選択しながら暮らしに取り込んでいく。日常から循環型社会を実現するとして事業を打ち出し、オープン前にクラウドファンディングを行いました。共感する人たち300人以上から300万円を超す資金を集め、élabはスタートを切りました。

 また、élabは「この地域に住む方々、生産者の方々とのつながりも大切にしたい」と考えています。日々、自然を肌で感じている生産者の目線に立ち、食べて、触って考えることから「ご近所さん」に変化の種をまいていく。一人ひとりの変革のきっかけとなる場所として、このélabは地域に根差しています。

 それでは、大山さんに今の思いを聞いてみましょう。

テイクアウト容器 住民が持参

——オープンして数カ月。どんな思いですか。

 オープン当初、テイクアウトで販売するとき、商品を入れる容器をどうしたらいいか、とても迷いました。テイクアウトをしてくれる方々のほとんどはご近所さんです。「容器を持ってきてもらえますか」と言ったら、みんな家から持ってきてくれるようになりました。地域の人たちの意識の変化を感じています。

 ラボの前には、着られなくなった子ども服や、いらなくなったマグカップなどをここに置きましょう、という箱を置いています。ラボに入らなくても、地域の方たちとつながれる工夫をしているところです。

アボカド100円 おかしくない?

——フードマイレージを考えて、食べなくなったというアボカド。そう思うようになった経緯を教えてください。

 スーパーに行くと、メキシコ産のアボカドが100円で売られている。珍しい光景ではありません。でも一度立ち止まって考えたら、「怖い」と思いませんか。どうして、100円であんなに大量に売れるのだろう、と。

 メキシコ産のアボカドは、主にヨーロッパ、アメリカ、日本の三つの地域に輸出されています。一方でメキシコでは、アボカドは高くて買えないそうです。

 ここで私は今の消費社会が「おかしい」と感じました。私たちが手に取る商品は、自然を脅かすほどの大量生産をされているかもしれないし、大量廃棄につながっているかもしれない。そんな気づきから、アボカドを食べないという選択をしました。

地域愛 持続可能性の最小単位

——大山さんが「循環型の暮らしが心地よい」と感じる理由はありますか。

 近所の八百屋に行ったとき、その場で会話が弾んだら楽しくないですか? 小さな話ですが、そんな思いからだと思っています。

 コロナ禍になり、地域に目を向けるようになりました。地域の人たちを知って、コミュニケーションをとって、暮らしていける心地よさがある。環境が大事と言っている自分たちも、人間です。人なくして、暮らしやすさは生まれないと思います。

 地域に愛があると、「地域に貢献するにはどうすればよいのか」と考えることにもつながります。それが、最小単位の持続可能性だと思っています。

——élabが目指す、次のステージは。

 ここで生まれたレシピや知見などをアーカイブして、このラボの外へと発信していくことだと思っています。ラボで生まれた知見は、外に出すことで価値が出る。ここから発信するアイデアやノウハウを、どんどん増やしていきたいです。

疑問を持って 世代を超えて

——若い世代が「循環型社会」に関わっていくヒントを教えてください。

 「目の前にあるものに対して疑問を持ち続けること」が大切なのではないかと思います。それは、当たり前だと思っていたことを変えなければならない場合もある、ということです。目の前のものが本当に正しいのか、自分自身で答えを選択する。これが循環型社会を作っていく、最初の入り口なのではないかと思います。

——若い世代へのメッセージをお願いします。

 何事も一緒に作っていくことが、大事だと思います。若い世代が背負うのではなく、「一緒にやりましょう」と世代を超えて発信すること。自分ができることから始めて、そこから自分だけではなく全員で模索して、選択をしていくということが理想だと思います。

ワクワク探求 社会に広がれ
阿部千優(DIALOG学生部)

 私は大学で栄養学を専攻し、実験室にはよく足を運びます。白衣を着て、考察を重ねながら結果を導き出す。私は、探求することによって興味深い会話がたくさん生まれる実験室が好きです。

 élabには「会話が弾む温かさ」がありました。循環する未来を選択するために私たちに寄り添ってくれるラボは、なんだかとてもワクワクする場所でした。「学校の実験室で友人と過ごすあの時間が、ここにも流れている」。そう感じました。

 一つの疑問を持ったとき、話し合ったり、実験したりする場所が、身近にあるでしょうか。élabは、一緒になって考え、伴走してくれます。ここ、élabで得られた知見が、社会に広がっていくことが、とても楽しみです。


大山貴子(おおやま・たかこ)

 1987年、仙台市生まれ。米サフォーク大学卒業。ニューヨークで新聞社、EdTechでの海外戦略、編集・ライティング業を経て帰国。 日本における食の安全や環境面での取り組みの必要性を感じ、フードロスを考える各種企画やワークショップ開発を実施後、サーキュラーエコノミーの実現を目的としたデザインコンサルティング会社、株式会社fogを創業。サーキュラーエコノミー及び循環型社会の実装を人材・組織開発から行う。

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