ふたば、ふたたび 可能性の町 さあ前へふるさと愛 思いをつなぐ——福島県双葉町〈後編〉:朝日新聞DIALOG
2022/03/10

ふたば、ふたたび 可能性の町 さあ前へ
ふるさと愛 思いをつなぐ——福島県双葉町〈後編〉

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※集合写真の撮影時のみマスクを外しています。

 朝日新聞DIALOGは、東日本大震災からの復興支援に取り組むUR都市機構とともに、全町避難を強いられた福島県双葉町の現状を知るスタディーツアーを実施しました。ツアーを終えた学生たちは、町民やUR職員、復興を支える人たちと双葉町の未来を考えるセッションに臨みました。

セッション参加者〈敬称略〉
 黒澤太朗(東京大学4年)、寺澤愛美(津田塾大学3年)、西岡真子(国際基督教大学3年)、橋本靖治(双葉町役場)、黒木アリシャ(双葉町役場)、山根光保子(一般社団法人ふたばプロジェクト)、吉田知成(双葉町出身者)、高崎丈(双葉町出身者)、河合健史(UR都市機構福島震災復興支援本部)、後藤亮(UR都市機構福島震災復興支援本部)

(左)黒澤太朗さん 東京大学4年。東京都出身。エネルギー政策に関心を持つ。中学3年の修学旅行で津波被災地を訪問
(右)寺澤愛美さん 津田塾大学3年 東京都出身。大学では格差問題を学び、フィールドワークを続ける

時が止まった町? 「復興かなり進んだ」

 まず、学生たちからスタディーツアーの感想です。

 震災後、初めて東北を訪れたという寺澤愛美さんは「震災時のまま残っている建物を見たとき、時が止まっているって、こういうことなんだな、とショックを受けました」と切り出します。学生は3人とも、復興がなかなか進んでいないことに驚いたようです。

 一方、「壁画アートがあったり、駅前に花やイルミネーションがあったり……町を元気にしようとする動きがあることを知れた」(黒澤太朗さん)、「町の歴史や名残りに温かい部分を感じた」(寺澤さん)など、現地を訪れたからこその、前向きな印象も受けたと言います。

 町内でガソリンスタンドを経営する吉田さんは「みなさんは『まだまだ止まっている』と思われるかもしれませんが、震災後、あちこちにゲートがあって通行証を求められた時期からすると、今は別世界。かなり復興は進んでいます。もうすぐ、住民が戻るときが来ます。さらに除染や再開発を進めて、関係人口をもっと増やして、若い人たちが目を向けてくれるようになってほしい」と語ります。

(左)高崎丈さん 株式会社タカサキ喜画代表 飲食店経営。双葉町出身(オンライン参加)
(右)吉田知成さん 株式会社伊達屋代表取締役 町内でガソリンスタンド経営。双葉町出身。震災を機に家業を継ぐ

脱サラ決心 家業を継いだ

 帰還の見通しが立たない時期が続いた双葉町。しかし、「人口ゼロ」の間にも、ガソリンスタンドの経営を再開した吉田さんや、壁画アートプロジェクトに乗り出した高崎丈さんを始め、復興に向けた動きは進んでいました。黒澤さんが「困難を押して帰町すると決めた、最大の理由は」と尋ねます。

 双葉町出身で、震災時は家族とともに神奈川県で暮らしていた吉田さん。実家が営むガソリンスタンドの再開を望む声が寄せられたことがきっかけで町に戻った、と明かします。「父にも僕にも、あちこちから連絡が入りました。高齢の父にとって経営再開が難しいことは分かっていて、このままでいいのか?と自問して……。実家は5代前から双葉町で商いをしていましたから、震災を理由に看板を下ろせないと思い、脱サラして家業を継ぎました」

 帰還困難区域であることを理由に改修工事の業者にスタッフ派遣を断られるなど、当時はいくつも困難があったと言います。それでも、神奈川と福島を往復する生活のつらさは、除染・改修で整っていく懐かしい店舗が吹き飛ばしてくれたそうです。

壁画 高崎さんとアートカンパニーOVER ALLsが双葉町で手がけた最初の作品

壁画アート パワーもらった

 帰れない、それでもできることはある——。東京で飲食店を経営する高崎丈さんは、壁画アートで町の注目度を高めた立役者の一人です。「海外の事例を教えていただいて、『双葉でもできそうだ』と思い、東京のアートカンパニーOVER ALLsさんにお願いしました。自分の中ではっきりと奮い立ったのは、最初の壁画『HERE WE GO』ができたときでしょうか。ここから物事が動き出す感覚があって、この勢いは止めたくないなと」

 アートを間近に見て、パワーをもらったという学生たち。寺澤さんは、関わる人の思いを感じて、もっと町を知りたいと感じたと語ります。「町の歴史や人の心が、今日まできちんとつながっていることに感動しました。これからを想像すると、とても楽しみです」

(左)西岡真子さん 国際基督教大学3年 愛知県出身。ジェンダー平等を学ぶ
(右)山根光保子さん 一般社団法人ふたばプロジェクトスタッフ 双葉町出身。震災前は園芸店勤務。震災後は双葉町の広報紙制作に従事した

いよいよ帰還 スタートライン

 同じ東北の被災地でも、復興の地域差に驚いた、と明かしたのは西岡真子さん。2年前、運転免許を取るためにいわき市に滞在。「初めて訪ねた東北の都市がいわきで、ずいぶん復興が進んでいると思いました。双葉町で見た、止まったままの時計は、言葉が出なくなるほどの衝撃がありました。だからこそ、心を通わせる温かい取り組みに価値があると思いましたし、ぜひ関係人口の一人になりたいと感じました」

 駅西側地区や公営住宅の整備を担当する双葉町役場の黒木アリシャさんは「町を訪ねたいと思う人を増やしつつ、楽しんで生活してもらえる場を提供したいのです」。同じく町役場の橋本靖治さんは「いよいよ帰還に向けてスタートラインに立ったところです。避難指示解除は町内の面積で言えばまだ1割と少しですが、確実に前進しています」と手応えを感じているよう。

(左)橋本靖治さん 双葉町役場秘書広報課課長 双葉町出身。広報紙の発行や情報発信、町民との懇談会開催など、町の広報・広聴業務を担当
(右)黒木アリシャさん 双葉町役場復興推進課 双葉町出身。駅西側地区の復興計画を担当

UR プロの視点と調整力

 町が日常を取り戻すための支援を続けているUR。河合健史さんは「進行中の産業団地と住宅地のインフラ整備に加えて、空き地・空き家の利活用も考え、町内外の事業者を後押ししていきたい」と話し、行政や民間との連携にも目を配ります。

 震災時の町の人口は7000人ほど。橋本さんは「旧来は特にまとめようとしなくても、自然と一体感が生まれる町でした。しかし、突如として積み重ねてきたものが失われて……。戸惑っているところを、URさんのプロの視点で助けていただきました」と語ります。

 黒木さんも、全体を俯瞰(ふかん)したURの調整力に信頼を寄せます。「部署をまたぐ会議にも入っていただき、一緒に決めていけるのが心強いです」

(左)河合健史さん UR都市機構福島震災復興支援本部 都市再生や郊外ニュータウンの開発に従事。2021年着任
(右)後藤亮さん UR都市機構福島震災復興支援本部 復興庁出向を経て2018年着任

日々の対話から ともに考える

 スタディーツアーで学生たちの案内役を務めた後藤亮さんは「双葉は町のつくりがコンパクトで、都市計画の視点では理想的な形をしています。下水道の配管が短くていいとか、これからの時代に即したまちづくりができるはずです」と話します。

 河合さんは、URが自治体とともに手がけるまちづくりの根幹は、日々の対話にあると言います。「今後も、ともに考えていきたい。例えば、原子力災害の教訓を生かして『持続可能』『環境負荷の低減』『人のつながり』などを世界に発信していけるのではないかと感じています」

セッション会場の双葉町産業交流センターから望む山並み

駅に降り立てば 潮の香り

 黒澤さんは、すでに動き出しているという企業誘致に言及。「広大なスペースを生かしてドローンの実証実験施設を呼び込むなど、産業面で発展できると思いました。そして駅に着いたとき、ふわっと潮の香りを感じて、心が躍りました。海が近いですし、振り返れば山もあります。観光も期待できますよね」

 かつて観光関連の部署に所属していたという橋本さんも、豊かな自然への思い入れを語ります。「海の美しさを、町を離れて実感しました。双葉は環境省選定の快水浴場百選に選ばれたこともあり、いつか復活させたい。国指定史跡の古墳などもあり、数千年の歴史と文化をつないでいきたい」

双葉駅の近くにたたずむ古い洋館

「可能性しかない」誰もがうなずく

 「心地いい場」としての魅力に触れられた、と語るのは寺澤さん。「時間がゆったり流れている感じがしました。シェアサイクルで走るのが気持ちよかったですし、この環境にひかれる人は多いのではないでしょうか」

 誰もがうなずいたのが、吉田さんの「可能性しかない」という言葉。「今の双葉では、想像し得なかったことが生み出せると思います。可能性を秘めた人が入ってきやすい町であってほしいです」

 黒木さんは「前例に倣うことも大切だけれど、単に同じことをしないチャレンジ精神がカッコいいと思っています」。例えば、新たにできる災害公営住宅・再生賃貸住宅の間取り。公営住宅としては珍しい土間が設けられています。交流の場として、つながりが生まれてほしいという願いが込められています。

(左上)双葉駅に併設された施設に置かれた来訪者用のノート
(右)ノートに書かれた、たくさんのメッセージ
(左下)折り紙のだるまに「笑顔」「希望」などの文字

この町をなくさない この町に住みたい

 復興に関わる人たちからは「ふるさと愛」が伝わってきます。

 バラの植樹やプランターの管理、イルミネーション。こうした取り組みを主導するのは「ふたばプロジェクト」。スタッフの山根光保子さんも、双葉町出身です。

 「広報紙づくりのために避難先の町民を訪ねてインタビューをしてきました。多くの人の思いに触れて、こんな人たちが集う町をなくしたくないと感じました」

 山根さんは、いわき市で子ども2人を育てています。「近い将来、双葉に住みたい。双葉で子育てするために何ができるかを考えながら、仕事とか家事とか育児とか、バタバタと生活しています」とほほえみます。

JR双葉駅を中心に、新たなまちづくりが進んでいる

自由の最上級が不自由 その理由は

 セッションの終盤、未来に向けたキーワードを全員で画用紙に記します。

 「つなぐ」「つなげる」と記したのが3人。復興に関わる人たちの思いが輪のように広がって、この土地の歴史や文化がずっと残ってほしい、との思いが伝わります。

 そして「可能性」を挙げたのが2人。ゼロからの出発で「何をやっても一番乗り。熱い気持ちを持って、ここに来てほしい」と吉田さん。高崎さんも、今は不自由を体験するために何時間もかけて都会を離れる人たちがいる、と指摘。「自由の最上級が不自由。そして、不自由を表現しやすい場所が双葉町なんです」と語りました。

 黒澤さんは「新規性と固有性」と書きました。新しさと、古くからある良さのバランスが大切なのでは、と提言します。寺澤さんは「ふらっとふたば」。肩の力を抜いて被災地を訪ねてほしい、という願いを込めたそうです。

 後藤さんは「楽しむ」。「大変なこともあるが、楽しむ気持ちでやっていかないといけない。(困難も)笑いながら乗り越えられるように」。その向こうに、暮らしが戻り、笑顔があふれる町の未来が見えるようでした。

未来に向けて それぞれの思い
・新規性と固有性(黒澤太朗)
・ふらっとふたば(寺澤愛美)
・つなげる(西岡真子)
・歴史 文化 人と人 風土 想(おも)いをつなぐ(橋本靖治)
・光る(黒木アリシャ)
・生きがいを感じながら笑顔で暮らせるまち(山根光保子)
・可能性無限大(吉田知成)
・不自由の可能性(高崎丈)
・つなぐ(河合健史)
・楽しむ(後藤亮)

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