

大学生になると、「キャリア形成」や「出産」「子育て」について、考える機会が多くなるのではないでしょうか。
「キャリアと子育てを両立できるか」「家事・育児を夫婦でどう分担するか」「子どもを育てやすい環境は」など、実際に子育てをしている人に聞くチャンスはあまりないはず。
そんな思いから、出産・子育ての先輩ママとパパにお話を聞いてみました。参加した大学生が出産や子育てに抱いていたイメージは、どのように変わったのでしょうか。
■参加メンバー(敬称略、学年は今年2月の開催時)
松永夫妻(H夫、M子) 今年1月に第1子誕生。夫婦で1年間の育休中。
野田夫妻(なつ、みどり) 7月に第1子誕生予定。
内田早紀 大学3年。育児中の人と関わる機会が少ない。
高瀬ひかり 大学3年。育児・結婚はまだ考えていない。
杉山日菜子 大学3年。環境やジェンダー問題を考えると未来が不安。

子どもが風邪 どっちが休む?
最初のテーマは「子どもが急に風邪を引いたら、どちらが休むか」。妻も夫も同じように働いていて、仕事を休みづらいのは同じ。でも、休むのは妻のほうが多いのではないか?と大学生は考えていました。実際はどうなのでしょうか。
みどり 休めるほうが休む。でも、僕の場合、そういう日はテレワークに切り替える。コロナでテレワークが始まって、「急にテレワーク」もできるようになってきたし。
なつ 「どっちも休めばいい」と思っちゃった。2人いたら手分けしてできるし、1人ではできないことってたくさんあるから。どちらも休みにくい場合は、どっちが休むか、しっかり話し合いたい。
M子 私たちも、休めるほうが休む。最近は病児保育もあるので、そういうのをお願いしてもいいかも。
なつ 確かに、病児保育などを利用すれば2人とも出社できる可能性もありますね。
H夫 夫婦のどちらがより休みやすいか、偏りが出る気がする。片方が休み続けていると不平等な感覚が生まれて関係が悪化しかねないので、偏りが出てしまった場合には感謝の言葉などをしっかり伝える必要がある。
なつ、みどり 午前休、午後休でバトンタッチしてもいい。

おっぱいないと もうダメだ
ここで、母乳についての質問が飛び出しました。
早紀 男性が育休を取っている話を読みました。赤ちゃんはおっぱいが好きで、おっぱいは最終兵器。でも男性にはそれがない。男性が1人で育児するのに不安はありますか。
H夫 「あればいいな」と思うことはあるけど、なくても対応はできる。泣きやまないときは、乳児用ミルクを飲ませたり、おしゃぶりを使ったり。
なつ おっぱいがないから泣くわけじゃない。
みどり 女性だからといって母乳を与えるのが当たり前じゃない、という話を聞きました。女性でもミルクでいい日もある。「母乳にこだわらなくてもいい」と妻と話し合ったことがあります。
なつ 完全ミルクで育てている人もいるし。おっぱいなくても大丈夫かな。
みどり 不安になっちゃうかも。「おっぱいないと、もうダメだ」って。
早紀 おっぱいの話を、急にぶっこんですみません……。母乳への考え方が変化しているのは少し知っていたけど、なるほどって思いました。
育児イコール女性 価値観に変化?
ひかりさんは「育児イコール女性」から「支え合って育児」へと価値観が変化してきていることを、野田さん夫妻と松永さん夫妻の話から感じたようです。実際は——。
M子 「(価値観は)意外と変わってない」と感じることがあります。夫は、産前に1カ月休んで、一緒に両親学級に参加したり、育児本を読んだりしていました。産後、家事もほとんどやってくれているのですが……。
H夫 昔は、男性は仕事、子育てはほとんどできないという事例が多かったと思う。そういった印象を前提として育児本が書かれているし、アドバイスもされるのでストレスがたまります。
M子 産後ケアで助産師さんが電話をしてくれるので、授乳や寝る時間の悩みを相談しました。その助産師さんに「旦那さんには言わなきゃわからないから、適当におだててやってもらいなさい」と言われたんです。アドバイスの前提が変わっていない。「男性は育児も家事もやらない」という価値観は変わらないのかと感じましたね。
なつ SNSでバズるツイートは、妻が夫を責める内容が多い。大学生が「今も価値観が変わっていない」と感じる理由の一つかもしれません。
みどり ツイッターで「旦那が全然手伝ってくれない」に応援の「いいね」2万とか……。

私の会社 育休1年間の男性も
学生から「会社で育児に参加している男性は多いですか」と質問が。
H夫 私の会社は、知っている限り、みんな育休を取っています。男性が育児に参加するかは、組織の影響が大きいと感じます。「男性も育児に参加するものである」という意識は同僚や上司との会話などによってつくられる部分もあると思います。
M子 彼の会社は日本で珍しいと思いますが、1年間育休を取っている男性もいます。それについて彼は「珍しい」と言われることもないし、むしろ「珍しい」と言われることに違和感を持つみたい。
みどり 僕の会社は新しくて、社員がまだ約10人しかいないので、結婚も子どもが生まれるのも僕が初めて。僕が育休を取れば、後の世代も取れるようになる。僕が取らないとみんな取れなくなっちゃうので、会社の制度を設計しているところです。
育休は当然 勝ち取ってきた
日菜子 どれくらい取りたいですか。
みどり H夫さんの会社は1年も取れると聞いて「半年でいいか」とは言えないな……。最初から1年取れるわけではなかったと思うのですが、どうですか。
H夫 僕の勤めている会社は数十年前に立ち上がったのですが、創業期は男性が育休を取る雰囲気はなかったのではないかと思います。
みどり 育休を勝ち取ってきたんですね。50年かけて育休が当たり前になった。僕らは後を追うようにがんばらないと。
なつ 自宅に毎日いてほしいかというと、わかんないけどな。
M子 いま生後1カ月で、一番大変。「ワンオペの人はどうやっているんだろう」って、よく話しますね。
ディズニー 男らしさ/女らしさ
続いてのテーマは「アニメや絵本からのジェンダー意識への影響を気にするか」です。世の中には「男らしさ」「女らしさ」といった固定観念や、性別による役割分担の意識があります。子どもに触れさせる情報を、制限したほうがいいのでしょうか。
H夫 気にはしますが、極端なものでない限り制限しないと思います。小さいときに見たものについて、高校生になって別の見方ができることもある。映画でも(お姫様、王子様といった価値観が)広く浸透してしまっている。ただ、そういうものを見せるとき「僕はそう思わないよ」とか一言付け加えてもいいかな。
M子 アニメや絵本だけでなく、ネットでもいろんな固定観念の影響を受けますよね。だからこそ、たくさんリアルな体験をしたり、リアルな話を聞いたりしてほしい。男性で1年間育休を取る人がいたり、専業主夫がいたりする。妻の海外赴任についていく夫もいるし……。SNSで情報を集めることはできるけど、実際に会ってみるとインパクトが違うと思います。
日菜子 確かに、自分の価値観が変わったのって、リアルな経験があってこそかも。

女の子は赤 変わってきている?
早紀 男の子と女の子で色のイメージがあるよね。ひかりちゃんは芸術系の大学に通っているけど色とジェンダーの関係を学んだりする?
ひかり 授業で学ぶことはあまりないけど、個人的に興味があるのでSNSなどでジェンダー論やフェミニズム論を学んでいます。トイレのサインを例に挙げると、赤は女の子、青や黒が男の子という固定観念がありますね。色は、小さい頃の体験が影響すると思う。例えばランドセル。私の時代は男の子が黒、女の子は赤がスタンダードだった。両親は「好きな色を選んで」と言ってくれて、私は茶色を選びました。今はどんどん変わってきているのかな。
早紀 最近のランドセルはカラフルだよね。
H夫 親からの教育と、世間からの押しつけ、刷り込みはある。色だけでなく、幅広くある気がします。
M子 赤ちゃんグッズを買うときに黄色のものを選びました。中性的な色だと思って。それも私の固定観念なのかも。いろんな価値観の人に会う機会があれば、そういう固定観念もなくなっていくのかな。
男なのにピンク! 言っちゃいそう
日菜子 考えすぎずに、好きな色をチョイスするのが重要ですよね。
なつ 自分が好きな色を選んでいるならいいと思います。でも「女の子だからこの色」「男の子だからこの色」といった理由で選んでいるなら、子どもにどう伝えるべきか考えないといけないと思うな。
みどり 小学校に入ったら、少し状況が変わってくる。両親に「どんな色でもいい」と言われて黒のランドセルを選んだ女の子が、学校でからかわれたりしないか心配です。
なつ 男の子がピンクの服を着たときに「男なのにピンク着ている!」と軽率に子どもは言っちゃうことがあるからね。
みどり 子どもの選択を否定しないのが大事。両親から「この色を着なさい」と強制されたことはない気がする。
なつ 女の子がピンクのものを身につけていることが多いから、それに影響されてピンクを好きになっちゃう人が多いのも分かる。
みどり 確かに、男の子の下着コーナーにピンクは少ない。
押しつけ・否定…大人がやめないと
なつ デザインの学校で、色のチャートを学んだことがあります。暖色系は女性らしい、寒色は男性らしいとかがある。トイレのサインだけじゃなくて広告、場所、子どもの服、大人の服……。色とジェンダーの意識って潜在的にある。やっぱり、どんな色を選んでも否定しない環境にするのが大事だと思う。何でもいいじゃん! ちなみに私はグレーが好き。
みどり 僕は緑色が好き。
なつ それを子どもに押しつけたりはしないよね。
ひかり 大人が変わっていかなければいけないと思いました。「かわいいものは女の子」「カッコいいものは男の子」っていう固定観念を商品を開発する人たちが持っているから、そういう商品しか生まれない。さまざまな商品を子どもがチョイスできる環境になるといい。
祖父母 母親の私ばかり心配
みどり 祖父母から孫へのプレゼントって、性別によって違いませんか。「男の子だから青いもの贈ったよ」とか。
M子 そんなになかったかも。2着くらいピンクだった。でも、性別による役割分担の意識はあって(子育ての負担について)私ばかり心配される。夫もずっと夜起きてくれたけど、心配されない。そういう価値観はありましたね。
みどり 「自分は心配されない」「僕のことも心配してよ」と、夫は主張するわけにはいかないよね。
なつ それは妻の問題。「こうやってくれているよ」と家族や友人に伝える配慮。「協力してくれる」という雰囲気が伝わるように。

自分の父は? 家庭環境を振り返る
父親が育児に積極的だった? 自分は家庭環境に影響されている? それぞれの過去を振り返ります。
日菜子 私の父は夜遅くまで仕事をし、平日は夜ごはんを一緒に食べないのが普通でした。小学生の頃、友人がお父さんと夜ごはんを一緒に食べると聞いて、びっくりしたのを覚えています。高校生になるまでは「男性は仕事」という価値観がありました。
みどり 父が育児に協力的だったかというと、あまり覚えていない。母がどう思っていたか聞いてみたいな。父はいつも遊んでくれて、大好きだったけど……。
H夫 父は航空会社で働いていて、1週間飛んで2日帰ってくるような生活でした。だけど、家事は母親だけがするべきという意識はなかったし、父も時間があるときは料理をしていました。僕も妻も働いているので、両親とは状況が全く違います。お互いに会社で働いているのに、妻だけがキャリアを中断すると不平等になってしまう。それが僕も育休を取ろうと思った一番のきっかけですね。
なつ お互いの考えが一致していれば、妻は専業主婦で、夫が働いてもいいよね。意見が一致していないと、「私は働きたいのに、なんで家にいなきゃいけないの?」となってしまう。
みどり お互いの希望が通るように、話し合うことが大事だね。片方がガマンを強いられている状況がネットで共有されて、結婚についてネガティブな印象を与えている気がする。
ネガティブな印象 変わった
日菜子 実際に育児と出産をした方からお話を聞けて勉強になりました。ネット情報で不安になり、ネガティブになりすぎていました。
ひかり 知らなかったこと、ポジティブな意見をたくさん聞けました。楽しく知ることができました。
早紀 難しく考えすぎていたな……。やれるほうがやるし、かっちり決まっているものじゃなくて、グラデーション。出産・子育ての認識が変わりました。
みどり 大学生のリアルな悩みが聞けて新鮮でした。
M子 産後1カ月間、家族以外と話す機会がなかったので、リフレッシュできました。出産・子育てをネットで調べるとネガティブなことばかり出てくるので、ポジティブなイメージがなくなっていくのは分かります。私も大学生の頃、悩んでいました。でも、ポジティブな事例を知る機会があると価値観がアップデートされる。
H夫 ジェンダーの話など、日ごろ考えていないことばかりだった。これからも勉強していきたい。