飛騨から広がれ!防災教育 災害に強い元気なまちに手嶋穂さん:朝日新聞DIALOG
2022/04/14

飛騨から広がれ!防災教育 災害に強い元気なまちに
手嶋穂さん

By 三嶋健太郎(DIALOG学生部)

 「防災訓練」と聞いて、連想するものは何でしょう。

 避難訓練、備蓄品の確認……。「面倒くさいな」「役に立つのかな」などと思ったことはないでしょうか。

 手嶋穂さん(23)は、岐阜県飛騨市を拠点とする教育関連会社Edo(エドゥ)で、主に防災教育のプロジェクトを担当しています。

 大学で培ったユニークなアイデアと対話力で、学校から自治体まで幅広く連携。災害に強いだけでなく、人々が豊かに交流する地域をつくる。手嶋さんの挑戦に迫りました。

イノベーターセッション DIALOG学生部は、若い起業家やアーティスト、社会活動家など、明日を切りひらこうとする人たちを定期的に招いています。活動への思いや生き方、めざす世界を共有して、その果実をDIALOGウェブサイトで発信します。

 手嶋さんが新卒で入社したEdoは2019年4月創業。学校での出張授業のほか、小中高の学年を越えて防災を学ぶ「防災タウンウォッチング」、学校と地域が連携するコミュニティースクールの支援などを展開しており、今年は中高生向けの探究塾「EdoNewSchool」も始める予定です。

 このうち、手嶋さんが担当する防災タウンウォッチングは、防災について授業で習うだけでなく、五感を使って実際の取り組みに触れる「防災授業の応用編」。主に中山間地域で「人口が減っても豊かなまち」をめざし、自然災害への備えを手助けします。

 学年を超えてチームを組み、校外に活動の場を広げることで、地域にとって頼もしい存在に育ってほしい——。そんな願いも込めています。

 EdoNewSchoolは、子どもたちが「やってみたい」を見つけ、いろいろな体験を通じて「やれる!」と思える場を提供。「子どもたちにワクワクする学びを!」「夢中になれる放課後を作る!」をキーワードに、手嶋さんはルーブリック(評価基準)とカリキュラムづくりを担っています。

Edoの事業はこちら(外部リンク)

 静岡県出身で、山形県内の大学に通った手嶋さん。飛騨で教育支援に携わるまでの歩みを聞きました。

中学校での防災授業の実施風景

新卒入社1年目から新規事業

——Edoと出会ったきっかけは。

 大学1年生のとき、大学の教育シンポジウムに、後にEdoの代表・副代表になる方々が参加していたことです。その後、インターンで飛騨を訪れたり、Edoの家庭教師サービスを手伝ったりする中で「入社しない?」と声をかけていただきました。

——Edoは当初、防災教育を手がけていなかったのですね。

 注力し始めたのは私が入社してからです。私が新卒入社の第1号で、1年目から新規事業の中核を任され、うれしくもあり大変でもある毎日でした。

山形へ進学 親にプレゼン

——高校時代は現在の手嶋さんに大きく影響していますね。

 フィールドワークで課題を探究して街の人にプレゼンする授業が楽しく、この活動ができる大学を先生に相談したら、東北芸術工科大学(山形市)を薦められました。進学先をめぐっては親から反対されましたが、本気で行きたかったので、プレゼン資料を作って説得しました。授業で習得したプレゼン力が生きました。

「防災訓練カード」などを手にする手嶋穂さん=2021年2月8日、山形市、西田理人撮影

卒業研究 カードで学ぶ防災

——防災についてカードゲーム形式で学べるツールを、大学の卒業研究で制作しました。なぜ、アプリなどではなく、カードにしたのですか。

 大切なのは、サービス利用者の視点です。卒業研究の対象とした山形県戸沢村の蔵岡地区は高齢化が進んでいて、スマホではなくガラケーを使っている人が多い。住民へのヒアリングをもとに考えてカード形式にしました。しかし、汎用(はんよう)性も重要なので、ポータルサイトを作成し、今は他の地域でも利用できるようにしています。

——地方や防災を卒研に選んだ理由は。

 地方は本能的に好きなんです。すれ違う人にあいさつしながら登下校した記憶。人の温かみを強く感じられて心が落ち着きます。逆に都会は情報が多くて苦手です。そして防災をテーマにした理由は三つあります。静岡県出身であることと、大学で東日本大震災の話を聞く機会がたくさんあったこと。そして、ある人に言われた「静岡にも必ずいつか(災害が)来るよ」という言葉が胸に響いたことです。防災と真剣に向き合う決心をしました。

防災タウンウォッチングの実施風景

地域を盛り上げる 協働しながら

——今後のキャリアパスは。

 地元をフィールドに、今している仕事を還元したいと思っています。市役所に勤める同級生もいるので、いろんな人と協働しながら故郷を盛り上げたいです。その手段が、防災教育か大学で学んだコミュニティーデザインかは未定ですが……。

——実現したい理想の社会は。

 「フェーズフリーな防災」をめざしています。それは、日常と災害時の垣根のない社会。「防災ウィーク」などイベント化するのではなく、毎日がそうあってほしい。そして、就活のときから「みんなが自分らしく生きられる社会」をつくりたいと思っています。地方の課題解決に貢献できる今の環境に、私はワクワクしています。

自分らしく ワクワクを追いかける
三嶋健太郎(DIALOG学生部)

 「資料を準備してプレゼンして親を説得しました」。このインタビューで、僕が最も衝撃を受けた一言です。僕には、その勇気と周到さはないと思います。そして、この決断こそ、手嶋さんの全てを凝縮していると思いました。

 確固たる意志をもち、相手へ思いをしっかり伝え、着実に実行していく。同じ年齢の僕から見ると、その姿勢はとてもたくましく、素敵でした。

 「飛騨にとどまらず、自分らしく生きられる社会をつくりたい」と手嶋さん。現在の手嶋さんがまさに、そのカタチを示している気がします。

 何か本気で取り組むことに時期なんてない。自分に素直に、ワクワクに従って突き進もう。未来をつくるZ世代の僕たちに、強く響くメッセージでした。


手嶋穂(てじま・みのり)

 1998年、静岡県富士市生まれ。社会教育士、防災士。東北芸術工科大学コミュニティデザイン学科に在籍中、卒業研究として「コミュニティデザイン×防災」をテーマに「過去の災害を振り返り、地域にあった防災訓練を考えるツール」を開発。最優秀賞を受賞。2021年4月、Edoに新卒で入社。

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