社会貢献 この指とまれ! みんなを結ぶプラットフォーム伏見崇宏さん:朝日新聞DIALOG
2022/04/29

社会貢献 この指とまれ! みんなを結ぶプラットフォーム
伏見崇宏さん

By 猪又玲衣(DIALOG学生部)

 みなさんにとってSDGs(国連の持続可能な開発目標)などの社会課題への貢献はどのくらい身近でしょうか。就職活動などの際に、企業の社会貢献を重視する人も増えているかもしれません。企業がサステイナビリティー(持続可能性)を高めるには、ESG(環境、社会、ガバナンス)の観点から社会に貢献することが求められています。そうした企業と、社会課題を解決したいNPOなどのソーシャルセクターとを結ぶことを目的とする会社があります。2020年1月に創業したICHI COMMONS株式会社です。代表の伏見崇宏さん(30)に、企業活動に込めた思いを聞きました。

SDGs 企業「何をすれば?」

——ICHI COMMONSの活動内容について聞かせてください。

 ICHI.SOCIALというプラットフォームを運営して、企業や自治体、NPO法人などをマッチング。活動状況が分かるようにモニタリングを支援しています。SDGsやESGが注目されていますが、何をすればいいのか分からない企業も多いのではないかと思います。そういった企業に情報を提供しています。人事部やサステイナビリティー推進部などに「SDGsやESGの取り組みを具体化しませんか」という話を持っていき、従業員にボランティアの機会を提供することもあります。

——具体的にはどのような取り組みをしていますか。

 一つは「わくわく寄付コンペ―社会貢献に夢中になろう―」というプログラムです。企業が、従業員の投票で寄付先を決められるというものです。企業には、まず事業に関連する社会貢献のテーマや地域を決めてもらいます。一方で、社会的な価値を創造することを意図している組織、SPO(Social Purpose Organization)に5分のインタビュー動画を制作、プレゼンしてもらいます。その動画などを参考に、従業員に応援したい組織を一つ選んでもらいます。そうすることで、社会課題の現場で活動する人々の声を従業員全体が聞き、納得した形で寄付を行うことができます。

SPOに直電 悩みを聞いた

——SPOは、どうリストアップするのですか。

 約1200のSPOに電話して、ヒアリングしました。「ホームページを公開する余裕がない。アップデートできない」という声を聞いたので、インタビューを動画にすることで、活動内容を分かりやすく伝えられるようにしました。その動画を社会課題を学ぶ教材として活用することも目指しています。

——伏見さんが直接電話をされたのですか。

 そうです。一番仕事をしなくてはいけないのが代表なので(笑)。

企業版ふるさと納税 広島で

——「企業版ふるさと納税」というプログラムもあります。個人が自治体に寄付をして返礼品をもらう「ふるさと納税」と、どう違うのでしょうか。

 企業が自治体に寄付をすると、税額控除などで実質的な企業の負担が約1割まで圧縮される仕組みです。ただ、企業版には返礼品がありません。

 私たちは広島県から委託されて、県の中山間地域の地域課題を解決しようとしているSPO5団体を選び、支援がその団体に直接届く仕組みを作っています。今後は他の自治体でも行っていきたいと考えています。

 その他に「社会課題ライブラリ―知る・学ぶ・そして出会う―」というサービスも準備しています。社会課題や地域課題をSDGsにひもづけ、さらに、その問題にひもづくSPOを紹介することで、企業が具体的なアクションを取りやすくするインフラストラクチャー(基盤)を目指しています。

米アラバマでの少年時代

アラバマ 育った適応力

——伏見さんは、シンガポールで生まれて、アメリカ南部アラバマ州で幼少期を過ごしたそうですね。そのなかで培った価値観が現在に生きていますか。

 一番大きいのは異質な環境に適応する力、アダプタビリティーですかね。慣れない環境にいることはつらいですが、自分自身の魅力や存在に向き合うという経験を得られました。田舎のアラバマで培った適応能力は、どの企業、どの団体に行っても生きていると感じています。

——どのようにして起業に至ったのですか。

 大学在学中、教育系一般社団法人であるHLAB(エイチラボ)の立ち上げに参加しました。HLABは高校生向けのサマースクールなどを運営し、寮生活を再現することで、人と人の距離が近い環境でのリベラルアーツ教育の実現を目指すものです。

 資金の管理なども自分たちで行っていたのですが、2年目に赤字が出てしまいました。バイトなどで資金を補填(ほてん)しました。幸いなんとか乗り切って、HLABは現在、株式会社としても活動しています。

 赤字の経験から、財務と経理は企業運営の要であると考え、それを学べる環境を求めてゼネラル・エレクトリックに入社しました。財務を実践的に学べるプログラムがあったからです。全世界に約30万人の従業員がいる企業なのですが、私は新潟県刈羽村の工場に配属され、日本がいかに東京に一極集中しているか、身をもって感じました。地方にはセーフティーネットが乏しく、貧困が隠れていました。社会課題に取り組みたいという思いが大きくなり、日本の社会責任投資を促進する一般社団法人C4に転職し、事務局長を務めました。

ゼネラル・エレクトリックに入社、新潟県刈羽村で勤務していたころ

社会貢献と利益 両立できる

——その後、ICHI COMMONSを創業されました。株式会社の形態を取っているのはなぜですか。

 企業は利益を生み出すために活動しています。一方、一般社団法人などは社会課題を解決したいという思いを大切にしています。手段が違うだけで、僕の中では共存しています。ただ、非営利型の一般社団法人を経験して分かったことは、思いの強い組織にビジネスの人たちが入っていくと、お金の流れを優先して作ろうとするため、意識のズレが起きてしまうということです。

 企業が新しい形を示すと日本は変わっていくと、僕は考えています。株式会社として持続可能性を見せることで、社会貢献とビジネスは両立できるのだということを示したいと考えています。

——課題に感じていることは何ですか。

 課題はたくさんあります。現在、日本の企業の社会貢献や寄付活動は、企業の社会的責任として行われることが多いです。その場合、お金がただ出ていってしまい、(利益を生む)経済活動につながりません。

 また、日本では個人が寄付やボランティアをするときに使えるサービスはたくさんありますが、企業が連携先を探す際に使えるサービスは多くはありません。企業は社会貢献や寄付活動が経済活動にひもづかないと考えているので、自分から寄付先を探すことはあまりありません。

 これらの課題を、持続可能になるように戦略化して解決できればと考えています。

課題の山 しなやかに対応

——これからの話を聞かせてください。

 ICHI COMMONSとしては、個人でも組織でも、社会課題に関心を持ったら、その課題に取り組む組織や人々、お金の流れなどの情報が分かり、寄付の判断材料になるインフラを作っていきたい。また、ICHI COMMONSをアダプタビリティーのある組織にしたい。

 社会課題は、SDGsのように分かりやすいものだけではありません。誰かが「これって問題だよね」と感じたら、それは社会課題になります。そこに対応できる順応力のある組織を作ることが自分の役割だと思っています。

 株式会社は短期的に利益や持続可能性を担保しなければなりませんが、常に「この組織の形は正しいのだろうか」と問い続けながら、自分がいなくなっても持続可能な会社を作っていきたいです。

わくわく寄付コンペの投票ページの一部

関心ない? それでもいい

——若い世代へ向けてメッセージをお願いします。

 関心があることに対して、素直に行動してみてください。関心が続かなかったり、楽しくなかったりするなら、やめることも大事だと思っています。失敗を恐れずに行動してください。ただ、自分がなぜそれを行っているのか意味づけすることを忘れないでください。

 社会課題に対する高い意識がなくても構いません。自分にとってその行動がどのような意味があるのか、それが自分をどのように幸せにするのか考え、納得した形で自分で決めたことをやり通してください。

 何に関心があるのか分からないのは、悪いことではありません。まだ出会っていないだけかもしれません。関心事がないのなら、自分を違う環境に置き、偶発的な出会いを大事にするのも重要です。

私にもできる 未来が見えた
猪又玲衣(DIALOG学生部)

 伏見さんには、人を動かす、確かな魅力がありました。

 将来が不明確な現代、誰もが先の見えない不安を感じていると思います。「少しでも日本や世界が良くなればいいけれど、具体的に行動に移すことは難しいし、自分に何ができるのかさっぱり分からない」「寄付を受け付けている団体は多いが、どこを選べばいいのか分からない」。そんなふうに感じている人もいるのではないでしょうか。私もその一人でした。

 伏見さんが挑んでいるように、社会課題が視覚的に理解でき、簡単に寄付先を選ぶことのできるインフラが広がったなら、寄付へのハードルは下がるのではないでしょうか。私は伏見さんの話を伺い、その近い未来に期待しました。

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