私たちの校則 私たちの手で 「どうせ変わらない」を変えていく古野香織さん:朝日新聞DIALOG
2022/05/18

私たちの校則 私たちの手で 「どうせ変わらない」を変えていく
古野香織さん

By 徳田美妃(DIALOG学生部)

 「ブラック校則」の話題を多く目にします。

 「どうせ変わらない」「自分の意見を言ったって……」

 この言葉を心に浮かべ、世の中を観ずること、ありませんか?

 「このように思ってしまう現状を何とか変えていきたい」——。

 校則を生徒たちの手に取り戻す。そして、将来の政治参加につなげる。その目的に向けて果敢に取り組む認定NPO法人カタリバの古野香織さん(26)。いまの思いを聞きました。

イノベーターセッション DIALOG学生部は、若い起業家やアーティスト、社会活動家など、明日を切りひらこうとする人たちを定期的に招いています。活動への思いや生き方、めざす世界を共有して、その果実をDIALOGウェブサイトで発信します。

みんなのルールメイキングのホームページから

みんなのルールメイキング 全国で

 まず「みんなのルールメイキング」を紹介します。

 これは学校の校則やルールを対話しながら見直して、みんなが主体的に学校に関われるようにする取り組み。カタリバが2019年に始めました。

【カタリバ】ルールメイキングとは

 カタリバによると、2022年3月時点で「みんなのルールメイキング」の実践校は全国42校。生徒会や有志が主体となって活動しているケースが多いそうです。

 カタリバの取り組みとは直接関係はありませんが、「髪の色は黒」「下着は白」「ツーブロックの髪形禁止」など、理由がよく分からない校則は至るところにあるようです。児童や生徒の権利を侵害している、という指摘もあります。

 大学院を修了後、カタリバに飛び込んだ古野さん。現場からのリポートをいただきました。

先生と生徒 互いを尊重

——「みんなのルールメイキング」では学校側へどのようなサポートをしていますか。

 先生側へのサポートとして、教材や先生同士の交流の機会などを提供しています。対話的な校則見直しを実践するための動画教材や、活動で使用するワークシート。弁護士など外部講師の派遣もしていて「そもそもルールってどのような性質を持っているのだろう?」「人権って何だろう?」などを学んでもらっています。また、先生や生徒のフォーラムや交流会イベントも行い、横のつながりを大切に、新しいものを取り入れながら進めています。

——学校との関わり方を教えてください。

 Zoomでの打ち合わせが中心です。そもそも先生と生徒が「教える・教わる関係性」のため、生徒が「先生の言うことは正しい」と感じてしまい、自分の意見を言いづらい環境になりがちです。私たちは、先生と生徒の間に入り、お互いの意見を尊重し合えるような場づくりをしています。そうすることによって、生徒が先生の悩みに気づいたり、積極的に意見を言えるようになったりしました。

 実際の例だと、ツーブロックなどの髪形が就職に不利に働くのかを調査するため、企業や地域の方へインタビューしたり、全校生徒へアンケートをしたりする活動のサポートを行いました。活動の最後に、学校への提案書をまとめる上で、大人の目線で納得するものか、生徒にアドバイスもしています。

ジェンダーレス 若い目線から

——どのような校則が問題になったり、取り上げられたりしていますか。

 制服におけるスラックスの導入や、男女別の表記をなくしていくなどのジェンダーレスの取り組みが挙げられます。男女で分けられている校則について、若い世代の目線から今の時代に合っているのか検討して、提案しています。

 このような話題は年齢層によって意見が異なります。中高生と上の世代の感覚が異なり、プロセスが難航することがあります。髪形のルールは、面接や就職への影響の観点で作られていることが多いですが、3年間365日、常に面接できる格好でいるべきかなどが論点になっています。

対話の力 課題を克服

——学校だけではなく地域住民、保護者、企業など多様な関係者が関わっていて、学校の変革の難しさを感じました。

 学校は、社会から求められている役割や機能がたくさんあります。それにそぐわないものは認められず、逆に社会のまなざしがあるからこそ学校が変わっていくこともあります。

 岩手県の県立高校の事例では、髪形が議論になり、生徒が企業を訪問調査した際、「全く考慮しませんよ」という回答を多くもらい、校則を変える提案につながりました。先生も、生徒が実際に集めてきた外の声に納得していました。社会のリアルと学校のリアルをうまくすり合わせていくことが学校を変えていくきっかけになる、と感じました。

 また「丁寧に対話していくこと」がとても大切です。どれだけ丁寧にみんなで対話できたかが、結果にも大きく影響することが分かりました。先生と生徒の対話会を何日間もかけて行い、互いに悩みを共有して理解し合うことができた結果、プロジェクトに強く反対していた先生が納得してくださることもありました。対話、まさにDIALOGがものすごく大切であり、課題を乗り越えるポイントになると考えています。

中央大学多摩キャンパスで選挙について説明する古野さん=2016年、東京都八王子市

厳しかった先生も変化

——先生や生徒の直接の声や反応は。

 生徒の変化はもちろん、先生の変化がとても大きいと感じています。

 私がコーディネーターとして関わった県立学校での、生徒指導の先生の変化が印象的です。その先生は、入学式前から厳しく指導するようなタイプだったといいます。でも、プロジェクトを通じて、生徒の声を引き出し、拾い上げて、どのような学校にしていきたいか一緒に話し合うように変わっていきました。「生徒に対する指導の仕方、コミュニケーションの取り方が大きく変わった」と話されていました。

進路に悩み 占い師に…

——ファーストキャリアとしてNPOを選択した経緯は。

 大学院2年生のときにファーストキャリアとして三つの選択肢を考えていました。一つ目は学校の先生です。二つ目は、博士課程への進学。修士論文を執筆する中で研究の面白さに触れて、研究を続けてみたいという思いもありました。三つ目は、学校と関われる民間の仕事に就くことでした。この三つの選択肢に悩みすぎて、占師に聞いてみたこともあったくらいでした。

 進路に悩んでいたころは、ちょうど新型コロナウイルスが広がり始め、学校が一斉休校になったときでした。学校の先生である両親がてんやわんやしている状況を見たり、学校現場の課題を知ったりする中で「ファーストキャリアとして学校の先生を選択しても、自分で変えていけることが少ないのでは?」と考えるようになりました。それで、学校現場に関われる民間の道を選択しました。

濃い1年間 苦労とやりがい

——これまでの活動で最もやりがいを感じたことや大変だったことを教えてください。

 いろいろな地域の高校に継続的に入り、学校のルールを見直す活動を支援してきました。大変なこともやりがいもたくさんあった濃い1年間でした。

 そもそも、学校現場は既存のものを変えることが想像以上に大変です。先生たちは忙しすぎて対話の時間が取れない。生徒たちも、自分たちで何かを変えた経験がなく、無力感を覚えている現状があります。

 ただ、外部から関わったからこそ、見えてきたこともあります。例えば、先生とは違った視点から、生徒の成長を感じることができました。「意見を言おう」と促しても、1分以上悩んでしまう生徒や、隣の人とこそこそ話をしてしまう生徒が、「学校をこういうふうに変えていきたい」「友だちにこういうふうに感じてほしい」などと自分の言葉で堂々と言えるようになったのを見て、学校の可能性、潜在的な力に気づきました。

DIALOGの活動でフランスと日本の哲学者との対話に参加=2020年、東京都内

意見を促す 幼いころから

——学生時代から主権者教育にも関わっています。若い世代の政治参加を阻む原因を、どのように考えていますか。

 スウェーデンの選挙を見に行ったことが、原体験として挙げられます。スウェーデンでは、みんなが選挙に関心を持ち、高い投票率につながっています。

 日本とスウェーデンを比較したときに「自分の意見が大事である」「自分の意見を言葉にすることに価値がある」と考えている人の割合が大きく異なると感じました。スウェーデンでは、ルールメイキングプロジェクトのような活動を小さいころから大事にしていると聞きました。幼稚園では「あなたは何で遊びたいのか?」「何を食べたいのか?」と聞いていたり、小学生には「どんなものを食べたいか?」から給食を話し合って考える活動があったり……。制度として取り入れられていました。

 日本では、大人が一方的に与えたことにきちんと従える人が100点を取るような現状があります。今は、中高生に対してルールメイキングの活動を行っていますが、本当は幼少期のころから自分の意見で変えていく原体験を作ってあげたい。そのような体験が積み重なって政治参加、市民参加へつながっていくと考えています。

民主主義の担い手 学校が育てる
徳田美妃(DIALOG学生部)

 「学校現場では、対話する時間を多くは取れない」

 古野さんのお話の中でも印象に残った部分であり、私も課題と感じていた部分と重なりハッと気づかされました。

 私は以前、NPOで「校則の見直しとブラック校則変革の可能性」をテーマにイベントを企画したことがありました。その際、先生とお話しした中で「校則を変えたいときに何をどうすればよいか分からない」「変えるプロセスが難しい」など意見が飛び交っていました。

 校則の中には、見直しが必要なものだけでなく、大切な役割を果たしているものもあります。それらを見極めていくのに大切なのは、異なる立場を交えながら対話していくこと。まさにDIALOGの大切さを古野さんのメッセージから感じました。

 学校にNPOや企業など外部の視点が入ることによって、古野さんが話されていた「学校の可能性」も広がっていくでしょう。教育の領域を学校任せにするのではなく、一人ひとりがさまざまな形で教育に関わり、民主主義の担い手として社会に関わっていけたら——。私もその当事者の一人として社会や教育に関わり続けていきたいです。


古野香織(ふるの・かおり)

 1995年生まれ、東京都出身。中央大学法学部在学中に「18歳選挙権」が実現したことがきっかけで、同世代の若者の投票率向上や政治参加を推進するための活動をスタート。東京学芸大学大学院教育学研究科では「外部人材と連携した主権者教育」について研究・実践を行う。学校の中の「民主主義」と「対話」の実現こそが主権者育成のための第一歩になるのではないかという思いから、2021年4月、新卒で認定NPO法人カタリバに入職。みんなのルールメイキング事務局を担当。

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