家族の素敵さ 料理の楽しさ 伝えるパッション新居日南恵さん:朝日新聞DIALOG

家族の素敵さ 料理の楽しさ 伝えるパッション
新居日南恵さん

By 中司有沙(DIALOG学生部)

 みなさんは日々どれくらい料理をしますか? 料理は生きていく上で、欠かせないことだろうと思います。

 「世界中の料理を取り巻く状況を理解し、毎日の料理を楽しむことにつなげたい」と話すのはクックパッドの新居日南恵さん(27)。朝日新聞DIALOG の立ち上げにも関わった彼女に、今までの取り組みを聞きました。

イノベーターセッション DIALOG学生部は、若い起業家やアーティスト、社会活動家など、明日を切りひらこうとする人たちを定期的に招いています。活動への思いや生き方、めざす世界を共有して、その果実をDIALOGウェブサイトで発信します。

料理のデータ 世界で調査

——World Cooking Indexについてお伺いしたいです。具体的にどのようなことを調査されているのですか。

 料理の意味や価値について個人の健康、社会の健康、地球の健康の三つの観点から考えることを⽬的として研究者と連携し研究するために、根幹となるようなデータを取ろうということで世界中の料理頻度のデータを集めています。具体的には1週間の昼食と夕食について何回料理したかというデータを約140カ国で取っていて、その中でも例えば誰が調理したか、何回家庭で調理されたものを食べたかといったふうに詳しく聞きます。そのデータを毎年リポートとして出したり、データを使って研究者に研究してもらったりしています。2018年の調査からリポートを出していて、今年で4年⽬になります。

日本の男性 料理頻度は…

——コロナ禍を経て何か顕著な変化や傾向などはありましたか。

 最近、ウェブサイトにさまざまなデータを公開しています。コロナ禍になって、みんなステイホームだったので、料理頻度は増えるかなと思ったのですが、結局そんなに上昇傾向はなかったことがわかっています。2020年の中国で特にこの傾向が顕著だったので、そのせいでこの結果になっているともいえますが、日本国内での料理頻度の調査を見ても、やはりステイホームによって⼀時的に料理するようになったものが習慣として定着するわけではありません。なので、料理頻度はコロナ禍の前後でほとんど変わらなかったという認識で間違いないです。

 わかりやすいのはジェンダーの話ですね。男性と女性で比べると、どちらも家庭で料理を食べる頻度はあまり変わらないけれども、作る頻度は圧倒的に女性が多いことが判明しています。例えば、日本で見ると週あたりの料理頻度は女性9.3回、男性3.3回。世界では女性9.1回、男性4.5回なので、男性の料理頻度が日本は低いことがわかっています。

——他に日本の特徴はありますか。

 やはり日本はジェンダーに関するデータが⼀番面白いと思います。ジェンダーギャップ指数で順位が低い国は、男女の料理頻度のギャップも大きい傾向があります。男性の労働時間が長い日本や韓国は家事・育児に使える時間が短いのですが、スペインやカナダなどは労働時間と家事をする時間があまり変わらず、男女の料理頻度の差が小さいことが見えてきています。

チームのメンバーと

「週末、料理して集まろう」

——各国で特徴や文化の違いがあることがわかり、それが生かされている例はありますか。

 この調査は、サービスやプロダクトにフィードバックすることが主目的ではありません。クックパッドとしてはそういう料理に関する論文が増えていって、世の中で「料理ってこんなに価値があるんだね」という新しいインサイトが増えていくことが⼀つのゴールだと思います。その上で、行動変容につながるような取り組みができるといいです。

——「行動変容」という言葉を出されました。「料理を通してこうなってほしい」ということはありますか。

 毎日の料理頻度が上がり、毎日の料理を楽しむことが基本的なゴールになります。例えば「環境のために、外食ではなく家で料理しようかな」「人とのつながりになるから週末、料理してみんなで集まろう」という人が増えて、料理が「やらなければいけないもの」から「自分なりの意味を持ってできるもの」になるのが理想と考えています。

甘いトマト 絶品チーズ

——家族を持ったときに、料理に関してできること、意識すべきことはありますか。

 どうしたら日常の料理をなるべく負荷の少ないやり方でできるか?と考えていくと面白いと思っています。また、私が楽しいと思っているのが「クックパッドマート」(首都圏の一部からサービス開始)。注文すると新鮮な地方の食材が届くシステムで、例えば沖縄のジーマーミー豆腐や、めちゃめちゃ甘いトマト、めちゃめちゃおいしいチーズを買って、みんなで食べて週末を楽しむというやり方もあると思います。

——クックパッドに入社したきっかけは。

 大学1年生のときに立ち上げたmanma(現在はNPO法人)で活動していた際に知り合った、現在のクックパッドの上司の小竹貴子さんに「来ない?」と誘われたのがきっかけでした。World Cooking Indexという調査事業の前任者が退社されたタイミングでお話をいただきました。もともと国際的なシンクタンクといったものに興味があったので、在籍していたコンサルティング会社からクックパッドに移ることを決めました。

家族留学 学生時代に立ち上げた

——manmaは家族留学に取り組んでいます。立ち上げたきっかけは何ですか。

 東日本大震災が起きて、NPOの活動が活発になっている時期でした。それもあって、高校時代からNPOの活動にすごく興味を持っていました。また大学に入るときには、家庭環境が人格形成に大きな影響を与えるのだから、その家庭環境に対して何かしたい、人が自信を持って育っていけるような社会にしたいと考えていました。

 そう思ったときに、将来結婚して子どもを持ちたいと思っている人たちに対して、いろいろな結婚・子育てのあり方があることを見せていくことが納得のいく家庭・家族形成につながるんじゃないかと思い、そのようなことを行う組織を立ち上げました。

——家族留学とは、具体的に何をするのですか。

 ホストファミリーみたいな感じで全国の子育て家庭が登録しています。大学生や若手社会人で結婚や子育て、家庭と仕事との両立に不安があったり、結婚相手をどうやって決めるんだろう?と思ったりする人が、そのホストファミリーのところに行って多様な結婚や家族のカタチを見ることができる体験プログラムのようなものです。シングル(ひとり親)の家族や、家族の大黒柱が男性のところもあれば女性のところもあって、いろいろな家族のカタチを見る中で「この家族いいな」みたいなことを感じてもらうのが目的です。

——実際に参加した方から、どのような声がありましたか。

 例えば「『保育園に入れないから、働きながら子育てするのは難しい』などのネガティブな情報がすごく多いけれど、自治体のサービスだったり民間のシッターサービスだったりを利用して両立も可能なんだと知って前向きになりました」といった声がありました。

 すごく前向きな受け入れ家庭が多いので、子どもを育てながら趣味や夢を諦めなかったり、勉強し直して仕事を変えたり、移住して住む場所を変えたり……いろいろチャレンジしている人を見て、そういうことも可能だと気づくことができたというような話をされる方が多いかなと思います。

失敗してもいい とりあえず挑戦

——起業に興味がある学生もいます。起業の動機や原動力についてお聞きしたいです。

 私の場合は最初から法人格にしていたわけではなく、いわゆるマイプロジェクト的な感じで始めたんですね。起業している友人がいる中で、私はインターンや組織のお手伝いをしていたんですけど、パッション(情熱)に沿ったチャレンジをしていないことに罪悪感があり、「社会はこうあるべきだ」と言うだけで何も行動していないのはカッコ悪いと思ったことがありました。そのとき「大学生なんだから、チャレンジしてうまくいかなかったら、就職するなり他の選択肢を探すなりすればいいじゃない」と言われて、「うじうじしているよりは、やってみよう」と思ったのが動機です。

——起業に対する抵抗などはなかったのですか。

 なかったです。高校生のときに友人に誘われて学生団体の立ち上げを⼀緒にしていたことがあって、組織が立ち上がっていくのを見たことがあったからです。でも、自分が何をしたいかって大々的にFacebookに書くのは恥ずかしいし、私がやろうとしたのはすごくパーソナルなテーマだったので、人によっては「そんなに結婚したいの?」みたいな感じで思う人もいますよね。

 自分の課題意識を表明したとき人にどう思われるかな?みたいなことへの抵抗はもちろんあったと思いますが、「失敗してもいいや! とりあえず1年やってみよう!」という気持ちでした。

——学生に伝えたいことはありますか。

 パッションを持てる仕事や、社会にいいインパクトをもたらせる仕事ができるっていうのはすごく素敵なことです。最初から起業しなくても、自分の興味のあるところでインターンしてみたり、人に会ってみたりすれば、課題意識が深まります。それが誰もやってない、他の組織ではできないってなったら立ち上げるのがいいと思います。時間があって、失敗しても許される大学生のときに、自分の関心を確かめにいってほしいです。

自炊を楽しむ きっかけ見つけた
中司有沙(DIALOG学生部)

 私は大学生から一人暮らしを始め、それと同時に自炊をしなければいけなくなったのですが、最初のうちはやっていたものの、2カ月もすると市販のもので済ます生活になっていました。食べることを楽しむことはできても、料理はどちらかというと「しなければならないもの」。義務のようになっていたと思います。

 しかし今回のイノベーターセッションを通じ、できる範囲で何か意味を持って楽しんで料理をすることが大切だと改めて考えさせられました。全く料理をしない人、私のように料理をしなければいけないが抵抗感がある人……さまざまだと思いますが、何か楽しく料理ができるきっかけを見つけられる機会が増えてほしいと思いました。


新居 日南恵(におり・ひなえ)

 クックパッド株式会社コーポレートブランディング部で世界規模の料理頻度調査を行う「World Cooking Index」を担当。特定非営利活動法人manma理事。2014年、大学在学中にmanmaを設立し、学生が子育て家庭の日常生活に同行し、生き方のロールモデルに出合う体験プログラム「家族留学」を開始。コンサルティング会社勤務を経て現職。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了。

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