こどもかいぎ ホンネで話して、やさしくなれる豪田トモ監督に聞く 大人が学べる大切なこと:朝日新聞DIALOG
2022/06/21

こどもかいぎ ホンネで話して、やさしくなれる
豪田トモ監督に聞く 大人が学べる大切なこと

By 遠藤文香、寺澤愛美(DIALOG学生部)

 会議といえば、堅苦しくて、つまらない?

 そんなことありません! とっても楽しくて、学びがあって、やさしくなれる会議があるんです。それは「こどもかいぎ」。

 子どもたちが真剣に議論する姿に、1年間密着したドキュメンタリー映画。7月22日(金)から全国で公開されます。

 監督の豪田トモさん(49)を囲むグループインタビューにDIALOG学生部メンバーが参加。子どもとの交流から、社会への問題提起まで、根掘り葉掘り聞いてきました。

 私たち大人は、どのくらい子どもたちに向き合えているでしょうか?
 映画『こどもかいぎ』は、子どもたちが「かいぎ」をする保育園を1年間に渡って撮影したドキュメンタリー。子どもたちの「かいぎ」には、明確な答えも結論もありませんが、全力で話し合い、遊び、泣き、笑い、成長する姿があります。

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「僕自身、対話が苦手」

——「対話が大事」と思った場面など、この映画を撮った動機は。

 僕自身、対話が苦手なんですよ。「なぜ、この人は僕のことをよく思ってくれないんだろう?」と落ち込む体験のオンパレード。いい感じの「言葉のキャッチボール」が小さいころからできず、人に誤解されたり、友だちづくりに苦労したりしてきました。

 大人になると、対話の大切さを頭では理解するようになります。しかし、実際にどうコミュニケーションを取ればいいのかは、さっぱりわかりません。この映画を作るまでは、小学6年生の娘とうまく対話ができませんでした。娘が帰ってきて「学校どうだった?」と聞いても、答えは「普通」「まあまあ」「面白かった」(以上!)みたいな感じで会話が進まない。「妻や娘のような、この世で一番対話したい人とうまく対話できない自分って何なんだろう?」と思っていました。

 コミュニケーションや対話の不足から生まれている社会問題ってすごくあると思います。自分の気持ちを伝える。気持ちを言葉にする。助けを求めてSOSを発信する。これがうまくできていないことが、不登校とか、引きこもりとか、いじめとかにつながっているかもしれない。対話がうまくできるようになれば、僕の悩みを解決できるだけでなく、社会問題にも一石を投じられるのかな、とも思いました。

映画留学 カナダにヒント

——こどもかいぎは、海外の取り組みをモデルにしたのですか。

 20年近く前、映画を学びにカナダのバンクーバーに行きました。カナダには「サークルタイム」という、子どもたちが話し合う時間が当たり前のように設けられていました。視察に行ったスウェーデンでも同じように「ライフスキル」という取り組みがあります。それを見て「日本人がコミュニケーション下手と言われるのは、民族性ではなくて、単に場数の問題なのではないか?」と思うようになりました。「小さいころから対話をする場があれば、『対話ができない』と悩むことも減るのではないか?」と思うようになりました。

「こどもかいぎ」で話したテーマ
・どうして生まれてきたの?
・どうして雨ってふるのかな?
・死んじゃうって?
・どうしてケンカするの?
・家族ってどんな人たち?

安心感 すごいパワー

——制作の前後で、子どもへの見方は変わりましたか。

 「子どもって、こんなに考えてるんだ! 」って、子どもに対する見方は大きく変わりました。きちんと場を与えられれば、子どもは大人が思っている以上に表現できるのです。「子どもは可能性の塊」と、よく言われます。この言葉の通りだと、心から感じています。

——うまく発言できる人が、うまいコミュニケーター(対話者)とは限らない。子どもたちを現場で見て感じたことは。

 コミュニケーション能力が高い人や、声が大きい人が優位になりがちな今の世の中。僕は、そんな社会は嫌だなと感じています。

 「こどもかいぎ」は、聞く力、表現力、思考力、理解力などが芽生えるきっかけになります。でも、単にスキルを伸ばす場所ではなく、「子どもたちの居場所」になります。

 映画には、自分の思いを言葉にすることが苦手な子も出てきます。その子も、回数を重ねるうちに、少しずつ自分の考えや夢を口にするようになりました。「発言を受け止めてもらえる安心感」は、すごいパワーを持っていると感じます。

豪田トモ(ごうだ・とも) 1973年、東京都出身。中央大学法学部卒。6年間のサラリーマン生活の後、29歳でカナダ・バンクーバーへ渡り4年間、映画制作を学ぶ。帰国後はフリーランスの映像クリエイターとして、テレビ向けドキュメンタリーやプロモーション映像などを制作。「うまれる」(2010年)、「ずっと、いっしょ。」(2014年)、「ママをやめてもいいですか!?」(2020年)など、命と家族をテーマとした映画作品は累計100万人以上を動員した。

カメラに触っちゃダメ! 謎の設定
 撮影中、機材に触ろうとする子どもたち。豪田さんは「カメラに触ったら爆発する!」という設定を編み出しました。「それでも触っちゃったりすると、子どもたちから『爆発しないよ』とツッコミが入る。そうしたら『今日はね、3回触ったら爆発なんだよね』とか臨機応変に」。子どもたちがカメラ目線にならないように「カメラを見ないゲーム」といった工夫もしたそうです。

鬼ごっこ・肩車…まずは信頼関係

——映画の撮影中、豪田さんは子どもたちにとってどんな存在だったと思いますか。

 子どもと信頼関係を結ぶのって、大人と信頼関係を結ぶのとはちょっと違うんです。子どもにとっては一緒に遊んでくれる人が神様(笑)。僕は撮影を始める前に、園に行って鬼ごっこをしたり肩車をしたりしました。撮影が始まってからも遊んでから帰ることがあったんですけど、自分の前に子どもたちが行列をつくったりして……。ただ、カメラを回していても容赦なく近づいてくるときもあって、撮影とのバランスが難しかったですね。

——「こどもかいぎ」は子どもたちの自発性を尊重していたように思いました。現代社会ではブラック校則などで押さえつけられてしまう子どもたちもいます。

 ルールの押しつけは子どもが疑問を持つ機会を奪ってしまいます。

 大人のほうが経験や知識が豊富な部分もある。だけど、大人が一方的に教えるばかりでは、子どもが自分で考えなくなってしまう。やっぱりバランスを考えるのがいいですよね。

 あと、人はそれぞれタイプが違うので、いろんな学び方を提供することも必要だと思います。オーディオ(聞く情報)が効果的な人もいれば、ビジュアル(見る情報)がいい人もいて、体を動かすのがいい人もいる。いろんなやり方をしていくのが理想なのかもしれないですね。

聞くのが大事 自然と気づく

——映画に登場する先生の、子どもの意見を聴く姿勢が印象的でした。人の意見を受け止める力についてどうお考えですか。

 「こどもかいぎ」は発表する場であるだけではなく、人の話を聞く場でもあります。話すよりも、聞く時間のほうが長い。だから自然と聞く力がついてくる。「聞くことが大事」と「教える」のではなく、子どもに「気づいてもらう」ことで聞く力がついてくると思います。

 例えば、小学校、中学校、高校で週1回、「こどもかいぎ」を開く。12年間で300~400回の場数を踏むことになる。野球で300回打席に立てば、打てなかった子も打てるようになってくると思うし、リフティングを300回やったらサッカーがうまくなるかもしれない。だから、大人がそういった場をつくっていくのは大切だと思います。

子どものために「おとなかいぎ」

——この映画を見た大人に、子どもに対する姿勢をどう考えてほしいですか。

 子どもの話を聞いてほしいですね。「どう思う?」って。でも、そもそも社会の中での対話が少ないと思います。対話しにくい空気感がある。

 自分の気持ちを表現できる場づくりが重要ですよね。子どもが主体的になれる環境、社会づくりを大人たちがやっていかなきゃいけない。大人が意図的に「おとなかいぎ」の場を設けることが大事なのかもしれません。

ケンカをする 手をつなぐ
寺澤愛美(DIALOG学生部)

 「最近、誰かとケンカしてないな」。映画を見終わってすぐ、こう思いました。

 遊具を他の子から借りたい子や、一人で遊びたい気分の子。うまく考えが伝えられず、泣いたり、ときには手が出たりと、映画ではたくさんのケンカのシーンがありました。どの子も、相手に不満に思っている理由を伝えると、ケンカをしていたことがうそのように、笑顔になって手をつなぎます。今の私にはできない、と素直に思います。

 大人になる過程で「わきまえる」ことを覚えていきます。いつしか「わきまえること」 と「空気を読むこと」「否定されにくい発言をすること」を混同し、気づかぬうちに、自分の本音をそのまま伝えることに臆病になっていくのかもしれません。

 なぜ、子どもは本音を正直に相手に伝えられるのか。それは、自分の意見を否定されることはあっても、自分の考えを伝えようとする姿勢は、誰にも否定されないと、知っているからだと思います。

 ケンカするほど仲が良い、とはあながち間違っていないかもしれません。私も、自分と異なる意見とぶつかり合う勇気を持とうと思います。きっとそれが、お互いを理解し合う糸口になるのだと思います。

異なる考え 受け止める
遠藤文香(DIALOG学生部)

 映画に登場する子どもたちを見て、「うらやましい」と感じました。

 答えのないテーマに対して、自由な発言をしている子どもたちは本当に楽しそうで生き生きとしていました。その姿を見て、対話の楽しさを忘れていたことに気づかされました。

 私も幼いころに「こどもかいぎ」のような対話の場があったら、とつい考えてしまいます。「正解」や「常識」にとらわれない発言ができる場は、年を重ねるにつれて少なくなるのかもしれません。

 「社会全体に対話が足りない」と豪田監督はおっしゃっていました。対話は意見を発表するだけでなく、他の子どもたちの意見を受け止めることができる場でもあります。

 近年SNSが身近になり、発信する機会は増えました。しかし、自分と異なる考え方や情報は目に入りにくくなっています。また、そのような発信に対し攻撃的な意見をぶつける人もいます。意見を言って受け止める「対話」は、子どもだけじゃなくて大人にこそ必要なものになっているのではないでしょうか。

 こどもかいぎ、おとなかいぎ、かぞくかいぎなどの場が増えて、社会に対話の場が広がる未来に私も貢献していきたいです。

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