自然な自分へ“おかえり”ショーツ 愛で世界を動かす江連千佳さん:朝日新聞DIALOG

自然な自分へ“おかえり”ショーツ 愛で世界を動かす
江連千佳さん

By 隈部萌栞(DIALOG学生部)

 脱毛は、しているのが当たり前?

 電車でも、YouTubeでも、学校の何げない会話でも、ふとしたときに飛び込んでくる「脱毛」という単語。でも自然に生えてくるものを人工的になくすことって、「常識」なんでしょうか。

 私たちの体の自然な状態を、社会に合わせて変えなければならない風潮に違和感を覚えて、「ノーパンでいられる部屋着」“おかえり”ショーツを生み出した江連千佳さん。

 日常に潜む問題に気づき、解決できるように愛をもって行動する江連さんに、“おかえり”ショーツのこと、江連さん自身のことを尋ねました。

■イノベーターセッション DIALOG学生部は、若い起業家やアーティスト、社会活動家など、明日を切りひらこうとする人たちを定期的に招いています。活動への思いや生き方、めざす世界を共有して、その果実をDIALOGウェブサイトで発信します。

自分の体を社会に合わせる?

——どんな活動をされていますか。

 2021年5月に株式会社Essayを立ち上げ「I _ for ME」というブランドで“おかえり”ショーツというプロダクトを販売しています。“おかえり”ショーツは簡単に言うと、ノーパンでいられる部屋着ですね。この会社では、“おかえり”ショーツと、ショーツの汚れを防ぐショーツライナーのみを販売しています。プロダクト以外では、2022年3月から「夕暮れのえてがみ」というブランドメディアとなるポッドキャストの配信を始めました。

——“おかえり”ショーツはどんな流れで生まれましたか。

 実は、暇なときに見ていたYouTubeがきっかけで“おかえり”ショーツは生まれたんですよ。

 漫画広告がはやっていた時期で「ショーツから毛がはみ出て彼氏に嫌われた」という脱毛広告があったんです。それを見たときに、私たちの体が自然に作り出しているものを、人間や社会が生み出したものに合わせなくちゃいけない理由がわからなくて……。「既製品のショーツの形で悩む人がいるなら、人間が作るものが大きくなればいいんじゃないか」「ショーツがあの形じゃなくなったら、何か面白いことが起きないかな」と思ったところから、“おかえり”ショーツは始まりました。

ああ、これはフェムテックなんだ

——フェムテックを意識されていたわけではなかったんですね。

 そうですね。あと、よく「女子大生起業家」って言っていただくんですけど、これも別に起業家になりたくてなったわけではないです。たまたま自分が思いついて開発したいと思ったものがフェムテックに当てはまって、プロダクト化に際して必要だから起業したら「女子大生起業家」っていう枠に当てはまったって感じですね。フェムテックに関しては、メディアの方から言われて初めて「ああ、これはフェムテックなんだ」みたいな感じでした(笑)。

 私自身は「ジェンダーなどに関する社会構造をどうやったら包括的に変えていけるか?」をずっと考えていて、それに関連するような政治の活動や大学の授業などにも参加しています。私としては、起業も社会構造を包括的に変えるための手法の一つとして捉えている感じですね。自分の体をコントロールする権利を社会的に制限されてしまっている状態を、“おかえり”ショーツで少しでも変えられたらいいなって思ってます。

悩み半数 プロダクト化を決意

——“おかえり”ショーツを発売するまでの流れを教えてください。

 ショーツの形に興味を持ってから、まずはニーズを調べるためにヒアリングやアンケートをしました。その結果、約330人のうちの50%くらいがショーツの形に起因する問題で悩んでいることがわかったんです。そんなに多くの人が悩んでいるならプロダクト化しようと決意しました。

 しかし、すぐ壁にぶつかってしまいました。というのも、私にはショーツのアイデアと文章力はありましたが、デザイン力や色彩のセンスがなかったんですよね。そこで、私の苦手な部分を得意とするデザイナーの子と一緒にプロダクト作りを始めました。

 “おかえり”ショーツの名前とプロダクトの形や色味まではすぐに決まったのですが、そこでまた新たな壁にぶつかりました。私たちは服飾に詳しくない上に学生ということもあって、工場やパタンナー(型紙を起こす専門職)さんに取り合ってもらえず、簡単にはアイデアを形にできなかったんです。そこで、自分で手作りしたサンプルとプレゼン資料を持って100以上の工場に掛け合いました。このときはまだ休学していなかったので、大変でしたね。

 たくさんアポイントを取ったかいもあって、私たちのブランドコンセプトに共感してくださった秋田の工場で生産していただけることになりました。その工場の方は、大量生産・大量消費に違和感を覚えて「本当に社会の役に立つ服作りってなんだろう?」と考え始めていたそうなんです。「ぜひ作りたい」とおっしゃっていただけました。

 資金調達はクラウドファンディングでした。そのお金で生産して、みなさんのもとにお届けすることができました。

愛され力 仲間をつなぐ

——誰と一緒にやっているのですか。

 会社の経営は私だけで行っていますが、ホームページの作成やプロダクトのデザインなどは外注していて、それを請け負ってくれるメンバーがいます。メンバーはSNSなどでの私の発信を見て、声をかけてくれた人がほとんどですね。

——メンバーの方に共通点はありますか。

 難しいですね(笑)。うーん……。多分、共通点は「愛される力」があるか、みたいなところかもしれないです。ビジネスをやっていく上で、自分よりもスキルがあるかどうかを重視する経営者も多いと思うんですけど、私的にはカルチャーフィットをすごく優先しています。私たちのブランド名が「I _ for ME」であることからもわかると思うんですけど、「自分のために生きる」という自己を持っている人が多いですね。

留学先 大切な言葉に出会う

——他に大切にしていることはありますか。

 高校時代、ニュージーランドに留学していたときに知ったマオリ語「Aroha mai. Aroha atu.(愛をもらったら、愛を返しましょう)」はずっと私のなかで大切にしている言葉です。「愛は等価交換じゃなく、人から与えてもらった愛を別の人に与えて、それが循環してまた自分に戻ってくる」という考えがすごく素敵で。高校生のころから、機種を変えてもスマホの待ち受け画面にずっとこの言葉が書かれた画像を使っているくらい、心の中に常にある言葉ですね。

 実際にメンバーを選ぶ際の基準としても、この言葉を使っています。愛を与えられることも大事ですが、そのためにはまず自分を愛せる力や愛を受け取る力が必要だと思っています。メンバーを選ぶときには、人からの愛を素直に受け取れるかどうかをすごく見ていますよ。

——“おかえり”ショーツ以外のプロダクトについて教えてください。

 「夕暮れのえてがみ」というポッドキャストを配信しています。私たちのコンセプトは「日常の選択は人生の選択につながっている」です。「ユーザーさんの日常の選択だけではなく、人生の選択に向き合うブランドでありたい」というメッセージを届けたいと思い、人生のロールモデルとなるような女性のお話をお届けしています。

 社会的に定義されているものに生きづらさを抱えている人たちにとって、生き方の選択肢を増やすきっかけになれたらうれしいですね。

データドリブン 女性の感覚で

——今後やってみたいことは。

 “おかえり”ショーツで言えば、障がいを持っている方でも使えるようなユニバーサルデザインのショーツを作りたいですね。

 身近なものにもバイアスがかかっている可能性があることに、少しでも多くの人に気づいていただけるようなことをしていきたいです。ユニバーサルデザインのショーツに関しても、インターセクショナリティー(性別、人種、階級など複数の要因が組み合わさって起こる差別を理解するための概念)について考えてほしいという気持ちもあります。

 こうした事業に取り組みながらも、私は勉強をしたい欲が強いので、専攻しているデータサイエンスの勉強に力を入れて、ゆくゆくは大学院にも進学したいと思ってます。

 現在、女性の問題が定量的に問題提起されていないのは、女性のデータサイエンティストが少ないことが大きな原因だと思うんですよね。データを取る際にも、女性の問題には女性の感覚じゃないとわからない部分が結構あると思うので。どんどんデータドリブンになっていく中で、女性の問題のみが取り残される可能性を減らすためにも勉強したいと思っています。

自分と向き合う 弱さを知る

——同世代へのメッセージをお願いします。

 私たちの世代は「社会問題を解決できる世代」などとよく言われますよね。「社会問題を解決する」って響きはすごくいいんですけど、社会の問題を解決する前に、まずは自分自身のことを大切にしてほしいなと思います。

 自分が満たされていないと周りの人を幸せにはできないし、周りの人を幸せにできないなら社会を幸せにはできません。自分は社会の一部だから、社会をよくするためにはまず自分をよくしなきゃいけないと思うんです。

 自分を疑ってみたり、信じてみたり。自分自身と向き合いながら社会とのかかわり方を模索して、自分の弱さを知ることが大切なんじゃないかな、と思います。自分が弱いことを知ることが社会を考えることにつながると思うので。社会のことを考えるよりも、まずは自分の弱さを受け入れられるように、自分自身と向き合い続けることが大事なのかなと思います。

その行動力 嫉妬と憧れ
隈部萌栞(DIALOG学生部)

 社会問題を解決したい気持ちはあるものの、どこか他人事だった私にとって、江連さんとの出会いは正直、悔しいものでした。ただ考えるだけでなく行動することで、自ら社会に問題を提起する。その行動力に嫉妬し、同時に憧れました。

 愛をもって仲間と一緒に取り組む姿勢、潜在化している社会問題を自ら顕在化させて問題提起をしようとし続ける姿勢。多くの人が難しいと感じるだろうことに取り組めるのは、きっと江連さんがずっと自身に向き合い続け、弱さを受け入れ、社会に向き合おうとされてきたからだと感じました。

 自分自身に向き合い続け、興味を持ったことに真摯(しんし)に向き合うことの大切さを実感させてもらえたインタビューでした。


江連千佳(えづれ・ちか)

 2000年、東京生まれ。津田塾大学総合政策学部3年。大学1年時に学生団体「苗ぷろ。」を発起。2020年10月「“おかえり”ショーツ」を開発、クラウドファンディングでの資金調達に成功し、商品化。2021年2月エンパワメント・ブランド「I _ for ME」を立ち上げる。“おかえり”ショーツはメディアで話題に。株式会社Essayを設立し、代表取締役社長に就任。

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