ホテルでゆったり産後ケア その時間が人生を豊かにする龍崎翔子さん:朝日新聞DIALOG
2022/07/14

ホテルでゆったり産後ケア その時間が人生を豊かにする
龍崎翔子さん

By 神里晏朱(DIALOG学生部)

 出産後のお母さんが心身を癒やし、赤ちゃんとのふれあいを楽しむには、他者のサポートが必要です。夫が全面的にサポートする家庭もあれば、里帰り出産したり親に一時的に来てもらったりするケースもあるでしょう。

 その産後ケアが行われる場所は、今や家庭内にとどまらず、ホテルにも広がっているようです。

 学生時代にホテル経営を始め、この春から新たに滞在型の産後ケアサービスを提供している龍崎翔子さん(26)。龍崎さんの言葉から、いま必要とされていることについて考えました。

赤ちゃんと豊かな時間を

 夫婦のトラブルの元になるものを可能な限り排除して、アウトソースしてもらう。

 龍崎さんは、お母さんたちの心の叫びをSNSで目にすることが多くあったそうです。そして、自分が子どもを産むとしたら……と想像したとき、パートナーと実家の親しか頼る人がいないことに気がつきました。

 でも、いろいろな事情で実家を頼れない人や、実家が遠い人もいます。そうした人たちに頼れる場所を提供したいと、産後ケアリゾート「HOTEL CAFUNE」は誕生しました。

 一方、出産のタイミングで人生は大きく変わります。子どもを産むと女性は母という役割を担い、「彼氏と彼女」「夫と妻」から「父と母」の関係になります。

 「赤ちゃんという第三の存在が現れて、しかも24時間ケアが必要。夫婦が余裕を持って育児に慣れたり、話し合ったりする時間をつくれたらいい」と龍崎さんは語ります。

 産後ケアは、たった一時期の体験です。でも、よい記憶として一生涯にわたって刻まれるに違いありません。

アメリカ 日本 ホテル行脚

 ホテルに着いて客室のドアを開けたときに、「見たことあるな」「昨日もこんな感じだったな」みたいになったんですよね。

 幼いころ、家族でアメリカ横断の旅をしていた際、龍崎さんは滞在するホテルをいつも楽しみにしていたそうです。移動中の車内は、とても退屈だったからです。しかし、その土地らしさを楽しめるホテルには、なかなか出会えなかったといいます。

 ある日、龍崎さんはラスベガスでフラミンゴや古代エジプトがコンセプトとなっているホテルがあることを知り、そのエンターテインメント性に衝撃を受けたそうです。「ラスベガスのホテルと、普通のビジネスホテル。その中間みたいなものが、あってもいいんじゃないかと思った」

 アメリカから帰国した後も、ホテルへの興味と問題意識は尽きませんでした。父親の出張に同行し、日本各地のホテルに宿泊。しかし、どの土地に行ってもホテルにはあまり違いがなく、印象に残りませんでした。

 「駅から近いか、朝食が付いているか、大浴場があるかといった違いだけ。チェックアウトしたら、ホテルの名前も忘れちゃう。せっかく旅に来ているのに、自分がどこにいるかわからないし、どうなんだろう?と思いました」

 こうした経験から、10歳の龍崎さんは「将来はホテル経営の道に進もう」と心に決めたそうです。

学生時代 北海道のペンションから

 祖父母の代まで、みんな教育関係者。サラリーマン経験もなくて。

 大学時代にホテル経営に乗り出そうとした際、北海道の富良野が目にとまりました。冬のスキーシーズンだけでなく、夏でも観光客を集められるところが魅力でした。

 その富良野で、あるペンションを見つけました。オーナーは高齢で、体力の限界。後継者がいない状況だったそうです。「いきなり大都市で事業を始めるのは難しかったので、小さな街で実験的に事業を始めるような感覚でした。事業経験がないまま、ペンションを譲り受けました」

 龍崎さんが現役の大学生だった頃は、学生起業は多くなかったでしょう。それでも、龍崎さんは教育者の家系に生まれながら、起業家の道を選びました。

 「実家の空き部屋も、試しに貸し出しました。意外と借りてくれる人が多くて」。こうした小さな挑戦を重ね、ホテル経営への心理的なハードルが下がったそうです。

 何かに挑戦するのに若すぎることはなく、早くスタートを切れば、自分が目指すところにも早くたどり着けるのかもしれません。

日々の生活が積み重なって…

 ホテルは、人の人生をデザインしていくポテンシャルを持っている。

 ホテルは新しいライフスタイルを試せて、新しい生活を体験できる場所だ、と龍崎さんは語ります。一日の積み重ねが生活になり、生活の積み重ねが人生になる——。

 「家は、その人が完全に支配権を持っている空間ですが、ホテルはハーフハーフ。半分はパブリック、半分はプライベートの空間です。その方の生活を豊かにするものをキュレーションしたり、整えたりする余地があるのではないかと感じています」

 ホテルを起点に、たくさんの事業アイデアを広げている龍崎さん。ホテルから離れたイベントプロデューサーでもいいのでは?

 「数年前ぐらいまで、何でもやります! ホテルの会社じゃないです! みたいな感じでやっていたんですけど、結局、元に戻ってきて……。ホテルって衣食住、全部を包括できることに改めて気づきました。例えば、地元でつくるクラフトコーラのような提案をするときも、それをホテルで提供することができます。ホテルって、空母みたいな感じなんです」

 原体験に裏付けられた問題意識と、圧倒的な行動力。龍崎さんは「ホテルプロデューサー」の道を切り開き続けています。

しがらみ、さよなら 幸せ、ようこそ
神里晏朱(DIALOG学生部)

 これまでの日本社会では、家事や育児は家庭内、主に母親によって完結するものでした。しかし、最近は家事をアウトソーシングしたり、ベビーシッターを雇ったりする家庭も増えています。

 働く女性が増える中、家族が担ってきた役割は第三者によって代替されるようになっています。出産に伴うケアが家の外で行われるようになることも、さらに増えていくだろうと感じました。

 近隣諸国と比べて、いまだに日本では家庭内のことは家族が、多くの場合、母親が担うべきだという考えが残っているように思います。しかし、もしも家庭の外にアウトソーシングすることで、誰かの負担が減り、その時間を別のことにあてられるとしたら、また新たな幸せが増えるかもしれません。


龍崎翔子(りゅうざき・しょうこ)

 1996年生まれ。株式会社水星 CEO。ホテルプロデューサー。2015年に株式会社L&Gグローバルビジネス(現在の水星)を設立後、2016年に「HOTEL SHE, KYOTO」(京都市)、2017年に「HOTEL SHE, OSAKA」(大阪市)を開業。2020年にはホテル予約システムのための新会社CHILLNN、観光事業者や自治体のためプロデュース事業を本格始動。2021年に「香林居」(金沢市)開業。2022年5月に産後ケアリゾート「CAFUNE」(川崎市)をオープン。

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