和服の魂を継ぐ 兄弟が仕立てる端麗カジュアル〈伝統をつなぐ〉元山巧大さん・誠也さん:朝日新聞DIALOG

和服の魂を継ぐ 兄弟が仕立てる端麗カジュアル
〈伝統をつなぐ〉元山巧大さん・誠也さん

By 三嶋健太郎(DIALOG学生部)

 「着物がある日常」を目標に奮闘する兄弟、元山巧大さん(29)と誠也さん(27)。バーやサウナとのコラボ、洋服に合わせる着方など、斬新な仕掛けを生み出しています。そして作り手である和裁士の育成にも思いをはせます。

 過去には、「着物がある日常」への憧れと、和装離れが進む現実とのギャップに苦悩し、一時は着物業界から離れた二人。今の取り組みへと引き戻したのは、父親と家族への尊敬と、着物文化を残したい熱意でした。

伝統をつなぐ 日本の文化を形作る、工芸・美術・芸能といった分野のさまざまな伝統。グローバル化やデジタル化の波にのまれ、継承が危ぶまれるものもあります。次の時代を見据えて活動する担い手にインタビューし、技や思いを伝えます。

バー、サウナ…仕掛け次々

——現在取り組まれていることを教えてください。

誠也 着物とダイニングバーを掛け合わせたお店を、昨年6月からやっています。1階が飲食スペースで、2階に着物を並べてレンタルサービスなどを行っています。

巧大 着物に触れられる環境が身近に必要だと感じていて、お酒を飲みながら日本の伝統や着物を楽しく話せる場づくりをしました。そのほか、着物に合わせやすい洋服やアクセサリーをデザインしています。

——今も新しいことをしていますよね。

誠也 着物を絡めたサウナ事業を進めています。特徴は、外気浴するときに着るサウナポンチョを着物生地で作っていることです。「日本でサウナに入るならこのサウナポンチョだよね」と思われるような文化をつくりたいです。

——斬新な着物の活用方法は、業界では「ご法度」ではないですか。

誠也 特に反発は受けませんでした。職人さんたちは意外と柔軟だなって感じます。僕たち自身が和裁に携わっていて、祖父の代から和裁士の家系だったことが大きな要因だと思います。

養成学校が閉校 危機感

——着物に関わるようになったきっかけは何ですか。

誠也 祖父は九州で和裁士の養成学校を経営するなど、和裁業界を牽引(けんいん)していった人でした。父も兄も和裁士になり、僕も継ぐつもりでした。しかし、着物業界の将来は暗く、父の代で養成学校も閉校しました。僕は、家業は兄に任せて東京で美容師をしていました。しかし、和裁士になった兄が別職種に転職したことを聞いて、危機感を覚えました。「受け継ぐべき僕たちが手を引くと、和裁業界全体の衰退につながる」と。このとき、兄を説得して二人で和裁を受け継ぐと決心しました。

ワクワク最高 興味のオバケ

——着物と掛け合わせるものを決める基準はありますか。

誠也 「ワクワクするかどうか」です。僕たちが思いを持って本気で取り組むことを一番大事にしています。着物との相性は、状況によって大きく変わるので気にしません。着物との親和性が薄いことでも、「面白そうだから、まずはやってみる」という姿勢を大切にしています。お客さんから「君たちは興味のオバケだね」と言われます。

——お店の客層は。

誠也 8割は男性です。洋服やスーツの生地で着物を作っているので、オーダースーツ感覚で親しみやすいのかなと思います。また店頭に立っている我々が男性なので、着物を着る男性のイメージが描きやすいのかもしれません。

1着でもいい 普段着として

——「どう着物を残すか」を突き詰めると「日本って何?」という問いになります。

誠也 着物は日本人のアイデンティティーだと強く感じます。着物の定義も難しいです。和服の着方のルールも、洋服と差別化させるためにこの100年間でできました。僕たちは、作り手を一番重視しています。日本人の職人がデザインしたものを、新しい和服として広めたいと思っています。

——着物を日常化するには何着か必要ですよね。

巧大 1着だけでもいいと思います。月に1回でも着物を着れば、その人の日常になる。洋服でも、ハレの日にしか着ないものもありますよね。普段着の一つとして、着物という選択肢が増えればいいなと願っています。

繊細さ・優しさ 父を尊敬

——尊敬する人は。

誠也 父です。うちは職人の家系で、繊細な手仕事の美しさ、人への優しさを大事にしてきたと思います。大量生産ではなく、目の前の一つひとつを大切にする。そのことに、僕は人生で重きを置いています。

巧大 僕も、親でもあり師匠でもある父です。実は修業を始めるとき、「息子だから厳しくできない」と父に弟子入りを断られました。それで別の職人のもとで修業したあと、改めて父の仕事を見たときに、職人のすごさがわかりました。

——和裁の文化を残す決意をした原体験はありますか。

巧大 細部までこだわる父の作業に圧倒されたことです。例えば、着物を糸で縫うとき、生地の特性に応じてわざと糸に緩みをもたせて結びます。「見えないけれど、ここをちゃんとすることで着心地が全然違うんだよ」って。このこだわりは、誰かが伝えないといけないと感じました。

誠也 学校の友だちから「外国人はかっこいい」と聞いたとき、とても悔しさを感じました。「日本人かっこいいじゃん」って。そのときから日本人のアイデンティティーについて深く考えるようになりました。

夢は「和裁士ってかっこいい」

——今後、取り組んでいきたいことはありますか。

誠也 和裁士を「かっこいい」と憧れる職業にしたいです。デザイン力のある縫製ができるとかっこよく見えると思います。新しい着物の形をデザインできる和裁士を増やしたいです。

巧大 自由な和裁学院をつくりたいと思っています。和服も洋服も自由にデザインできて、学生さんの作品を商品化する流れをつくりたいです。

——お二人の活動を、お父さんはどう見ていますか。

巧大 応援してくれています。フード付きサウナガウンは父の会社が開発してくれました。フード付きの和服は、あまり和裁士が作ったことがないものです。それを父たちのようなザ・職人が作っていることは、僕たちにとって大きな進歩です。

——伝統に関心のある若者に、メッセージをお願いします。

誠也 古い考えを持つ人たちに潰されず、自分を責めすぎず、楽しくがんばってほしい。そうすれば、新しい世界が見えてくると思います。

巧大 「伝統」と聞くと「堅い」など、イメージだけが先行している気がします。新しいアイデアを持った若い人が来るのは、職人さんも歓迎すると思います。思いを伝えるとすぐ打ち解けてくれる方が多いので、思いを伝えることは大事だと感じます。

重厚カジュアル 和の心を見た
三嶋健太郎(DIALOG学生部)

 マニキュアを塗りネックレスをつけて和服を着る巧大さん。かっこいいと思いました。カジュアルと重厚感との調和。日本らしいファッションの方向性を見た気がします。新たな着物文化を創出する和裁士。和の心を身近に感じる日常、素敵じゃないですか?


職人のこだわり 見つけて伝える
徳田美咲(DIALOG学生部)

 生地に合わせて縫い方を調整する「職人の技術」。和裁士だったお父様は、見えないところにも強いこだわりを持って作っていたそうです。職人にとっては当たり前だからこそ自身では気づかず、誰かに言われて初めて気づくこともあるそうです。だからこそ、営業で培ったプレゼン力や発信力を生かして「見えないこだわり」を伝える役割を担っていきたいと巧大さんは話していました。

 素人の私ですが、職人のこだわりを見つけることを楽しみ、小さい気づきでも誰かに伝えてみたいと思いました。


着物への愛 家族への愛
久野俊紀(DIALOG学生部)

 「着物」を含む伝統というものに堅いイメージがありました。後継者不足もあり、伝統をつなぐことが難しくなっている今、伝統にも新しいものを取り入れる必要が出てきています。新しいものを取り入れることで若者が着物に触れやすくなり、日常にも取り入れやすくなりました。「着物を身近なものにしたい」という熱い思いと、着物への愛を語ってくださったお二人の根源にあるのは、家族への愛情なのだと感じることができました。



元山巧大(もとやま・こうだい)

 巧流合同会社代表。高校卒業後、原和裁研究所にて二級和裁技能士を取得し、父の会社を継ぐと決める。会社の倒産や転職を経験し、転職先では九州一位の営業成績を修める。その後、誠也さんの説得を受けて上京し、兄弟で着物文化の創造発信に尽力している。

元山誠也(もとやま・せいや)

 巧流合同会社代表。山野美容専門学校を卒業後、美容室激戦区である表参道と銀座のサロンに勤める。巧大さんの転職を知り、着物業界を存続させる使命感から巧大さんを説得し、兄弟で着物文化の創造発信を行っている。

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