心が動く 未来をつくる あふれる妄想をカタチにする加藤なつみさん:朝日新聞DIALOG
2022/07/16

心が動く 未来をつくる あふれる妄想をカタチにする
加藤なつみさん

By 小原悠月(DIALOG学生部)

 株式会社Konel(コネル)の加藤なつみさん(26)は、大学院で専攻していた感性工学を生かして、心が動く瞬間に寄り添ったモノづくりをしています。

 加藤さんが制作に関わった“SHUTTER Glass”は、デジタル社会で見逃しがちな日常の「美しいもの」を、私たちの代わりに見つけて記憶してくれる革新的なメガネです。

 テクノロジー。人間味のない硬い言葉のように聞こえます。加藤さんはそんなイメージを、アートとデザインによって変化させています。

イノベーターセッション DIALOG学生部は、若い起業家やアーティスト、社会活動家など、明日を切りひらこうとする人たちを定期的に招いています。対話を通じて、活動への思いや生き方、めざす世界を共有します。

越境クリエーティブ まるでアベンジャーズ

——現在の取り組みを教えてください。

 Konelは、デザイン、アート、テクノロジーを融合させて、妄想を具現化するクリエーティブカンパニー。想像したものを自分たちの手で形にする越境のクリエーティブ集団です。20人ほどの正社員しかいないのですが、幅広いスキルを持つメンバーが集まっており、「アベンジャーズみたいなチーム」とよく言っています。国籍もバラバラで、インターンや外部の会社に所属しながら活躍されている方もいます。私の働いている東京の日本橋地下実験場のほか、金沢やベトナムなどにも拠点があり、下北沢にも新しいスタジオがオープンします。

——実際にどのようなことをするのですか。

 業務内容は主に三つ。一つ目がブランドデザイン。ブランドをつくり上げる仕事です。二つ目がR&D(Research & Development)。企業から依頼を受けて、企業の持つ技術を活用するアイデアをともに考えます。三つ目がアート。クライアントとの仕事ではなく、自分たちがつくりたいものを一からつくって発表しています。

実家ではピザ窯も制作

金曜の朝 わいわい大喜利

——プロジェクトの分野はどのように決めていますか。

 特定の分野が決まっていないところがKonelのいいところだと思っています。“欲望を形に。”という言葉を大切にしているのですが、Konelには“つくりたがり”なメンバーが集まっていて、自分たちが表現したいことをつくってしまおうというメンバーが多いです。

 さまざまなプロジェクトで、ビジネスの観点、デザインの観点、テクノロジーの観点の三つが融合されているところがKonelの強みだと思います。

——アイデアはどのように生まれますか。

 個々人の日々の発見のほかに、メンバーみんなでブレインストーミングしたり情報をシェアしたり、雑談や議論の中で生まれてくることがたくさんあります。毎週金曜日の朝会では「妄想大喜利」を開催しています。知財図鑑(知財と事業をマッチングさせるクリエーティブ・メディア)にある、すでに考えられた知財をもとに、面白いアイデアを全員で考え出します。「妄想大喜利」で出たアイデアが「妄想プロジェクト」という形でビジュアル化されることもあります。

 この妄想プロジェクトをクライアントに提供して一緒に実現していくこともあります。私たちは「脱自前主義」という言葉を大切にしています。自分が生み出したアイデアを自分一人で完結させるのではなく、得意分野の異なる企業や大学を巻き込むことで、さらにプロジェクトを大きくしています。

見過ごした「美」 AIが記録

——加藤さんが携わった印象的なプロジェクトについて教えてください。

 “SHUTTER Glass”です。これはNECと共同で生み出した妄想プロジェクトから、実際にプロトタイプ(原型)が実現した第1弾でした。「見過ごす『美』にしおりをはさむメガネ」というのがコンセプトです。私はプロジェクト設計・進行、UX(ユーザーエクスペリエンス)デザインを担当しました。

 インターネットによる情報洪水という社会課題がアイデアの原点です。日常を過ごしていると、スマホの画面をつい見てしまいます。しかし、その間にかわいい小鳥やきれいな花、美しい夕日などの日常の風景を見過ごしてしまっているのではないでしょうか。

 “SHUTTER Glass”は、メガネに登載されたAIが、持ち主の感性に合った「美しい」ものを判定して記録し、専用の台の上に置くことで見過ごしていた美しい風景を映し出してくれます。

 多くのクリエーターとコラボレーションしてプロトタイプをつくったことで、新規事業担当やほかの事業部門から問い合わせがあるなど、NEC社内に盛り上がりを生み出せたことはうれしかったです。社会実装へ向けて、実用化を進めていきたいです。

#しかたなくない オンラインのピル処方サービス「スマルナ」を展開する株式会社ネクイノ(大阪市北区)と一般社団法人渋谷未来デザイン(東京都渋谷区)が協働し、カラダや性にまつわる「しかたない」を見つめ直し、今よりも健やかな未来に向けて立ち上がったプロジェクト。

カラダや性のモヤモヤ #しかたなくない

——#しかたなくないプロジェクトについても教えてください。

 私はプランナーとして、他のクリエーターと一緒に企画の立ち上げに関わりました。例えば、会社や学校で生理について話しづらい、ということが日本では多くあると思います。そのようなモヤモヤを「しかたない」で終わらせてしまっていることが多いことに気づいたことが、企画の原点です。

 現在は12種類(2022年7月時点)の「しかたなくない」をテーマとして取り上げ、フリーマガジンの配布やイベントを通じて、より多くの人に対話したり考えたりするきっかけを提供しています。

 フリーマガジンは持ち運べるサイズの冊子にすることで、手に取ってもらいやすく、またパートナーとともに読んだり、大切な人に手渡したりすることもできます。

送れるカレンダー

砂時計ヘッドフォン 大切な人に送るカレンダー

——モノづくりの原点はどこですか。

 大学から大学院まで感性工学を専攻していました。

 感性工学とは、人の感性に寄り添ったモノづくりを研究する学問です。モノづくりにおいて、便利さや効率性が優先されることがありますが、感性工学は「人が触れたときに、どのように感じ、どう心が動くのか」を考え、心や思想を大切にする学問です。私は「感覚の拡張」や日本文化に興味を持っていて、それをもとにモノづくりをしました。

 大学時代に研究室のメンバーとともに制作した作品の一つが「砂時計ヘッドフォン」です。砂をヘッドフォン部分に入れて本物の砂の落ちる音を聞くことで、忙しい毎日に失われがちな、ぼんやりする時間をつくり出します。

 大学院時代の友人と作成したのが、送れるカレンダー「日々、」です。「何気ない日常を大切な人に伝える」をコンセプトにしました。自分が元気に生活しているということを、メールや手紙でわざわざ送るのはハードルが高いと思います。毎月1通、このカレンダーを大切な人に送るだけで、自分の日常をさりげなく伝えることができます。

ロンドンのアートスクールでの授業の様子

心と体がつながる体験 海外にも

——今後つくりたいものはありますか。

 コミュニケーションを自然と誘発する、人と人の間にあるモノづくりができればいいなと思います。作品自体に感動してもらうというよりは、作品によってもたらされた体験に感動したり楽しんでもらったりできるモノづくりができるといいです

 また、海外にも挑戦したいと思っています。日本の伝統文化の中で見られる作法は、心と体がつながる体験が多いと思います。日本の伝統文化の体験を、テクノロジーと融合させながら海外に輸出したいです。

——アートやデザインが果たす役割は何だと思いますか。

 体験を通じて感動をシェアできる、ということだと思います。世の中には素晴らしいものがたくさんあります。ただ、見せ方によって伝わり方は大きく異なります。デザインを通して記憶づくりや体験づくりができたらいいなと思います。

——若い世代に一言お願いします。

 自分が「好き」と思った体験や「いいな」と思った体験は大切にしてほしいです。その体験が100人には伝わらなくても、誰か1人には絶対に伝わりますし、そこに大切な価値が隠れていると思います。自分の好きなものを大切にしていると、自分にしかできないものやサービスを生み出すことができると考えています。人生の中で、豊かだった時間はいつで、何で豊かと感じたのだろう?ということを見つめ直す時間を大切にしてほしいです。

ワクワク 次のモノづくり
小原悠月(DIALOG学生部)

 初めてKonelのHPを見たとき、ゴリゴリ文系の私には一見何をしている会社なのか見当がつきませんでした。しかし、インタビューを通じてわかったのは、Konelの行っていることとはある意味シンプルだということです。

 個性あふれるメンバーが、ただ、つくりたいものをつくる。モノづくりは、誰かのために「役立つ」ことが最も優先されている気がして、つくりたいものをつくるというのは、一見簡単そうに見えても案外難しいことだと思います。「役立つ」とは、必ずしも生活上で便利になることだけではなく、人間の心を豊かにすることも大きな役割だと気づくことができました。

 「誰かの役に立たなければいけない」と狭い枠にとらわれず、「つくってみたい」という単純な思いから周りを巻き込んで、結果的に心が豊かになるモノづくりを実現させるKonel。次はどんなモノづくりをして、どんな想像を超えた未来をつくってくれるのか楽しみです。


加藤なつみ(かとう・なつみ)

 1995年、群馬県出身。越境型クリエイティブ集団Konelでプロデュース、プランニング、UXデザインなどを担当。大学・大学院では感性工学を専攻し、「人のこころが喜ぶモノづくり」を軸に幅広く活動。

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