異文化に触れる 自分を超える その体験を子どもたちに野地雄太さん:朝日新聞DIALOG
2022/08/12

異文化に触れる 自分を超える その体験を子どもたちに
野地雄太さん

By 遠藤文香(DIALOG学生部)

 みなさんは、自分の国と異なる文化を身近に感じたことはありますか? 自分と違う価値観・文化があることはなんとなく知っている、けれど身近には感じない、海外に興味はあるけれど留学するのはハードルが高い……。そのような方が多いのではないでしょうか。

 今回のイノベーターセッションは、中高生向けに異文化交流の体験事業を行っているBeyond Lab(ビヨンド・ラボ)の野地雄太さん(26)に話を聞きました。野地さんは米ミネソタ大学を卒業後、高校時代までを過ごした福島県で起業しました。福島県で異文化交流の機会をつくる、その事業には野地さん自身の体験や思いが込められていました。

イノベーターセッション DIALOG学生部は、若い起業家やアーティスト、社会活動家など、明日を切りひらこうとする人たちを定期的に招いています。対話を通じて、活動への思いや生き方、めざす世界を共有します。

新たな選択肢に出会える場所

——現在、どのようなことをされていますか。

 今年の2月、福島県の浪江町でBeyond Labという会社を起業し、教育事業を行なっています。

——Beyond Labではどのような事業をされていますか。

 中高生向けに異文化交流のキャンプを開催しています。留学生や地域の外国人をメンターとして呼んで、英語を使って自分と相手との価値観の違いや文化について学ぶ、というものです。留学に行けなくても、それに近い体験をすることで、進路の選択肢を広げたり日常では出会えない人生観に触れたりできます。

ゲームで楽しく異文化体験

——キャンプの内容を具体的に教えてください。

 ゴールデンウィークに2泊3日のキャンプを開いたときは中高生が4人参加してくれました。この夏(2022年夏)に本格的に開催する予定で、地元の中高生を中心に30人規模で行います。キャンプでは、異文化体験できるようなゲームを一緒に行います。例えば「バファバファ」。二つのチームを作り、それぞれが独自のあいさつや風習を採用します。チームのメンバーが1人ずつ相手チームに行って、自分の「常識」が通じない中で相手とコミュニケーションを取るんです。ほかに、留学生の出身国の伝統料理を一緒に作ったり、自分のやりたいことを書いた付箋(ふせん)を貼って未来年表のような形でみんなに英語で発表したり。

——キャンプの目的はなんでしょうか。

 違う文化やバックグラウンドを持つ人と触れ合うことで、外国語や海外に苦手意識を感じている人の心理的ハードルを下げ、新しい価値観や考え方を柔軟に受け入れられるようにすることです。福島にも外国人はいますが、コミュニケーションを取る機会は少ないように感じます。異文化に触れる機会がないと、身近にいる限られた大人の中で価値観が形成されてしまいます。その世界の外側にもっと選択肢が存在するということを知ることで、「こうあるべき」という同調圧力も薄れるんじゃないかと思うんです。

見つけた目標 新たな環境で

——ご自身はどうして海外の大学に行こうと思ったんですか。

 中学3年生のときに福島で東日本大震災を経験しました。高校生のとき、海外の高校生たちが福島に来て、交流する機会があったんです。そのとき、中国から来た高校生の英語力、コミュニケーション能力に圧倒されてしまって……。太刀打ちできなかったのが悔しかったし、もっと自分を高めたいと思いました。

——アメリカでの4年間の生活はどうでしたか。

 多様性がある環境で、自分が何者なのかを問われました。日本人、アジア人であることを意識させられる環境でした。印象的だったのが、2016年の大統領選挙です。トランプ政権が誕生したことで、多様性を尊重するアメリカのイメージと現実のギャップを感じました。大学の中でも共和党支持者と民主党支持者の対立があって、相手の価値観を否定したり、遠ざけたりする空気を強く感じました。この経験を通して、幼いときから違う価値観に触れることが大切なのではないかと感じました。

学生のために これからも

——実際、会社をやってみてどうですか。

 まだ始めたばかりなので、これからという感じです。子どもたちと楽しみながら学べるコンテンツを作ったり、子どものスキルや人格形成についての考えを保護者の方からヒアリングしたりしてサービスを作っています。

——会社立ち上げの資金はどう集めましたか。

 去年、福島県で起業家支援を目的とした事業の募集がありました。そこで採択されて、今年から3年間で計1200万円の資金調達をしました。3年で黒字化させていきます。キャンプ事業だけではなく、日常的に英語や異文化に触れられるサービスも含めてビジネスモデルを試行錯誤していきたいです。

意見交換 オープンに

——一番大切にしていることは何ですか。

 自分自身が、違う考え方や意見に対してオープンマインドでいることです。地域の中でも色々な意見があるけれど、その中で自分のビジョンを伝えて理解してもらう、協力してもらえるようにしています。

——一番大変なことは何ですか。

 リーダーという立場なので、全てが自分の責任になることです。プレッシャーに負けず、周りからの期待に応えられる結果を残さないといけないな、と感じます。同世代で起業している仲間と勉強したり相談し合ったりすることもあります。

 でも、自分のやりたいことを仕事にできるのは楽しいです。中高生に喜んでもらえるのはうれしいですね。起業して1年目なので、まだ力不足なところは多々あるし、とにかく今やれることをやっていきます。

攻撃のない社会づくり

——どんな社会を実現したいですか。

 戦争や差別で苦しんでいる世界中の人を減らしていきたいです。そのために、自分と違う立場や価値観の人に対して寛容になれるような教育を届けていきたい。それが、攻撃されることのない生きやすい社会、自分を表現しやすい社会につながると思っています。

——読者の方にメッセージをお願いします。

 多くの人との出会いや経験から、自分のしたい仕事や大事にしたいことが生まれてきています。みなさんがいる、それぞれの環境で感じた思い、違和感を大切にしてほしいです。

なくそう 自分を縛る固定観念
遠藤文香(DIALOG学生部)

 海外の文化を身近に感じることは、自分の世界を一気に広げることのできる手段だと思っています。

 私は中学3年生のときにイギリスに行き、そこで自分の中にあった海外への抵抗感や英語への不安が払拭(ふっしょく)されました。それまで当たり前のように思い描いていた「私は一生、日本で生活をしていくのだろう」というイメージはいい意味で壊れました。

 野地さんの「日本でできる異文化交流」という新たな教育事業は、学生たちが生まれた環境に左右されずに自分の生き方を自分で決めるための大きな後押しになると思います。若者が自分の可能性を広げていける社会に、私も貢献していきたいです。


野地雄太(のじ・ゆうた)

 1995年、福島県生まれ。米ミネソタ大学 College of Liberal Arts卒業(社会学専攻)。2016年の米大統領選をきっかけに多文化共生に関心を持ち、アメリカの都市における難民コミュニティーについて研究。地方創生を手掛けるベンチャー企業に入社した後、2022年2月に独立し、株式会社Beyond Labを創業。代表として福島県で中高生向けに異文化体験プログラムを運営している。

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