コオロギを気軽においしく 奇妙が奇妙でなくなる日イノセクト 長田竜介さん、蝦名将さん:朝日新聞DIALOG
2022/09/16

コオロギを気軽においしく 奇妙が奇妙でなくなる日
イノセクト 長田竜介さん、蝦名将さん

By 仲川由津(DIALOG学生部)

 虫を食べてみたい!というDIALOG学生部メンバーの発案から始まった企画。第1弾のコオロギラーメンに続き、第2弾ではコオロギプロテインを実食。INNOCECT(イノセクト)のブランド名で商品を展開する株式会社ODD FUTURE代表取締役CEOの長田竜介さん(25)、事業開発と経営管理を担当する蝦名将さん(26)を招いて話を聞きました。

 実食したら、まさかの「おいしい!」「昆虫っぽさが全然な!?」。メンバーの「体当たり」の感想はもちろん、長田さんの衝撃的な昆虫経験にも注目です。

【昆虫食】コオロギラーメン食べてみた

たんぱく質 粉末とバーで

 ODD FUTUREは、フードテック(食×テクノロジー)の会社で、2020年6月に創業。現在は主に三つの事業を行っています。

D2C(Direct to Consumer) コオロギ粉末を使用した健康食品を自社ブランドとして顧客に直接販売する
食品メーカーなどへの卸売り 原料としてのコオロギ粉末を食品メーカーや商社、工場などに販売する
OEM製品の企画・製造・販売 健康食品や雑貨を他のメーカーやブランドとともに企画・製造・販売する

 INNOCECTという名前は、イノベーション(革新)とインセクト(昆虫)からきています。昆虫は栄養豊富かつ環境に優しいためポテンシャルのある原料といわれています。昆虫を使った商品を現代風にデザインしてイノベーションを起こし、新しい食の選択肢として定着させることをめざします。

 主力商品はコオロギ由来の粉末プロテインとプロテインバーです。健康への配慮と手に取りやすさの両方を追求しています。

長田さん(右)と蝦名さん

実食! コオロギ見つけて喜んだ

 事業内容を聞いた後、粉末プロテインとプロテインバーを実食しました。いずれもチョコレート味、抹茶味が展開されています。

 まずはチョコレート味の粉末プロテイン。長田さんと蝦名さんが、手慣れた様子で水300ccに大さじ2杯(30g)のプロテイン粉末を入れ、ふるまってくれました。

 学生部メンバーの第一声は「おいしい!」。言われなければコオロギとわからない。普通のチョコレート飲料のようです。

小原 チョコレートですね、普通に。これ、ちょっと浮かんでるのはコオロギ……?

長田 あ、それクリケット。コオロギです。

蝦名 コオロギを見つけて喜ぶ方、初めて見ました(笑)。

仲川 言われなければコオロギとはわからないですね。

小原 私たち(コオロギラーメン企画で)1回コオロギ食べているから……耐性ができているかも。

 続けて抹茶味も試飲。宇治抹茶を使っているそうで、こちらもおいしい。長田さんによると、どちらも天然の甘味料で味付けされているのも特徴の一つだそう。意識して探さなければ、コオロギ特有の味がわからないほどナチュラルな風味でした。

小原悠月(DIALOG学生部)

環境に優しい 未来のスタンダード

 それでは、長田さんのインタビューです。

——社名「ODD FUTURE」の由来は何ですか。

 現在は奇妙で変わっている(Odd)と思われるものでも、将来(Future)にはポテンシャルや希望があるという意味を込めました。INNOCECTのブランドもそうなんですが、斬新すぎて顧客から敬遠されるような商品でも、5年後、10年後にはスタンダードになりうるっていう事業をやってみたいという思いを込めています。

——「昆虫食は食糧難を解消する」とよく聞きますが、ODD FUTUREとして意識していることは。

 コオロギを生産する際、環境負荷の少ない方法を使っています。二酸化炭素の排出を減らし、資源の使用を最小限にとどめています。そもそも同じ量のたんぱく質を得ようとすると、コオロギの生産で排出される二酸化炭素は牛の約30分の1。エサの量も牛と比べて約6分の1で済み、飼育する際の水の使用量も牛の約6000分の1という研究資料もあります。

——なぜ昆虫とプロテインの組み合わせに注目したのですか。

 コオロギをサステイナブルな食の選択肢として普及させるため、昆虫であることを意識せずに生活に取り入れることをめざしているからです。プロテインであれば、粉末にして水に溶かしたり、バーにしたりしてコオロギの形や風味を気にせずに摂取できます。今後はスナックなど様々な形の商品を出す可能性はありますが、軸はコオロギであることを意識せずに食べられるような商品作りです。

幼少期 バッタ生食 目の当たり

——そもそも昆虫食に目を向けたきっかけは何だったんでしょうか。

 僕の幼少期の原体験です。おじいちゃんが畑で作業していて、幼稚園の後に毎日遊びに行っていました。畑作業は一日がかりでかなり疲れるんですが、水分は持っていても食べ物は持っていない場合が多くて。ある日、僕が「おじいちゃん、おなかすいた!」と駄々をこねまして。次の瞬間、おじいちゃんが畑で捕まえたバッタを生きたまま食べたんですよ。驚きました。そのとき「竜介、栄養あるからお前も食べろ」と言われ、泣きながら拒んだ記憶があります。もう一人、父方のおじいちゃんは養蜂をしていて、ハチの巣から出てくるハチノコという白い幼虫をよく食べていました。ただ、昆虫を食べた経験はあっても当時は興味がありませんでした。

——どう仕事につながったのですか。

 新卒で商社に就職してアパレルの担当をして、服などの大量廃棄を目の当たりにしたとき、サステイナブルな事業に興味を持ちました。いろいろ調べていくうちに昆虫食にたどり着き、20年前の体験を思い出して……。今思うと、おじいちゃんはサステイナブルな食の最前線にいたのではないかと思います。サステイナブルな昆虫食市場があると知ってから、日本初の粉末のコオロギプロテインを作ってみようと思い立ちました。

粉まみれ ボツを重ねて商品試作

——大変だったことはありますか。

 商品の試作をしていた4、5カ月ですね。毎日、粉まみれで試作していました。コオロギのいい部分を生かしつつ、他の原料で口当たりの悪い部分をうまくマスキングする方法を探すのが大変でした。何十回もボツになりました。多くの実験を経て、抹茶やチョコレートなど味がくっきりしているようなものと相性がいいとわかりました。

昆虫食市場 ひたすら開拓

——日本で昆虫食を広めるにあたっての課題は何でしょうか。

 まず、昆虫食への抵抗というハードルはまだまだ高いと思っています。もう一つは価格です。需要が少ないため、どうしても一般的な(牛乳由来の)ホエイプロテインと比べると価格が高くなってしまう。解決策としては、昆虫食市場を切り開き続け、需要を伸ばすしかありません。商品開発や販促を通じて、ひたすらお客さんに理解してもらい、日常の食に取り入れてもらう。現在はプロテインバーなどの健康食品に重きを置いていますが、最終ゴールは食の選択肢を増やし続けること。健康食品にとらわれず、小麦粉の代替やグラノーラへの応用など、時代の流れを柔軟に読みながら汎用性(はんようせい)の高い商品を開発していきたいです。

仲川由津(DIALOG学生部)

悲鳴 それは、かつての私
仲川由津(DIALOG学生部)

 「思ったより、というか全然イケる! これがコオロギなの?」。実食して一番に私が思ったことです。

 大学では夏休みが終了しました。「夏、何してた?」と聞かれ、「昆虫を食べてみた」というと、悲鳴が上がったり「信じられない」とでも言いたげな顔をされたりしました。昆虫を食べる前の自分を見ているようで共感しつつ、同時に、昆虫の見た目と口当たりの悪いイメージからくる抵抗感と、しみついたイメージを払拭する難しさを痛感しました。

 この抵抗感を極限まで見えない形にした、INNOCECTのプロテインは昆虫食の第一歩にもってこいだと思います。幼少期から昆虫が大好き!というわけではなく、自分たちと似た感覚の方が事業をしているからこそ、おしゃれなパッケージ、健康や地球環境へのこだわりなど、共感できる部分が多々ありました。家族や友人にもおすすめして、昆虫食仲間を増やしたい!というのが今の気分です。


長田竜介(おさだ・りゅうすけ)

 1997年、静岡県出身。明治大学卒業後、大手専門商社でアパレルの大量生産・大量廃棄の実態を目の当たりにし、サステイナブルな世界を創造するため2020年6月に株式会社ODD FUTUREを創業。食用コオロギを使用した健康食品ブランド、原料販売、OEM事業などを展開。

蝦名将(えびな・しょう)

 1995年、埼玉県出身。明治大学卒業後、ソフトバンク株式会社に入社、ソフトバンクロボティクスグループ株式会社に出向。海外子会社を含む経営戦略・事業計画の策定と実行を推進。2022年、ODD FUTUREに参画。

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