和菓子の新境地へ 目に映える 心を映す〈伝統をつなぐ〉三納寛之さん:朝日新聞DIALOG

和菓子の新境地へ 目に映える 心を映す
〈伝統をつなぐ〉三納寛之さん

By 前麻美(DIALOG学生部)

 「自分らしい」「革新的」なお菓子を追求しながらも、季節感や人の内面、心情を表現するという「伝統」は忘れない。「店舗は持たない」という新しい和菓子屋のスタイルで上生菓子(じょうなまがし)を販売する三納寛之さん(40)に話を聞きました。

伝統をつなぐ 日本の文化を形作る、工芸・美術・芸能といった分野の伝統。グローバル化やデジタル化の波にのまれ、継承が危ぶまれるものもあります。次の時代を見据えて活動する担い手にインタビューし、技や思いを伝えます。

上生菓子 ネット販売

——現在の活動について教えてください。

 主な活動は、上生菓子のネット販売です。注文を受けて冷凍発送します。このほかに月3回、名古屋で2回と岐阜で1回、直接販売もしています。それらの合間にメディアへの出演、他のお店とのコラボといった仕事が入ります。

 店舗も何もないので、まず人に知ってもらわないといけない。人に知ってもらう、興味を持ってもらうきっかけは、SNSが全てです。

——店舗を持たない和菓子職人さんは多いのですか。

 高齢の職人さんが和菓子教室を開くといったことはあるかもしれませんが、バリバリ働ける若い世代ではそれほどいないと思います。

——和菓子業界は年配の方が多いのですか。

 若い人も結構いますよ。ただ、時代の流れ的に、いわゆる職人さんと呼ばれるような人は少なくなってきています。メーカーの工場などで作業員のような形で携わる人が多いと思います。

——三納さん自身は職人さんとして和菓子を作っているのですよね。

 はい。きちんと修業を積んでいるので、職人です。技術職ですね。

実家→修業→工場→フリー

——和菓子との出会いや今のお仕事に至るまでのことを教えてください。

 生まれた家が和菓子屋だったこともあり、小さいころ「将来は和菓子屋になる」と言うと周りの大人が笑顔になったんですよ。そうした大人の反応を見ながら「和菓子屋になる」と言い続けて、高校を卒業したタイミングで愛知県の和菓子屋で修業を始めました。

——店舗を持たないフリーの和菓子屋になると決めたのはなぜですか。

 修業を積んだ後、実家の和菓子屋に戻ったのですが、父との折り合いが悪くて実家を離れ、和菓子工場の工場長を10年ほどしていました。そこで、人に使われることが嫌になってしまったんです。自分のやりたいことと会社がやることは必ずしも一致しないので、面白いと思えなくなってしまいました。

 独立しようと思ったのですが、お店を持つには初期費用とランニングコストがかなりかかります。大金を借りて、100円から200円くらいのおまんじゅうなどを売って返していくのは現実的ではありません。店舗を持てば、その地域の和菓子屋さんと競争もしなければいけません。従業員が何人もいるような老舗と同じ土俵に立ち、まともに競争するのは不利だとも思いました。

 工場長をやっているときから、イベントなどで和菓子を販売することがあって手応えも感じていました。SNSのフォロワーも多かったので、とりあえず店舗を持たずに始めてみました。

ワクワク感 ジェットコースター

——宝石のようにきれいな和菓子を作られていますね。

 ゼロからいきなり全く新しいものを作ることはできないので、今までのデザインにひと手間、新しいものを少し加えて作ります。そもそもお菓子は、丸の形から違うんですよ。

——丸の形が違う?

 丸腰高といって、下からすっと立ち上がって上が丸い、まんじゅう独特の形があるんです。この基本がきちんと身についているかどうかで変わってきますし、基本ができた上にヘラを入れて形を作るので、おそらく構造的にはそれだけで職人さんごとに違いが出てきます。

——業界的にやってはいけないデザイン、嫌われるデザインはあるのですか。

 僕が得意とする上生菓子は茶道、つまりお茶の席で使われることが多いです。お茶の席では抽象的なものが好まれて、逆に写実的なものは好まれないので、既存の上生菓子は同じようなデザインのものが多いんです。でも、そういう世界に僕が入って同じことをしても意味がありません。なので、デザインのルールみたいなものはいったん無視して、一般の人が喜ぶようなお菓子を作っています。

 以前、和菓子にあまり縁のない方から「和菓子の味なんてこしあんか粒あんか、白あんか黒あんか、くらいの違いしか分からない」と聞きました。もっと奥深いところがあるのですが、和菓子はどうしても安心・安定の素朴な味というイメージだと思います。

 逆に洋菓子は、ジェットコースターのような、ワクワク感があると思うんです。例えば「ピスタチオ味で、芯にはフランボワーズが使われていて、洋酒が利いている」と説明されたら、「どんな味がするのだろう?」ってワクワクしますよね。和菓子に、そういう良さを取り入れようとしています。

——ジェットコースター的なお菓子を作られたことはありますか。

 ありますね。例えば、パイナップルの錦玉(きんぎょく)といって、寒天でまとめたものの芯にレモン風味のあんこを使って、その中心にパイナップルの蜜漬けをしのばせたお菓子を作りました。

——知っている和菓子とは全然違います。

 はい。なので、この間は銀座にあるMIXOLOGY SALONというお店で、カクテルと和菓子のペアリングのイベントを開きました。

——カクテルと和菓子。意外な組み合わせですね。

 王道の和菓子も出したのですが、3品あるうちの2品は変わり種を出して、好評をいただきました。

展開型の人生 マネするのは嫌

——今後やっていきたいことや、現在チャレンジしていることはありますか。

 わ、それインタビューで一番困るやつ! ぶっちゃけると、特別に何かあるわけではないです。目標追求型でやってきたわけではなくて、目の前のことを一つひとつこなしていろいろ広がっていく展開型でやってきたので。強いて言うなら、自分にしかできないことをやっていきたいです。

——伝統をつなぐため、和菓子の技術や三納さんのやり方を継承したい、つなげたいという思いはありますか。

 特別そういった気持ちはないです。いつか、死が見えてきたときには何かそういう思いが芽生えるかもしれないけど、今のところは特に何も思ってないんです。というのも、はやってるものや売れているものをマネするのが僕は嫌で、みんなが独自のことをして、とがって個性を出すことで業界全体の魅力が出ればいいなと思うんです。だから、この技術を残して広めたいという思いは強くないんです。Instagramなどに僕のお菓子の写真はあるので、そういうものを見る人はいるでしょうし、伝統や文化の一部として残ったらいいなとは思います。

赤い糸 内に秘めた思い

——これまでに作られた中で最高傑作は何ですか。

 最高傑作というものはないですけど、「赤い糸」というお菓子や「爽果(そうか)」という夏の創作菓子は新しいお菓子という面では満足のいく仕事ができたので自信があります。

 「赤い糸」はブラックココアを使い、ほんのりと苦みが利いた生地に、中がミックスナッツのあんこになっています。あんこには3種類のナッツを使っていて、クルミで香ばしさを、アーモンドで触感を、カシューナッツでナッツの甘みを出すようにしました。

——全然想像できない感じですね。

 味から入ったお菓子だったので、見た目が真っ黒になってしまうからどうしよう、どんなお菓子に仕上げようと考えたときに、味わい的にはコーヒーに合いますし、バレンタインの時期に販売したら喜ばれるだろう、ということでバレンタイン方向に持っていきました。日本女性の内に秘めた思いを、ホワイトチョコの羊羹(ようかん)にイチゴを散らして表現し、ワンポイントで思いを結ぶ赤い糸をかけたデザインにしました。

変わらずあり続けるために

——和菓子ではないように見えてきたのですが、これは和菓子でいいんですよね。

 和菓子でいいですよ。やっぱり伝統を守るというと、単に守るだけではなくて、攻める部分も必要だと思うし、変わらずあり続けるには変わり続けないといけないというところもあると思うんです。伝統を守るのも大事ですが、自分自身はやりたいことをやってます。

——若い人たちに、こんなふうに和菓子に触れてほしいなどはありますか。

 もうちょっと身近に和菓子を食べる機会が増えてもいいかな。和菓子といってもいろいろあるので、大福とかどらやきとか、そういったものは身近な感じですけど、僕がやっている上生菓子は縁があまりないと思うんです。日本料理にも言えることですが、上生菓子の表現には日本人の繊細さや季節感、内面、感情といった全てが注がれているんです。日本にしかないすばらしい文化なので、頻繁に食べてほしいとは思わないですが、和菓子に込められた日本の文化を知ってもらって、興味を持ってもらえたら、と思います。

ただ守る、だけではなく
前麻美(DIALOG学生部)

 「変わらずあり続けるには変わり続けなければいけない」という言葉にハッとしました。伝統をただ守っているだけでは時代の流れによって見向きもされなくなり、守ることすらできなくなる可能性があります。時代に合った姿に変化することで注目してもらい、伝統として基本的な技術などは守る。伝統文化の継承に必要な姿勢は何なのか、考えるきっかけをいただきました。

 三納さんは和菓子職人として修業を積まれた上で、洋菓子の発想を取り入れた「新しい」「自分らしい」和菓子を制作されています。ご自分の言葉をきちんと体現されている姿に感銘を受けました。

 伝統を「守る」だけでなく「つなぐ」ために、変わらなければいけないこともある。和菓子職人という伝統に携わる三納さんだからこそ語ることのできる言葉をいただきました。


三納寛之(さんのう・ひろゆき)

 1982年、愛知県瀬戸市生まれ。2009年、全国和菓子協会主催、選・和菓子職で優秀和菓子職に認定。2011年、和菓子製造一級技能士に認定。全国菓子研究団体連合会技術コンテストでグランプリ。2016年にフランスとドイツ、2017年に中国・上海で和菓子セミナーを開催するなど海外でも活動。2019年、フリーの和菓子作家として独立。国内外で活躍の場を広げる。

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