熱海は胸アツ! つながれる街 リピしたい街廣野みすずさん:朝日新聞DIALOG

熱海は胸アツ! つながれる街 リピしたい街
廣野みすずさん

By 遠藤文香(DIALOG学生部)

 「熱海」といえば観光地という印象を持つ方も多いのではないでしょうか。そんな熱海を「脱観光」を掲げて活性化しようとしている会社が、株式会社machimoriです。社員の廣野みすず(みっすー)さんにゲストハウスを通じた熱海の課題解決について聞きました。

イノベーターセッション DIALOG学生部は、若い起業家やアーティスト、社会活動家など、明日を切りひらこうとする人たちを定期的に招いています。対話を通じて、活動への思いや生き方、めざす世界を共有します。

Kiten -slow & work stay-のラウンジ

かつてシャッター街 テナント次々

——今のお仕事について教えてください。

 熱海のまちづくり会社、machimoriで活動しています。machimoriは建物のリノベーションを軸にしていて、50年以上も使われてなかったフロアをコワーキングスペースにしたり、10年間シャッターが閉まっていた建物をゲストハウスにしたりしています。

 私はゲストハウスのスタッフやコミュニティーマネージャー、2022年9月にオープンした宿泊施設「Kiten」の担当をしています。

——熱海は過疎化しているのですか。

 一時期は衰退していて、バブル崩壊後はシャッター商店街みたいな状態でした。最近になって、やっと熱海銀座商店街の1階部分が全てテナントで埋まったんです。でも、2階、3階とか上の部分はまだ結構空いています。

——熱海のまちづくりのコンセプトを教えてください。

 machimoriが目指しているのは「100万人が1回来るよりも、1万人が100回来る」というものです。1回の観光で終わるよりも、熱海に通って地域の人とつながったり、行きつけのお店を見つけたり、熱海がサードプレイスのような存在になってくれるといいなと思っています。

スタッフおすすめ ゲストに紹介

——みっすーさんは熱海のどういうところを紹介するのですか。

 ゲストハウスに泊まる人には、何度も来たいと思えるような場所を紹介しています。紹介した場所にハマって月に何回も来てくれる人もいるので、そういう地域やお店との関わりをつくっていくきっかけになれればいいなと思いますね。

 ゲストハウスにはオリジナルのマップがあります。歴代のスタッフのお気に入りのお店も掲載しています。ゲストがチェックインするときに必ずマップを使って街案内をします。

 ご飯を楽しむだけでなく、マスターや店員、隣に座ったお客さんとしゃべれるようなお店を多く紹介しています。

 「MARUYA(machimoriのゲストハウス)からの紹介で来ました」って言って入っていただければ、お店の人もわかってくれるし、ゲストハウスのお客さんたちがたまたま同じお店に行って、仲良くなることもあります。

MARUYA

まちづくり?というか ご縁づくり

——まちづくりは楽しいですか。

 実はまちづくりをしている感覚はないんです。「いろんなきっかけをつくっている」というのが一番しっくりきますね。きっかけをつくって、ご縁をどんどん結んでいく感じです。

——きっかけづくりとは具体的にはどういうことでしょうか。

 ゲストハウスの利用が初めての人も多いので、自分から交流しにいけない人も結構いるんです。そんなとき、この人たち同士をつなげられそうだなと思ったら、一緒に話してつながりをつくります。1回つながれば、みんな自由に仲良くなっていきます。

 あとはイベント。同じような興味や感性の人たちを集めて、何かが生まれるきっかけをつくっています。コワーキングスペースの担当になったときに、熱海の有名な「ダイダイ」という柑橘の収穫体験をやりました。ただの収穫体験ではなく、農家が抱える課題や今後の展望を農家さんに座談会のように畑で話していただきました。農家の大変さ、楽しさ、課題、思いを知ってもらいました。この体験会を通して、来てくれていたデザイナーさんが農家のロゴを作ってくださることになったんです。これが最初につくった大きなきっかけです。

ザ・観光地 あいさつ温かい

——熱海に引っ越されて4年目。熱海の暮らしはどうですか。

 熱海の真ん中、「ザ・観光地」に住んでいるので、暮らしの面だけでいうとすごく快適というわけではないのですが、地域の人との距離が近かったり、だんだん仲良くなってきたり、というのは楽しいです。個人商店も多くて、そういう商店の魅力を発信していきたいと思っています。

——地域で暮らす魅力はなんですか。

 やっぱりつながりじゃないですかね。出勤前にたまたま会った喫茶店の人に「行ってらっしゃい」「頑張って」と言われるとうれしいと思います。

セブ島行った 介護士辞めた

——ゲストハウスのスタッフのような仕事はもともとやりたかったのでしょうか。

 もともとは介護士になりたくて、介護の専門学校を卒業して介護士として働いていました。人の話を聞くという部分はすごく今の仕事につながっていて、介護の仕事で経験したことは生きているなって思います。

——辞めようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。

 介護の仕事を1カ月間休んでフィリピンのセブ島に行ったことです。セブ島のゴミ山に行ってストリートチルドレンに会ったり、お墓に住む子どもたちのところに行ったりしました。帰国して介護の現場に戻ったときに、やりがいを以前のように感じなくなっていたんです。もっといろんな世界を見たい、いろんな仕事をやりたい、いろんなことを経験したいと思って辞めました。

興味の赴くまま 旅してバイト

——その後、旅に出ます。

 介護の仕事を辞めたとき、東南アジアを1周しようと思っていたんです。そのお金を稼ぐために、兵庫のホテルでゴールデンウィークにバイトしました。その後、東南アジアを一周しようと思いタイに行きましたが、結局タイで1カ月間過ごして帰国しました。

 タイでも色々やって……ゲストハウスで出会った人たちと観光地を巡ったり、お坊さんの学校で日本語の授業に参加させてもらったり、HIVに感染した子どもたちがいる施設に行ったりしました。

 帰国後、「農業がやりたい」と思って農家さんのところに住み込みで収穫のお手伝いに行きました。3カ月くらい後、次は島で暮らしながらゲストハウスで働きたいと思って、香川県の豊島のゲストハウスに働きに行きました。

——熱海に来たきっかけは何だったのでしょうか。

 農家住み込みと豊島の間にMARUYAに泊まりに行きました。MARUYAのトイレの貼り紙に「スタッフ募集」って書いてあったので女将さんと話をしました。豊島で働きながら「次どうしよう」と思っていたタイミングでその女将から連絡が来て、熱海に行くことにしました。

ワクワクすること 自分に素直に

——今後のキャリアはどう描いていますか。

 今後のキャリアについては全く考えてないんです、あんまり先を考えるのが得意じゃなくて。だから今まで色々してきたっていうのもあると思うんですけど……。

 私のテーマに「暮らし」とか「日常」みたいなのがあります。当たり前に過ごしているけど、本当は贅沢(ぜいたく)なことや幸せなことってたくさんあって、それを発信していったり再認識できるイベントをつくったりしたいなと感じています。そういう体験を、熱海の人だけじゃなく熱海に来てくれる東京の人にも体験していただきたいと思っていて、今後やっていきたいとは思います。

——読者にメッセージをお願いします。

 やりたいことはやってほしいと思います。自分に素直にやりたいことをやって、全然ダメだったら、すぐやめてもいいと私は思うので、とりあえず挑戦してみてほしいです。自分がワクワクすることをしなさい、と私も言われて、すごく共感したので。

 ずっとやり続けなきゃいけないと思うかもしれないし、責任とかもあるんですけど、つらかったらやめればいいし、逃げてもいい部分は逃げたっていい。ゆるく楽しんでもらえるといいなって思います。いろんな人がいますから、大丈夫。

自由さと行動力 出会いを楽しむ
遠藤文香(DIALOG学生部)

 今回のインタビューで最も印象的だったのは、みっすーさんの行動力です。「これがしたい!」と思ったら全て行動に移しているお話を聞いて、私も興味のあることに気軽に挑戦してみようと思いました。みっすーさんが情熱を注いでいるゲストハウスの仕事も、この行動力があったからこそ巡り合えたのだと思いました。

 私はゲストハウスを利用したことがありませんでした。初対面の人と数日をともにすることに不安を抱いていたからです。しかしインタビューを終えて「MARUYA」にとても行ってみたいと思いました。地域や人の温かさを残す取り組みをされている、温かい方々にぜひお会いしてみたいです。


廣野みすず(ひろの・みすず)

 1994年、三重県出身。名古屋の障害者支援施設で介護福祉士として働きながら全国のゲストハウスを巡る。1ヶ月間休職しフィリピンに行ったことをきっかけに退職。1年間日本を旅した後、熱海のまちづくり会社、株式会社machimoriに入社。コミュニティマネージャーとして活動中。

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