
マッチングアプリは出会いの手段として一般的になってきた。時間や場所による制約がなく、簡単に相手を探すことができる。気軽な出会いから始まり、真剣な交際に発展するケースも多く、幸せな結婚につながるカップルも少なくない。しかし、子どもを巻き込んだ犯罪や詐欺被害などのリスクもある。
マッチングアプリが広がる背景に、どのような恋愛観や人生観の変化があるのか。マッチングアプリ「pecoli」を運営する山田浩太さんとアプリ利用者の4人で、その功罪を語ってみた。
■参加したメンバー
・山田浩太(26) マッチングアプリpecoli運営者。
・高島菜芭(27) 恋愛について研究やサービス開発を行う「アイカタ研究所」共同代表。
・黒木裕人(26) 朝日新聞DIALOGパートナー。通信会社勤務。
・石黒シエル(25) 朝日新聞DIALOGパートナー。動画クリエーター。

ゲームチェンジの最前線
マッチングアプリを実際に開発、運営する山田さん。アプリの特色、起業への思いなどを語ってもらった。
山田 pecoliは、友だちからのお墨付きが見える「推しトモ」と出会えるマッチングサービスで、マッチングアプリとSNSを掛け合わせたようなものです。マッチングアプリの課題だった「(相手が)本当に良い人か分からない」「素性が見えにくい」という利用者の不安を推しトモ機能によって解消しています。
pecoliを開発するきっかけは、友だちに「誰かいい人紹介してよ!」と言われ続けてきたことです。マッチングアプリがこれだけある中で、なかなかうまくいかない友だちがいて、「普段の友だちの良さや信頼が可視化できるマッチングアプリがあると貢献できるんじゃないか」と思いました。
マッチングアプリが普及して、アプリを利用して付き合う、結婚することが当たり前になりつつあります。pecoliは、利用者のいい面が表れるような設計に力を入れています。出会いにおけるゲームチェンジの最前線にいる、というのが僕らのスタンスです。

「こんな素敵な人たちも」
黒木 石黒さんと高島さんはマッチングアプリでパートナーが見つかったそうですね。
石黒 私は高島さんにBumbleというアプリをおすすめされました。そのときは人生最大の失恋後。高島さんを見て「こんな素敵な人たちも出会っているんだ」と思って使い始めました。
黒木 なぜBumbleを推したのですか。
高島 創業時のエピソードが好きだからです。Bumbleは、Tinderで働いていた女性が創業した会社です。それまでのマッチングアプリは男性からアプローチして、女性は受け身であることが多く、そのため女性に対するハラスメントもよく起きていました。そういう文脈があって、「女性主体のアプリをつくりたい」と思って創業したそうです。Bumbleはマッチした後に女性側がメッセージを送らないと成立しません。女性側からしかアプローチできない、かつ男性が一定時間内に返事をしないとやりとりが始まりません。

マスク 筋肉 影だけ男子
マッチングアプリでの相手選びは、写真が大切な判断材料です。そのあたりの事情は——。
黒木 マスクを着けて目しか写っていないパターンがあったり、加工アプリですごく盛っていたり。
石黒 盛っているのはまだマシ。(顔が)見えるか見えないか?みたいな写真の人がいっぱい。あと、よくいるのはシルエットだけの「影だけ男子」。
黒木 影だけ男子!
石黒 謎に筋肉だけ写っている人もいます。私は加工アプリは使いません。なぜなら、会って「わっ違う!」って思われるのが怖くて。「(ありのままの)この写真でもスワイプしてくれる人なら会おうかな」という気持ちで。
高島 私はカメラマンに撮ってもらいました。
黒木 私もスタジオで撮った写真があるので、それを載せました。

相手を見極める フィルタリング重要
アプリ上のプロフィルは、そのまま信じていいとは限らないようです。素性の分からない人と会うことに、抵抗はないのでしょうか。
石黒 私は、危機管理能力の高さがすごく重要だと思います。女子高育ちの友だちは3日連続で違う男性に会って、家について行って、捨てられて泣いて帰ったそうです。一瞬の優しさのほうが、断る勇気を上回ってしまうのか、後悔を繰り返す人が多くて恐ろしくなります。
山田 利用者の方々が自ら相手をフィルタリングする能力は今後さらに必要になってくると思います。pecoliは、推しトモ機能や紹介コメントなどによって、ユーザーの信頼が自然と可視化されるプラットフォームの設計になっています。
高島 私はフェミニストですが、そういうのも全部プロフィールに書きました。「思想はすごくリベラル」だとか、自分の仕事、NPOの話とかも書いて、それを見た上で「話したい」と思ってくれる人と会おうと思って。「フェミニスト嫌い」みたいな人だとマッチしない。そういう意味では、すごく効率いいですね。

ときめきがリスクを超えるとき
かつては地域、学校、会社など同じコミュニティーでの出会いがほとんどでした。デジタル化は、地理的、物理的な壁を越えて出会いの機会を限りなく広げています。マッチングアプリでの出会いは、リアルな出会いとどう違うのでしょうか。
石黒 私は、自分のコミュニティーの外の人としか付き合いたくなくて。自分の知らない世界の人とつながることで、自分の世界が広がると思っているから。だから、マッチングアプリでしかパートナーとは出会えなかったかも。また、男友だちから恋人になることは絶対にない。むしろ、彼女ができることを応援すると思う。
黒木 僕も自分のコミュニティーの中で恋人ができるイメージは、あんまりないんですよね。一方で「見ず知らずの人と会うなんて怖い」みたいな感覚の人はいると思います。
石黒 ガチャガチャじゃないけれど、マッチングアプリを使った果てに、(いい出会いの)運が1回も訪れなくて、「やっぱないわ~」と感じて職場とかで相手を探す人はいますね。
山田 身近なコミュニティーに素敵な人がいたら自分から連絡すると思います。そこは、ときめき度だったり、それぞれの性格によると思います。
黒木 (口説きに行く)リスクを、ときめきが超えるか。超えたら、もう動物的に行っちゃえ!ってことが、きっとあるだろうし。

学歴・身長…スペック化の罠(わな)
学歴、職業、年収、身長……。製品のように「仕様」が表示され、それによってフィルタリングし、フィルタリングされる人たち。スペック化が進むと、内面的な価値が度外視されてしまう恐れはないのでしょうか。
高島 マッチングアプリは、まさに人間のスペック化になっていると思います。年収とか、仕事とか顔とか、わかりやすく数値化されたものに、どうしても過剰にフォーカスされてしまう。身長が1センチ高いのと、年収がいくら高いのが同等か、といった研究もあるそうです。でも、長期的なリレーションシップ(関係)を築くにあたって、2、3センチの身長差はそんなに重要ではない。そう考えると、リレーションシップそのものには良くないと思いますね。
趣味・職業…基準は人それぞれ
それでは、それぞれ何を基準にパートナーを選んだのでしょうか。
石黒 私は趣味を見ます。今のパートナーに会うのを決めた理由は、坂本龍一のとてもコアな曲を知っていたことです。でも、身長でフィルタリングはしました。私はヒールを履くと170センチになるので、170センチ以上しか見ませんでした。あとは日常的に英語が話せる人がいい、とは書きました。
高島 私の基準は(先入観で)ジャッジせずに対話ができること。自分のプロフィルにフェミニズムとかリベラルとか思想も書いているからこそ、ジャッジせずに興味を持ってくれる人のほうがいいです。でも、自分も学歴でジャッジしていたのも正直ありますね。
黒木 僕が重要視したのは生活スタイルと趣味。自分の好みを登録して、「似ている」と思った人と会話してみました。
山田 僕は職業フィルターですね。経営者、大手商社、外資系など。仕事に熱中している方のほうが話が合う傾向にあるので、それを利用していました。

既婚者マッチング 倫理的にどう?
マッチングアプリには、既婚者向けなども現れています。配偶者以外に「お友だち」を探すことに、倫理的に問題があるという見方もあります。
山田 利用者の使い方はそれぞれだと思うので、一概に問題があるとは言えませんが、人との結びつきは非常に強い欲求なので、サービスとして存在することは自然なことだと思います。
石黒 女性は「大事にしてほしい」という思いが優先します。
高島 既婚者マッチングは、もっと健全な方法があるのではないかと思います。オープンマリッジ(婚外交渉をパートナー間で認め合うこと)やポリアモリー(複数の恋愛パートナーを持つこと)のマッチングアプリにするとか、お互いの合意があればいいと思いますが、日本ではうまくいかないのではないでしょうか。シングルマザー向けのマッチングアプリは、小児性愛者とかが使ってしまうのでは?といった批判を浴びていました。
山田 倫理的に問題がある行為、犯罪につながる行為を防ぐため、本人認証を徹底することはサービスの基本です。pecoliではこれまで1件も問題報告を受けていませんが、今後も現実世界のように自然と仲良くなれる出会いを目指して改善を続けていきます。

本音で話せる 幸せな出会いを
高島 最近いいなと思ったのが、Tinderが性的同意や性暴力をテーマにイベントを開いていることです。
石黒 上手なリブランディングですね。
高島 どうしても年収とか学歴とか、表面的なことに目が行きがちですが、もっと本質的な部分、例えば対話ができるとか本音を話せるとか、そういったところで判断されるように変わっていくといいと思います。先日「ラブアンドセックスバー」というのを始めたのですが、そこは出会って、飲んで、セックスについて話せるみたいな場所で、好評でした。出会いの段階から話しにくいことをお互いにさらけ出して、本音につながるのが理想です。
黒木 マッチングアプリが結婚のきっかけになってきている時代。出会いの数も増えていくと思うのですが、一方で何を大事にするのかを利用者が見極められないといけません。インターネットの使い方を教えるように、マッチングアプリもリテラシー教育を充実させて、使いたい人が健全に使えるようにしていくのがいいなと思います。
プロフを見てスワイプ すごく悩んだ
沈意境(DIALOG学生部)

マッチングアプリへの見方は個人の人生観や恋愛観とつながっているので、人によって評価が大きく異なる。個人的には、アプリ上のプロフィルで恋人を探すのは人間のスペック化につながりやすいと思う。人柄はプロフィールから判断するより、現実世界での交流を経て、明らかになるものだ。
私も今回の対話の後、初めてマッチングアプリを試してみた。他人のプロフィルを左か右にスワイプすることに、すごく悩んだ。なぜなら、スワイプだけで好きなタイプを選別する制度に違和感があり、人に対する判断は「好き」か「嫌い」かに二分化することはできないと考えているからだ。
それでも、1時間で3人とチャットでつながることができた。ただ、プロフィルは詳しく覚えていない。アルゴリズムでつながった人間関係は果たして長く続けられるのか、疑問はまだ残っている。
pecoliのような、自分の友だちの「推し友」がレファレンスできる制度は、ある程度スペック化の傾向を弱めることができると考えている。
法的な整備も重要だ。アプリは利益を得る一方、責任も負わなければならない。ユーザーの危機管理能力に頼るのは無責任で、アプリの設計段階で悪意ある行為を防ぐ仕組みを設けることが重要だ。また、性教育やインターネットにおけるリテラシーの普及も大切だ。
健全な恋愛を広め、性的同意の教育を促進することに対して、マッチングアプリにできることは多いと考えている。
分かり合う努力 どんなときも
岸峰祐(DIALOG学生部)

マッチング=組み合わせること。その名称から、マッチングアプリは受動的なイメージを想起させる。たまたま遭遇した2人が恋に落ちる。そんなポジティブな印象を与えるが——。
マッチングアプリにはフィルタリング機能がある。理想の条件を入力するため、マッチング結果は必然的に偏る。今回のディスカッションでも、年収や仕事、容姿などのわかりやすい条件がアプリでは過剰に重視されるという意見があった。あたかも偶然の出会いに見えて、実際は相手を主体的に選別している。現実の出会いとは別物で、どことなく抵抗感がある。私は、そう感じていた。
しかし改めて考えると、現実の出会いはどれほど偶発的なのだろうか。今、若い世代が自身のコミュニティーを広げるために最初に頼るのはインターネット検索だろう。趣味、買い物、学び。主体性に基づく検索を経て、たどり着いたコミュニティーで新たな人と出会う。友人になることもあれば、より親密な関係になることもあるだろう。
マッチングアプリも似たようなものではないか。自分の関心分野を入力して、同じような関心を持つ人と出会う。会って、話して、もっと仲良くなりたいと思えば関心分野の外にも話題が広がる。最初の検索や入力はきっかけでしかなく、2人の関係性は一対一のコミュニケーションを通して培われる。
どんな出会い方であっても相手と似た部分はあるし、分かり合えない部分もある。そこをすり合わせながら、それでも一緒にいたいと思える相手がパートナーになっていくのだろう。大切なのはマッチングの、その次の一歩なのかもしれない。